08 金 属 - STAM...出されて以来、欧米でもCr2O3保護スケールに強い...
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11)はじめに高温で長時間使用される耐熱鋼の開発は、火力・
原子力発電、化学プラント、廃棄物発電、自動車等
の産業の発展の鍵を握っている。この10年間、CO2
削減、省資源、ダイオキシン等の環境リスク物質の
低減化が強く求められた社会的背景の下、より高温
での使用を可能とする高強度高耐食耐熱鋼の開発、
プラント構造体化に不可欠な溶接継手特性、並びに、
長時間クリープ強度評価や寿命予測といった材料評
価の面で大きな進展が見られた。
図1に、1999~2004年の5年間に日・欧・米で
各々2回、計6回開催された耐熱鋼関係のメジャー
な国際会議における国別発表件数と、2004年に米国
で開催された国際会議における発表内容を示す。発
表件数は日欧米の3極が概ね同等で、発表内容は材
料開発や酸化・腐食が多い。
22)高強度高耐食耐熱鋼の研究動向火力発電分野では、従来のフェライト系耐熱鋼の
使用上限温度は約620℃であったが、650℃の超々臨
界圧(USC)発電プラントで長時間使用可能なボイ
ラ系大径厚肉鋼管(パイプ)用およびタービン用の
高強度9-12Crフェライト系耐熱鋼の研究開発が日欧
米で進められるとともに、ボイラ過熱器管(チュー
ブ)用オーステナイト系耐熱鋼では18Cr-8Ni系から
20Cr-25Ni系へ、さらに高Cr-高Ni化とW等の添加に
より高性能化が図られ蒸気温度700℃まで使用可能
な段階に達した。原子力分野では、650℃の高速増
殖炉燃料被覆管として、高温クリープ強度が非常に
高く耐照射特性にも優れた酸化物分散強化9Crフェ
ライト鋼が開発された。化学プラントの水素精製装
置では、反応容器に2.25Cr-1Mo鋼を用いていた1990
年代前半には454℃-17MPaであったが、高強度3Cr-
1Mo-V鋼や2.25Cr-1Mo-V鋼の開発により高温高圧化
が進み、1995年頃から482℃-24MPaに、現在では
510℃-24MPaに達しつつある。廃棄物発電では、高
耐食オーステナイト系耐熱鋼の開発により従来プラ
ントで300℃程度であったボイラ蒸気温度が現在で
は500℃まで上昇している。自動車では、排気系耐
熱部品のエキゾーストマニホールドに従来は鋳鉄が
使用されていたが、エンジン性能向上による排ガス
温度上昇にともない高強度化が求められ、18Cr-
2Mo-Nb鋼等の開発により排ガス温度900℃以上が達
成されている。
650℃級フェライト系耐熱鋼のクリープ強度向上
に関する最近の研究成果で特筆すべき点は、粒界近
傍など部分的にでも弱い組織が形成されると局所的
にクリープ変形が促進され早期に破断することが微
細組織観察とクリープ変形挙動解析により明確にな
ったこと、及び、粒界近傍の強化組織を長時間まで
維持できる材料設計の指針がいくつか明確になった
ことである。この指針に基づいて、高濃度ボロン添
加によって粒界近傍M23C6炭化物の長時間微細分散
を狙った鋼、ナノサイズのMX型微細窒化物のみで
粒界近傍組織の安定化を狙った鋼、炭窒化物を利用
しないでFe2(Mo,W)-Laves相等の金属間化合物の
みを微細分散させた鋼等がNIMSから提案され、現
在も継続されている長時間クリープ試験の結果や組
織安定性に世界中が注目している。
耐食性に関しては、高温水蒸気中耐酸化性向上に
大きな進展が見られた。耐酸化性はCr濃度に依存す
るが、フェライト系耐熱鋼ではCr濃度が概ね12%以
下と低いため、通常は表面にFeに富む厚い酸化スケ
ールが生成する。このため、従来の耐酸化性研究は、
「合金元素添加などによってFeの厚い酸化スケール
成長を如何に抑えるか」が中心課題であった。これ
に対し、Cr濃度が9%程度でも0.5%程度のSi添加と予
備酸化処理を組み合わせること等によりナノ厚さの
Cr2O3保護スケールが生成すること、これによって
耐酸化性が飛躍的に向上することがNIMSで最近見
145
金 属
0808
鉄鋼-高効率エネルギーのための鉄鋼技術金 属 阿部 冨士雄
