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第161回 EC成功のカギ ~カテゴライズ、ランク分けによる 既存顧客の活性化と 休眠顧客へのアプローチ~ ECに参入するプレイヤー数が増加し、前年並みの売り上げを保つのも容 易ではなくなっている昨今、売り上げを伸ばし続けるにはどうしたらい いのだろうか? ECサイトの運営サポートを行う(株)Eストアーにて 数々のショップを支援してきた筆者が、CRMの観点からECで成功する カギについて解説する。 (株)Eストアー 取締役 ソリューション事業部長 (株)プレシジョンマーケティング 代表取締役 高崎青史 1999年の創業時に(株)Eストアーにジョインし、商品開発・ブランディング戦略・プロモーショ ン戦略などに携わり、多くのEC企業の市場シェアNO.1のポジショニング確立や株式上場に貢献。 そ の 後、SEM系 で 最 初 に 上 場 を 果 た し た ア ウ ン コ ン サ ル テ ィ ン グ(株)や、KDDI子 会 社 の(株) medibaなどに勤務し、2007年にマーケティング専門会社の(株)プレシジョンマーケティングを 設立。2011年にEストアーの役員に就任し、直近は、大手企業を中心に、Eコマースの戦略支援や ECサイト運営代行に注力。著書:『リスティング広告プロの思考回路』(2011年、(株)アスキー・メ ディアワークス、共著) 46 210 2013-11 国内のEC流通総額は2010年には7兆6,000億円で したが、利用者数の拡大や、PC、スマートフォン、 タブレット端末をはじめとするデバイスの多様化によ り、2015年には12兆円にまで拡大すると予測されて います((株)野村総合研究所調べ)。急成長を遂げ るEC市場において競争力を保ち続けるためには、新 規顧客の獲得はもちろん、既存顧客の活性化が重 要なポイントです。 なぜなら一度購入実績のある顧客は、その後も継 続的に買ってくれる見込みが高いため、売り上げに結 び付きやすいからです。また既存顧客を活性化させ ることは、売り上げだけではなく利益にも影響を及ぼ します。一般的に、既存顧客をリピートさせるコスト は、新規顧客を獲得するためのコストの5分の1程度 で済むと言われています。加えて顧客離れを5%改善 すると、利益率が25%以上回復するという検証結果 もあります。つまり、リピート購入が増えれば、新規 獲得に充てるコストを減らしながら売り上げを維持で き、結果として利益を確保しやすいのです。 それでは、既存顧客を活性化するにはどうしたら いいのでしょうか? 答えは、「購入実績に基づき顧 客をカテゴライズし、最適なアプローチを仕掛けるこ と」です。EC事業者の多くは、すべての顧客に対して、 同一のメルマガやダイレクトメールを配信しています が、これは非常にもったいないことで、機会損失と いっても過言ではありません。一口に「顧客」と言っ ても、同じショップで年間100万円分の買い物をして いる人もいれば、もう何年も購入していない人もいる 購入実績に基づき、顧客をカテゴライズする

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第161回

EC成功のカギ~カテゴライズ、ランク分けによる既存顧客の活性化と休眠顧客へのアプローチ~ECに参入するプレイヤー数が増加し、前年並みの売り上げを保つのも容易ではなくなっている昨今、売り上げを伸ばし続けるにはどうしたらいいのだろうか? ECサイトの運営サポートを行う(株)Eストアーにて数々のショップを支援してきた筆者が、CRMの観点からECで成功するカギについて解説する。

(株)Eストアー 取締役 ソリューション事業部長(株)プレシジョンマーケティング 代表取締役 高崎青史 氏1999年の創業時に(株)Eストアーにジョインし、商品開発・ブランディング戦略・プロモーション戦略などに携わり、多くのEC企業の市場シェアNO.1のポジショニング確立や株式上場に貢献。その後、SEM系で最初に上場を果たしたアウンコンサルティング(株)や、KDDI子会社の(株)medibaなどに勤務し、2007年にマーケティング専門会社の(株)プレシジョンマーケティングを設立。2011年にEストアーの役員に就任し、直近は、大手企業を中心に、Eコマースの戦略支援やECサイト運営代行に注力。著書:『リスティング広告プロの思考回路』(2011年、(株)アスキー・メディアワークス、共著)

