Managing Global Accounts...HBR Articles 165 Managing Global Accounts Artwork by JASON GREENBERG...

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HBR Articles 165 Managing Global Accounts Artwork by JASON GREENBERG 新興市場の台頭によって、グローバル化に拍車がかかっている。 その結果、多国籍企業やグローバル化に意欲的な企業を顧客に抱える企業は、 彼らのグローバル・ニーズを満たすために新たな能力を育成しなければならない。 その能力こそ「グローバル・アカウント・マネジメント」(GAM)である。 多くのサプライヤーはその対応に四苦八苦しているが、 正しく導入できれば、さらなる成長が望める戦略的ツールである。 本稿では、ヒューレット・パッカードやユニリーバ、IBMなど GAMのベスト・プラクティスを引きながら、 事前に検討すべき4つの基準と3つの基本アプローチを紹介する。 ロンドン・ビジネススクール 教授 ジョージ S.イップ George S. Yip アクスブリッジ・カレッジ マーケティング・コミュニケーション学部長 オードリー J.M.ビンク Audrey J. M. Bink 曽根原美保4つの基準と3つのアプローチで成功率を高める グローバルB2Bマネジメント Diamond Harvard Business Review December 2007

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HBR Articles

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Managing Global Accounts

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新興市場の台頭によって、グローバル化に拍車がかかっている。その結果、多国籍企業やグローバル化に意欲的な企業を顧客に抱える企業は、彼らのグローバル・ニーズを満たすために新たな能力を育成しなければならない。その能力こそ「グローバル・アカウント・マネジメント」(GAM)である。多くのサプライヤーはその対応に四苦八苦しているが、正しく導入できれば、さらなる成長が望める戦略的ツールである。本稿では、ヒューレット・パッカードやユニリーバ、IBMなどGAMのベスト・プラクティスを引きながら、事前に検討すべき4つの基準と3つの基本アプローチを紹介する。

ロンドン・ビジネススクール 教授

ジョージ S.イップGeorge S. Yip

アクスブリッジ・カレッジ マーケティング・コミュニケーション学部長

オードリー J.M.ビンクAudrey J. M. Bink

曽根原美保/訳

4つの基準と3つのアプローチで成功率を高める

グローバルB2Bマネジメント

Diamond Harvard Business Review December 2007

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グローバル・アカウント・

マネジメントの導入に

なぜ失敗するのか

 多国籍企業を顧客に抱えている企業

は、「グローバル・アカウント・

マネ

ジメント」(GAM)に四苦八苦して

いるのではないか。この一〇年間で、

GAM制を敷いている企業は激増して

いる。GAMとは、プライシング、製

品仕様、サービス等の基準や条件を統

一し、世界各国に事業展開している顧

客企業一社ごとを一つのアカウントで

管理するというものである。

 GAM制を敷いたサプライヤー数百

社を調査したところ、その成果に満足

している企業は三分の一にすぎず、う

まくいっていても大変な苦労があるこ

とがわかった(注1)。調査対象は、一九八〇

年代後半から九〇年代半ばまでにGA

M制を導入した企業である。その苦労

が報われるまで、つまり価格の低下と

コスト増を乗り越え、顧客企業にその

事業の市場シェア拡大と売上構成の多

様化という果実をもたらすまでに、平

均一〇年という試行錯誤を要していた。

 しかし、一般に信じられているのと

は反対に、GAMはサプライヤーにも

メリットをもたらす。我々は、GAM

制を導入した主要サプライヤー一六五

社の調査結果と、我々のコンサルティ

ング業務、さらに各社の事例に言及し

た学術論文などから、一つの結論を導

き出した。

 GAM制を導入した企業は、数年後

に顧客満足度を二〇%以上、売上げと

利益を一五%以上向上させることがで

きる。また、導入して五年を経過する

と、これらの指標が二倍以上の数値を

示す(注2)。

 GAMに失敗するのは、導入するタ

イミングと方法について具体的な方針

がないまま、導入してしまうからであ

る。たとえば、そもそもGAMが必要

ない顧客││適用すべきでないと承知

していながらも、適用してしまった場

合もあろう││逆に適用すべきにもか

かわらず、その方法を間違ったりして

いる。

 本稿は、GAM制の導入を検討する

に当たり、サプライヤーが犯しやすい

過ちを未然に防ぐためのガイドライン

を提供する。

GAM導入のメリットと

デメリット

 GAMは国内のアカウント・

マネジ

メントをさらに発展させたものである。

この仕組みを最初に採用したのはヒュ

ーレット・パッカード(HP)、IB

M、ゼロックスといった大手IT企業

だった。

 そのきっかけは、顧客企業、特に自

動車メーカー、金融サービス会社、石

油会社に代表される大手多国籍企業が

世界各地の拠点向けに提供されるIT

サービスについて、世界共通のサポー

トを求めたことだった。

 以来、中規模サプライヤーもGAM

制を導入し、あらゆる業界の顧客企業

に適用されるようになった。そして現

在、大手多国籍企業がさらにグローバ

ルに事業展開しているため、GAMは

ますます拡大している。

 これら多国籍企業の場合、各事業部

門が個々に取引するのではなく、窓口

を一本化し、価格交渉力を高めている。

George S. Yipロンドン・ビジネススクールの教授。戦略論と国際経営論が専門。また、ロンドンに本社を置くITサービス・プロバイダー、キャップジェミニのリサーチ・イノベーション担当バイス・プレジデント兼ディレクターを務める。著書にTotal Global Strategy: Managing for Worldwide Competitive Advantage , Prentice Hall, 1995.(邦訳『グローバル・マネジメント』ジャパンタイムス、1995年)がある。

