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4.1 万年世界の実態の解明 270 万年前から 100 -90 万年前までの氷期・間氷期サイクルは,地軸の傾きの変 動に由来する約 4.1 万年の周期が卓越 し,海水準の変動量は約 30-80m 変動した.この 期間は 4.1 万年世界(41kyr worldと呼ばれる(Raymo and Nisancioglu, 2003).100 -90 万年前から 60 万年前に氷期・間氷期サイクルの卓越周期は,4.1 万年から「約 2 万年と 10 万年」に変化し, 60 万年前以降を 10 万年世界(100kyr worldと言う(1)10 万年世界の氷期から間氷期への移行期間は 2 万年以下であるのに対して,間氷期か ら氷期への移行期間は 8 万年に及ぶ.氷期から間氷期への急速な移行期(退氷期)をター ミネーションと呼ぶ(2)温暖 氷床量少 寒冷 氷床量多 0 1 4 2 5 4 3 18 O () 中期更新世 気候変換期 4.1万年周期 海水準変動量 70-80m(?) 10万年と約2万年周期 海水準変動量~130m 北半球高緯度 に大規模な 氷床の出現 Omma F. Yabuta F. 氷床コア 隆起サンゴ段丘・石筍 1 4.1 万年世界と 10 万年世界と古環境アーカイブの適用範囲. II I III IV V VI VII VIII IX II I III IV V VI VII VIII IX LR04 Stack 2 ターミネーション.新しい方からⅠ,Ⅱ,Ⅲ・・Ⅸと番号がなされている.

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  • 4.1 万年世界の実態の解明

    約 270万年前から 100万-90万年前までの氷期・間氷期サイクルは,地軸の傾きの変

    動に由来する約 4.1 万年の周期が卓越し,海水準の変動量は約 30-80m 変動した.この

    期間は 4.1 万年世界(41kyr world)と呼ばれる(Raymo and Nisancioglu, 2003).100

    万-90万年前から 60万年前に氷期・間氷期サイクルの卓越周期は,4.1万年から「約 2

    万年と 10万年」に変化し,60万年前以降を 10万年世界(100kyr world)と言う(図 1).

    10 万年世界の氷期から間氷期への移行期間は 2 万年以下であるのに対して,間氷期か

    ら氷期への移行期間は 8万年に及ぶ.氷期から間氷期への急速な移行期(退氷期)をター

    ミネーションと呼ぶ(図 2).

    Ma

    温暖氷床量少

    寒冷氷床量多

    0134 25

    4

    3 1

    8O (‰

    )

    中期更新世気候変換期

    4.1万年周期

    海水準変動量~70-80m(?)

    “10万年”と 約2万年周期海水準変動量~130m

    北半球高緯度に大規模な氷床の出現

    Omma F.

    Yabuta F.

    氷床コア

    隆起サンゴ段丘・石筍

    図 1 4.1万年世界と 10万年世界と古環境アーカイブの適用範囲.

    III III IV V VI VII VIII IXIII III IV V VI VII VIII IX

    LR04 Stack

    図 2 ターミネーション.新しい方からⅠ,Ⅱ,Ⅲ・・Ⅸと番号がなされている.

  • ミランコビッチは,氷期―間氷期サイクルの原因は,地球公転の軌道要素の永年変化

    に伴う北半球高緯度の夏季日射量分布の周期変動にあり,増加(低下)期に間氷期(氷期)

    へ移行するとした(ミランコビッチ仮説).地球公転の軌道要素の永年変化には,歳差運

    動に伴う約 1.9万年と 2.3 万年の周期,地軸の傾きの変動に伴う約 4.1万年の周期,離

    心率の変動に伴う約 10万年と 40万年の周期があるが,離心率の変動に伴う日射量変動

    は,歳差運動・地軸の傾きの変動に伴う変動より小さい(図 3).したがって,ターミネ

    ーションは,離心率の変動が原因ではなく,前のターミネーションから,4 あるいは 5

    回目の歳差運動による日射量変動で発生したかもしくは,2あるいは 3 回目の地軸の傾

    きの変動による日射量変動で発生したと考えられている.

    380

    400

    420

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    500

    050100150200250300350400ka

    65NJul

    15NJul

    離心率の変動約10万年周期

    地軸の傾きの変動約4.1万年周期

    歳差運動約2万年周期

    温暖化

    寒冷化

    温暖化

    寒冷化

    地球の天文学的運動

    北村・夏目(1998) 暖かい地球と寒い地球,福音館

    400 350 300 250250 200 150 0100 50

    500

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    380

    w/m

    2/d

    ay

    千年前

    図 3 ミランコビッチサイクルとそれに伴う北半球夏季日射量の

    過去 40万年間の変動.