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 国内のEC流通総額は2010年には7兆6,000億円でしたが、利用者数の拡大や、PC、スマートフォン、タブレット端末をはじめとするデバイスの多様化により、2015年には12兆円にまで拡大すると予測されています((株)野村総合研究所調べ)。急成長を遂げるEC市場において競争力を保ち続けるためには、新規顧客の獲得はもちろん、既存顧客の活性化が重要なポイントです。 なぜなら一度購入実績のある顧客は、その後も継続的に買ってくれる見込みが高いため、売り上げに結び付きやすいからです。また既存顧客を活性化させることは、売り上げだけではなく利益にも影響を及ぼします。一般的に、既存顧客をリピートさせるコストは、新規顧客を獲得するためのコストの5分の1程度

で済むと言われています。加えて顧客離れを5%改善すると、利益率が25%以上回復するという検証結果もあります。つまり、リピート購入が増えれば、新規獲得に充てるコストを減らしながら売り上げを維持でき、結果として利益を確保しやすいのです。 それでは、既存顧客を活性化するにはどうしたらいいのでしょうか? 答えは、「購入実績に基づき顧客をカテゴライズし、最適なアプローチを仕掛けること」です。EC事業者の多くは、すべての顧客に対して、同一のメルマガやダイレクトメールを配信していますが、これは非常にもったいないことで、機会損失といっても過言ではありません。一口に「顧客」と言っても、同じショップで年間100万円分の買い物をしている人もいれば、もう何年も購入していない人もいる

購入実績に基づき、顧客をカテゴライズする1

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第161回

EC成功のカギ~カテゴライズ、ランク分けによる既存顧客の活性化と休眠顧客へのアプローチ~ECに参入するプレイヤー数が増加し、前年並みの売り上げを保つのも容易ではなくなっている昨今、売り上げを伸ばし続けるにはどうしたらいいのだろうか? ECサイトの運営サポートを行う(株)Eストアーにて数々のショップを支援してきた筆者が、CRMの観点からECで成功するカギについて解説する。

(株)Eストアー 取締役 ソリューション事業部長(株)プレシジョンマーケティング 代表取締役 高崎青史 氏1999年の創業時に(株)Eストアーにジョインし、商品開発・ブランディング戦略・プロモーション戦略などに携わり、多くのEC企業の市場シェアNO.1のポジショニング確立や株式上場に貢献。その後、SEM系で最初に上場を果たしたアウンコンサルティング(株)や、KDDI子会社の(株)medibaなどに勤務し、2007年にマーケティング専門会社の(株)プレシジョンマーケティングを設立。2011年にEストアーの役員に就任し、直近は、大手企業を中心に、Eコマースの戦略支援やECサイト運営代行に注力。著書:『リスティング広告プロの思考回路』(2011年、(株)アスキー・メディアワークス、共著)

