2018 年度 - WAM NET(ワムネット)...化。人材不足に直面する企業にとっても...

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0 40 歳 50 歳・・ 引きこもったまま高齢化は進む 40 歳以上のひきこもり人口は 日本全国に約 60 万人 岡山県内に約 6000 人 多様な「生き方」「働き方」を考える 2018 年度

Transcript of 2018 年度 - WAM NET(ワムネット)...化。人材不足に直面する企業にとっても...

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40 歳 50 歳・・ 引きこもったまま高齢化は進む

40 歳以上のひきこもり人口は

日本全国に約 60 万人 岡山県内に約 6000 人

多様な「生き方」「働き方」を考える

2018 年度

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もくじ

1. はじめに

2. 「8050 問題」を考える

3. 就労支援の落とし穴

4. ひきこもり問題と社会参加

5. 社会参加できない・・・

6. 当事者の声を聴いてみる

7. 親の声を聴いてみる

8. 会話のない親子

9. 支援者の声を聴いてみる

10. ワークショップ 官・民・福の共通認識

11. 8050 脱却を考える

12. 講演会に向けて事前映画会

13. 生き方を考える 山本昌知医師講演会

14. シンポジューム・講演会を終えて

15. ひきこもりの社会参加支援の一つとして

16. 支援の転機 就労支援 & 生き方支援

◇ もし 仕事を考えるなら・・・

◇ 居場所とは・・・

◇ 就労と居場所

◇ 編集後記

3

4

5

6

10

11

15

17

19

26

39

41

45

49

51

53

2

誰ひとり

取り残さない社会をめざして

ひきこもりの人たちは

長い間 どう生きていくかを悩み

苦しんできました

その「生きづらさ」から解放できる社会とは

どんな社会でしょうか

共生社会 とは・・・

一緒に考えてみませんか

3

1. はじめに

まちづかい塾とは

街をつかって 賑わいを創る・・・まちづかい

「まちの賑わい」つまり街の活力を支える「人」を応援する団体です。

私達は 2005 年から、公開空地、公園や道路、河川敷など低利用、

未利用の公共空間へ、オープンカフェを設置し、まちの賑わいを応

援してきた。

そこへ毎回集う人たちの多くが、居場所のない人、話し相手のい

ない人など・・・。この人たちが「まち」へ参加したら、もっと「ま

ち」が元気になる。

私達はオープンカフェだけではなく、空き家や空部屋を活かした

コミュニティカフェの啓発を始めた。地域の茶の間「しんせきんち」

もその一つ。都心に近い郊外の空き家に、誰もが自分の親戚の家の

ように気軽に立ち寄れる 居・場・所

そこへ、高齢者、子育てに疲れたママ、見えない障壁で社会参加が

困難な人・・・。いろんな人が、ぽつり、ぽつり訪ねてくる。この人た

ちがつながり、支え合えば「まち」がもっと元気になる。

そこで 2017 年は、見えない障壁で社会参加できない人たちとそ

の家族同志が、つながり支え合う居場所スタイルを模索した。さら

に 2018 年は、より広く呼びかける活動へ範囲を広げた。

4

2. 「8050 問題」を考える

近年、引きこもりの高齢化問題を「8050 問題」と称し、国が対

策に乗り出した。

それを受けて私たちは、ひきこもり体験者(以後ピアサポーターと

称す)のみなさんと、ひきこもりについて語り合ってきた。

支援が必要であること、機会があれば支援したい希望があるけれ

ど、支援の仕組みのある事が当事者やその家族に伝わらない。とい

う現状を何とかしなければ、と潜伏している当事者や家族へ対して

呼びかける方法を模索した。

潜伏している人は、自分の興味のある事にしか情報収集のアンテ

ナを持っていない。高齢化した親たちは、インターネット上の情報

は届きにくい。アナログな情報発信は、なかなか対象者に届かない。

また、8050 問題は自分には関係ないとして、一般市民の関心は低

い。さらに近年の個人情報守秘主義から、対象者を知っていても、他

へ知らすことは無い。

「お子さんは、引きこもりではありませんか?」など問う人もいない。

立ち入るとプライバシー侵害で、人間関係にひびが入る。

現在、引きこもっている人達の家族へ私たちの声を伝えるために

平成 30 年 8 月 24 日、引きこもり対策の先進事例を持つ和歌山県

精神保健福祉センター所長として活躍の小野善朗氏、南紀若者サポ

ートステーションの南芳樹氏を迎え、山陽学園大学教授目良宣子氏

のコーディネートによるシンポジュームを開いた。シンポジューム

を思いついて準備期間が 2 か月という短期間だったが、目良宣子教

授の協力で、県内外から 230 人の参加者の集いになった。

それをきっかけに家族からの

相談や当事者との接触、アウト

リーチが始まった。

又、岡山市も行政関係者や支

援組織を集めたワークショップ

を開催し、受け皿と今後の方向

を考えることになった。

5

3. 就労支援の落とし穴

内閣府によると、就職氷河期世代を「平

成5年から16年ごろに卒業期を迎えた

世代」とすると、人口規模は30年時点で

約1700万人で、このうち支援対象と

なるのはフリーターやパートといった非

正規社員、無職など約400万人に上る。

これらの人の多くが加入しているのは国

民年金とみられ、高齢期に収入が月数万

円の年金しかなくなり、そのまま生活保

護へ転落することも予想される。

特に深刻なのは中高年のひきこもりだ。

内閣府は3月、半年以上にわたり家族以

外とほとんど交流せずに自宅にいる40

~64歳の人が全国で61万3千人いる

との推計値を発表。就職活動でのつまず

きがひきこもりの一因となっている可能

性も指摘されている。20代から就労経

験がないまま、中高年になっても親の年

金を頼りにひきこもり生活を続けた場合、

親が亡くなり年金収入が断たれてしまう

と、途端に生活不能に陥ってしまう。政府

にとっても生活保護の増加は大きな財政

負担となりかねない。

政府の集中プログラムでは、民間議員

の提言に基づき、ハローワークや大学、経

済団体などが連携する協議会を通じて支

援対象者を把握した上で、具体的な数値

目標も定めて減少させていく方向だ。就

職氷河期世代の正規就労が進めば、厚生

年金の加入で高齢期の所得が確保される

ほか、生活保護の減少により財政が健全

化。人材不足に直面する企業にとっても

就職氷河期世代が大きな戦力となり、経

済成長にも寄与する。(SMS 記事より)

