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全国循環器撮影研究会誌 Vol.23 2011
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X 線画像の進化 ―三次元撮影技術解説―
島津製作所 医用機器事業部 CVS 三浦嘉章
1. はじめに
X 線を用いた画像診断装置は,X 線の透過量を直接画像化する透視・撮影装置と画像再構成法を用
いて,対象の断層画像を得る CT(Computed Tomography)装置の二つに大別できる.前者はリア
ルタイムでの画像化が比較的容易であり,後者は断層画像情報をレンダリング処理する事で,立体表
示が容易である事が特徴である.近年,C アームを備えた血管造影装置を用いた interventional
radiology(IVR)がさかんに行われるようになった.そして IVR を支援するため,病変部の立体的な構
造を明瞭に表示する三次元表示機能が,要求されるようになってきた.
本稿では,C アームを備えた血管造影装置を用いた三次元表示機能に関して,三次元画像再構成技
術の基本として画像再構成法や三次元再構成画像の特性を説明する.そして,実際の C アームを用い
た三次元撮影法をその動作や機能を中心に解説する.最後に,三次元画像再構成技術の応用として,
デジタル断層撮影や,透視画像と三次元画像の重ね合わせ技術を紹介する.
2. 三次元撮影技術の基本原理(X線の影絵から立体像を作り出す原理)
三次元画像を創り出す処理は,大きく分けて次の二つの部分から構成される.一つは複数枚の二次
元画像から,立体的な三次元情報をつくり出す 3D 再構成処理.もう一つは,そこから得られた三次元
情報を LCD モニターなどの画像表示装置に表示し,観測者に立体的に見せる立体画像表示処理であ
る.X 線画像は,物体を透過する X 線の透過量に応じた濃淡を画像化したものである.簡単に云えば,
X 線による対象物の影絵である.影絵の濃淡には,対象物の構造情報がちりばめられている.対象物
に対して多方向から投影データを得て,それらを用いて対象の立体的な構造を再構成する手法を,三
次元再構成法と呼んでいる.
具体的に,三次元再構成法により得られる対象物の立体的な構造を表す情報は,三次元的な位置情
報(X,Y,Z 座標)とその座標位置での信号量として表される.この対象物の立体的な構造を表す情報
をもとに,対象物を立体的に見せる技術として三次元画像表示手法がある.三次元画像表示手法には,
三次元情報を簡単に投影で表す MIP(Maximum Intensity Projection の略で,「最大値投影」)法,影
などをつけ立体的に見せるレンダリング(rendering)法,さらには,任意の断面表示を行う事で三次
元情報を表示する MPR(Multi Planer Reconstruction の略で,「多断面再構成」)法がある.三次元表
示画像例を第1図に示す.レンダリングとは,数値データとして与えられた物体に関する情報を計算
によって画像化する事を云う.処理の内容としては,対象物を見る視点の位置や,対象物を照らす光
源の数や位置,種類,を決め,それに応じた陰面消去や陰影処理を施す.さらには対象物の表面構造
を画像処理して三次元画像を作成するものである.
第1図:三次元画像例
技術解説
技術解説:X 線画像の進化
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さらに,観測者が対象物を立体的に認識できるように,人間の視覚の左右視差を利用して,立体的に
表示する技術が,ステレオ(立体)撮影法として古くから知られている.第2図にステレオ(立体)撮
影法の模式図を示す.
被写体
第2図:ステレオ(立体)撮影法の模式図
3.1. 三次元再構成法
第3図に三次元再構成法の体系図を示す.三次元再構成法は,大きく分けて逐次近似型再構成
(iterative reconstruction)と解析的再構成(analytic reconstruction)の2種類となる.
