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岡山医学会雑誌 第117巻May 2005,pp.85-86 ノロウイルス ■Key Word キーワー ド 小倉 岡山県 環境 保健 セン ター は じめ に 2005年1月,福 山市の特別養護老 人ホームにおいてノロウイルスによ る感 染 性 胃腸 炎 の 集 団 発 生 が あ り, 入所 者7人 が死 亡 した こ とか ら大 き な社会 問題 として報 じられた.ノ ウ イ ル ス は,冬 季に流行する感染性 胃 腸 炎 原 因 ウ イ ル ス の 一 つ と して こ れ ま で知 ら れ て い た. これまでの経過 ノ ロ ウ イ ル ス は,ア メ リカ の ノー ウ ォ ー ク で1968年 に集団発生 した胃 腸 炎 患 者 で最 初 に 発 見 さ れ た.最 までノーウォークウイルスとよばれ て き た こ の ウ イ ル ス は,電 子顕微鏡 観察で小さな丸いウイルスであった ため に,類 似 の 形 態 を持 つ サ ポ ウ イ ル ス 等 と共 に 小 型 球 形 ウ イ ル ス と も 呼 ば れ た1).2002年,こ のウイルスは 国際ウイルス学会でカリシウイルス に 属 す る ノ ロ ウ イ ル ス と命 名 さ れ た (表1). 日本 に お い て は,1997年 の食品衛 生 法 の 改 正 に よ り,小 型球形ウイル スが食中毒の一つの原因物質として 認知 され,食 中毒統計に報告される よ う に な っ た.さ ら に2003年 の法改 正 に よ り,ノ ロ ウ イ ル ス と して 単 独 で 報 告 さ れ る よ う に な っ た.こ のよ うに 行 政 対 応 が 必 要 な 疾 患 で あ る た め,こ のウイルスは主に地方衛生研 究所 で検 査 が実 施 され,研 究がなさ れ て い る. ノロウイルスのウイルス学的特徴 ノ ロ ウ イ ル ス は 直 径 約30nmの 形(正20面 体)ウ イ ル ス で あ り,エ ンベ ロ ー プ を 持 た な い(図1)(写 提 供:藤 井 理 津 志 博 士).こ のウイル ス は ヒ トに の み 感 染 し,空 腸で増殖 し て 胃腸 炎 症 状 を 引 き起 こす が,人 体 外 で の 培 養 に は 成 功 し て い な い. 従 って,検 査 法 と して は,主 に逆転 写PCR法 に よ る 遺 伝 子 検 査 が,電 子 顕 微 鏡 検 査 と併 用 して 行 わ れ る. そ の ほ か に は 抗 原 抗 体 反 応 を用 い た イ ム ノ ク ロ マ トグ ラ フ ィ ー 法 や ウ イ ル スRNAを その ま ま増や すTRC 法 が 開 発 中 で あ り,病 院の検査室 で も簡 易 に 検 査 で き る よ う に な る こ と が 期 待 さ れ て い る. 現 在 ノ ロ ウ イ ル ス に属 す る ウ イ ル ス はGIとG IIの2つ の遺伝子群 (genogroup)に 分類 され,更 にそれ ぞれの群 は14と17の 遺伝 子型 (genotype)に 分 類 され る2).各 遺伝 子 型 に 対 応 した 血 清 型 が あ る よ うで, き わ め て 多 様 性 を持 っ た 集 団 で あ る. きわ め て 少 な い ウ イル ス 量(10~100 個 の ウ イ ル ス 粒 子 数)で も感 染 発 病 表1 カ リ シ ウ イ ル ス の分 類 図1 平 成17年2月 受理 〒701-0298岡 山市 内 尾739-1 電 話:086-298-2681FAX:086-298-2088 E-mail:hajime [email protected] 85

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岡 山 医 学 会 雑 誌 第117巻May 2005,pp.85-86

ノロ ウイル ス ■Key Word■ キーワード

小倉 肇

岡山県環境保健センター

は じめ に

2005年1月,福 山市 の特別養護 老

人 ホームにおいて ノロウイル スに よ

る感染性 胃腸炎 の集 団発生が あ り,

入所 者7人 が死亡 したこ とか ら大 き

な社会 問題 として報 じられた.ノ ロ

ウイルスは,冬 季 に流行す る感染性

胃腸炎原因 ウイルスの一つ として こ

れ まで知 られていた.