走行中の東海道新幹線内で乗客の男女3人が刃物で襲われ殺傷された事件で、容疑者(22)は県警の調べに「むしゃくしゃしてやった。誰でも良かった」と供述し、社会への恨みにも言及している。家庭で孤立し、現実社会にもなじめないまま自殺願望や暴力性を強めた背景があった。。「こんな生活情けない。こういう生き方はしたくない」と自嘲する一方で「また仕事をして挫折するのが怖い」「僕はこの世に適応しない」など祖母には本音を打ち明けた。家族は今『元息子』という感覚だと語る 2018/6/20産経新聞より

母親の遺体遺棄容疑 ひきこもり 49歳長男 会話することができず調べに筆談で応ず。40年‥‥‥9歳から引きこもっていたことになる。会話することができず筆談で取り調べる。引きこもりになぜそんなになるまで放っておかれてしまったのか・・ 2018/11/6 TVニュース

〇〇市で発覚した「障害者監禁事件」。重度の知的障害のある長男を 25年以上にわたってオリに監禁してきた父親が逮捕された。保護された長男は片目を失明、もう一方の目もほとんど見えない状態だった。裁判で父親は「市に相談していた」と供述。ある時期から息子は突然暴れるようになり、家族の怪我が絶えなかった。自分がいないときには檻に入れるようになったと言う。 〇〇市が自宅を訪問し、鍵をかけて閉じ込めている事実を知ったが、問題視しなかった。 2018/9/20

クローズアップ現代より

6

4.ひきこもり問題と社会参加

国の見解は、ハローワークや大学、経済

団体などが連携する協議会と検討し、就

労支援の強化の方向にあるようだ。

しかし、20 年 30 年引きこもっていた

人たちへ、どんな就職先を用意するのだ

ろうか? と、大変興味深い。

さらに、引きこもりに共通している「精

神的打たれ弱さ」が、発達障害や不登校に

表れているにも関わらず、その関係性に

は触れていない。毎年増えている発達障

害の子供たちは、ひきこもり予備軍でも

ある。その親たちの危機感も薄いことは、

今後の引きこもり人口増加が懸念される。

発達障害児童の親や支援者は「特性を

理解した合理的配慮のある環境ならば、

普通に働ける」と言う。しかし「特性を理

解した合理的配慮のある環境」という条

件付きだ。その条件が備わる環境が、学校

や会社内だけでなく、社会全体で一般的

になるまで、まだ数年かかると考えられ

る。理解されるべき特性と言うもの自体

が、多様性に富み分かりにくい。

昭和を背負ってきた世代から見ると単

に、神経質や我儘、偏った自己主張や努力

不足、怠慢に取られがちである。

「自主・自立」と教育を受けてきた世代に、

社会を我慢できず引きこもり、親に依存

することは、理解を大きく超える。社会恐

怖症、対人恐怖症等々、新しい症名へ逃避

しているように見受ける現状がある。

しかし、それに悩む人がいるのも現実。

△▽市のこども園を襲撃し、小学生ら 4人を負傷させたのは、約 15年、ひきこもり状態にあった 30代男性だった。事件の背景に小学生の頃からのいじめがあった事や本人の発達障害に周囲が気づかずにいたことなどが見えてきた。「もともと、無差別傷害と物を盗ろう(強盗)という意図はありません。被害結果がそうなったのは、事実です」 アスペルガー症候群の特徴である聴覚過敏とフラッシュバックが組み合わさって犯行に至ったという。不登校の後、両親の自営する店に勤務。体調不良で店を辞め長期に渡り、ひきこもっていた。 母親は地元自治体の精神

保健施設の相談窓口を訪れたが、担当した精神科医から「本人を連れてこないとダメ」と対応を断わられたという。 2018/6/2 池上正樹記事

◇◇市で8月、母子2人暮らしのアパートで母親=当時(76)=の遺体が見つかり、息子(48)が死体遺棄容疑で長崎署に逮捕。息子は無職で長年ひきこもり状態。 「異臭がする」8月20日、県警に匿名のメールがあった。。駆け付けた警察官が2階の部屋で女性の遺体を見つけた。遺体はごみの山に埋もれるように横たわっていた。県警によると、死因は内因性で、事件性を疑わせる痕跡は見つかっていない。息子は「4、5日食事を取らないし、(母親は)やっぱり死んでいたのか。亡くなっていることに気付かなかった」と供述。行政の支援を受けるよう勧めていたが拒否。子どもはひきこもりで、母親の年金だけが命綱だった。 2018/9/2 長崎新聞社