Audrey J. M. Binkアクスブリッジ・カレッジのマーケティング・コミュニケーション学部長。かつてオランダのDMVインターナショナルのマネジャーを務めていた。

イップとビンクの研究はLeverhulme Trust, the Advanced Institute of Management Research, the Economic and Social Research Council, the Engineering and Physical Sciences Research Councilなど、イギリス国内の各種団体・組織から支援されている。両名の共著にManaging Global Customers: An Integrated Approach , Oxford University Press, 2007.がある。

167 Diamond Harvard Business Review December 2007

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Managing Global AccountsグローバルB2Bマネジメント

一括購入によってボリューム・ディス

カウントを要求できるだけでなく、製

品仕様やサービスの質をより効果的に

管理できる。

 一方サプライヤーにすれば、価格競

争力を失うことを意味する。デメリッ

トはそれだけではない。顧客企業の本

国では、サプライヤーを一社に限定す

るグローバル契約は敬遠される傾向が

ある。これまでどおり複数のサプライ

ヤーを抱え、競争させることで有利な

条件を引き出す。

 さらに困ったことに、GAMには新

たなプロセスと組織が必要で、それに

よってコストが跳ね上がる。顧客が特

注プログラムを望む場合はなおさらで

ある。

 我々の調査によれば、GAMによっ

て顧客一社当たり一〇万〜一〇〇万㌦

以上のコストが上乗せされる。何百と

いうグローバル・アカウントを抱えて

いるサプライヤーの場合、GAMの総

コストはとんでもない規模に上ること

だろう。

 もちろんサプライヤーは、GAMが

もたらすメリットが、これらのデメリ

ットを補って余りあることを願ってい

る。そのメリットとは、既存事業のシ

ェア拡大であり、また付加価値の高い

新規事業の戦略的パートナーとなるこ

とである。

 問題は、パートナーシップによる新

規事業が利益を生み出すまでに時間が

かかることである。しかも、利益が出

るという保証もない。HPの例を見て

みよう。

 九三年、HPは二六のグローバル・

アカウントを抱えていた。その後三年

間で二五〇まで増えたのだが、九七年、

コストが利益を上回っていることがわ

かり、九五まで削減した。現在、同社

の顧客企業約二万社のうち二〇〇社が

GAMの対象であり、いずれも高い利

益率を達成している。それが可能にな

ったのは、GAMにおける取捨選択と

効果的な適用について習得したからで

ある。

 自社はGAMの導入に適しているか、

GAMの対象として向いているのはど

の顧客か、どのようなタイプのGAM

を選択すべきか、という三つの問題を

クリアできる企業であれば、早晩、大

きな成果を手中に収めることができる

のである。

GAM導入前に検討すべき

四つの基準

 GAMに適しているかどうかは、次

に掲げる四つの基準に照らして判断で

きる。

 ❶

提供する製品やサービスについて、

各国の状況に応じてグローバルに

調整する必要があるか。それに見

合うだけの収益性が見込めるか。

 ❷

取引先の多国籍企業は、GAMを

求めているか。

 ❸

取引先の多国籍企業は、自社にと

って重要な存在か。

 ❹競争優位を獲得できるか。

1

製品とサービス

 GAMの適用を検討する際、ボリュ

ーム・ディスカウントやグローバル契

約という顧客のニーズではなく、まず

は自社が提供する製品やサービスの特

徴について考えるべきである。特に、

コンピュータやプロセス制御装置など

に代表される複雑な製品やサービス、

グローバルな燃料供給契約、特殊化学

品、食品添加物、法人向け金融サービ

スなど、高付加価値製品などは要検討

である。

 提供する製品やサービスは、マージ

ンが大きく、世界中で等しく受け入れ

られ、地域性を超えて複雑な仕様に応

えられるもの、あるいは複数の地域を

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担当する世界各地の事業部門に滞りな

く供給できるものでなければならない。

具体例を挙げてみたい。

 ● ハネウェルは、多国籍企業にGA

Mを適用している。多国籍企業は

品質基準の徹底をはじめ、作業手

順や研修方法にばらつきがないこ

とを望んでいる。したがって、世

界各地の工場に設置されているプ

ロセス制御装置を集中管理したい

と考えている。

 ●

広告代理店上位二〇社は、何らか

のかたちでGAMを主要クライア

ントに適用している。これらの得

意先はいずれもグローバル・ブラ

ンドを所有しており、各国におけ

るブランド・ポジショニングを集

中管理する必要がある。

 ●

BPのカストロール事業部の燃料

供給サービスが、運輸業界の大手

多国籍企業にGAMを適用してい

る理由は明白である。これら顧客

の配送地域とそれに伴う諸活動は

たえず変化しているため、航空機

や船舶の円滑な運航を確保するに

はグローバルな調整が不可欠だか

らである。

 ●

オランダの食品原料メーカー、D

MVインターナショナルは、ラク

トフェリンなどを購入する多国籍

企業を顧客に抱える。ラクトフェ

リンは、抗菌、抗ウイルス特性を

持つ乳たんぱく質で、特殊調整粉

乳や健康補助食品、化粧品、動物

の飼料などに用いられる。これら

の成分を混合するには、広範囲に

わたるR&Dが必要である。DM

VはGAM制を敷くことで、どこ

の国でも均質のサポートを顧客企

業に提供している。

 これらの事業がいずれも高水準の利

益率を達成しているのは言うまでもな

い。スタッフも含めてGAMは国内営

業部門の上位に置かれ、またコストが

かさむため、製品やサービスにはコス

ト増を吸収できるだけのマージンが必

要になる。つまり、利益率の低い製品

やサービスを購入する顧客がGAMを

望むならば、大量の製品あるいは高額

なサービスを購入することで取引額を

増やすなどして、サプライヤーの同意

を取りつけなければならない。

 ただし、購入する製品やサービスの

なかにマージンの高いものと低いもの

が混在している場合、サプライヤーは

損益分岐点を見極めつつ、一括取引に

よってGAMを適用し、グローバルな

関係を構築すべきだろう。

2顧客の要望

 提供する製品やサービスに問題がな

ければ、次に顧客がGAMを希望して

いるかどうかについて検討する。いま

や多国籍企業の大半が、そのサプライ

チェーンをグローバルに広げている。

それゆえ、大幅なボリューム・ディス

カウントが見込める製品やサービスを

購入しており、GAMがふさわしいの

は言うまでもない。

 顧客の多くはサプライヤーに対して、

窓口の一本化、各国におけるサービス

の調整、グローバル統一価格などの優

遇条件を要求する。より具体的には、

ボリューム・ディスカウントや運送費、

間接費、特別料金その他に関する有利

な条件、世界標準規格の製品、一定水

準以上のサービスの質と内容、そして

事業展開するすべての国でサービスを

提供することである。サプライヤーは、

これら重要顧客のさまざまな要望に応

えなければならない。

 我々の調査によれば、GAMが適用

された顧客企業の要望のうち、サプラ

イヤーが対処するのは価格の引き下げ

だけで、ほかについてはなかなか腰が

重い。サプライヤーはどうも心配性の

ようだ。

169 Diamond Harvard Business Review December 2007

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Managing Global AccountsグローバルB2Bマネジメント

