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12(12)がん分子標的治療 Vol.17 No.1 はじめに ヒトのゲノム情報を検査し,その 結果に基づいた治療選択を行う「ゲ ノム医療」の日常診療への実装が目 前に迫っている。ゲノム研究の進歩 により,複数のがん種で治療の標的 となりうる遺伝子異常が数多く同定 されており,ゲノム医療は特にがん の領域で注目されている。 がんに関連する遺伝子変異は,が ん細胞内でのみ生じる体細胞遺伝子 変異(somatic mutation)と,患者の 正常細胞が生まれながらにしてもっ ている遺伝子バリアントである生殖 細胞系列遺伝子変異(germline mu- tation)に 大 別 さ れ る。 前 者 は「が んの個性」を規定し,主に治療反応 性や抵抗性に関与する。一方,後者 は変異遺伝子によっては治療標的に もなりうるが,主にがんになりやす いかどうかという「患者の体質」に 関与する。次世代シーケンサー(next generation sequencer;NGS)の登場 によって数十から数百個の遺伝子変 異を同時に調べられるようになり,さ らに高速化・低コスト化により,NGS による遺伝子解析が臨床検査として の日常診療への導入が進められている。 2018年12月には,NGSを用いた多遺 伝子パネル検査(遺伝子プロファイ リング検査)として,国立がん研究 センターとシスメックス株式会社で 共 同 開 発 し た「OncoGuide NCCオ ンコパネルシステム」や中外製薬株 式会社の「FoundationOne CDx が んゲノムプロファイル」が相次いで 薬事承認を取得した。 遺伝子プロファイリング検査は, 従来のコンパニオン診断薬としての 遺伝子検査とは違い,結果の正しい 解釈が重要である。得られた結果が, 病的変異であるか,体細胞遺伝子変 異なのか生殖細胞系列遺伝子変異な のか,さらに,治療薬選択などに有 用な(actionable)変異なのか,など の判断をがんゲノム医療中核拠点病 院のエキスパートパネルで行うこと になる。 本稿では,体細胞遺伝子変異,生 殖細胞系列遺伝子変異とがんとの関 連性について概説し,当院における NCCオンコパネル検査の経験から,が ん診療における体細胞遺伝子変異, 生殖細胞系列遺伝子変異の解釈およ び対応について紹介する。 体細胞遺伝子変異/生殖細胞系列 遺伝子変異とがん 生物の体を構成する細胞のうち,生 がん診療において,遺伝子変異情報に 基づいて治療選択を行う「ゲノム医療」 が実装化されようとしている。がんに関連する遺伝子変異 は体細胞遺伝子変異と生殖細胞系列遺伝子変異に大別され, 前者は治療反応性や抵抗性に関与し,後者は主にがんの発 症しやすさに関与する。次世代シーケンサーを用いた多遺 伝子パネル検査は,これらの遺伝子変異の有無を一度に解 析して結果を診療に反映させることが可能である。国立が ん研究センターで開発した「NCCオンコパネル」を用いた ゲノム医療実装化プロジェクト(TOP-GEARプロジェク ト)では過半数の症例で診療に有用な体細胞遺伝子変異を, 3%に生殖細胞系列遺伝子変異を認めた。さらに13%で は遺伝子変異に合致した治療が行われ,NCCオンコパネル の臨床的有用性が示された。 In cancer genomic medicine, next-generation sequencer(NGS)-based tests are about to be implemented. Genes can mutate in either somatic or germline cells, and these changes are called somatic mutations or germline mutations, respectively. Somatic mutations are associated with therapeutic response and resistance, and germline mutations predispose an individual to developing tumors. NGS-based tests can analyze more than 100 genes simultaneously and guide clinical management by providing information about actionable gene alterations. Our clinical sequencing project, “TOP-GEAR”, has revealed the clinical utility of NGS-based tests in cancer genomic medicine using the “NCC oncopanel test”. Theme●Somatic/germline変異とがん医療 がん診療における体細胞遺伝子変異と 生殖細胞系列遺伝子変異 Somatic and germline mutation in cancer care 角南 久仁子 Kuniko Sunami 国立がん研究センター中央病院臨床検査科 体細胞遺伝子変異    生殖細胞系列遺伝子変異    多遺伝子パネル検査     ゲノム医療 somatic mutation germline mutation NGS-based multiple-gene panel genomic medicine SAMPLE Copyright(c) Medical Review Co.,Ltd.