超鉄鋼研究センター耐熱グループ08
1
出されて以来、欧米でもCr2O3保護スケールに強い
関心が集まっている。一方、表面スケールのはく離
性に関しては、試験法の確立が望まれている。表面
コーティングも研究されているが、プロセスの煩雑
さやコスト面の問題も指摘されている。
33)溶接継手強度の研究動向フェライト系耐熱鋼の溶接構造物を高温低応力条
件(温度600℃程度、応力100MPa以下)で使用する
と、溶接熱影響部(HAZ)で脆性的にクリープ破断
する、いわゆるType 4(タイプ4)破壊が進行し、
クリープ破断寿命が母材に比べて著しく低下する問
題が深刻になっている。このため、9~12Crフェライ
ト系耐熱鋼について、Type 4 破壊の機構解明、脆
性的なクリープ破壊の破壊力学的解析、Type 4 破
壊の防止に関する研究が日欧米で進められている。
Type 4 破壊の機構解明に関しては、HAZ細粒化
説とHAZ軟化説の2つが提案されたが、HAZ部のう
ちAc3温度付近まで加熱された部分が細粒化し、寿
命を低下させるとするHAZ細粒化説が優勢になりつ
つある。破壊力学的解析に関しては、溶接継手のCT
試験片を用いた高温クリープき裂伝播試験とその解
析により、高強度9~12Cr鋼では、クラック発生が
HAZ部で促進されること等が明らかにされた。また、
溶接金属部、HAZ部、母材部のクリープ強度パラメ
ータを用いて有限要素法(FEM)で溶接継手の応力
解析を行うと、クラック発生位置を精度よく予測で
きることや、クラック先端前方でのクリープボイド
生成挙動やクラック進展挙動をシミュレーションす
るFEMコードも開発された。Type 4 破壊の防止に
関しては、前述したNIMSの高ボロン9Cr鋼ではHAZ
部が細粒化しないこと、従って、Type 4 破壊が防
止されることが報告され欧米で注目されている。
44)長時間クリープ寿命予測の研究動向高強度9-12Cr系鋼では長時間経過後にクリープ強
度が急激に低下する現象が550℃ないし、より高温
でしばしば現れることが日欧で明らかとなり、クリ
ープ強度低下をもたらす組織因子の解明が、最新の
エネルギーフィルター型透過電顕等による解析も積
極的に取り入れて進められている。高強度9-12Cr鋼
は、通常、焼きならし-焼戻熱処理によって、高転
位密度のラス、ブロック組織に微細(100 nm程度)
なM23C6炭化物やナノサイズのM2X、MX型炭窒化物
が分散した、析出強化度の高い組織に調質されてい
る。最近は、クリープ中にナノサイズM2X、MXが
再固溶して熱力学的により安定で粗大なZ相
(Cr(V,Nb)N型複合窒化物)に遷移し、これに伴って
クリープ強度が急激に低下する現象の解明に日欧で
しのぎを削っている。
長時間寿命予測にはLarson-Miller法等の時間-温
度パラメータ法(TTP法)が広く用いられてきたが、
従来のTTP法では長時間クリープ寿命を正しく評価
できず、過大評価する場合が多いことが次第に明ら
かになってきた。これを改善するために、クリープ
破断データを同じ温度依存性、すなわち、同じ活性
化エネルギーを示す領域ごとに区分して解析する手
法、及び、高応力では非時間依存型塑性変形の寄与
が大きいため、引張試験の0.2%耐力の1/2を基準にし
てクリープ破断データの領域を分割し、低応力域の
データのみを用いて解析する手法が提案され、10万
時間程度の長時間寿命予測の精度が向上している。
55)将来動向プラント高温化による高効率エネルギー利用だけ
でなく、長時間までクリープ強度劣化を示さないで
長時間安全性も保障できる耐熱鋼の基盤確立に向け
て、ナノ析出物の高温使用中の遷移過程解明や高温
長時間強化、ナノ厚さの表面保護スケール生成と耐
はく離性、破壊力学に立脚した溶接継手部の脆性破
壊挙動解明に関する研究に関心が集まっている。
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物質・材料研究における今後の動向
ⅣⅣ
図1 1999~2004年の5年間に日欧米で開催された計6回の耐熱鋼関係国際会議での国別発表件数と、2004年に米国で開催された国際会議での発表内容。