 本稿執筆者の一人が実施した調査で

は、GAMを要望する顧客企業は、低

価格よりも世界中どこでも一貫したサ

ービスを受けられることを重視すると

いう結果が出ている。なお、ほかの項

目についても同様である。

 GAMを適用することで、重要顧客

と深い絆で結ばれることになる。これ

は、単なる値引きとは比較にならない

ほどの効果がある。GAMにふさわし

い製品やサービスを扱っているサプラ

イヤーが、顧客からGAMを求められ

た時、これに応じなければ、他のサプ

ライヤーに取って代わられることにな

るだろう。

3

グローバル顧客企業の重要性

 GAMを適用するに値する重要顧客

かどうかを判断するには、いくつかの

基準がある。ある多国籍企業との取引

が、たとえば当該事業の売上高におい

て五%以上を占める場合、グローバル

あるいは地域ごと購買しており、自社

の総売上高の一〇%以上を占める場合、

あるいは購買方法を問わず、自社の総

売上高の二五%以上を占める場合、自

社に最大の利益をもたらす顧客と考え

られる場合、GAMの適用を真剣に検

討すべきである。

4

競争優位

 グローバルあるいは地域規模の入札

は、国内事業のそれよりも競争率が低

い。前者に参加する企業の数は、後者

のそれよりも少ないからだ。既存顧客、

もしくは見込み顧客に対して、競合他

社がGAMを提供しているならば、後

れを取ってはならない。グローバル企

業がサプライヤーを選択する際の基準

として、GAMはますます重視されて

いる。

どのような顧客企業に

GAMを適用すべきか

 グローバルに事業展開し、GAM向

けの製品やサービスを購入しているか

らといって、安易にGAMの適用対象

としてはならない。グローバル・アカ

ウントの数は多ければ多いほどよいと

いうわけではなく、また理想的な数が

あるわけでもない。たとえば、ユニリ

ーバはGAMの適用を四ないしは五件

に絞っているが、IBMやゼロックス

では一〇〇件を超えている。

 特定の目標値を設定するよりも、G

AMを通じた取引関係から、成長性、

市場シェアの拡大、マージンの上昇、

相互学習の機会など、さまざまな価値

を教授できるような顧客を見極めるべ

きだろう。

 GAMを適用すべきかどうかについ

て検討するうえで、以下に掲げる六項

目が役に立つ。

 ❶

取引規模と売上げの将来性

 取引規模は、GAMを適用するかど

うかを判断するうえで重要な材料であ

る。ただし、現在の取引規模だけを頼

りに決定してはならない。

170December 2007 Diamond Harvard Business Review

 大口顧客のなかには、自社とサプラ

イヤーの双方にとってメリットの大き

いグローバル取引よりも、単なる値引

きを求める企業もある。たとえばマリ

オット・インターナショナルは、取引

規模一億㌦相当の大口顧客をGAMの

対象から外した。

 GAMの適用を判断するに当たって

は、現在の取引規模よりも、新規開拓

のチャンスを重視すべきである。短期

的な売上げは、競合他社から自社に乗

り換えた顧客が国内でもたらしてくれ

る。長期的な売上げは、グローバルな

取引関係をより深めるなかで、相互に

GAMを発展させることで得ることが

できる。

 ❷

操業地域

 大規模な事業を数カ国でグローバル

展開している顧客は、まさしくGAM

の対象候補である。ただし、顧客の事

業が一カ所の市場に集中しているよう

な場合、たとえば小規模な海外事業を

いくつか実施している程度であれば、

その顧客には国内のアカウント・

マネ

ジメント・サービスを提供したほうが

よい。

 ❸

調整能力

 グローバル購買を一元化管理できる

組織構造やプロセス、情報システムを

備えていない顧客には、GAMを適用

すべきではない。このような顧客とグ

ローバル契約を結んでも、ほとんど旨

みはない。

 サプライヤーにすれば、相変わらず

国別にサービスを提供しなければなら

ないだけでなく、数量や価格などの条

件もいちいち個別交渉しなければなら

ない。しかも苦労に苦労を重ねた挙げ

句、ボリューム・ディスカウントを要

求される。

 調整能力が低い顧客の場合、ビジネ

スモデル、製品のマーケティング、ブ

ランド・マネジメント、バリューチェ

ーンなどは、各国あるいは各地域に委

ねられている。これら現地法人は、独

自のP/L(損益計算書)を持ち、ま

た、各経営陣は現地の活動に限ってそ

の責任を負う。またマネジメント・プ

ロセスも、たいていの場合、本社のそ

れを下敷きに独自に工夫を加えたもの

である。

 各地域の売上高、利益、市場シェア、

製品ライン、顧客などの重要情報は、

本社に集められる。とはいえ、本社主

導で管理されているのは、R&D、設

計、生産、マーケティング、営業、サ

ービスといった主要機能のうち、せい

ぜい一つか二つにすぎない。売上高、

©Sanford/Agliolo/CORBIS

171 Diamond Harvard Business Review December 2007

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Managing Global AccountsグローバルB2Bマネジメント

利益、生産性といった類の業績情報だ

け、データベースを通じて共有される。

そこに、共通の企業文化など見当たら

ない。

 顧客の調整能力が中程度の場合、戦

略は、国内、地域、グローバルの各レ

ベルで策定される。一部の事業では、

本社と同じP/Lが採用されている。

各現地法人の経営陣は、現場や設備な

ど戦略上の重要性が低い活動について

は全面的に責任を負う一方、生産、マ

ーケティングなどの主要機能について

は、本社のグローバル担当役員と権限

を共有する。また、戦略や生産計画を

策定したり、重要情報の一部を収集し

たりと、さまざまなグローバル・プロ

セスが存在する。

 本社はバリューチェーンにおける主

要活動の半分を管理・調整し、業績デ

ータはもとより、イノベーション、主

要顧客、競合他社に関する最重要情報

を世界各国で共有している。現地法人

の各経営陣の間には、共通の企業文化

がある。その一方、現地社員たちの間

には、その国固有の文化が温存されて

いる。

 調整能力が高い顧客の場合、グロー

バル戦略が存在している。P/Lは全

世界で統一されており、現地法人の各

経営陣は、グローバル展開している事

業、機能、顧客に貢献する責任を負っ

ている。

 こうしたプロセスの大半は各国、各

地域で展開され、重要情報はグローバ

ル、地域、国内ごとに収集される。主

要な活動の大半はグローバル・チーム

が管理し、各部門の重要情報は組織的

かつ迅速に世界中で共有される。真に

グローバルな企業文化が組織全体に浸

透しているのである。

 ❹

戦略上の重要性

 サプライヤーは、全生産高の一〇%、

あるいは重要な製品ラインの生産高の

六〇%を購入している顧客を失うわけ

にはいかない。さらに、自社の戦略目

標の成否のカギを握る顧客にも、十分

配慮しなければならない。

 たとえばゼロックスの場合、複写機

サービスを購入する顧客よりも、複合

的なオフィス・ソリューション、すな

わち機器販売とコンサルティング・サ

ービス(たとえば、文書管理の評価、社

員の生産性と満足度を向上させる施策)