さらに,逐次近似型は,代数的再構成法(algebraic reconstruction technique:ART),同時逐次再
構成法(simultaneous iterative reconstruction technique:SIRT),最小二乗逐次近似法(least-square
iterative technique)などの手法に分類できる.解析的再構成は,二次元フーリエ再構成法
(two-dimensional Fourier reconstruction)とフィルター補正逆投影法(filtered back projection:
FBP)がある.さらにフィルター補正逆投影法(filtered back projection:FBP)は,円コーンビーム(円
錐状)X 線に対応し,体軸方向の中心部と端部で X 線の入射角の補正を行いコーン角を考慮した重み
付きデータを逆投影する三次元再構成を行うフェルドカンプ(Feldkamp)再構成がある.(1)
逐次近似型再構成 (iterative reconstruction)
解析的再構成 (analytic reconstruction)
三次元再構成法 (Three-dimensional Image Reconstruction Method)
代数的再構成法 (algebraic reconstruction technique:ART)
同時逐次再構成法 (simultaneous iterative reconstruction technique:SIRT)
最小二乗逐次近似法 (least-square interative technique)
二次元フーリエ再構成法 (two-dimensional Fourier reconstruction)
フィルター補正逆投影法 (filtered back projection:FBP)
フェルドカンプ再構成法 (Feldkamp reconstruction technique)
第3図:三次元再構成法の体系図
全国循環器撮影研究会誌 Vol.23 2011
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3.2. 三次元画像表示手法
画像の三次元表示法は,二次元平面である LCD などの画像表示装置上に,三次元情報にもとづく
投影画像を表示する方法である.第4図に三次元画像表示の体系図を示す.三次元画像表示技術は,
画像表示面である二次元平面への投影方法(平行投影,遠近投影)と画像表示方法(サーフェイス・レン
ダリング,ボリューム・レンダリング,最大値表示,最小値表示,総和値投影など)に分類される.さ
らに,投影法を使わず,任意の断面表示を行い観測者に三次元を連想させる多断面再構成法(MPR)も
三次元表示方式と分類した.その中で,最大値投影法(MIP),サーフェイス・レンダリング,ボリュ
ーム・レンダリング,多断面再構成法(MPR)など,主なものについて以下概要を説明する.
最大値投影表示:MIP (maximum intensity projection,,)
三次元画像表示 (Three-dimensional Image display)
最小値投影表示:MNIP (manimum intensity projection)
総和値投影表示
並行投影法 (parallel projection)
サーフェイス・レンダリング (surface rendering) (two-dimensional Fourier reconstruction) ボリューム・レンダリング (volume rendering)
遠近投影法 (perspective projection)
投影方式 (projection)
多断面再構成法:MPR multi planar reconstruction
第4図:三次元表示法の体系図
3.2.1. 最大値投影法(MIP):maximum intensity projection
最大値投影法の原理は,三次元的に構築されたデータに対し任意の視点方向に投影処理を行い,投
影経路中の最大値を投影面に表示する手法である.MIP 処理は,対象物の三次元構造を透かして観察
するようなものである.そのため,対象物全体の構造の連続性を良好に表現できる.この事は,造影
剤の満たされた血管の観察などに有用であり,3D アンジオ検査の画像表示に良く用いられる手法で
ある.欠点としては,投影経路中の最大値しか表示しないので,投影経路中の最大値以外の情報が欠
落する事である.(第5図(a)参照)
(a) 最大値投影法 (b) サーフェイス・レンダリング
(c) ボリューム・レンダリング (d) 多断面再構成法
技術解説:X 線画像の進化
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第5図:三次元表示法
