Title Von Hippel-Lindau病に合併した両側腎腫瘍の1例

Author(s) 小松, 和人; 三崎, 俊光; 久住, 治男; 山嶋, 哲盛; 得田, 和彦;山本, 信二郎

Citation 泌尿器科紀要 (1988), 34(9): 1621-1625

Issue Date 1988-09

URL http://hdl.handle.net/2433/119702

Right

Type Departmental Bulletin Paper

Textversion publisher

Kyoto University

泌尿紀 要 　34:1621-1625,l988 1621

Von Hippel-Lindau 病に合併 した両側腎腫瘍の1例

金沢大学医学部泌尿器科学教室(主 任=久 住治男教授)

小 松 和 人,三 崎 俊 光,久 住 治男

金沢大学医学部脳神経外科学教室(主 任:山 本信二郎教授)

山1鳴 哲 盛,得 田 和彦,山 本 信 二 郎

A CASE OF VON HIPPEL-LINDAU DISEASE ASSOCIATED

WITH BILATERAL RENAL CELL CARCINOMA

Kazuto KOMATSU, Toshimitsu MISAKI and Haruo HISAZUMI From the Department of Urology, School of Medicine, Kanazawa University (Director: Prof. H. Hisazumi)

Tetsumori YAMASHIMA, Kazuhiko TOKUDA and Shinjiro YAMAMOTO From the Department of Neurosurgery, School of Medicine, Kanazawa University (Director: Prof. S. Yamamoto)

A case of von Hippel-Lindau disease associated with bilateral renal cell carcinoma is presented. A 27-year-old female noticed myodesopsia and underwent laser coagulation of right retinal hemangioma in 1973. In addition, cerebellar hemangioblastomas were removed in 1977, 1978, 1983 and 1987. The pa-tient was referred to the department of urology for further examination of bilateral renal masses which were incidentaly found on abdominal computed tomography (CT) and magnetic resonance-CT. Fine needle biopsy performed and microscopic examination revealed the presence of clear cell type renal cell carcinoma (grade 1). Renal arteriography demonstrated multiple neovascularities in the bilateral masses. Complete tumor excision was impossible to retain the minimum of renal function, the patient was conservatively subjected to a follow-up study.

(Acta Urol. Jpn. 34: 1621-1625, 1988)

Key words: Renal cell carcinoma, von Hippel-Lindau disease

緒 言

VonH三PPel-Lindau病(以 下VHL)は,網 膜血

管腫,小 脳,延 髄,お よび脊髄の血管芽腫に腎,膵,

肺,副 腎,副 睾丸や卵巣 などの嚢胞 腫瘍 を合併す る

常染色体性優性遺伝 を示す疾患 と して知 られている.

VHLに 腎腫瘍を合併 した例は,欧 米での報告は稀で

はないが,本 邦では少な く,わ れわれの調べ得た範囲

ではわずかに8例 をみるのみであ った.今 回われわれ

は,VHLに 両側 腎腫瘍を合併 した1例 を経験 したの

で,若 干の文献的考察を加えて報告す る.

症 例

患者:27歳,女 性

主訴:両 側腎腫瘤の精査

家族歴:父 親がVHLに て37歳 で死亡

既往歴:1968年 虫垂切除

現病歴:1973年 右眼に飛蚊症出現 し,VHL疑 いに

て近医 より金沢大学付属病院眼科紹介,入 院.右 網膜

血管腫に対 して レーザ ー凝固術施行.同 年脳外科にて

小脳腫瘍を指摘 され,1977年,1978年,1983年 と3回

にわた り小脳血管芽腫摘除術施行.1987年4月 よ り頭

痛 出現 し,同 年5月23日 脳外 科入院 頭部CT上 多

発性小脳腫瘍お よび嚢腫が存在 し,入 院後水頭症が進

行 してきたために,6月16日 小脳腫瘍摘 出術 施行.水

頭症の改善は認め られたもののすべての腫瘍 を摘除す

ることはできなか った.手 術に先立 って行われた腹部

CT,MR-CTに て両腎に腫 瘤が認め られ たため,6

月27日 精査 目的にて当科初診 となった.