の抱き合わせ、文書の作成、保存、伝

送といった一括サービスを購入する顧

客に目を向けている。

 また、ある顧客の影響によって新規

顧客が増える場合、その顧客の戦略上

の重要性は高いと考えられる。

 ❺

戦略的、文化的、地理的適合性

 戦略的適合性とは、顧客の戦略と自

社の戦略が同じ方向性である場合を意

味する。ロイヤル・ダッチ・シェルと、

フィンランドの船舶用エンジン・メー

カー、バルチラを例に取ろう。インド

での拡販戦略を策定した両社は、シェ

ルの石油と潤滑油にバルチラのエンジ

ンをパッケージ化して共同販売する、

あるいは互いに相手の製品を販売する

ことで合意した。

 GAMによって生じるシナジー効果

を考えれば、少なくとも文化的な共感

が芽生えるかどうかも重要である。た

とえば、成果主義が浸透し体系的なプ

ロセスを重視する企業と、創造性を重

視し柔軟性を重んじる企業が、信頼関

係を築き、共同で事業運営することは

難しいだろう。

 さらに、顧客であるグローバル企業

には、主要な国外拠点向けの現地サー

ビスを、自社みずからが、あるいは信

頼の置ける現地パートナーを介して提

供しなければならない。

 ❻ リレーションシップ

 サプライヤーと顧客は、互いに信頼

し、尊敬し合えるパートナーになるこ

とが理想的である。

 たとえば、発電設備、産業用制御機

172December 2007 Diamond Harvard Business Review

器を製造するグローバル電機メーカー、

フランスのシュナイダーエレクトリッ

クは、得意先であるグローバル企業の

生産ラインを設計・製造するための特

殊設備に投資した。顧客企業はこの恩

に報いるため、同社をその製品ライン

向けのサプライヤーに指定した。

 GAMを適用するかどうかを判断す

るに当たり、その顧客と将来的に信頼

関係を築けるかどうかも十分検討すべ

きである。

 以上の判断基準のうち、取引規模と

売上げの将来性、操業地域、調整能力

の三項目は定量化できるが、戦略上の

重要性、戦略的・文化的・地理的適合

性、リレーションシップは主観的な基

準であり、評価は直感に頼らざるをえ

ない面がある。そこで、GAMを適用

するかどうかを判断する際の検討項目

をまとめた図表「GAMスコアボー

ド」が役に立つ。

三タイプの

基本的アプローチ

 GAMを適用するにふさわしい顧客

を見極めたならば、具体的にどのよう

なプログラムを提供するのか、その際

特定のアプローチに絞るのか、あるい

は複数のアプローチを組み合わせるの

かについて検討する。この判断はきわ

めて重要である。

 我々の調査では、プログラムの設計

段階で間違いを犯しやすいポイントが

二つあることが判明している。

 第一に、GAM担当チームと国内担

当の営業部門に与えられる責任と権限

である。第二が、GAMプログラムを

顧客ごとにカスタマイズすることと、

各プログラムに投入する資源を極力抑

えることのトレード・オフである。

 くわえて、GAM担当マネジャーの

役割、顧客サポート・チームの規模と

構成、国内営業担当役員や経営陣の支

援、グローバル規模の顧客情報システ

ムなどについても決定しなければなら

ない。

 GAMにもさまざまなタイプがある

が、グローバルな統合と各地域の独立

のバランスから考えると、基本的には

三つのアプローチに類型化できる。す

なわち「コーディネーション型」「コ

ントロール型」「分離型」である。

﹇タイプ❶﹈

コーディネーション型

 このアプローチは、GAMチームの

影響力が低く、国内営業部門に大きな

権限が与えられている。したがって、

GAM担当マネジャーは、既存組織に

参加することになる。

 その主たる任務は、グローバル契約

を結んだ顧客向けの国内サポート業務

との調整である。国内サポート業務は、

引き続き国内営業部門が担当するが、

値引きや製品仕様など、詳細はすべて

グローバル契約のなかで定められる。

 GAM担当マネジャーは国内事業へ

の権限が与えられていないため、新た

に発生したグローバル活動やプロジェ

クト、条件について、国内営業部門の

同意を得なければならない。ただし、

顧客が新たに製品ラインを増やしたり、

新たな地域に事業展開したりした場合、

これをグローバル契約に含めてもらう

ように働きかけなければならない。

 コーディネーション型は、各現地法

人との関係が重要であり、グローバ

ル・サービスのニーズが低いケースが

最も適している。この場合の顧客に銀

行が多いのも当然といえよう。また、

調整能力を欠く多国籍企業にも最適な

選択となる。

 その好例がユニリーバである。同社

がコーディネーション型を採用した理

由は十分納得できる。創立以来、その

長い歴史を通じて、この消費財メーカ

ーは国内事業に集中してきた。またこ

173 Diamond Harvard Business Review December 2007

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Managing Global AccountsグローバルB2Bマネジメント