3.2.2. サーフェイス・レンダリング:surface rendering
サーフェイス・レンダリングは,再構成された三次元情報から物体表面のみを計算して,投影面上
に表示する手法である.具体的には,三次元情報の中から物体表面に対応する部分を抽出し,それを
多角形の集合体で表現する.さらに,多角形を必要に応じて細分化し,立体的な表面処理を施して表
示する.この表面処理として,仮想光源からの陰影処理(shading)を施す事で,より立体的な表示
を行うものもある.欠点として,サーフェイス・レンダリングでは三次元の各点での信号値(後述の
CT 値)を反映した画像化ができない.これは,三次元情報の表面のみを表示し,内部構造を無視す
るためである.(第5図(b)参照)
3.2.3. ボリューム・レンダリング:volume rendering
再構成された三次元情報をボクセルという立方体で構成されるボリューム・データとして扱い可視
化する手法で,直接三次元画像を内部まで表現するのが特徴である.任意の視線(レイ)に沿ってボク
セルの値を一定間隔でサンプリングし,その値を加算して半透明で内部構造も反映した三次元画像を
つくる.半透明で内部を可視化する処理は,各ボクセルに不透明度と云う値を与える事で実現してい
る.この不透明度と云う値を調整する事で,表示対象を不透明に近く,強調して描画する事が可能と
なる.ボリューム・レンダリングのもう一つの特徴は,サーフェイス・レンダリングで対応できなか
った三次元の各点での信号値(後述の CT 値)を反映した画像化ができる事である.例えば,信号値
(CT 値)の上限と下限を設定し,その範囲内の信号値(CT 値)を持つボクセルに色を付けて表示す
る事が可能である.(第5図(c)参照)
3.2.4. 多断面再構成法(MPR): multi planar reconstruction
多断面再構成法は,三次元的に収集された連続する断面情報を用いて,任意断面を抽出し表示する
方法で,例えば,横断面で撮影した複数枚のスライス画像から,異なる断面のスライス画像を再構成
する事である.この技術は,前述のレンダリング処理を用いた三次元表示法とは異なり,任意方向の
断面情報を表示する事で,観測者に対象の三次元的なイメージを連想させる間接的な手法である.(第
5図(d)参照)
3.3. 三次元画像からわかる事(信号値の持つ意味)
三次元画像を構成する各画素の信号値は,三次元再構成法により,投影画像から計算で求められた
断層画像の各画素の信号値にもとづいている.この断層画像の各画素の信号値は,一般に CT 値と呼
ばれている.そして,その単位は,ハウンスフィールド値 (HU)となっている.このハウンスフィー
ルド値 (HU)は水を0,空気を-1000 とする臨床目的のための単位で,X 線吸収係数に比例した値と
なっている.(第6図参照)主な組織の CT 値を第1表に示す.(2)
μt-μw CT値 = × K μw
μt:組織のX線吸収係数
μw:水のX線吸収係数
K :1000
組織 値 備考
水 0
空気 -1000
空気 -1000
脂肪 -100
筋肉 45
水晶体 60
白質(脳) 25
灰白質(脳) 35
凝固血(脳内出血) 90 甲状腺より高い
骨・石灰化 >400 硬い骨で 1000
甲状腺 70
肝臓 50
腎臓 35 腎=灰白質
血管 40
金属 >2000
※)水と空気以外の CT値は撮影時の X線管球電圧に依存する
第6図:CT値の計算 第1表:主な組織の CT値
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C アーム CT の場合は,この CT 値の精度は低い.理由は,散乱線の影響や,画像収集角度の制限
からくるアーティファクト除去処理の影響である.
4. C アームを用いた三次元画像再構成
IVR 中,特に腫瘍に対する化学療法を行う際に栄養血管を特定し,またその支配領域の大きさから
使用薬剤量を決定する事は治療の安全性および治療効果の向上にとって重要な事である.従来この目
的のために,IVR 中に CT 室に被検者を搬送して断層像を撮影する事や IVR-CT 装置を使用する事が
行われているが,C アームを備えた血管造影装置による C アーム CT 撮影技術は IVR 中にその場で
断層画像を得る事で搬送のリスクを避け,また,IVR-CT 装置に比較してコスト面,運用面で優れた
コストパフォーマンスを実現したものである.C アームによる回転画像から断層像を再構成する技術
としては 3D アンジオ技術があるが,3D アンジオ技術が主に造影血管を描出するものであるのに対
し,C アーム CT 撮影は低コントラスト分解能が格段に優れており,淡い腫瘍濃染などを描出する事
が可能となっている.
