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TEL.04-7164-1111東京慈恵会医科大学附属 柏病院 泌尿器科
泌尿器科の疾患について
腎がん
1. 腎がんとは
2. 症状
3. 診断
腎臓は背部に左右 1 つずつあり、長さ 15 cm、重さ 150-200 gのそら豆状の臓器です。主な働きは尿をつくり体内の不要
物質を排泄することですが、その他に血圧や造血、骨の状態を調節する働きも担っています。腎がんは尿生成を行なう腎実質
にできる腺がんです。腎腫瘍は約 90%が腎悪性腫瘍,すなわち腎(細胞)がんです。また腎盂粘膜より発生する腎盂腫瘍とは
別の病気です。ここではおもに腎(細胞)がんについて説明します.腎悪性腫瘍(腎がん)の発生頻度は、人口 10 万人あたり 2.5
人程度です。年齢では 40 歳代から 70 歳代に多く発症しますが、近年では 30 歳以下の若年者の発症もしばしば見られます。
男女比は 2 ~ 3:1 で男性に多い傾向があります。
泌尿器科系悪性腫瘍の中では、前立腺がん、膀胱がんに次いで多い腫瘍です。腎がんの発生する原因は他のがんと同様明ら
かなことはわかっていませんが,喫煙,性 ホルモンなどが危険因子として知られています。また,透析中に腎がんが高率に
発生することも報告されています。
現在は検診や他の疾患の治療中に偶然発見される場合が全体の 40%前後と多くなっています。つまり、全くの無症状である
ことが多いのです。血尿,腹部腫瘤,疼痛が古典的な 3 主徴されていますが,最近ではこれらがすべてそろうことはあまりあ
りません.ただし、約 10%に転移による症状で見つかっており,発熱,全身倦怠感,体重減少などで発見されることもあります。
主に種々の画像診断検査により診断します.一般には腎がんに特異的な腫瘍マーカーはありませんので、血液検査結果だけで
診断されることはありません。検診での腹部超音波検査や他疾患精査中の腹部CTスキャン検査で発見されることが多いようです。
4. 治療および手術
1) 手術療法腎がんの手術法は、腎臓そのものを摘出
する根治的腎摘除術と、がんの部分のみ
を摘除する腎部分切除術(部分的腎摘除
術)に分けられます。また、当院では根
治的腎摘除術と腎部分切除術それぞれに
対して開腹手術(経腹式、経腰式など)
だけでなく腹腔鏡下手術も行なっており
ます(図 1,2)。
リトラター鉗子
鉗子
胆嚢腹膜に覆われた腎臓
スコープ
【図1】
腎がんは手術が最も有効な治療法であるため、現在のところ手術が主な治療となります。治療方法は手術により患側腎を摘出
することが原則です.他臓器に遠隔転移があるような場合でも手術の適応になります.放射線治療や抗がん剤治療(がん化学
療法)は 一般的に奏功率は低いと報告されています.
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【図3】腎部分切除術
【図2】腎摘除術
周囲脂肪組織
Gerota 筋膜 副腎
がん
がん
下大静脈
腎静脈
周囲脂肪組織
Gerota 筋膜 副腎 下大静脈
腎静脈
切除箇所
切除箇所
≪根治的腎摘除術≫がんのある腎臓を周囲の脂肪組織とを一塊して摘出する根治手術です。麻
酔は全身麻酔と硬膜外麻酔を併用して行います。手術時間は麻酔時間も含
め 3-4 時間ですが、出血や癒着、あるいは大きな腎がんなどのためさらに
時間を要することもあります。
≪腎部分切除術≫腎がんと周囲の腎実質を部分的に腎臓から切除する方法で、次の4つが適
応とされます。
①両側の腎がん②1つしかない腎に発生した場合(他方の腎臓がない場合)③がんができていない側の腎機能が悪い場合④小さいがんで部分切除可能な位置にある場合
特に近年、健康診断や人間ドックの発達により小さいがんが早期に発見さ
れる場合が多くなっており、腎部分切除術の適応が増加しています。この
手術は可能なかぎり腎機能を温存する目的で施行されますが、手術中、手
術後に腎臓の切開部分からの出血や腎臓からの尿もれの危険性があるこ
と、部分切除後の腎臓にがんが再発する可能性があるという問題点があり
ます。しかし直径 4 cm以下の単発性(1 個)のがんで以下の条件を満た
している場合、部分切除の治療成績は根治的腎摘除術とほぼ同等です。ま
た、術前に発見できなかった他のがんが、術中超音波検査で新たに認めら