図表 GAMスコアボード

 GAMが自社事業にメリットをもたらすことがわかったならば、次にGAM制を適用する取引先を選ぶ。下の表は候補を絞り込むための診断ツールである。候補に挙がった顧客企業の特徴について10段階で評価し、各顧客企業の総合点を見る。

顧客の特徴 採点の指針 総合点点数(0~10)

10:取引額が最大の顧客 5:最大顧客の半分 0:最大顧客の10分の1

現在の取引額(売上高が最低500万ドル)

10:2倍あるいは3年以内に増額 5:1.5倍 0:横ばい

予想売上高

10:全顧客のなかで最も収益性が高い 5:半分程度 0:収支トントン

収益性(粗利益が最低100万ドル)

10:事業展開している国 の々100%に自社が進出している 5:事業展開している国 の々50%に自社が進出している 0:事業展開している国 の々10%に自社が進出している

操業地域

10:グローバルな統合と調整に関するケイパビリティのすべてが必要 5:半分程度が必要 0:必要なし

統合能力

10:自社にとって必要不可欠 5:やや重要 0:あまり重要ではない

戦略上の重要性

10:共有できる戦略が多い 5:共有できる戦略がいくつかある 0:共有できる戦略がない

戦略的適合性

10:完全に適合する(業界や本拠地が同じ、企業規模や操業年数が同じ程度) 5:部分的に適合する 0:適合性がない

文化的適合性

10:顧客が参入している国すべてで事業展開している 5:その半分の国 で々事業展開 0:顧客が参入している国では事業展開していない

地理的適合性

10:厚い信頼で結ばれており、重要な情報を共有する 5:中程度 0:まったく共有しない

リレーションシップ

0~25

26~50

51~75

76~100

不適格

要検討

有力候補

大事なグローバル顧客

総合点 顧客の評価

174December 2007 Diamond Harvard Business Review

こ一〇年間、R&Dや製品開発、製造

など川上部門の集中管理に注力し、コ

スト削減や専門能力の活用に努め、特

定顧客にフォーカスして、各機能を集

約させる必要はなかった。

 ウォルマート・ストアーズ、カルフ

ール、テスコといった多国籍小売業に

代表されるように、ユニリーバの顧客

の大半は、各現地法人が製品価格、新

製品の導入、発注数量を決定している。

これらの顧客がグローバル契約に望ん

でいるのは、ボリューム・ディスカウ

ントやプライベート・ブランドなど一

部に限定される。それゆえユニリーバ

は、コーディネーション型で十分だっ

たのである。

 コーディネーション型が他の二つの

アプローチより優れているのは、既存

の組織構造をいじらず、比較的容易に

実行できることが挙げられよう。もう

一つの利点は、他の二つよりはるかに

コストが安いことである。人員補充の

必要性も低く、顧客サポート・チーム

の協力がなくても、一人のGAM担当

マネジャーが二社以上のグローバル顧

客を担当することも少なくない。

 その一方、GAM担当マネジャーと

国内担当部門との間で、あるいは国内

担当部門内で意見が対立する可能性が

高い。その結果、グローバル契約の交

渉と履行が難しくなるというデメリッ

トがある。

﹇タイプ❷﹈

コントロール型

 最も多く採用されているのが、コン

トロール型である。このコントロール

型では、GAM担当グループと国内担

当部門が、グローバル顧客への責任を

それぞれ分担するが、主導権は前者が

握る。

 GAM担当マネジャーはグローバル

活動を遂行する権限を持ち、国内担当

マネジャーと意見が食い違う場合には

最終決定権を行使できるなど、GAM

担当グループが最終責任を負うかたち

になっている。

 コントロール型では、マトリックス

組織が採用される。各地域でGAMに

携わるスタッフたちは、本国のアカウ

ント・マネジャーもしくは各現地法人

のマネジャー、GAM担当マネジャー

の双方の直属となる。GAM担当マネ

ジャーは、GAMの統括責任者の直属

であり、顧客が戦略上重要な国または

地域の大企業である場合は、その現地

法人マネジャーも同じく統括責任者の

直属となる。

 GAMが登場した当初、組織図上で

は、各地域のアカウント・マネジャー

たちは本国のアカウント・マネジャー、

あるいは現地法人マネジャーの配下で

あり、案件によってGAM担当マネジ

ャーに協力するという関係だった。通

常、GAM制が敷かれると、GAM担

当マネジャーの権限は、各地域のアカ

ウント・マネジャーのそれよりも大き

く、最終的には彼ら彼女らを管轄する

立場になる。

 