7

さて本題に戻ろう。

ひきこもってきた人たちは「社会参加」

就労しなければ社会参加できないのか。

と言う課題がある。

高齢化している引きこもりの多数に、

高学歴で就労経験があり、その体験の結

果が「ひきこもり」になった人たちがいる。

辛かった日々を思い出すと、二度と就

職は嫌だ。自分に就労は無理だ。社会へ会

社へは、戻りたくない。と口を揃える。

60 年前にそんなことを言えば、たちま

ち生活費が窮地になり、親も頼れない社

会背景があった。しかし高度成長期を超

え、ひきこもっても親に扶養されて大丈

夫な「豊かな時代」になった。

そして、親が高齢化して扶養できなく

なる日が来る、とは考えていなかった。

親は、薄々感じていたが、その内、立ち

直るだろうと、期待を持っていた。なんと

言っても大学へ行くだけの能力があり、

行っただけの知識や教養は、身について

いるのだから。「本人さえ、その気になれ

ば」 「本人に合った職場が見つかれば」と。

そっと見守り続けた親たちは、そう言う。

このような高学歴な引きこもりが、満

足する仕事には、何があるのだろう。引き

こもっている間に、同級生は実績を積み、

社会的地位も手に入れている。最も羨ま

しいのは、結婚して家庭を築いている事

なのかもしれない。社会に出れば、ますま

す離れた社会的立場に自信を無し自己嫌

悪が待っている。

人生を考え直す事は、誰に

でもある。そして、新しい一歩

を踏み出せないまま引きこも

る。その期間が短いほど社会

参加の窓口は広い。

近年、自宅から自分の都

合の良い場所にだけ出かけ

る人が増えている。これも広

義のひきこもりと定義され

た。

■親が扶養している 34.1%

■本人の社会保障 28.8%

■配偶者の扶養 17.0%

■その他 20.1%

6.4

14.9

6.4

21.3

4.3

10.6

6.4

10.6

10.6

2.1

6.4

ひきこもりの期間

■1 年未満 6.4%

■1~ 2年 14.9%

■2~ 3 年 6.4%

■3~ 5 年 21.3%

■5~ 7 年 4.3%

■7~10 年 10.6%

■10~15 年 6.4%

■15~20年 10.6%

■20~25 年 10.6%

■25~30 年 2.1%

■30 年以上 6.4%

8

自尊心が守られなければ生きていけない。

■自尊心とプライドは違う。

・自尊心・・・self-esteem、self-respect,

思想や言動に自信をもち

自分の人格を大切にする心

・プライド・・・pride, arrogance

傲慢、虚栄心、自負心、高慢

自尊心が未熟で プライドだけで自分

を守ろうとすると、単純なダメ出しでも

プライドが傷つき「あんな人に馬鹿にさ

れた」「自分を否定された」と感じる。「あ

んな人・・」と感じるのは、その人を尊敬

していない、信頼していない。それどころ

か、相手を馬鹿にしている場合に多い。

自信(自尊心)が無い時は、威圧的な場

面でイラっとなる事が多い。家庭内暴力

は、こうして始まる。自信の拠り所が希薄

なのだ。少しでも自信がつけば(自尊心が

安定すれば)、謙虚になれる。

つまり、自分に余裕ができれば態度が変

わる。トラブルを、回避することも可能に

なり、対人関係も良好に転換していく。

自尊心が守られる社会参加の場。それ

を考える必要がある。社会参加の選択肢

は、生産性のある就労だけではない。

日本国の憲法にある社会保障の恩恵を

受けるには、国民の義務「勤労」が要件だ。

社会保障を受ける以上、義務は果たさな

ければならない。かといって、引きこもっ

ていた人たちが全員、納税者になってく

れればいいな、と言うのは国の考え。しか

し、実際、難しい現実がある。

中高年の 「ひきこもり」のきっかけ 1.退職 32.2% 2.人間関係 21.3% 3.病気 21.3% 4.職場になじめない 19.1% 退職の中には、リストラや派遣 切りなど、会社の都合が原因 の場合も少なくない。 社会に出ると、学歴だけで

は解決できないこともある。 高学歴な人たちが、自分より も学歴の低い上司や年下の 上司に納得ができなかったり、自分が自負する「優秀」がそ れ相応の評価を得られない 場合がある。 それがプライドを傷つけて、

引きこもるケースも珍しくない。

3.6

17.9

14.3

7.1

10.7

28.6

10.7

7.1

ひきこもった時期

■12 歳未満 3.6%

■13-15 歳 17.9%

■16-18 歳 14.3%

■19-21 歳 7.1%

■22-24 歳 10.7%

■25-27 歳 28.6%

■28-30 歳 10.7%

■31 歳以上 7.1%

9

『8050 問題』の当事者は就労目的の支

援からこぼれおちた世代と、ジャーナリ

スト池上正樹さんは言う。

今まで、ひきこもりは社会更生の対象

として考えられてきた。ひきこもりの人

を「社会復帰させよう」「更生させよう」

という風潮がある。

ひきこもりは、悪い事なのだろうか?

ひきこもった生き方も一つの生き方だ。

1.ひきこもりたくて、人から見て引きこも

っていると思える場合。

これは、引きこもりとは言えない。

例えば、無人島で一人暮らすなど。

2.ひきこもりたくないけれど、ひきこもら

ざるを得ない場合。

これは適切な支援があれば、いずれ社

会参加できる。

3.ひきこもっているうちに、引きこもりが

楽しくなった場合。

これは適切な支援自体を受け付けたく

ない意思がある。欧米のホームレスな

どに多く見受けられる。

このように、引きこもりも一つの生き

方ととらえると、「社会復帰させよう」「更

生させよう」という考えは、根本から違っ

ているのではないだろうか。

今、支援の仕組みを考えなければなら

ないのは、2.の「ひきこもりたくないけれ

ど、ひきこもらざるを得ない状況にある

場合」である。社会参加したくても、受け

入れられない、理解されない苦悩が、自暴

自棄を招き、事件につながる場合がある。

■社会参加って ナニ? 直接的生産効率だけが 社会参加なのでしょうか みんなで考えませんか? 社会参加とは・・ 生産性を求められると、引きこもっていた人達の中には怖気づいてしまう人がいる。 働く (はたらく) ⇒ はた(傍)を

らく(楽)にする行為 と考えると・・・ 生産効率の良い人を、 より生産効率が上がるようにサポートする仕事もある。 直接的生産効率の数字には出ないが、その人がサポートすることで、全体的生産効率が上がれば、結果として十分生産性を 高めたと、評価できませんか? 数字を追う社会に疲れた人たちがいます。 貧しくても心豊かに生きる。そんな生き方も・・。