現症1身 長151cm,体 重42kg,右 眼は失 明,左 眼

視力1.o.腹 部平坦,小 脳症状を認める.血 圧120/80

mmHg

1622 泌尿紀要34巻9号1988年

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Fig.1.BrainCT(A)andMR-CT(B)showingcystsandmuralnodulartumors.

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Fig.2。

戴薫AbdominalCTdcmonstratingmassle-

sionsandcystsariseninbilateralkidney. 糠難Fig.4.Microscopicphotographyshowingthe

presellceofrcnalcellcarcinoma(clearcelltype,grade1).

ρ

AB

Fig.3.MR-CTshowingmasslesionsandcysts

inbilateralkidney.

入 院 時 検 査 成 績:末 梢 血;WBC4,500,RBC423

×104,Ht38.7,Plt26.7×104,血 液 生 化 学:TP6 .59/dl,

Na147mEq/1,K4.5mEq/1,Ca4.3mEq/1,BUN

15mg/dl,Cro.8mg/d1,GOT241u/1,GPT31

1u/1,AIPl661u!l,LDHl621u/】,T.Cho1.156

mg/dl,空 腹 時 血 糖7emg!dl

検 尿:糖(+),蛋 白(一),沈 査 異 常 な し.

画 豫 診 断:頭 部CT,MR-CT上,・ 」・脳 半 球 に 嚢 胞

お よび 多 数 の 結 節 状 腫 瘍 陰 影 を 認 め た(Fig.1).腹 部

CT,MR-CT上,左 腎 上極に嚢胞 左腎中下極お よ

び右腎上極 に腫瘍陰影 を認めるほか膵に多発性?胞 を

認めた(Fig.2,Fig.3).

以上 よ り両側腎腫瘍 を疑い,6月29日 左腎下極 の腫

瘍に対 して超音波 ガイ ド下に針生検を施行,病 理診断

は,淡 明細胞 よりなる腎細胞癌(gradel)で あった

(Fig.4).さ らに7月7日 腎動脈造影 を施行,両 側腎

に多発性の新生血管増 生 を 伴 う腫 瘍 陰 影 を 認 め た

(Fig.5).以 上 より両側多発性腎腫瘍 と診断,腎 保存

手術は困難 と考え られ,ま た患者の希望 もあ り,現 在

保存的に経過観察中である、

考 察

VHLに 腎癌 が合併す る症例の報告 は,欧 米文献で

は稀ではない・HortonらDは,9家 族50例 のVHL

患者 について詳細な検討を加えているが,そ れ によれ

ばVHLに 伴 う腎癌の頻度は28%で あ り,こ れは網

小 松,ほ か:両 側 腎 腫 瘍 ・vonHippel-Lindau病

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Fig,5.Rcnalarteriographydemonstratingmultipleneovasculariticsin

bilateralkidneys.

Tablc1.RenalcellcarcinomawithvonHippel-Lindaudisease

-Re、iewofcasereportsinIapaneseliterature 一

1623

CaseAge,Sex Fa皿ily

history

Rena温cellcarcino皿a

site treaし 皿ent

Other

manifestations

17,26,M

2s)?

311,23,F

49, 50,閉

5■2,399F

6塵3,57.F

7量o,36,F

834,52,聞

9蓼27,F

positive

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bilat.

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left

bilat.

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bilat.

nephrecto皿y

nephrectomy

nephrectomy

rt.nephrectomy

Iしpartial

nephrecto皿y

nephrectomy

nephreeto皿y

rt.nephrecto皿y

lt.partial

neph「ecto皿y

bilat.

nephrectomy

nooperation

retinalhelnangioma,oerebellar

andspinalhelDangioblastoma

?

pancreaticcyst,reしinal

hemangioma,cerebellarhe口aogio-

blasto皿a

retinalhe皿angio口a.ce『ebe1且a「

andspinalhemangioblastoma

retinalhe皿angioma,cerebellar

he皿angiob量asto皿a

retinalhema㎎ioma,cerebellar

he皿angioblastoma

retinalhe皿angioma,cerebellar

andspinalhema㎎ioblasto皿a

cerebellarheltangioblastoma

retinalhe皿a㎎ioma,eerebella『

he皿angioblasto皿a

竃:pre8entca8e.