コントロール型では、顧客サポー

ト・チームがビジネスチャンスを見つ

け、GAMプログラムを策定し、情報

©William Whitehurst/CORBIS

175 Diamond Harvard Business Review December 2007

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とコミュニケーションを管理するほか、

人的ネットワークの強化を図る。この

顧客サポート・チームは、各地域のア

カウント・マネジャーたちのほか、

R&Dや営業サービスなどの担当者で

構成される。

 このような専任スタッフが必要にな

るため、コントロール型はコーディネ

ーション型よりもコストがかかる。ま

た、部門横断的な組織が必要だったり、

マトリックス組織の特徴として権限の

所在があいまいだったりするため、G

AMグループと本国の顧客担当部門が

対立するなどのデメリットもある。

 とはいえ、メリットもある。GAM

グループは顧客の事業に専念し、その

組織力を発揮できる。また、コーディ

ネーション型よりもグローバル規模で

の統合性と各地域の独立性のバランス

でも優れており、社内の各部門のコミ

ットメントを取りつけることで顧客に

グローバル・サービスを提供できる。

これらのメリットはデメリットを補っ

て余りある。

 コントロール型が最も適しているの

は、製品と顧客の特徴から考えてGA

Mの必要性が高いものの、たとえばG

AMを適用するには取引規模││通常

は一〇〇〇万㌦以上の粗利益が必要

││があまり大きくなく、営業と顧客

サポート・チームのコストをまかなう

ことができない場合など、その顧客の

管理を本国のアカウント・チームの管

轄にとどめておかざるをえないケース

である。

 くわえて、グローバルに製品やサー

ビスを販売・配送したり、地域ごとに

サービスを調整したりする能力もある

程度求められる。また顧客企業にもそ

のような能力が備わっていることが望

ましい。

 