    現在の大気中の CO2 濃度は 380ppm で,北半球高緯度に大規模氷床の出現する直前

    (2.8Ma)の濃度に匹敵する.つまり,人類はたった 100 年で大気中の CO2 濃度を 2.8Ma

    の状態に戻してしまったわけで,その時代は 4.1 万年世界である(図 1).「4.1 万年世界

    と 10 万年世界」と CO2濃度との関係は未解明だが,現在の地球気候システムは 4.1 万

    年世界のシステムに戻ってしまっているかもしれない.10万年世界に比べて,4.1 万年

    世界の実態は良く分かっていない.これは時代を遡ると,14C年代測定や U-Th 年代測定

    の適用範囲から外れ,また氷床コアの記録も 80万年前以降のものしかないからである.

    そこで私は,4.1 万年世界の環境変動を明らかにするために,下部更新統の大桑お ん ま

    層(石川

    県金沢市に分布)の地質記録と化石記録から古環境解析を精力的に行った.

    大桑層を調査対象に選択した理由は,(1)氷期―間氷期サイクルを検出しやすい中緯度に

    位置すること(図 4),(2)高山ほか(1988)のナンノ化石層序の検討から堆積年代が判明して

    いたこと(図 5),(3)浅海生の貝化石を多産すること,である.

  • http://www.abc.net.au/science/slab/elnino/img/gsst.gif

    annual mean global sea surface temperatures (℃ )

    世界の第四紀の浅海成層の露出地域

    図 4 世界の表層海水の年平均水温.日本列島周辺海域は温度勾配が大きく,世界で

    最も気候変動を読み取りやすい場所である(Beu and Kitamura, 1998).

    図 5 大桑層模式露頭のナンノ化石層序・古地磁気層序.

  • 下部更新統の大桑層(石川県金沢市)から産する貝化石群は,大桑―万願寺動物群の模

    式で,私の調査前は,層厚では 5%程度の貝化石密集層(平均層厚約 0.7m)の構成種から,

    同層の堆積期間は永続的に寒流下にあったとされていた(図 6).

    暖流系沖合群集

    寒流系沿岸群集

    寒流系沖合群集

    寒流系内湾群集

    暖流系沖合群集

    寒流系沿岸群集

    寒流系沖合群集

    寒流系内湾群集黒潮

    寒流

    鎮西(1979)

    図 6 1980 年代の前期更新世の海洋生物分布の復元.

    私は,大桑層の模式露頭(金沢市大桑の犀川河床)において,堆積相解析を行うとともに

    全層準(合計約 200m)の貝化石の層位をこれまでに無い精度で定量的に調査した.その

    方法は図 7,8の通りである.また,浅海環境の代替指標としての貝化石のメリットを図

    10 に示した.また,露頭欠損部はボーリング掘削によって充填した.そして貝化石の

    層位データを基に,浮遊性有孔虫の群集解析を行った.これらのデータをシーケンス層序

    学的に解析した.

    野外調査方法ー試料採取問題ー

    従来の試料採取方法

    貝化石:密集層重視

    微化石:等間隔採取

    貝化石データ:偏り

    微化石データ:確率的

    ベルト・トランセクト法

    本研究の試料採取方法

    貝化石:連続解析

    微化石:貝化石データを

    もとに決定

    氷期ー間氷期サイクルの検出が可能

    図 7 4.1万年世界の氷期―間氷期サイクルの環境変動を解析するための

    化石記録の調査方法.

  • 上位

    図 8 貝化石の層位のデータ.

    図 9 浅海環境の代替指標としての貝化石のメリット.

    調査の結果(北村・近藤, 1990; Kitamura et al., 1994; Kitamura, 1998, Kondo et

  • al., 1998; Kitamura and Kimoto, 2006 など),同層は 19 の堆積シーケンスの累重か

    らなり,堆積シーケンスは 4.1万年周期の氷河性海水準変動に起因し,海洋酸素同位体

    (MIS)ステージ 56 から 21.3 に対比される(165-85 万年前)ことが判明した (図 10,11,

    12).典型的な堆積シーケンスは層厚が約 7m で,下位より貝化石密集層,淘汰の良い細

    粒砂岩,泥質細粒〜極細粒砂岩,淘汰の良い細粒砂岩の順に重なる.密集層の基底はラ

    ビンメント面で,シーケンス境界,海進面でもある.1つの堆積シーケンスでは寒水系

    種を主体とする貝化石群集から,暖水系種を主体とする貝化石群集へと変遷し,そして

    再び寒水系種を主体とする貝化石群集が現れる(図 12).

    図 10 大桑層模式露頭の堆積シーケンスと海洋酸素同位体ステージの対比.および

    主要な貝化石種と暖水系浮遊性有孔虫 Globigerinoides ruber の層位分布.

  • 図 11 堆積シーケンス内の主要な貝化石種と暖水系浮遊性有孔虫 Globigerinoides

    ruberの層位分布と古環境復元.