4.1. アーム CT 撮影の可能なシステム構成
第7図に血管造影装置に C アーム CT 撮影機能を追加した構成例を示す.構成例では,直接変換方
式の 17 インチサイズの大型 FPD(Flat Panel Detector)を搭載したシステムで構成を説明する.C
アームの回転撮影で得られた画像データは,画像処理ワークステーションに転送され,断層表示や三
次元表示を約 20 秒程度の処理時間で表示する事が可能である.(3)
FPD
C アーム
X線管球
画像処理ワークステーション 本体(デジタル画像処理)
画像データ
第7図:C アーム CT撮影の可能な血管造影装置の構成
4.2. システムの仕様
第2表に C アーム CT 撮影機能の仕様例を示す.C アーム回転速度が 10°/秒と 20°/秒の撮影モード
が選択可能であるが,息止め時間の問題から 20°/秒が腹部症例適用である.その際の撮影時間は 10
秒で,約 300 フレームの画像を使用して断層像を作り出す.撮影視野は 17×12 インチまたは 12×12
インチが選択可能となっており,それぞれアイソセンターで 26cm×18cm,18cm×18cm の領域をカ
バーする仕様となっている.再構成時のマトリクスサイズは 256 と 512 が選択可能である.
項目 仕様
収集
Cアーム回転速度 20°または 10°/秒
Cアーム回転範囲 215°
収集枚数 315fr(20°/秒 回転時)、630fr(10°/秒 回転時)
収集レート 30fps
撮影視野 17×12インチ(横長)、12×12インチ
3D-Workstation
OS Windows XP Professional
CPU Pentium Xeon (Quad-Core Processor)
メモリ 4GB
HD容量 システム:160GB
データ:320GB
モニタ 20” LCDモニタ
再構成ボクセル 256/512
再構成時間 60秒 (300View 256ボクセル再構成)
75秒 (300View 512ボクセル再構成)
3D再構成法 フェルドカンプ法
計測機能 距離 / 角度 / 体積
Print DICOM Print
カラープリンタ(オプション)
外部記憶媒体 DVD-RAM(9.4GB)
技術解説:X 線画像の進化
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第2表:Cアーム CT撮影機能の仕様例
4.3. C アーム CT 撮影の画像処理について
C アーム CT 撮影の画像データ処理の流れを第8図に示す.撮影された回転画像は 1) 水透過長へ
の変換,2) 再構成前処理,3) 再構成処理 の 3 段階の画像処理を経て,断層像となる.
水透過長変換 再構成処理 再構成前処理
ゲイン補正
散乱線補正
ビームハードニング 補正
C アーム軌道
補正 リング補正
トランケーション補正
π補正
回転撮影データ
C アーム CT画像
第8図:Cアーム CT撮影の画像データ処理の流れ
最初の段階である水透過長への変換処理は,回転画像の画素値を水透過長に変換する工程である.
水透過長とはある画素値を,X 線条件が同じ場合にそれが水を何 mm を透過したものに相当するかに
換算した量である.具体的には,検出器のゲイン補正後,散乱線補正処理により散乱線成分が補正さ
れ,ビームハードニング補正処理の中で水透過長に変換される.回転画像での暗い部分は X 線吸収が
多い事を意味し,そのため換算される水透過長は長くなり,変換後の画像はネガポジ反転したかのよ
うになっている.次の段階の再構成前処理として,a) C アーム軌道補正,b) リングアーティファク
ト補正, c)トランケーション補正,d)π 補正 の 4 種類の補正処理がなされる.C アーム軌道補正は
現実の C アームの軌道と理論上の理想的な軌道とのずれを補正するものである.リングアーティファ
クト補正は画像観察の邪魔になる断層像でのリング状のアーティファクトを低減するための補正で
ある.トランケーション補正は回転中に視野からはみ出した被写体部分について,そのサイノグラム
を補間する事で断層像のフラットネスを改善するための補正である.π 補正はコーンビームの効果の
ためハーフスキャン再構成する際に中心部と周辺部で生じる収集データ量の差を補正するためのも
のである.以上の補正の後,再構成処理により断層像が計算される. 再構成処理のアルゴリズムは,
FBP(Filtered Back Projection)法と呼ばれるもので,第9図にその原理の模式図を示す.(5)
フィルタ処理
*
回転撮影画像
逆投影処理
断層画像
第9図:FBP(Filtered Back Projection)法
C アームのある撮影角度での画像は,投影像すなわち影画であり,一枚の投影像からでは被写体が
三次元空間のどこに存在するかという事はわからず,検出器に映った影と焦点のつくる円錐(コーン)
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の中にあるとしか云えない.しかし,仮想的な三次元空間を計算機の中に作成し,いろいろな角度か
らのコーンの情報を蓄積する事で,もとの被写体の位置を再現する事ができる.FBP 法はこれを精密
化したもので,投影像そのものではなく,投影像をフィルタリングした後に仮想の三次元空間に逆投
影して蓄積する事で濃度情報(X 線吸収係数)を含めて,もとの被写体の位置情報を再現するもので
ある.多くの C アーム CT 撮影機能では X 線が体軸方向にも広がり(コーン角)を持っているため,コ
ーン角を考慮して,三次元再構成時を行う必要がある.そのため FBP 法の一種で,コーン角を考慮
した計算アルゴリズムである,フェルドカンプ(Feldkamp)法を採用している.