以上の理由から、ロイヤル・ダッ

チ・シェルがコントロール型を採用し

ている理由が理解できるだろう。

 トータル・ソリューション・サービ

スを提供するという点で、同社は中程

度のレベルである。その理由の一つは、

同社がその長い歴史を通じて、探査・

掘削において各地域に自由裁量を容認

してきたことが挙げられる。石油会社

は世界各地でさまざまな問題に遭遇す

ることが多く、現地の状況に適応する

必要があるからだ。

 もう一つ、シェルの特徴として、顧

客の大半が、シェルから燃料や潤滑油

を購入する巨大多国籍企業であること

が挙げられる。しかもそれらは、自動

車、自動車部品、ガス・電力、食品、

鉱業など地域的な利益と全社的な利益

のバランスが重視される産業に属して

いる。巨大多国籍企業は、R&Dとい

った機能は本社で管理してグローバル

に共有し、各地域における諸問題や、

生産、販売、サービスに関する実権を

地域に委ねるのである。

 シェルのGAMは、GAMグループ

と各地域のアカウント・チームという

二チーム体制になっている。前者は、

価格、マージン、販売数量などを管理

し、後者は顧客に対するバリュー・プ

ロポジション(提供価値)全般を扱う

ほか(シェルは顧客に個別対応する)、

176December 2007 Diamond Harvard Business Review

グローバルなサービスや値引きの条件

などを担当する。

﹇タイプ❸﹈

分離型GAM

 分離型では、GAMの全責任を負う

部門が創設される。GAMを担当する

スタッフ全員がここに所属し、チーム

を組んで独自のテクニカル・サポート

や営業サービスなどを提供する。

 しかし、分離型の担当部門は完全に

独立した組織ではない。R&Dや製造

などの川上機能は持っていないからだ。

その代わり、GAMに必要な資源を社

内調達できる権限と専門知識を備えた

スペシャリストが配置される。

 分離型のメリットは、顧客リレーシ

ョンシップを一元管理している点であ

る。その結果、グローバル業務とロー

カル業務のコンフリクトが解消され、

顧客情報の管理もスムーズに運ぶだけ

でなく、顧客サービスも向上する。な

ぜなら、スタッフたちは顧客の現地法

人向けの業務から解放され、GAMに

集中できるからである。

 しかし、このアプローチを採用でき

る企業はごく少数に限られる。その理

由は三つある。第一に、独立性の高い

担当部門の創設は、大規模な組織再編

と同じくらい困難が伴うこと。第二に、

その独立性ゆえに他部門とのベスト・

プラクティスの共有が妨げられること、

そして第三として、コストがかかるこ

とが挙げられる。

 GAMを推進する条件を揃え、かつ

追加コストを負担するのに十分な事業

規模と収益力を備えている企業ならば、

分離型が適切だろう。もちろん、顧客

企業のみならず自社にはグローバルな

調整能力が求められる。

 IBMは、分離型を実施できる能力

を備えた企業の代表である。同社とそ

の一〇〇社に及ぶグローバル顧客には、

戦略と資源配分を決定できる、あるい

は調整できる権限と能力を備えたグロ

ーバル・リーダーたちがいる。

 彼ら彼女らは、R&D、製品設計、

生産、マーケティング、営業、サービ

スといった主要機能を統括するグロー

バル・チームを従え、グローバル情報

システムによって財務業績をたえず把

握している。各顧客との取引規模は一

〇〇億㌦を超え、分離型GAMの運転

資金をまかなうのに十分な額である。

HPのGAMに学ぶ

 顧客ごとにニーズや能力が異なるよ

うに、顧客リレーションシップのあり

方もさまざまである。したがって、G

AMプログラムも顧客ごとに異なって

いて当然だろう。

 とはいえ現実には、GAMプログラ

ムをカスタマイズするには相当のコス

トと労力がかかるため、おのずと一部

の大口顧客に限られる。たとえばIB

Mの場合、大口顧客約一〇〇社以外に

は、コントロール型もしくはコーディ

ネーション型で対応している。

 多くのサプライヤーにとって、先述

した三種類のアプローチのどれかに絞

ってカスタマイズするのが最も賢明で

あろう。この場合には、全品目を対象

とした取引もあれば、主要品目のいく

つかに絞った取引もあるといった具合

に、顧客ごとに製品やサービスの種類

を変えたり、あるいは国内の顧客業務

について条件に緩急をつけたりすれば

よい。

 また、GAMスタッフの数に応じて

サービス水準を変更したり、各顧客の

現地法人のニーズや要望に合わせて、

本国でその顧客を担当するスタッフの

関与度を変えたりするという考え方も

ありうる。