公園の陽だまりに集う 生活保護自給者の方たち 今は空き缶回収やゴミの分別作業で、働ける時に働く。公園のごみ拾いは自主ボランティアと笑う

10

5. 社会参加できない・・・

これまでの引きこもり支援は、ニート

支援として「就労支援」中心だったが、ひ

きこもりの長期高齢化が進む中で、就労

ありきではなく、ひとりひとりの「生きる

意力」を支える「生き方支援」に変わろう

としている。

引きこもっている人たちの抱える「生き

づらさ」は十人十色。当事者たちは「自分

に合った生き方がしたい」と言う。個性を

大切にする時代背景がここにある。

アンケートによると一番大切に思う事

は「自分らしさ」「人間らしさ」と言う声

が多い。「人と比べない」「機械の歯車のよ

うに社会の流れに流される歯車になりた

くない」「自分に無理をしない生き方」を

希望している。ここに、親たちの姿や社会、

会社の仕組みに、希望や自分の夢を見る

ことができない思いが感じられる。

一つの価値観の偏移と、言えるのではな

いだろうか。働いている若者たちの中に

も「出世したくない、出世して責任が重く

なるのは嫌だ」「働く時間はなるべく短く、

食べて行けるだけの給与で良い」「少しで

も多く自分の時間を持ちたい」と言う人

が増えている。

この価値観と、従来の出世に夢を持つ価

値観とは違う。やればできるのに、自分で

満足した状態から上へあがる努力をしな

い若者たちは、上昇志向で生きてきた世

代には、理解しがたいものがある。

従って単純に就労という社会参加の支

援は、ニーズに合っていないことになる。

当事者が、夢を持てる社会参加とは・・。

49%

14%

12%

10%

7%

3%

5%

ひきこもり要因の

臨床的につけた

診断名

社会恐怖症

鬱病

強迫性

人格障害

接食障害

知的障害

その他

11

6. 当事者の声を聴いてみる

・家族との食い違い

引きこもっていて年金受給の母親の

扶養で暮らしている。毎月定額の小遣

いで暮らしているが、ネットなどの使

用料金が多いからと、ネットの解約を

言われたことがきっかけで、家計の内

訳を教えてほしいと言った。母親は「自

分の年金だから、教える必要はない」と

のこと。本人もやりくりが大変な事、自

立しなければならないと思って、精神

科医のカウンセリングも行っている。

医者から、

1.まずは焦らず安心した日々を送り、

自分を見直し将来設計を立てる事

2.自立するにはいくらか必要か、毎月

の金銭感覚を身につける事

3.親子の信頼関係を立て直す事

などの指導がある。

しかし、母親は家計の開示を拒む。

家計が解らないから不安であり、教

えてもらえないため、母親との信頼関

係が築けない。将来への不安は募る。

悪循環で、日々過ぎている。

・視点の食い違い

ひきこもって自営業の親の扶養を受

けている。金銭的な不自由は無いが、将

来の方向が解らない。親は就職するも

稼業を継ぐも自由だという。しかし人

間関係構築に自信がない。日々過ぎる

中、親はいつまで決められないのかと

怒る。いろんな職を紹介されるが、問題

は職種ではなく職場の人間関係への自

信の無さにある。最初の一歩が出ない。

9…

14%

16%

18%

20%

23%

15-19歳20-24歳25-29歳30-34歳35-39歳40-44歳

ニート(無業者)人口

2016年

2017 年までニートの調査は 45 歳までしか 行われなかった。それ以上の対象者への対策は見落とされていた。

12

・期待に押しつぶされる

大学を卒業後、大手に就職。有名大学

卒業という事で、上司に期待され、同期

には、敬遠されていると感じていた。そ

の中で、責任ある仕事へのプレッシャ

ーに、引きこもった。出来る能力がある

から、と上司や家族に復職を勧められ

ても、戻る気にはなれない。近所の目も

気になり、外へも出られない。今、居場

所で程よい距離感の人間関係を構築中。

心が安定したら、大学卒業を隠して、飲

食店か小さな会社へ就職したいと考え

ている。

・子供の頃のトラウマが

普通に高校を卒業したが、就職はで

きなかった。学生時代に友達が出来な

かった。電車やバスで、学生が自分を見

ると、悪口を言われている気がする。同

世代の集まる所へ行くと、悪口を言わ

れているようで足が震える。緊張する

と余計に失敗しやすくなる。気にする

なと言われても笑われている気がする。

何をやっても遅かったり失敗が多い。

それを、いつも笑われてきた。と思って

いる。親が心配するから、学校は行かな

ければ、と我慢して卒業したけれど、就

職は、躊躇がある。就職して自立しよう

と思うが、人前に出られない。今は、障

害者就労支援事業所で、自信が持てる

ようになってきた。

障害があるわけではないけれど、自分

に自信が持て始めた気がする。時間が

かかっても、丁寧な仕事が出来ること

を褒めてもらえた。それで就職が出来

たらいいな、と思う。

13

・親と子の価値観の違い

大学院を出て、准教授として働いて

いた。研究派閥で退職。今は毎日自分の

研究を続けて、論文発表をしている。実

収入は無く、親の扶養で暮らしている。

親は、専門を生かして就職があるだろ

うと言う。今は派閥に関係なく、自分の

研究が出来きることに満足している。

又。収入がないことは問題と考えてい

る。しかし、今、自由に研究できること

が楽しい。親の扶養がなくなれば、研究

が続けられなくなるという不安はある。

親の言う就職も考えなければとは思

うが、就職を迫られるので、親との会話

も避けている。就職だけが幸せでない

事の理解は、親にはできないなと思う。

もう少し、見守っておいてほしい。

・現実社会は違っていた

小さいころから「1 番に成れ」と言わ

れ、成績が 1 番だと親が褒め、自慢し

た。私にとって「1 番に成る」ことがす

べてだった。一生懸命 1 番に成ろうと

頑張った。遊びにも行かず、友達ともあ

まり付き合わず、いつも 1 番に成るこ

とだけを考えていた。そして就職した。

就職先で、私は 1 番ではなかった。

1 番じゃない人が、上司であり、1 番

ではない人が認められ、褒められ・・・。

私は、職場でも 1 番に成ろうとして、

体を壊した。その時、親が言った「そん

なに無理して 1 番に成らなくてもいい

んだよ」今までいろんなことを我慢し

て 1 番に成って来た私の学生生活は、

何だったんだろう。親の一言で私の心

が壊れた。今は、何もしたくない。

14

・やりたいことが見つかったのに

高卒で就職して、躓いた。自立しなけ

ればと、転職を繰り返すうちに、ひきこ

もりっていた。そんなつもりはないけ

れど、定職がなく、自分の行きたいとこ

ろへだけ行く生活を、引きこもりと言

うらしい。「どうして就職を継続できな

いのか」と親は聞く。どこの職場でも大

切にされてきた。理不尽だと思う指示

も我慢し、いつも笑顔を絶やさないよ

うに努力した。どこへ行っても嫌われ

たことは無い。しかし、その自分を維持

するのがしんどくなって退社を繰り返

す。今 40 歳を前にして、ようやくやり

たいことが見えてきた。しかし、それは

ボランティアで、安定した収入にはな

らない。自分らしく人と接することで

感謝される。とても素晴らしい時間だ。

とはいっても、安定した収入がないの

で、「ひきこもっている」ことになるの

かもしれない・・・。

・姉二人はアルバイト、僕には就職

40 歳前の独身の姉が、2 人いる。2

人とも定職は無くフリーター。二人の

姉に対して親は放任。僕には就職をし

ろと言う。僕たち三人は不登校で、僕は

発達障害の診断がある。毎日の食事の

用意が僕の役割。楽しく暮らせている。

いずれ姉たちが結婚すれば出ていくか

もしれない。その頃は両親も介護が必

要になるかもしれない。外へ出られな

いわけではない。しかし、やりたい仕事

が見つからない。今の暮らしがずっと

続けばいいなと思う。僕だけ就職しろ

と言われる。親の介護では、だめかな?