これまでの経過

ノロウイルスは,ア メ リカの ノー

ウォー クで1968年 に集団発生 した胃

腸炎患者 で最初 に発 見 された.最 近

までノー ウォー クウイルス とよばれ

て きたこの ウイルスは,電 子顕微鏡

観察 で小 さな丸 いウイルスであった

ため に,類 似の形態 を持 つサポウイ

ルス等 と共 に小型球 形 ウイルス とも

呼 ばれた1).2002年,こ の ウイルスは

国際ウイルス学会 でカ リシウイルス

に属す るノロウイルス と命名 された

(表1).

日本 においては,1997年 の食品衛

生法 の改正 に より,小 型球 形 ウイル

スが食中毒 の一つ の原 因物質 として

認知 され,食 中毒統計 に報告 され る

ようになった.さ らに2003年 の法改

正 に よ り,ノ ロウイル ス として単独

で報告 され るようになった.こ の よ

うに行政対 応が必要 な疾患 であるた

め,こ のウイルスは主 に地方衛 生研

究所 で検査 が実施 され,研 究が なさ

れている.

ノロウイルスのウイル ス学的特徴

ノロウイル スは直径約30nmの 球

形(正20面 体)ウ イルスであ り,エ

ンベ ロープ を持 たない(図1)(写 真

提供:藤 井理津志博士).こ のウイル

スは ヒ トにのみ感染 し,空 腸 で増殖

して 胃腸炎症状 を引 き起 こすが,人

体外 での培養 には成功 していない.

従 って,検 査法 としては,主 に逆転

写PCR法 による遺伝 子検査 が,電

子顕微鏡検査 と併用 して行 われ る.

そのほかには抗原抗体 反応 を用 いた

イム ノクロマ トグラフィー法や ウイ

ルスRNAを その まま増や すTRC

法 が開発 中であ り,病 院の検査室 で

も簡易 に検査 できるようにな ること

が期待 されている.

現在 ノロウイル スに属 す るウイル

ス はGIとG IIの2つ の遺 伝 子群

(genogroup)に 分類 され,更 にそれ

ぞ れ の 群 は14と17の 遺 伝 子 型

(genotype)に 分類 され る2).各 遺伝

子型に対応 した血清型があるようで,

きわめて多様性 を持 った集団である.

きわめて少ないウイルス量(10~100

個 の ウイルス粒子数)で も感染発病

表1  カ リシウ イルス の分 類

図1

平 成17年2月 受 理

〒701-0298岡 山 市 内 尾739-1

電 話:086-298-2681FAX:086-298-2088

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図2  ノロウ イル スの感染 経路

しうる点は,本 ウイルスの特徴 の一

つで ある.

臨床症状

ノロウイルスに よる感染性 胃腸炎

は通年 で発生 す るが,12月 か ら3月

の冬季 に特 に多い.ノ ロウイル スの

潜伏期 は1~2日 である.乳 児か ら

成 人 まで幅広 く感染す る.一 般に症

状 は軽症 であ り,2日 くらいで治療

を必要 とせず に軽快す る.た だ,ま

れに重症化す る例 もあ り,老 人や免

疫力 の低下 した乳児 では死亡例 も報

告 され ている.嘔 気,嘔 吐,下 痢 が

主症状 であるが,腹 痛,頭 痛,発 熱,

悪寒,筋 痛,咽 頭痛 などを伴 うこと

もある.