4.4. C アーム CT 撮影と MDCT(Multi-Detector CT)
C アーム CT 撮影は CT と同じ原理で断層像を作り出す技術であるが,検査装置としての CT 装置
の代替となるようなものではない.MDCT との性能比較を第3表に示す.
スペック Cアーム CT マルチスライス CT
X線ディテクタ 17インチ FPD シンチレータ+フォトダイオード
回転機構 Cアーム ガントリー
撮像系の回転撮影範囲 215° 連続回転不可 360° 連続回転可
撮影時間(1スキャン) 10または 20秒 0.5~1.5秒
撮影枚数(View 数) 約 300枚または 約 600枚 800~1200以上
画像データの精度 14 bit 20bit 以上
低コントラスト分解能 (φ160 CATPHAN) 10HU/10mm 程度 3HU/3mm程度
高コントラスト分解能(10%MTF) 0.45mm~ (isotropic) 0.6mm~(non-isotropic)
第3表:Cアーム CT撮影 と MDCTの性能比較
C アーム CT 撮影は血管造影装置がベースである事により,MDCT に比較して元画像データの精度
(ビット数),撮影枚数に制限があり,これが低コントラスト分解能の性能差を生む大きな原因とな
っている.また,元画像に含まれる散乱線成分についても,CT ではアンチスキャッタープレートに
より1%程度まで減少しているのに対して,C アーム CT 撮影では,ほぼ 100%つまり1:1で散乱
線成分が混入している.この散乱線成分は画像処理である程度は補正されるものの正確に除去はでき
ず,これが C アーム CT 撮影での CT 値の不正確さの大きな原因の一つとなっている.このため,C
アーム CT 撮影の出力画素値は CT 値という絶対値ではなく,被写体の X 線吸収係数の相対的な差を
示すものと考えるべきである.しかし,その一方で空間分解能は CT に比較して優れており,C アー
ム CT 撮影では高い空間分解を持った等方的な三次元情報を得る事ができる.このような特徴から,
C アーム CT 撮影は検査装置としての MDCT の代用品ではなく,その場で即座に断層像を得られる
という特長を生かして IVR を支援し,治療の安全性と治療効果の向上を目的とするものであると考
えられる.
5. 技術課題 (収集時間,再構成時間,空間・コントラスト分解能)
5.1. 画像収集時
C アーム CT 撮影は,原画像を回転撮影で収集する.このため,C アームの動きによる制限を受け
る.一つの制限は,回転角度である,CT 装置が 360 度の回転角で原画像を収集するのに対して,C
アーム CT 撮影の回転角は,C アームの回転角度の制限を受け約 200 度程となる.この回転角度の制
限によりアーティファクトを生じる.もう一つの制限は回転速度である.C アームの回転速度は CT
装置に比べると遅く,1回の撮影時間は数秒から数 10 秒を必要とする.そのため,得られる画像の
時間分解能は極めて低く,撮影時の時相を一意に定義できない.また,撮影時間がかかるため,患者
の体動による影響を受けやすい.