15

7. 親の声を聴いてみる

・手のかからない良い子でした

小さいころから、手のかからない良

い子だった。成績も悪くないし、問題も

起こさない。素直で、反抗期もなかった。

なのに就職先が合わなくて、退職した

とたん引きこもって、もう 15 年過ぎ

た。子供に合った就職先なら、大丈夫だ。

たまたま、就職したところの人間関係

が合わなかっただけ。もう一度、就職す

る気になってくれれば、必ずうまくい

くはずなんですが。

・優しい子、良い子です

小さいころから花や虫、動物が大好

きで、よくお世話をしていた。成績も悪

くなく、行儀も良く、反抗期もなく、ど

こへ連れて行っても、優秀な子供だと

言われた。高校で意地の悪い生徒が、友

達をいじめているのを咎めたことが原

因で、いじめられるようになり不登校。

大検を受けて、通信大学を修了後、就職。

しかし、職場の上司と合わなくて3年

で退職。その後、自室からでなくなった。

・子供の頃は、人気者でした

なにしろ運動が得意で、子供の頃は

みんなの人気者。誰にでも優しく、リー

ダーシップがあり、先生からも信頼さ

れた。ところが、運動しか知らない子で

世間知がない。就職して、一般常識的な

事で知らないことが多すぎ、同僚に足

を引っ張られ、責任を取らされること

があり、統合失調症。

引きこもり始めて 9 年になります。

16

・正義感の強い子です

近所でもリーダーシップがあり、小

さな子供たちも一緒に遊んであげる子

だった。学校でも学級委員や生徒会長

にもなった。就職して、会社のやり方に

疑問を持ち、上司とぶつかって退社。そ

の後も、先輩の紹介で就職。しかし、や

はり人間関係がもつれ、退社。その後引

きこもって、好きな音楽のコンサート

や、昔から興味を持っていた遺跡を巡

る時だけ、自室から出てくる。後は、自

室へこもって、昼夜逆転の生活。親と顔

を合わすこともなく、会話らしい会話

もない。将来どうしたいのかの話も出

来ない。せめて世間話だけでもしたい。

・我慢強い子です

厳しい祖父母と同居で、厳しく育て

られた。曲ったことは嫌いで、まじめ

でおとなしい子だった。学校でも目立

たないが、先生からの信頼は厚く優秀

だった。大学に入り、一人暮らしを始

めてから、少しおかしいなと感じた。

4 年の夏、帰省してからひきこもり退

学。もう 5 年になる。

・思いやりのある優しい子です

小さい頃はスポーツ好きで元気な子

でした。母子家庭なので、仕事で疲れて

帰宅する私を手伝ってれる優しい子だ

った。反抗期もなく、よく気が付く子だ

った。高校卒業後、就職して会社からも

気に入られていたが、同僚にねたまれ

たようで退社。その後、家で家事をして

くれているが、就職する気配はなく、親

が死んだ後が心配。

17

8. 会話のない親子

親からの相談で共通している悩みは

1.親子の会話がない

2.何を考えているのか、想定できない

3.なぜ働くという当たり前が出来ないか

理解できない

当事者の共通している悩みは

1.話しても理解されない

2.価値観を押し付けてくる

3.親にとって簡単でも 無理な事がある

4.親の頃と「時代」が違う

5.親のように仕事だけの人生は嫌だ

子の話を聞こうとする親と、話そうとし

ている子ではあるが、すれ違っている。

たまたま意見が合わないという場合ばか

りではないようだ。日本人特有の、阿吽の

ような言葉外の意向が通じないケースも

ある。そのくらい言葉にしなくても解る

だろう。わかってくれたはずだ。などの思

い込みも、デリケートな心の状態の中で

は、大きな食い違いや誤解を生み、場合に

よっては、嘘をつかれたなど、裏切りにと

られることもある。又、親子であるからこ

そ、立ち入りすぎたり、分かりすぎて衝突

することも少なくない。

嘘に目をつぶること、気が付かないふり

をすることなど、他人同士なら出来るこ

とが、親子であるために出来ない。

親として大切なことは、信じる事、最悪

の場合も正面から受け止め、否定しない。

子供の最も近い理解者であって欲しい。

18

国も生活保護受給者を増やしたくない。

親も子供を生活保護受給者にしたくない。

しかし、子供はどうなんだろう。

自分が自分らしく生きられるなら、生活

保護受給者に成ることも厭わない。そう

考える若者も少なくない。自分らしく生

きられない人生に、夢や希望を持てない

若者たちに、ひきこもりが多い。

ひきこもり脱却で大切なことは、まず

「生きる事」だ。

今までの「就労支援」は、「生き方支援」

に移行しなければならないのではないだ

ろうか。

引きこもっている人に、生きるために

は食べて行かなければならない。食べて

いくためには、働かなければならない。辛

いことも我慢して働かなければ食べてい

けない。と説いても反応は無い。扶養され

ている限り、実感もない。

我慢して働くこと自体を、自分らしく

ない生き方として考えている。自分らし

くない時間の為に、自分の時間や自分の

人生を使いたくない。その究極的結果が

自死の範疇にまで及ぶことがある。

生きようとしていない者に、生きるた

めの「我慢」「努力」を説いても無駄だ。

まずは、「生き方支援」で生きる意欲を

支援することが、優先される支援になっ

てきている。それが今の引きこもり支援

ではないだろうか。

■生きがいってナニ?

昔の人の話を聞くと例えば

学生運動であったり、新しい

文化の創出であったり、

みんなで一緒に、何かへ向か

っていたようにみえる。

今の私たちには、そんなモ

ノがない。満ち足りていて夢

中で向かえるモノがない・・・

お金さえあれば、何でも手

に入るし、家が出なくても、

ネットで買い物はできるし、

情報も手に入る。SMS で友達

もできる。外へ出れば、いら

ないお金も使わなきゃならな

いし、つまらないことでトラ

ブルに巻き込まれたりする。

なんだか解らない時間と金の

無駄遣いで疲れるのは嫌だ。

間違ってもいい、失敗でも

いいから、仲間と一緒に目指

せるものがあったらなーー

そんなものがあれば、うまく

いかなくても、達成感がある

だろうなと思う。

今の社会って簡単に何でも

手に入るから、頑張る気にな

りないし、生きがいってナニ

なのか解らない。

19

9. 支援者の声を聞いてみる

支援員や支援する関係者の声を聴くと

必ず出てくるのが、生活保護政策。

高齢化した引きこもりや障害のある人

たちは、福祉国家として生活保護の受給

で最低の暮らしは何とか保証される。

この仕組みの在り方が、就労意欲の安

易な方向への逃げ道になっているのでは

ないだろうか?