 よくある間違いは、自社の組織体制、

あるいは顧客の組織体制に照らして、

分不相応なGAMを導入あるいは適用

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【注】

1)George S. Yip, G. Tomas M. Hult, and Audrey J.M. Bink, “Static Triangular Simulat ion as a Methodology for Strategic Management Research,” Research Methodology in Strategy and Management, vol. 4, July 2007.2)David B. Montgomery and George S. Yip, “The Challenge of Global Customer Management,” Marketing Management, Winter 2000.

してしまうというものだ。これではコ

ストがかかるだけでなく、抵抗も多く、

得られるはずのメリットをみすみす逃

すことになる。

 組織改編に伴う権限委譲には、えて

してコスト高と抵抗がつきものである。

したがって、GAMの採用に当たって

は、最も導入しやすいコーディネーシ

ョン型が望ましいだろう。

 サプライヤーと顧客の双方が経験を

重ねるなかで、さまざまな能力を獲

得・育成すれば、リレーションシップ

もより深まり、互いに重要な存在へと

発展していく。ならば、分離型への移

行を検討するのもよいだろう。ただし

そのためには、顧客企業の調整能力に

ついて十分考慮する必要がある。

 当初多くの顧客にGAMを適用しす

ぎたという問題を別にすれば、HPは、

適切なアプローチを選択して、GAM

を推進したベスト・プラクティスとい

える。

 九一年、HPは社内最大の事業部門

であるコンピュータ・システム部門で

パイロット・プロジェクトを開始し、

顧客企業六社にコーディネーション型

GAMを提供した。その後の数年間で、

HPはこのGAMプログラムの強化を

図った。たとえば、各GAM担当マネ

ジャーが必要な資源を調達する際には

本社部門がサポートしたり、GAM担

当マネジャーの権限を拡大したりした。

 HPもこれら六社の顧客も互いに経

験を積み、同社のGAMはコントロー

ル型へと進化し、調整能力を備えた大

口顧客に提供されるようになった。た

だし、そうではない顧客には依然コー

ディネーション型を適用した。

 九〇年代後半になると、分離型への

移行に踏み切り、上位一〇〇社につい

ては、アメリカ国内でのこれら顧客向

け業務も含めて、グローバルに一元管

理することにした。この分離型によっ

て、売上高成長率、利益、顧客満足度

が向上した。

 ところが二〇〇一年、HPはコント

ロール型へと立ち返る。顧客ニーズへ

の対応力を全社的に向上させるために、

抜本的に組織改編したことがその理由

である。

 従来の縦割り組織、すなわち各製品

部門は、顧客セグメント別に再編成さ

れ、R&Dと生産は独立部門となった。

またアメリカ国内の対顧客業務は各部

門に吸収され、分離型である必要はな

くなった。

 HPの例は、きわめて重要な示唆を

与えてくれる。GAMは、そのための

全社戦略と組織構造を確立したうえで

取り組む必要がある。そして、戦略あ

るいは組織を変更したならば、GAM

について再考すべきである。

*   *   *

 GAMを導入して試行錯誤中の企業

も、GAMを導入せずに頑張っている

企業も、GAMが本質的に不利益をも

たらすものではないことを理解しなけ

ればならない。

 我々が本稿で説明したガイドライン

に従って、GAMプログラムを設計す

れば、多国籍企業もサプライヤーも大

きな成果にあずかれるはずだ。既存の

GAMプログラムに不満ならば、GA

Mのアプローチと顧客企業について注

意深く観察し、問題点を洗い出してみ

るとよい。

 GAMを求める顧客の声に躊躇して

いるならば、GAMに伴うリスクより

も、大きな利益をもたらす可能性に注

目してほしい。その勇気がない企業は、

重要顧客との取引を最大化するチャン

スを逸してしまうばかりか、最悪の場

合、そのような顧客を臨機応変に立ち

回れる競合他社に奪われてしまうかも

しれない。

 GAMを導入できる条件が整ってい

るならば、選択肢の一つとして検討す

るのではなく、とにもかくにも導入す

る必要がある。(

HBR

二〇〇七年九月号より)

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