1624 泌尿紀要34巻9号1988年

膜血 管 腫58%,小 脳血 管 芽 腫36%に 続 い てい るt諸 家

の報 告 で もMalekら2・3)は,23例 中8例,Lcvine

ら4一6)は17例 中6例 に腎 癌 が合 併 した と述 べ て い る.

VHLに お い て 腎癌 を 初発 とす る ものは10%で あ る

が,50%に は遠 隔 転移 を認 め,VHLの 死 因 の うち小

脳 腫瘍 に よる53%に 続 いて32%を 占めた とい う報 告 が

み られ り,患 者 の 予後 を 左右 す る重 要 な 合 併症 とい う

こ とが で きる.腎 癌 以外 の 泌尿 器 科的 合 併 疾患 は29例

の 剖検 例 に よれ ば1),腎 嚢胞59%,副 腎 褐 色細 胞 腫17

%,腎 腺 腫14%,副 睾 丸 腺 腫10%で あ り剖 検例 で み る

か ぎ り,泌 尿器 科 的疾 患 の 合併 は か な り高 頻度 とい え

よ う.

一方,本 邦 ではVHLに 合 併 した 腎癌 の 報告 は稀

で あ り,組 織 学 的 診断 の な され て い る もの は,学 会報

告 の4例7一10)を 含め て も8例 に過 ぎず1H姐),自 験例 は

本邦 第9例 目と思 われ た(Table9).

VHLに 合 併 す る腎 癌 は一般 の 腎癌 に 比べ て さま ざ

まな特 徴 が あ る といわ れ て い る。つ ま り,1)発 症 年 齢

が 比較 的 若 い こ と2)嚢 胞 の合 併頻 度 が 高 い こ と3)両 側

性,多 発性 であ る こ とが 多い こ と,な どであ りこれ ら

の事 実 は診 断,治 療 に かか わ る重 要 な 問題 点 とな って

い る.

発 症 年齢 に つ い て,本 邦 の報 告 例 の うち 自験 例 を 含

め年 齢 の あ き らか な8例 の年 齢分 布 は23～57歳,平 均

39.5歳 で あ り,Malek3),Levine6),Loughlinl5),

Personi6),Das17),Kadir18)ら の報 告 を ま と め る と

24～60歳,平 均39,5歳 で あ り,VHLに 合 併す る腎癌

の発 症が 若 年 であ る ことは,明 らか であ る,自 験 例 は

27歳 で あ った が,1973年13歳 時 にVHLの 診 断 を既

に 受 け てお り腎癌 の診 断 も もっ と早 くつ け られ て いた

可 能 性 もあ る.VHLと 診 断 され た症 例 に対 して は全

身 的 な合 併 症 の検 索 が重 要 と思 わ れ る.