5.2. 散乱線補正
技術解説:X 線画像の進化
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散乱線の影響を抑制するため,散乱線補正処理を行っている.補正処理は再構成画像から散乱線成
分を同定し,その成分を元画像から除去し,再度再構成を行いながら,繰り返し散乱線成分を除去す
る.この処理が適正でないと,画像上に,ストリークアーティファクトに代表されるアーティファク
トが生じる.これにより,低コントラスト分解能が影響を受ける.
5.3. ビームハードニング補正:Beam Hardening Correction
対象物の構造情報(X線吸収率の分布)を反映しているはずの透過 X 線は,物体を透過する事で線質
が硬化され,構造情報が失われる.このため,高吸収体の内側などに,アーティファクトを発生する.
対策として投影値と線吸収量との関係を水透過長でマッピングし,画像再構成時にはこのマップによ
り補正する必要がある.
5.4. はみ出し処理
対象物体が全て視野(FOV)に入っていない場合,視野(FOV)外の構造により,濃度エラーが発
生し強度のアーティファクトが発生する.これを抑制するため,得られた原画像を用いて,はみ出し
分を補正し画像再構成を行う.
5.5. リングアーティファクト処理
ャリブレーションデータによりリング成分を抽出しておき,再構成画像からこのリング成分を相殺
させて除去する.この際,リング外の微細な低コントラスト領域への悪影響を防ぐため,フィルタリ
ング処理は,周波数と方向性を適切に制御する必要がある.
6. さらなる応用(トモシンセシス撮影法,フュージョン画像)
6.1. トモシンセシス撮影
トモシンセシス(Tomosynthesis)撮影とは C アーム CT 機能の画像再構成法とデジタル画像処理を
融合させた新しいデジタル画像技術である.Tomosynthesis は Tomography(断層)とギリシャ語の
synthesis(統合,合成)との合成語として一般的に使用されている.C アーム CT 機能は,回転撮影を
180 度以上の角度で行い空間的な視野を持つ三次元再構成画像を得る事ができる.これに対して,ト
モシンセシス撮影は限定された回転角度の動きから断面視野のみを再構成する.(第10図参照)
X 線管球
FPD
回転軌道
視野
回転軌道
直線移動
直線移動
X線管球
FPD
断層面
第10図:Cアーム CT撮影(左)とトモシンセシス(Tomosynthesis)撮影(右)
再構成方法は,シフト加算法と FBP 法の2種類がある.シフト加算法は収集された一連の画像に対
して,それぞれの画像を走査方向に適量シフトし,重ね合わせる事で,特定の裁断面に焦点を合わせ
た断層像を得る方法.FBP 法 (Filtered Back Projection)は平行平面式断層走査より得られた一連の
投影画像を C アーム CT 撮影の回転走査の投影データに変換し,そこから断層画像を再構成する.平
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行平面式断層走査のみならず,シフト加算法では対応できない円弧断層走査にも適応が可能である.
トモシンセシス撮影の特徴は,断面再構成のみを行うので,非常に高い分解能を実現できる.第11
図にトモシンセシス撮影画像例を示す.高い分解能により矢印で示す病変部の様子が明瞭に描出され
ている.
第11図:トモシンセシス(Tomosynthesis)撮影画像例
6.2. FPD 搭載循環器システム・アプリケーション"3D-MAP 機能"
血管造影装置を用いた IVR は,治療対象に向けて血管内を通したカテーテルやガイドワイヤーを
操作しながら行う.また,対象部位もますます微小なものになっており,より注意深い操作が必要で
ある.それに加え,本来血管は X 線の吸収がないため,血管を通すカテーテルやガイドワイヤーと血
管の位置関係は,通常の X 線透視画像では認識する事が困難である.従来から血管造影装置は,この
状況を支援する機能として,MAP モードを備えていた.これは,造影剤を注入した状態で撮影を行
う事によって得た血管造影像を透視画像に重ねる事で,操作中のデバイスと血管の位置関係を示すも
のである(第12図参照).(4)
(a) 透視像 (b) MAP像
第12図:透視像と MAP 像の例
これにより,術者は操作中のデバイスの位置や状態をより正確に把握する事ができるため,手技の
有効な支援機能となっている.一方,血管造影装置を用いて血管の立体的な形状把握を行う機能も開
発されている.C アームを回転しながら画像を得て三次元再構成する事で血管像を立体表示する機能
である.血管像の立体表示の観察により,治療関心部位をどの方向から観察すると治療に有効な画像
が得られるかを検討するのに有用な機能である.