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12(12)がん分子標的治療 Vol.17 No.1

はじめに ヒトのゲノム情報を検査し,その結果に基づいた治療選択を行う「ゲノム医療」の日常診療への実装が目前に迫っている。ゲノム研究の進歩により,複数のがん種で治療の標的となりうる遺伝子異常が数多く同定されており,ゲノム医療は特にがんの領域で注目されている。 がんに関連する遺伝子変異は,がん細胞内でのみ生じる体細胞遺伝子 変異(somatic mutation)と,患者の 正常細胞が生まれながらにしてもっている遺伝子バリアントである生殖 細胞系列遺伝子変異(germline mu-tation)に大別される。前者は「がんの個性」を規定し,主に治療反応性や抵抗性に関与する。一方,後者は変異遺伝子によっては治療標的に

もなりうるが,主にがんになりやすいかどうかという「患者の体質」に関与する。次世代シーケンサー(next generation sequencer;NGS)の登場 によって数十から数百個の遺伝子変 異を同時に調べられるようになり,さ らに高速化・低コスト化により,NGS による遺伝子解析が臨床検査としての日常診療への導入が進められている。2018年12月には,NGSを用いた多遺伝子パネル検査(遺伝子プロファイリング検査)として,国立がん研究センターとシスメックス株式会社で共同開発した「OncoGuide NCCオンコパネルシステム」や中外製薬株式会社の「FoundationOne CDx がんゲノムプロファイル」が相次いで薬事承認を取得した。 遺伝子プロファイリング検査は,従来のコンパニオン診断薬としての

遺伝子検査とは違い,結果の正しい解釈が重要である。得られた結果が,病的変異であるか,体細胞遺伝子変異なのか生殖細胞系列遺伝子変異なのか,さらに,治療薬選択などに有用な(actionable)変異なのか,などの判断をがんゲノム医療中核拠点病院のエキスパートパネルで行うことになる。 本稿では,体細胞遺伝子変異,生殖細胞系列遺伝子変異とがんとの関連性について概説し,当院における NCCオンコパネル検査の経験から,が ん診療における体細胞遺伝子変異,生殖細胞系列遺伝子変異の解釈および対応について紹介する。

体細胞遺伝子変異/生殖細胞系列遺伝子変異とがん 生物の体を構成する細胞のうち,生

 がん診療において,遺伝子変異情報に基づいて治療選択を行う「ゲノム医療」

が実装化されようとしている。がんに関連する遺伝子変異は体細胞遺伝子変異と生殖細胞系列遺伝子変異に大別され,前者は治療反応性や抵抗性に関与し,後者は主にがんの発症しやすさに関与する。次世代シーケンサーを用いた多遺伝子パネル検査は,これらの遺伝子変異の有無を一度に解

析して結果を診療に反映させることが可能である。国立がん研究センターで開発した「NCCオンコパネル」を用いたゲノム医療実装化プロジェクト(TOP-GEARプロジェクト)では過半数の症例で診療に有用な体細胞遺伝子変異を,3%に生殖細胞系列遺伝子変異を認めた。さらに13%では遺伝子変異に合致した治療が行われ,NCCオンコパネルの臨床的有用性が示された。

In cancer genomic medicine, next-generation sequencer(NGS)-based tests are about to be implemented. Genes can mutate in either somatic or germline cells, and these changes are called somatic mutations or germline mutations, respectively. Somatic mutations are associated with therapeutic response and resistance, and germline mutations predispose an individual to developing tumors. NGS-based tests can analyze more than 100 genes simultaneously and guide clinical management by providing information about actionable gene alterations. Our clinical sequencing project, “TOP-GEAR”, has revealed the clinical utility of NGS-based tests in cancer genomic medicine using the “NCC oncopanel test”.

Theme●Somatic/germline変異とがん医療

がん診療における体細胞遺伝子変異と生殖細胞系列遺伝子変異Somatic and germline mutation in cancer care

角南 久仁子Kuniko Sunami

国立がん研究センター中央病院臨床検査科

◆体細胞遺伝子変異    ◆生殖細胞系列遺伝子変異    ◆多遺伝子パネル検査     ◆ゲノム医療 somatic mutation germline mutation NGS-based multiple-gene panel genomic medicine

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