日本の生活保護政策は、お金さえ与え

ていれば生活できる。というバラ撒き体

質。現在の生活保護政策は、働いた収入分

だけ生活保護費から差し引かれる仕組み

だ。しかし、社会参加が苦手な人たちが、

苦手な分野も含む社会で、対等に働き、同

じ給与が得られるとは限らない。それな

ら、中途半端に働かず生活保護だけに頼

る方が「楽」な暮らしができる。と考える

受給者も少なくない。

「ある程度」でも、働く方が国にとって

も本人にとっても有益な事なのに、数字

の上で考えると日本では働かず、生活保

護を受ける方が楽な暮らしになる。と言

う現在の仕組みに、「?」がある。

欧米では、生活保護費は現物支給で、食

費も食券の配布となり、食料品としか交

換できない。遊んだり、嗜好品を購入した

い場合は、何でもよいから自分で働き得

たお金でしか賄えない。タバコが欲しい、

酒が飲みたいなら、何でもよいから働く。

これが、就労のきっかけになる場合も、

少なくない。

20

日本の場合、食費を節約すれば、たばこ

も酒も、パチンコなどギャンブル費用に

も、自由に使う事が出来る。究極は生活保

護ゴロと呼ばれる不当受給者もいる。

そういう楽な逃げ道があるのを横目で

見ながら、支援者はひきこもりに就労を

勧める。就労の難易度が高いケースでは、

つい、生活保護受給を勧めることになる。

就労意欲を高めるバックアップになる

生活保護政策には出来ないのだろうか? 就労には、社会の一員と認められている

役に立っているという自負、自分にでき

たという達成感が必要だ。

体は元気なのに、働かなくても生活費

は毎月安定して受給できる。となると、時

間が余る。することがないから、ギャンブ

ルで時間をつぶす。寂しさを紛らわすた

めに酒に依存する。病気になっても医療

費は無料だから、健康管理などする気に

ならない。悪循環にブレーキは無い。

社会参加が難しい人は、社会の中で自

分の能力を上手に出すことができない。

それが出来るなら、ひきこもってはいな

い。障害のない人たちが普通に乗り越え

られるハードルが乗り越えられないから

ひきこもっている。しかし、苦手なのはそ

の一部分で、全てが出来ない人ではない。

それを、社会が理解する必要はある。

個々に持つ強みや得意を活かし、一般

の人と対等に能力を発揮できる就労の場

と、それをバックアップする仕組みが欲

しいと強く願う。

21

10. ワークショップ 官・民・福の共通認識

何らかの疾患や障害がある場合は、医

療や福祉サービスを受けているケースが

多い。しかし、健常であっても引きこもっ

ている間に、二次障害が発生しても気づ

いていない場合がある。この支援制度の

隙間の人たちへ、どのような支援が、どの

ようにすれば、届くのであろうか?

今回のワークショップで、ひきこもり

の 1.背景、2.現状、3.社会参加に必要な支

援の仕組み、を考えた。

1.背景

・高度成長期を経て、社会全体が裕福に

なった。

・親たちは学歴社会となり学歴さえあ

れば、努力さえすれば、豊かな暮らし

が手に入る時代を体験してきた。

・将来設計のないまま、学生生活をおく

った若者が増えた。

・終身雇用の社会の仕組みや新しい働

き方が生まれた。

・子供たちにはインターネットの普及

でバーチャルな世界観が育まれた。

子供たちはインターネットの普及や子

どもの遊び方が変化したことによる社会

的(対人関係)技能の低下がみうけられ、

過剰な競争社会や勝つことを諦めた若者

の無気力が生まれた。さらに、親世代の経

済的余裕と子世代の働くことの価値の相

対化が、家族の会話をかみ合わないもの

にしている。

■アウトリーチ事業者

引きこもっている人の所へ訪

問して、社会参加をサポートす

る業務をアウトリーチと呼ぶ。

自立支援又は福祉支援を受けな

い人には民間のアウトリーチ業

者が対応する。しかし相場が決

まっていない為、高額な場合も

ある。

①自宅を度々訪問し、信頼関係

を築き、外出に始まり就労に向

けてハローワーク等の同伴を行

う業者。

②自宅を訪問し、説得して施設

へ収容し、生活姿勢から矯正し

就労までサポートする業者。

③強制的に施設へ入所させ生活

姿勢から矯正する業者

どの事業者の手法が適切なの

か、家族にもわからない場合が

多い。引きこもっている本人の

性格、ひきこもりの度合い等、

各々の適不適の違いがある。

中には膨大な費用を要求する

事業者がいる。家族は民間業者

の場合、どこへ相談するべきか

判断できず、迷ううちに長期化

する場合も少なくない。

22

2.現状

・社会性や学力などの面で、もともと同

年代の仲間についていけないところ

があり、ここに至るまでに、すっかり

自信をなくしてしまった。

・生活全般にわたって意欲や活力が著

しく低下している。

・不安や緊張、恐怖感のために社会的活

動が著しく制限されており、本人も

そのことを悩んでいる。

・何とかしなければと思っているが、失

敗を恐れる気持ちが強すぎて、何一

つ行動に移せない。

・自尊心が傷つくことに過剰に敏感で

あり、そのような場面を頑なに回避

している。

・社会へ自己実現の希望を抱いている

が、プライドが高すぎて、頭を下げた

り、コツコツ努力はしたくない。

・不安・恐怖感は刺激を回避することで

軽減し、本人は現状を変えようとは

考えず、社会に緩和対応求める傾向

にある。

・依存的、他罰的な傾向も強く、自ら問

題を解決しようという動機付けは曖

昧である。

これらの問題は、精神医学的には統合

失調症や気分障害、不安障害、パーソナリ

ティ障害、精神遅滞や広汎性発達障害な

どの診断カテゴリーに分類される。しか

し、本人も家族もそれに気が付いていな

い場合がある。したがって、ひきこもりが

潜伏してしまう為、支援開始が遅れ、長期

化、高齢化している。

■相談支援専門員 自立支援の福祉サービスを

受けると、相談支援専門員の

計画相談が受けられる。

医療・福祉・行政支援を含め

生活等総合的支援が受けれる。

岡山県内でも年間 200 人を

超える有資格者を創出してい

る。しかし、現場でこの業務

に就くものは少ない。

現在、1 人の相談支援専門員

は 1 月 200 人の相談に対応

している。

訪問支援を開始し、信頼関

係が構築でき計画相談にこぎ

つけるまでは時間がかかる。

時には数か月かかる場合もあ

る。その期間は無償である。

そのため、相談支援専門員は

退職者が多い。単体の相談支

援事業所は職員不足で、閉鎖

する事業所も出ている。

需要があり、有資格者の人

材は育成されているのに、結

びつけない現状がある。

経費全額が親の個人負担では

負担が大きすぎる。

23

3. 社会参加に必要な支援の仕組み

福祉国家として様々な支援の仕組みが

作られてきた。又、専門家も育っている。

しかし、うまく活用されない問題がある。

個人情報を守るため、当事者又は家族か

ら、申し出がない限り支援の手は出せな

い。

ひきこもり当事者、又はその家族が、精

神医学的な問題だと認識している場合は、

医療機関や福祉機関へ相談している。

よって、早期に専門家から指導により、

治療又は福祉サービスを受け、社会参加

へ向かっている。

課題は、当事者又はその家族が、精神医

学的な問題だと認識していない場合だ。

A. 精神医学的な問題だと認識した場合

1.当事者又は家族が相談窓口へ行く。

学校・行政窓口・病院などの各機関

でカウンセラーやケースワーカーか

ら、アドバイスを受ける。

医療から治療、福祉から福祉サービ

スが始まる。

2.相談支援専門員が、各方面と連携し

個別支援計画を立て、社会参加でき

るまでの伴走者として、支援する。

3.就労した場合も、定着まで支援し、挫

折の場合は、又、新たなプログラムで

支援を継続する。

24

B. 精神医学的な問題だと認識していない

若しくは、認めたがらない場合

潜伏しているため、当事者又は家族か

らの相談や依頼がなければ手立てはない。

まずは、相談に来てもらう事から始まる。

課題 1. どうすれば支援の機関や窓口の

情報が届くか?