技術解説:X 線画像の進化
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6.2.1 従来の MAP 機能の問題点
前述の MAP 機能は血管内治療を行う際に非常の有効な手段だが,MAP 機能使用時には,透視画
像と MAP 画像を常に一致させる必要がある.つまり,MAP モード使用時には,C アームの移動や,
画像の拡大などの操作を行う事ができない.この事は,IVR を進める上で,弊害となる.
6.2.2. 3D-MAP 機能のコンセプト
従来の MAP 機能の欠点をマスク像に三次元画像を採用するという方法で解決するというアイデア
が 3D-MAP 機能である.三次元画像は再構成画像を観察する視点を変える事で,あらゆる角度から
の血管画像の観察が可能となる.従って,操作時に希望する透視画像の位置やサイズに合わせて表現
されている三次元画像を透視像に重ねる事で,これまで,状態に合わせて何度も作成していたマスク
像を一つの画像データで代用する事ができる.
6.2.3. 3D-MAP 機能のシステム構成
第13図に血管造影装置の構成と 3D-MAP 機能との関係を示す. C アームの回転撮影で得られた
画像データは,三次元血管画像として,画像処理ワークステーションに転送される.画像処理ワーク
ステーションには,透視時には透視画像データが転送される.そして,マスク画像となる三次元血管
画像と,透視画像を重ね合わせて表示する.重ね合わせ処理は,透視画像に連動して,常にマスクと
なる三次元血管画像と透視画像を一致させる.
FPD
C アーム
X線管球
画像処理ワークステーション 本体(デジタル画像処理)
回転撮影画像
透視画像画像
メカ情報
(寝台、C アーム)
第13図:血管造影装置の構成に 3D-MAP 機能を追加した構成例
6.2.4. 3D-MAP 画像の表示
回転撮影を行いその画像から,三次元の血管像(3D アンジオ画像)を作成する.
その三次元血管画像を専用の画像処理ワークステーション転送する.そこで,前後関係を逆にして
3D-MAP のマスク像とする.これは,3D アンジオ画像が血管像を正面からの視点で描出されている
のに対し,3D-MAP で重ね合わせる透視像は,投影される FPD と反対に位置する X 線源からの投影
像であるため,前後関係が反対になるためである.(第14図参照)
6.2.5. 3D-MAP マスク画像と透視画像の重ね合わせ
3D-MAP の機能の技術的な課題は,三次元再構成画像と透視像の位置のずれを解決する事である.
三次元再構成画像と透視像には位置ずれが生じる場合がある.その主な原因は,画像収集系を保持し
ている C アームが歪みを生じる構造物であるためである.三次元再構成時には,その歪を補正しなが
ら画像を作成しているが,透視像は,特に歪みを補正していない.このため,三次元再構成画像と,
透視像の位置ずれを補正する必要がある.複雑な構造の C アームが,各位置でどのように歪を生み出
すかを解析し,画像の位置補正に反映するのは,非常に複雑な処理となる.具体的には,個々の施設
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にあった補正データを取得し,その補正データを用いた位置補正を行う.そして,補正データを取得
するために,3D-MAP 用のキャリブレーションを行う.据付時に数点のポジションでの透視像と三次
元画像のずれ幅を登録して,C アームの稼動範囲全体のデータを補間作成する.この補正を行う事で,
問題を解決している.