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EC/通販

現役客

離脱客

推移率1

推移率2

推移率3

【図表1】期間・金額・回数別にカテゴリー分け

【図表2】顧客の推移率

金額・回数低                                             金額・回数高

初回           これから          流行         コツコツ         優良

2013年3月

2013年4月

2013年5月

2013年6月

21.9%

58.9%

25.4%

17.6%

54.7%

21.4%

18.5%

66.7%

24.0%

30.3%

91.8%

56.6%

からです。つまり人によって状況はさまざまで、そこに対して同一のアプローチを仕掛けても意味がないのです。 図表1は、購入回数や累計購入金額などに応じて顧客を10パターンに分けたものです。私が支援しているショップには、このように顧客を細分化し、パターンごとにeメールの文面を変えたり、付与する特典を変えたりして、最適なアプローチを仕掛けるように提案しています。特に大切なのは、初めて買ってくれた顧客を次の購入につなげること。そのため、初回購入者に「お買い上げありがとうございます」というeメールやダイレクトメールを送る際、購入商品に関連のあるほかの商品をご案内したり、次回購入時にのみ使える限定クーポンを発行したりして、初回で終わらせないような工夫をしています。クーポンは効果が出やすく、何もしない時に比べると、2回目の購入率が1.5倍に引き上がるというデータが出ています(メンズ・アパレルショップの実績より)。クーポンの発行が難しい場合には、感想を聞くeメールを送るだけでも結構です。大切なのは、「あなたのことを気にしています」という姿勢を示すこと。一度購入してくれたからといって放ったらかしにするのではなく、必ず何かしらのアクションをするよう心掛けてください。 カテゴライズは、最低でも6パターンは必要でしょう。必ず押さえていただきたいのは、「期間(最後に購入した日から120日以上経過している人は、離脱客と見なします)」「購入回数」「購入金額」の3点。お客さまの状況は日 、々変化するので、一度カテゴリ分けしたものをそのまま使い続けるのではなく、1カ月に1

回は内容を見直すことをオススメします。 次に図表2を見てください。これはあるショップの、月別の「推移率」を示したものです。・推移率1:「初回客」⇒「これから客」への推移率・推移率2:「これから客」⇒「コツコツ客」への推移率・推移率3:「コツコツ客」⇒「優良客」への推移率 このショップはそれまで、既存顧客全員に対し、同一のメルマガを配信してきましたが、2012年11月にパターン分けを開始。それぞれのカテゴリーに合わせて、文面や特典内容を差し替える仕組みにしました。推移率の目標値は、最も重要な「推移率1」が50%。「推移率2」は80%、「推移率3」は50%です。「推移率1」はまだ目標の50%には達していませんが、それでも明らかに数値が上がってきていることがわかります。一方、

「推移率2」「推移率3」は、2013年6月にお得意さま限定のイベントやセールを実施したことにより、飛躍的

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 2回目の購入に引き上げることができたら、次は3回目、4回目へと安定したリピート客になっていただくことを目指します。ここで有効なのが、会員のランク分けです。当社が提供しているシステム「ショップサーブ」には、リピート注文を増加させるための「会員ランク機能」が実装されています。これは、購入金額や回数に応じてポイント還元率を変更できる機能です。会員ランクが上がれば上がるほど還元率が高くなるため、顧客が自ら購入回数や購入金額を増やそうと努める効果が期待できます。 図表3は、当社が支援しているネットショップにおける、会員ランク機能導入前と後の、各ランクの

顧客のリピート注文件数の増加傾向を示したものです。 このネットショップでは、2013年3月に会員ランク機能を導入。ポイント付与率およびインセンティブは、図表4のように設定しました。 同機能を導入する以前は、リピート注文件数の対前年増加率は24.5%(2012年3 ~ 5月と2011年3 ~ 5月の比較)だったのに対し、導入後の対前年増加率は48.6%(2013年3 ~ 5月と2012年3 ~ 5月の比較)と大きく伸びました。 この48.6%の伸びのうち、10.9%は累積購入金額が「2万5,000円以上3万5,000円未満」の顧客の貢献

会員をランク分けして、購入率をアップ2

【図表3】各ランクの顧客(購入金額別)のリピート注文件数増加への貢献度

【図表4】会員のランクアップ条件と特典の設定

■ 寄与度(2012年)■ 寄与度(2013年)

全体の伸び率■24.5%(2012年3~5月)■ 48.6%(2013年3~5月)

0

5

10

15

20(%)