れた場合は全摘術に切り替える場合もあります。麻酔法、手術時間は根治
的腎摘除術と同様です。術後は腎切除面よりの出血を予防するため、1-2
日のベッド上安静が必要です。
【反対腎(健常腎)が正常な患者さんの腎部分切除術の条件】
1. 無症状で発見されたがん
2. 血尿を認めない
3. 径(大きさ)が 4 cm以下で単発(1 個)
4. 切除可能な位置にあること
(特に腹腔鏡下手術の場合は、腫瘍は外方へ突出し、
腎盂から離れていること)
以上のように、実際には切除する範囲と腎臓までの
到達の仕方によって様々な手術方法が考えられます。
それぞれの方法に利点、欠点があるので、各担当医
から十分な説明を受け、納得されてから手術法を選択することが大切です。
がんの大きさがんの位置
皮膚切開麻酔法手術時間有利な点不利な点
根治的腎摘除術問わず問わず
腰部斜切開、上腹部横切開全身麻酔+硬膜外麻酔3-5時間早期離床、十分な切除可能腎臓が1つとなる為、将来、腎機能障害となる可能性
腎部分切除術4cm 以下外側(超音波で確認できる腫瘍)腰部斜切開全身麻酔+硬膜外麻酔3-4時間手術側の腎機能温存術中、術後の出血、尿漏れの可能性。術後1-2日のベッド上安静
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2) その他の治療法手術以外の治療法としては、次のものがあります。
薬物療法・分子標的薬分子標的薬は、がん細胞や血管内皮細胞の増殖に関わる細胞内のシグナル伝達を阻害することによってがんの増殖や進展を抑え
る薬剤です。 現在本邦ではチロシンキナーゼ阻害剤としてスニチニブとソラフェニブが、エムトール阻害剤としてテムシロリム
スとエベロリムスが治療薬として使用されています。これらの薬剤による治療により腎がん患者さんの生存期間の延長が確認さ
れ、現在では第一選択の薬剤となっております。 しかし高血圧、疲労、手足の皮膚症状、甲状腺機能障害など、分子標的薬に特
徴的な副作用も見られるため、十分に注意して治療を行っています。
・サイトカイン(インターフェロン、インターロイキン)
腎がんの肺転移には比較的効果が期待できます。有効率は 15 ~ 20%程度です。 副作用として発熱、悪寒、倦怠感等のインフル
エンザ様症状や、目のかすみ、不安、不眠、抑うつ状態などが出現することがあります。
放射線療法腎がんは放射線感受性が低く、腎原発巣を放射線
照射のみで根治させた報告はありません。しかし
転移巣に対しては放射線照射を行って痛みの軽減
を図ることがあります。
手術法、病状、術後経過により個々の患者さんで違いがあります。
通常、10 ~ 14 日間の入院治療を要します。入院・手術に伴う費用については健康保険が適用されます。
開腹手術の場合、3 割負担の方ですと約 39 万円のご負担になります。
全体的に腹腔下手術は低侵襲であり、早期離床、早期退院により、早期社会回復できる傾向があります。
術後入院日数根治的腎摘除術腎部分切除術
根治的腎摘除術経腹式10~14日-
腎部分切除術経腰式7~14日7~10日
腎部分切除術腹腔鏡下手術5~10日5~7日
5. 予後
6. 腹腔鏡下腎摘出術に特有な合併症
腎がんの組織型によっても急速に進行するタイプと比較的に進行が緩徐なものとがあります. 一般に腫瘍が腎に限局していれ
ば 5 年生存率は 70 ~ 90%,腎周囲脂肪組織に浸潤するものでは 60 ~ 70%,腎静脈・下大静脈内塞栓のあるものまたは所属
リンパ節転移のあるものでは 30 ~ 40%,遠隔転移のあるものでは 10 ~ 30%と報告されています。
・皮下気腫皮下に炭酸ガスが漏れ出す状況です。肥満の方や高齢の方で、手術が長時間になればなるほど発生率は上がりますが、通常は
軽度で自然に消失します。
・高炭酸ガス血症血液内に炭酸ガスが溶け込んで、血液の酸性度が増す状態です。手術中に呼吸を調節したり、薬を使って治療します。
・ポートサイトヘルニア術後、カメラや機械を入れた穴に腸や脂肪組織が入り込むことがあります。腸閉塞などの原因になるようであれば穴の部分を
切開して縫い直す必要があります。
・空気塞栓血管内に空気の泡が入り込んでしまう状態です。肺梗塞よりもさらに稀で、特別な状況以外は起こりえませんが起こった場合
は非常に危険な合併症です。
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