(a) 3Dアンジオ画像 (b)3D-MAP マスク画像
(c)透視画像 (d)3D-MAP画像
第14図:3D-MAP画像例
7. 近況(RSNA2010 での技術トピックス)
最新の技術動向をつかむ上で,RSNA(北米放射線学会)は重要なものとなっている.2010 年 11
月 28 日(土)から 12 月 3 日(金)の 6 日間,米国シカゴのマコーミックプレースにおいて北米放射線学
会(RSNA2010)が開催された.医療が医療費増大,医療過誤,医師不足など多くの問題を抱える一方
で,さらなる医療費増大の危険性をはらみながらも,多くの無保険者を解消する米国の医療保険改革
など,さまざまな模索が試みられる状況下で開催された.この大きく変化しようとしている医療の方
向性を示し学会テーマは“PERSONALlZED MEDICINE: In Pursuit of Excellence"(患者個々に適
したよりよい医療の追求)であった.
学会登録者数は,学展示関係者で約 2 万 1 千名,(前年比 1%減)と 4 年間連続の減少傾向を示して
いるのに対し,医療関係者は約 3 万 5 千名(前年比 4% 増)と 4 年間連続の地加傾向を示していた.学
会では X 線関連では DECT(Dual-EnergyCT)およびコンピュータ支援診断 CAD(Computer-Aided
Diagnosis)は演題数が増加しており注目度が高い領域である.血管造影関連の発表では,C アーム
技術解説:X 線画像の進化
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CT 撮影に関する発表演題が中心であった.内容は治療支援機能の臨床例や被曝低減に関する発表が
多くあった.C アーム CT 撮影に関する発表演題の総数は 16 件(2008 年 53 件,2009 年 11 件)と低迷
しており,当世代の C アーム CT 撮影は技術的に成熟し臨床活用の時期に入った事がうかがえる.
8. まとめ
『X 線画像の進化』と云うテーマで三次元撮影技術について解説した.立体的な体組織情報が必要
となる高度で複雑化した IVR の広がりに伴い三次元撮影技術が飛躍的な進歩した背景を延べた.そ
して,X 線の影絵である投影データから立体像を作り出す原理を説明した.立体像を造り出す三次元
再構成法について,概要を紹介をした.それから,少し説明する立場を変え,三次元画像から何がわ
かるのか,臨床的にどんな有用性があるのかを信号値の持つ意味を説明した.その後,装置開発側か
ら,三次元撮影技術をどのような形で,製品化してきたかを具体的な製品を例にとり,C アーム装置
を用いた三次画像再構成法として,『3D アンジオ』と『C アーム CT 撮影』を例として具体的な製品
技術を紹介し,それらの持つ技術課題(収集時間,再構成時間,空間・コントラスト分解能)を説明し
た.そして,今後の技術動向の方向性の一例として,デジタル断層撮影(トモシンセシス撮影)法と画
像情報を組み合わせて表示するフュージョン機能として 3D-MAP 機能を解説した.最後に,最新の
技術動向の紹介として北米放射線技術学会(RSNA2010)での技術トピックスを紹介した.以上,概
略的な技術解説だが,今後,飛躍的な発展が期待できる三次元撮影技術について装置開発を担うメー
カーの立場から,その方向性を述べた.最後に,このような貴重な機会を頂いた,全国循環器撮影研
究会の皆様に,心から感謝する.
参考文献
(1) 斎藤恒雄:”画像処理アルゴリズム”,103~122,近代科学社,(1993)
(2) Willi A. Kalender : Spiral volumetric CT with single-breath-hold technique ,
continuous transport ,
and continuous scanner rotation , Radiology 176, 181~183, 1990
(3) 西野和義ほか:FPD 搭載血管造影装置 BRANSISTsafireVC17/VF17 C アーム
CT 撮影機能の開発,島津評論 65,189~194 (2008)
(4) 三浦裕介ほか:FPD搭載血管造影装置 BRANSISTsafire3D-MAP 機能の開発
,島津評論 65,183~188 (2008)
(5) 島津製作所編:SONIAL Safire シリーズ臨床マニュアルトモシンセシス編
rev1.4,15~16(2009)