10,000円以上25,000円未満

25,000円以上35,000円未満

35,000円以上70,000円未満

70,000円以上

8.4

4.73.6

10.99.4

18.3

3.1

14.8

レギュラー会員

シルバー会員

ゴールド会員

プラチナ会員

VIP会員

なし

購入回数2回以上/累計購入金額2万円以上

購入回数3回以上/累計購入金額2万5,000円以上

購入回数5回以上/累計購入金額3万5,000以上

購入回数7回以上/累計購入金額7万円以上

1%

2%

3%

4%

5%

×

×

×

×

×

ランクアップ条件 ポイント付与 送料無料会員限定イベント招待

に向上しました。 繰り返しになりますが、カテゴリー分けにおいて最も重視すべきは、「推移率1」です。2回目の購入がな

ければリピート顧客になることはあり得ません。自社の商材に合わせて次の購入を促すアプローチ方法を検討してみてください。

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EC/通販

 ここまでは1回、または複数回購入実績のある顧客を安定したリピート客へとランクアップさせるための施策について解説してきましたが、ここからは離脱顧客を再び現役顧客へと復活させるための方法を探りたいと思います。 離脱顧客といっても、すべての顧客を対象にするのではありません。注目すべきは、購入回数や累積購入金額の多い「優良顧客だった人 」々です。当社では、累積購入金額「7万円」をひとつの目安にしています。かつて安定したリピート顧客だった人がなぜ離れてしまったのかという問いへの答えには、マーケティングの大きなヒントが隠れているので、そこをしっかり把握することはとても大切です。 有効なのは、先ほど申し上げた、かつて優良顧客だったお客さまを対象にしたアンケート・メール。その目的は2つあります。1つは、「なぜ離れてしまったのか」をしっかり知ることです。定期的に購入していただいていた顧客が自社ショップでの購入をやめたということは、ライバルショップでの購入を始めた可能性が大いにあります。自社ショップを離れた理由は「価格」なのか、「品ぞろえ」なのか、「サービス面」なのか。もしかしたら、自分たちが思いもよらなかった理由があるのかもしれません。それを知るためにアンケートを実施するのです。 2つ目の目的は、もう一度自社の顧客になってもらうことです。突然購入が途絶えた明確な理由はなく、単に買い忘れが続いているだけということも考えられます。また、ほかのショップで購入しているけれど、納得していないために、さらにほかでの購入を検討し

始めていることもあり得ます。そうしたタイミングで、かつて自分がひいきにしていたショップから連絡がきたらいかがでしょうか? 「やはりこのお店は良かった」と、再び優良顧客になってくれるかもしれません。また、「アンケートに回答していただいたお客さまに、特別にお好きな商品を無料で差し上げます」といった特典を付けることで、回答率を上げるだけでなく、再び商品の利用機会を提供することもできます。 当社が支援しているロイヤルゼリーのネットショップでは、300人の離脱顧客へアンケート・メールを送ったところ100人が回答し、うち半数が現役顧客へと復活を遂げました。売り上げが伸び悩んでいるという方は、ぜひリサーチと優良顧客への復活を兼ねたアンケートの実施を検討してみてください。 今回お話しした顧客のカテゴライズは、リピート顧客倍増実践会会長 橋本陽輔さんの著書『リピーターになる時期は予測できる』(ビジネス社刊)にも書かれています。より深く内容を知りたい方は、そちらを読んでいただくことをオススメします。またEストアーでは、この実践を支援するツールやコンサルテーションを実施しています。貴社でもぜひ、施策の実践により、ECの売り上げアップを実現してください。

(執筆協力:(株)Eストアーマーケティングアプリケーション推進部 松下恭也氏)

離脱顧客には「アンケート」を実施して、現役復帰!3

によるもので、これは前期より7.3ポイント上回っていました。また、18.3%は「3万5,000円以上7万円未満」の顧客の貢献によるもので、前期の8.9ポイント増。そして「7万円以上」の顧客は14.8%と、前期の11.7ポイント増となっています。購入金額が多い層ほど、前期と比較してリピート注文件数の増加傾向が顕著であり、これは会員ランク機能導入の効果と考えら

れます。 購入回数別で見たリピート注文件数の増加傾向にも、同様の結果が現れていました。 ランク別のポイントの還元率の設定は、メリットがわかりやすいことから購入モチベーションを高めやすく、その結果、購入回数や購入金額が多い顧客のリピート購入が活性化するものと考えられます。

『リピーターになる時期は予測できる』

(橋本陽輔著/ビジネス社刊)