感染経路

図2で 示す ように,感 染 者の糞便 ・

吐物に含 まれ るウイルスは下水 よ り

海へ入 り,二 枚 貝(カ キ等)の 中で

濃縮 され る.(1)汚 染 した貝類 を生の

まま食す る と当然,再 びウイルスは

人体 に戻 り,感 染 を繰 り返す.(2)汚

染 された貝類 を調理 した手や,包 丁 ・

まな板 な どか ら食材 に汚染が広が る

こ ともあ る.(3)下 水 が飲料水 に混入

した事例.(4)手 洗いが不十分 なため

に,感 染 した調理 人等 食品取扱者の

糞便 が食材 を汚染 して,ウ イルス感

染 をした と思 われ る事例 も報告 され

てい る.さ らに気 を付 けなければな

らない ことは,不 顕性感染者や 胃腸

炎の症状が治 まって正 常便 となった

者が感染源 になる可能性 があ るこ と

であ る.胃 腸炎の症状 が治 まって も

1週 間程度 はウイルス を排泄 し続け

る事 が多い.(5)ま た,ノ ロウイル ス

感染者 の看病 時,患 者の吐物,便 な

どか ら直接感染 す るヒ トー ヒ ト間の

感染 もある.こ れ まではカキが一番

の悪者 とされて きたが,ノ ロウイル

スはカキでは増えない ヒ ト特有の ウ

イル スであ り,感 染経路 は上記の よ

うに多岐にわた る.最 近 では食中毒

としてではな く,ヒ トー ヒ ト感染 に

よる感染性 胃腸炎 の割合が多い よう

である3).

予 防

糞 口感染す るウイル スなので,食

品の取 り扱 いに際 し入念な手洗いな

ど衛生 管理 を徹底す るこ と.食 品取

扱者や施 設の介護従事 者に対す る啓

発,教 育 を充分 に行 う事 が大切 であ

る.身 近 な感染防止策 として手洗 い

の励行 は最 も重要で ある.ま た,便

や 吐物 な ど,ウ イルス を含 む汚染物

の処 置に も注意が必要 であ る.ウ イ

ルス粒子は食酢の酸度pH2.7で 室温

3時 間放置 して も抵抗性 を示すので,

カキの酢の物は さけて充分 に加熱す

る.ウ イル スを失活 させ るには,85℃

以上 で1分 以上加熱 す るか次亜塩素

酸ナ トリウムな どで消毒す る必要が

ある とされてい る.た だ し,こ れ ら

のデー タは ウイルスが培養 で きない

ため,近 縁の動物 カ リシウイルス を

使 った実 験や,ボ ランティアへの ノ

ロウイルス経 口投与 による ものであ

る.抗 ウイルス剤や予 防 としてのワ

クチンはまだ開発 されていないので,

感染経路 を遮 断す るこ とが最 も大切

である.

おわ りに

2005年1月 ころには広島県や 岡山

県下 ばか りでな く,全 国的に も多 く

の施 設か らノロウイルス集団発生 の

報告 があった.こ れは厚 生労働省か

らの報告要請 に対応 した もので,本

ウイルスによる疾患が急激に増 えた

とか本 ウイルス 自体 が強毒化 した証

拠 はない.

文 献

1) Kapikian AZ, Estes MK and

Chanock RM : Norwalk group ofviruses; in Fields Virology, Fields,

Knipe and Howley eds, Lippincott-Raven, Philadelphia• New York

(1996) pp783-810.2) 片 山 和 彦: ノ ロ ウ イ ル ス 感 染 症, 感 染

症 発 生 動 向 調 査 週 報, http://idsc.

nih. go. jp/idwr/kanja/idwr/

idwr 2004-11. pdf (2004)11, 14-19.

3) Hamano M, Kuzuya M, Fujii R,Ogura H and Yamada M:

Epidemiology of acute gastroenter-itis outbreaks caused by Norovirus.

J Med Virol (2005) submitted.

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