    堆積シーケンス 4堆積シーケンス 3

    堆積シーケンス 4

    堆積シーケンス 5

    堆積シーケンス 2

    堆積シーケンス 6

    図 12 大桑層中部の堆積シーケンスと貝化石密集層

  • これらのことから,当時の日本海の浅海環境は 4.1 万年周期の氷期―間氷期サイクル

    に連動してダイナミックに変動したこと,貝化石密集層は退氷期の海水準上昇に伴う外

    浜侵食で形成されたこと,を解明した.また,4.1 万年世界の汎世界的海水準変動の変

    動量は最大 50mと見積もった.その一方で,大桑層の貝化石や浮遊性有孔虫の化石殻は

    続成作用を被っているので,地球化学的分析を適用できないことが分かった.

    4.1 万年周期の氷期―間氷期サイクルについては,Huybers (2006)は北緯 65 度の夏

    季エネルギー(氷点 0℃を超える期間の総日射量)に対するカオス的応答という考えを

    提唱している(Huybers, 2009)(図 13).夏のある 1 日の日射量変動は歳差運動の影響を

    強く受けるのだが,氷点 0℃を超える期間の総日射量の変動は地軸の傾きの影響を強く

    受ける.つまり,4.1万年周期が卓越する.さらに,Huybers (2009)は 4.1 万年世界の

    氷期―間氷期サイクルは,しばしば氷期(間氷期)になるタイミングにも関わらず氷期

    (間氷期)にならなかった時代(スキップ)があることや氷床量変動の時間変化の軌跡が

    strange attractor(奇妙なストレンジアトラクター)を描くことからカオス的に応答し

    ているとしたのである.スキップした時代としては,MIS 35 が典型的であり,これは

    Shackleton et al. (1990)が 2つの地軸の傾きのサイクルからなるとした同位体ステー

    ジである.実際,大桑層の堆積シーケンスと化石群集の変遷も Shackleton et al. (1990)

    の考えを支持し,すなわち MIS 35 に対応する堆積シーケンスの層厚は上下の堆積シー

    ケンスの 2倍である(Kitamura and Kimoto, 2006).

    4.7

    4.8

    4.9

    5

    5.1

    5.2

    5.3

    10001050

    11001150

    12001250

    13001350

    14001450

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    16001650

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    19001950

    2000

    gig

    a-J

    oule

    s/m

    2北緯65度の夏季エネルギー説(0℃を超える期間の総日射量)

    Huybers 2006

    地軸の傾きの変動に対するカオス的応答説Huybers (2009)

    黄色帯はサイクルのスキップを示す

    2.0 1.0Ma

    5.3

    4.7

    図 13 Huybersの氷期―間氷期サイクルの発生機構.

  • 氷期―間氷期サイクルが,北半球高緯度の夏季日射変動に対するカオス的応答である

    ということは当然なことである.なぜならば,氷期―間氷期サイクルは,地球表層から

    地殻と上部マントルに及ぶ多数の独立した気候システムの反応と相互作用の結果であ

    るからであり,つまり複雑系だからだ.したがって,4.1 万年世界の氷期―間氷期サイ

    クルの理解には,各気候システムの時間変動を高精度で復元することにある.その際に

    重要な情報は氷床量変動である.過去 50万年間の海水準変動は,有孔虫の酸素同位体比

    記録とサンゴ礁からの海水準変動データとの結合により高精度で復元できる.だが,それ以前

    の復元には,(1)有孔虫の酸素同位体比と Mg/Ca 比(水温推定)との比較から復元した海水の

    酸素同位体比の変動に基づく方法(図 14),(2)浅海成層の堆積シーケンス堆積相解析に基づ

    く方法がある.

    大桑層は 1.65~0.8 Ma の酸素同位体ステージと堆積シーケンスとの対比に成功した世界

    唯一の陸上セクションであり,今後は堆積相から相対的海水準変動を復元し,世界各地の酸

    素同位体比記録の中で汎世界的海水準変動を最も忠実に反映している記録を決定する予定

    である.

    LR04 stack Lisiecki & Raymo (2005) 57地点の酸素同位体データをスタックしたカーブ(引

    用件数422)地域的海水温変動の影響を除去できない.

    Sosdian & Rosenthal (2009) 北大西洋深海底有孔虫のMg/Ca比(水温推定)と18Oから復元.

    Yu & Broecker(2009)から氷期ー間氷期のCO32−の変化の影響を考慮していないと指摘.

    -0.5

    0.0

    0.5

    1.0

    1.5

    40050060070080090010001100120013001400150016001700180019002000

    2.5

    3.0

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    4.0

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    5.0

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    6.0

    DSDP607(sea water)

    LR04

    -0.5

    2.0

    2.5

    6.0

    1

    8O

    (‰

    )

    1.0 0.41.5

    1

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    Ma

    Sea level

    change100m

    Sea level

    change100m

    JOlduvai

    Jaramillo上限1.5万年のずれ同位体ステージ29→28Huybers (2009)の

    海水準変動モデル

    Hig

    h s

    ea

    le

    ve

    l

    図 14 4.1万年世界の氷河性海水準変動.