News Letter Jan - 学校法人東邦大学€¦ · 2015年...

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ヴィータ La Vita University 2019 春号 東邦大学理学部 物理学科 News letter ▉▋▍関口雄一郎准教授が湯川財団・木村利栄理論物理学賞を受賞▍▋▉ 本学物理学科宇宙物理学教室の関口雄一郎准教授が、第 12 湯川財団・木村利栄理論物理学賞を受賞し、2019 1 23 に京都大学基礎物理学研究所において受賞記念講演が行われま した。この賞は、重力・時空理論や場の理論、その周辺の基礎 的な理論研究において顕著な業績を上げた研究者に贈られます。 受賞研究課題は「連星中性子星の合体に対する現実的な素過程 を組み込んだ数値相対論シミュレーション」になります。 中性子星とは半径 10km に太陽程度の質量を持つ天体で、極 めて強い重力場を持ちます。その中性子星が連星を作っている のが連星中性子星です。したがって、その合体過程の解明には 一般相対性理論が本質的に重要です。一般相対性理論の基礎方程式であるアインシュタイン方程式は極 めて複雑な方程式であるため、その解を求めるためにはスーパーコンピュータを用いる必要があります。 これが数値相対論と呼ばれる研究分野です。 数値相対論の歴史は半世紀ほどになりますが、観測に結びつけられるような現実的な状況での研究は、 限られた場合を除いて行われていませんでした。それは、強い相互作用に基づく高密度核物質の物理、 弱い相互作用によるニュートリノ生成過程、さらには磁気流体現象から輻射輸送問題まで、必要とされ る物理過程が多岐に渡っており、一般相対性理論の枠組みでこれらを組み込むことが容易ではなかった からです。「現実的な素過程を組み込んだ数値相対論」を開拓し、それを未解明の天体現象を解明する ことは最重要課題の 1 つでした。 関口准教授はこの研究に取り組み、「現実的な素過程を組み込んだ数値相対論」を世界で初めて完成 させ、数値相対論の新たな分野を開拓しました。さらに、それをブラックホール形成過程や、連星中性 子星の合体過程の解明などの研究に適用し、重要な成果を挙げてきました。2017 年に、ついに連星中 性子星の合体からの重力波と電磁波が検出さ れ、関口准教授の開発した数値相対論に基づ く計算が重要な役割を果たしたことは、その ハイライトの 1 つといえます。 重力波によって宇宙の謎を解明する「重力 波天文学」の時代が幕を開けました。関口准 教授の研究成果は、観測と理論を結びつける 上でも重要な成果であり、今後のさらなる発 展が宇宙の謎の解明につながることが期待さ れます。 連星中性子星の合体からの半電子ニュートリノの放射率の連星の軌道 (左図)および子午面(右図)における分布 授賞式の様子。中央が関口准教授

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ラ ヴィータ

La Vita University 2019年 春号

東邦大学理学部 物理学科 News letter

▉▋▍関口雄一郎准教授が湯川財団・木村利栄理論物理学賞を受賞▍▋▉ 本学物理学科宇宙物理学教室の関口雄一郎准教授が、第 12回湯川財団・木村利栄理論物理学賞を受賞し、2019年 1月 23日に京都大学基礎物理学研究所において受賞記念講演が行われま

した。この賞は、重力・時空理論や場の理論、その周辺の基礎

的な理論研究において顕著な業績を上げた研究者に贈られます。

受賞研究課題は「連星中性子星の合体に対する現実的な素過程

を組み込んだ数値相対論シミュレーション」になります。 中性子星とは半径 10km に太陽程度の質量を持つ天体で、極めて強い重力場を持ちます。その中性子星が連星を作っている