学校、地域との連携で早期発見

はできるがプライバシーの侵害

になってはならない

課題 2. どんな窓口が相談に行きやすい

か? (信頼されるか)

*悪徳業者のニュースもある為

課題 3. 現在の縦割り、部門別、団体別

では、スムーズな引継ぎが困難

課題 4. スムーズな引継ぎの為には、ア

ウトリーチから就労定着もしく

は「生きやすい場」への定着を

継続してサポートする伴走者が

必要

課題 5. ・伴走者は福祉サービスに在す

る相談支援専門員が適切だが

人員が足らない。また採算が

合わず閉める相談支援事業所

もある

・相談専門員有資格者は多く創

出しているが、実務につく人

材がいない

潜伏している当事者への支援に、上記

のような課題が、浮上してきた。 ひきこもりサポーター会議

25

★解決するべき目標とハードル

(B

ケースの場合

)

・・・ステークホルダーで支えるインフォーマルな伴走支援チーム

+

居場所要件

・同じ趣味

・似た環境

・同じ世代

・共通目標

・無理しなく

てよい

・通いやす

い場所

・得意が

活かせる

・好みの人

がいる

・苦手な人が

いない

個別訪問支援

アウトリーチ

理解者関係支援

同行外出

信頼関係支援

友だち的関係

自立

社会参加

仲 間 づ く り

★担当者が継続すれば挫折しても居場所

(仲間

)の所へ戻れるからそこからやり直せる

◆仕組み

①居場所兼就労体験店舗→居場所に併設した就労体験店舗で慣れた仲間と働き就労体験を積む

②就労体験店舗で自信が付いたら同職種へ就職→就職先との連携で特性を伝え後方支援を継続

③挫折した場合、居場所からやり直す→安心して戻れる居場所兼就労体験店舗の安定運営

💛連携チーム

呼びかけ中

■早期発見、早期対策に向けて

地域・学校との連携

学校からの情報提供

愛育、民生委員からの情報提供

個 人 的 信 頼 関 係 づ く り

本人が選べる

多様な居場所が必要

本人が選べる

訪問支援員

役 割

学 地

課 題

課題は

ひきこもりの社会的孤立解決

目的は

誰一人取り残さない社会

目標は

解決に向けての連携

ピアサポーター・ペアレンツメンター

家族会

無所属相談支援員有資格者

体験者フォーラム・リカバリー大学

☆ ワークショップ まとめ 体験者・産・官・学・民・医・福・地域の連携フロー図

B. 自立支援サービスを拒むひきこもりの場合

● 訪問支援から社会参加定着まで一貫した支援の仕組み

26

11. 8050 脱却を考える

■2018 年 8 月 24 日シンポジューム

会場 岡山大学 Junk-HOOL

主催 NPO 法人まちづかい塾

協力 市民の会エスポアール岡山

NPO 法人リスタート

支援が必要な子の親の会たんぽぽ

きらめき障害福祉会

就労支援事業所 SEED3

パネラー

◇小野善郎 精神科医師

和歌山県立医科大学卒業。同附属病院研修医、国保日高総合病院

神経精神科医員、和歌山県立医科大学助手、和歌山県子ども・女性・

障害者相談センター総括専門員、宮城県子ども総合センター技術次

長、宮城県精神保健福祉センター所長を歴任。

2014 年 4 月より和歌山県精神保健福祉センター所長

◇南 芳樹

認定 NPO 法人ハートツリー職員。事務局次長。「若者サポートステ

ーション With You 南紀」訪問支援員

伴走型支援や地域ネットワーク支援を活用した若者支援。本人や家

族からの総合相談支援・アウトリーチ担当

◇目良宣子

山陽学園大学教授・保健師

前任地、和歌山県田辺市健康増進課ひきこもり相談窓口で当事者家

族、当事者の相談支援。山田氏と共に家族会活動展開中

現在、全国のひきこもり家族会「エスポアール」世話人

◇松岡克朗

岡山市役所 保健福祉局保健福祉企画総務課

在宅医療・介護の推進など医療政策に携わった後、現在、保健福祉

企画総務課で地域共生社会を担当。2018年3月に岡山市で新た

に地域共生社会推進計画を策定し、今年度から8050問題など複

合課題を抱える世帯への総合的な相談支援体制づくり進行中

27

平成 20 年代に、日本経済の不況のあお

りを受けて、若者の労働環境が悪化。新た

に20代、30代でひきこもる人が増えた。

こうした中、国や自治体による支援も

強化されたが、その多くが就労をゴール

とするものだ。ひきこもり当事者に問題

があるという前提のもと、「社会に適合」

させるための訓練に重きが置かれ、当事

者たちの「回復」に至らず、長期化する人

も多く残った。

行政関係者、当事者家族の方、支援団体、

支援者、ひきこもり体験者など 235 人の

参加が、和歌山の先進事例を学びあった。

40 歳 50 歳・・ 引きこもったまま高齢化は進む

40 歳以上のひきこもり人口は

日本国内に約 61 万人以上 岡山県内に約 4000 人

扶養している親が居なくなったら どうするのか・・

■タイムテーブル

12 時半 受付開始

13 時 スタート

司会 ことは やこ

挨拶 目良宣子教授

13 時半 和歌山の事例報告

小野善郎医師

14 時 和歌山の事例報告

南芳樹訪問支援員

休憩

15 時 意見交換会

進行 目良宣子教授 15 時半 質疑応答

16 時 閉会

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事例報告 田辺市のひきこもり支援

田辺市引きこもり相談窓口 設置経緯

S63 和歌山県教育相談センター プラットホーム設置

H05 不登校児親の会 開設

H11 不登校児青年サークル 開設

H09 当事者家族らの声を受け、議員による一般質問

H12 市長が議会答弁で年度内の相談窓口設置を明言

H13 引きこもり検討委員会設置 1 月

H13 引きこもり相談窓口の設置 3 月

*引きこもり相談窓口は田辺市保健福祉部健康増進課内に設置すること

で 相談しやすさを図る

*H13~H13 年度までの 11 年間で 6822 件の相談を受付

*内容・・背景の見極め

本人相談・家族相談(自助会・家族会)・訪問相談

関係機関紹介

H16 「ひきこもり」者社会参加促進事業

「ひきこもり」者社会参加支援センターへ県の運営補助

保健所と精神保健福祉センターに相談窓口設置

・ひきこもりお助けネット事業

相談・居場所提供・社会体験支援・就労支援 等

・「ひきこもり」者社会参加支援センター

エルティシオ ハートフルハウス

ハートツリー あずまプラッツ

(指定センター4 件 現在)