腎 嚢胞 の 合併 に つ いて,Levineら4)は,VHLの76

%に 腎嚢 胞 が合 併 し,腎 癌症 例 に つ いて はそ の 全例 に

嚢 胞 が合 併 した と報 告 して い る,VHLに 合併 す る 腎

癌 は,実 質 性腫 瘍 の ごと く描 出 され る こ と もあ るが,自

験 例 の よ うに腫 瘍 が 嚢胞 内 に存 在 す る よ うにみ え る こ

と も多 く,まtgChr且stensonらIP)は 嚢 胞 内壁 を構 成

す る細 胞 は 合併 す る 腎癌 を構 成 す る細 胞 と病 理 学 的 に

は 同一 で あ った と報 告 して い る.諸 家 の報 告 に もあ る

よ うに18-2。),VHLに 合 併す る腎 癌は,一 側 性 充実 腫

瘍 の形 を とる ものか ら両側 性,多 発 性 嚢 胞 の形 を とる

も の まで多 様 な スペ ク トラムを 持 つ と考 え るべ きで あ

り,嚢 胞 の悪 性 転 化に も今後 注 意 を払 う必要 が あ ろ う

両 側発 生 の 腎癌 は,Vermillionら の報 告 に よれ ば

329例 の 腎癌 症例 中6例,1.8%と され21),一 方VHL

に おい ては,本 邦で の報 告 例 で は8例 中4例,50

%7-14),欧 米での複数 の報告をまとめる26例 中17例,

約65%が 両側性 である3・6,15・18).両側性 腎癌の治療に

関 しては,根 治性 を重視 して両側腎摘除術を施行する

か,あ るいは生命維持に不可欠な腎機能を保存す る意

味で腎保存手術を行 うのかの選択が最 も大 きな問題で

あ ろ う,

両側 腎摘除後血液透析を施行 した症例については,

Jacobsら22)の 成績では6例 中3例 が透析合併症で死

亡 してお り,福 田14),藤 澤 ら23)の症例報告 でも原疾患

の根 治性は保 たれながら透析合併症に よ り死亡 してい

る ようである.腎 摘除後の腎移植に関 しては腎保存手

術の不可能な症例に とっては理想的 な治療法 と考え ら

るが担癌患者に対 し長期間の免疫抑制剤使用の危険性

を危惧する意見があ り22・24,25),腎提供者の確保が困難

な 日本においては現時点では現実的な治療法 とは考え

に くい.こ れに対 し腎部分切除を行 ったJacobsら22)

の成績では,5年 生存率が69%,局 所再発率が10%と

され,腫 瘍核 出術を行ったNovickら24)の 成績で も,

3年 生存率が90%,局 所再発率が6%と 報告されてお

り,腎 部分切除,腫 瘍核出などの腎保存手術 の成績は

比較的良好であるとの報告が多い ようである25・2fi)

VHLに 合併 した両側性 腎癌 に つ い て もFenter

ら27)はVHLに 合併す る腎癌が多中心性 であること

を重視 して,両 側 腎摘除 術に価値 を見い 出して お り

Loughlin15),Pearsonら16)はVHLに 合併する腎癌

は比較的良 く被包化 されてお り摘 出は容易であること

や,両 側腎摘除 術の予 後が良 くない ことな どを理由

に,技 術的に可能であるか ぎ り腎保存手術 をするべ き

と述べている,自 験 例においては,血 管造影上両側腎

の上極か ら下極にわた り多発性の新生血管増生が認め

られたため腎保存手術は不可能 と判断 され,さ らに小

脳腫瘍の完全摘除が不 可能であ った ことや患者 自身の

希望 なども考慮 して保存的に経過観察 とした.VHL

症例 の腹部病変 の診断に関 して,Levineら4)は31例

のVHL患 者お よび家族 に対 してCTを 施行 し4例

の腎腫瘍を含む15例 に腹部病変が発見 され たと述べて

お り,VHL患 者は年1回 の,そ の家族に対 して も10

代からのCTに よる検索を勧めている.Kadirら18)

は腎の小病変 の検 索に は血管 造影 が優 れてい ると述

べ,直 径 数mmの ものまで診断可能 として いる.自

験例において もCTで 診断 されな い小病変が血管造

影 にて発見され てお り手術術式の選択 の際な どには,

有効 な手段 と考 えられた.

いずれにせ よCTや 血 管造影の普及に 伴い腎病変

の早期発見が可能 とな り,今 後は腎保存手術 の可能な

小 松,ほ か:両 側 腎 腫瘍 ・vonHippel・Lindau病

症例 も増加して くることが予想 された.

結 語

27歳,女 性にみられたvonHippel・Lindau病 に

合併 した両側腎腫蕩の1例 を報告 し文献的考察を加 え

た.

(本論文の要旨は第338回 日本泌尿器科学会北陸地方会に

て発表 した.

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