のが連星中性子星です。したがって、その合体過程の解明には

一般相対性理論が本質的に重要です。一般相対性理論の基礎方程式であるアインシュタイン方程式は極

めて複雑な方程式であるため、その解を求めるためにはスーパーコンピュータを用いる必要があります。

これが数値相対論と呼ばれる研究分野です。 数値相対論の歴史は半世紀ほどになりますが、観測に結びつけられるような現実的な状況での研究は、

限られた場合を除いて行われていませんでした。それは、強い相互作用に基づく高密度核物質の物理、

弱い相互作用によるニュートリノ生成過程、さらには磁気流体現象から輻射輸送問題まで、必要とされ

る物理過程が多岐に渡っており、一般相対性理論の枠組みでこれらを組み込むことが容易ではなかった

からです。「現実的な素過程を組み込んだ数値相対論」を開拓し、それを未解明の天体現象を解明する

ことは最重要課題の 1つでした。

関口准教授はこの研究に取り組み、「現実的な素過程を組み込んだ数値相対論」を世界で初めて完成

させ、数値相対論の新たな分野を開拓しました。さらに、それをブラックホール形成過程や、連星中性

子星の合体過程の解明などの研究に適用し、重要な成果を挙げてきました。2017 年に、ついに連星中性子星の合体からの重力波と電磁波が検出さ

れ、関口准教授の開発した数値相対論に基づ

く計算が重要な役割を果たしたことは、その

ハイライトの 1つといえます。

重力波によって宇宙の謎を解明する「重力

波天文学」の時代が幕を開けました。関口准

教授の研究成果は、観測と理論を結びつける

上でも重要な成果であり、今後のさらなる発

展が宇宙の謎の解明につながることが期待さ

れます。 連星中性子星の合体からの半電子ニュートリノの放射率の連星の軌道

面(左図)および子午面(右図)における分布

授賞式の様子。中央が関口准教授

▉▋▍神岡宇宙素粒子実験施設見学会 ▍▋▉

2018 年 9 月 7 日、本学物理学科主催で、岐阜県の神岡鉱山にある東京大学宇宙線研究所・神岡宇宙素粒子実験施設(スーパーカミオカンデ・KAGRA・KamLAND)の見学会が行われました。2015 年にスタートしたこの見学会は今回で 4 回目を迎えました。今回は、学部学生・大学院生等、総勢 15 名が参加しました。特に、スーパーカミオカンデは 12 年ぶりの水抜きが行われており、光電子増倍管が並んでいる様子を直接観察できる非常に貴重な機会となりました。

KAGRA は去年のノーベル物理学賞で話題になった重力波観測施設です。KamLAND では、ニュートリノを伴わない二重ベータ崩壊を観測するための実験が行われています。

見学会に参加した学生の声

「今年はニュートリノ振動の発見でノーベル物理学賞を受賞された梶田隆章先生の公開講座(2018年6 月 23 日東邦大学習志野キャンパスにて開催)を受けた後に、実際にその研究の舞台となったスーパーカミオカンデを見学できる貴重な体験になりました。」 「坑内専用車で地下へ入っていく時のワクワク感 は今でも忘れられません。地下と言うと暗いイメージがありましたが、現場には活気があり、研究者の皆様はとても親切で元気な方ばかりでした。」

▉▋▍物理学専攻博士前期課程の河村俊哉君が優秀発表賞を受賞 ▍▋▉

第 61 回放射線化学討論会(場所:大阪市立大学)にて、

口頭発表を行った物理学専攻博士前期課程1年生の河村

俊哉君(量子エレクトロニクス教室)が優秀発表賞を受賞

しました。公演題目は

『紫外線マイクロビーム細胞照射システムの開発:微小距

離でのプロファイル測定とエネルギー評価』

です。本学物理学科、量子エレクトロニクス教室では、レ

ーザーを使った研究を行っています。

見学会の様子

東邦大学理学部物理学科

所在地:〒274-8510 千葉県船橋市三山2-2-1

電話:047-472-0666(入試広報課)

理学部ホームページ https://www.toho-u.ac.jp/sci/ 物理学科ホームページ https://www.toho-u.ac.jp/sci/ph/ 物理学科 QR コード

スーパーカミオカンデのタンク内部 オレンジ色の光電子倍増管が見えます。

授賞式の様子。左が河村俊哉君。