H21 精神保健福祉センター内へ「和歌山県ひきこもり地域支援センタ

ー」を設置

*「ひきこもり」者社会参加支援センターの機能として

・精神科医、精神保健福祉士、保健師、臨床心理士等の

専門家による支援方針検討制度の追加

・社会体験事業の追加

H22 子ども・若者総合相談センター「With You」開設

H23 若者サポートステーション With You 開設

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田辺市ひきこもり支援ネットワーク

ひきこもり

検討委員会

年 2 回

公的機関 民間機関

ひきこもり

検討小委員会

月 1 回

ほっこり会(家族会) 知音 CHI-IN(自助会)

南紀医療福祉センター 学識経験者

NPO 法人かたつむりの会 NPO 法人共生舎

(公社)白浜田辺青年会議所

市担当課(保険・福祉・教育) 田辺保健所 紀南こころの医療センター

やおき福祉会 ふたば福祉会 ハートツリー(居場所)

南紀若者サポートステーション 学識経験者・臨床心理士会

市担当課(商工・福祉) 紀南児童相談所 田辺市教育教育研究所 田辺市養護教諭研究会 各高等学校

電話・メール・来所による相談

継続支援

本人支援 家族支援

適切な機関の紹介

家庭訪問

継続支援 自助会 女性の会 男性の会

自助グループ ひきこもり支援ネットワーク機関等への紹介

居場所・就労支援など

家族会(ほっこり会)

相談の流れ

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◇・支援の流れ・◇

アウトリーチ・訪問支援 ↓

本人との面談支援 ↓

相談員同伴の外出体験 ↓

仲間づくり(居場所体験) ↓

居場所仲間と共に働く社会体験

新しい「働き場」「生き場」の創造

家から出ることが出来るようになっても 人と接することは苦手、対人恐怖がトラウマとなっていたり、

働くスキルがないなど、いきなりの就労は失敗する場合が多く

失敗の経験は、より一層の自信喪失となる。

再びひきこもっしまうと再チャレンジは、当初より困難になる。

ひきこもりリターンを防ぐために 信頼できる、心を許せる仲間(居場所仲間)と共に働く場において

一般の人たちと接する機会をつくり、社会との接触に慣れる場、

新しい働き場、生き場で社会体験を重ねる。

失敗で馬鹿にされない、各々の特性「出来ない」を理解してくれる

仲間がそばにいる、特性に合わせて支援するサポーターがいる

その安心感が、一般の人たちとの接触を勇気づける。

自信が付いたら

希望が出れば、一般就労へ就職チャレンジ !!

ここが生きやすければ此処でスキルを磨く。「出来る」を増やす !!!

半年~1 年

3 年程度

部屋の外から

アプローチ

信頼関係構築は

時間で計れない

世代との交流

勇気付け

31

なぜ居場所から一般就労の間に「働き場」が必要か?

福祉サービスの就労移行は、2年間の職業訓練、就職に必要なスキ

ル訓練を経て、一般就職(常勤、非常勤、パート 含む)へつなぐ。

その後も半年間、定着支援として支援を継続。しかし、利用期間が 2

年間と決まっており、期間を過ぎると利用できない。また、利用者の

年齢制限もある。そもそも、ニート支援として作られた支援事業の

ため、ひきこもりの特性に合致していない部分がある。

さらに就職先では、その会社の担当者にバトンタッチする為、担

当者の特性に対する理解や特性に合った指導方法、支援処方が伝わ

らない。言葉の上だけの「合理的配慮」がそこにある。

従って、就労移行サービス期間は大丈夫であっても、一般の職場

では、その能力を発揮できない場合がある。まずは、担当者との信頼

関係を最初から築く必要が出る。その期間に、挫折し、ひきこもりを

再発する場合が多い。

失敗体験は以前より警戒心を強め、ひきこもり度合いを深くする。

支援者に見放された感もあり、次の支援者へ、心を開くに時間がか

かる。二度と心を開かない場合もある。

理解者の集う居場所や、専門の相談員がいる就労移行事業所へ参

加できる事と、一般就労先とでは大きく違う。

そこで 生まれたのが居場所と一般就労の中間にあたる

「働き場」「生き場」

ここは居場所と並列しており、同時にどちらも利用できる。

職場は、居場所の仲間と同じ顔ぶれで、居場所の延長として働く。

仕事は、一般就労と同じ。ただし、周囲は全員が理解者や支援者。

失敗は失敗として対処されるが、馬鹿にされない。いつも対等であ

る。ここで自分の「出来る」のスキルを高め、自信と勇気を育む。

ここに、期間制限は無い。自信がつくまで、ここで働ける。

自信が付けば普通の就職に進む。仲間との信頼関係がここにある

から、一般就労で失敗しても、此処へ戻ってくる。自宅へ引きこもる

ことは無い。又、此処で働きながら、自分の生き方を考えればよい。

32

◇ 小野善朗医師の事例報告 写真抜粋

33

34

◇南 芳樹 訪問支援員の事例報告 写真抜粋

若者の総合相談担当

アウトリーチから居場所

居場所からお試し就労「働き場」

その人のペースに寄り添う支援

出口定着まで一人が寄り添う

35

不安・不信を取り除こう !! 新しい仕組み「社会参加支援センター」

居場所の要素+就労体験で安心と自信を育む

36

まずは 信頼関係から !! 家族が変わる事が優先

ありのままの自分の子供を 知っていますか?

37

「8050脱却を考える」シンポジュームを終えて

市民の会エスポアール岡山(家族会)のご縁で、目良宣子教授から和

歌山県田辺市において、ひきこもり支援が先進的取り組みをされて

おられることを知った。岡山市がこれから取り組もうとしているひ

きこもり支援計画の参考に、そして、何とかしたいと手探りの高齢

化した当事者家族と情報を共有したいと思い、今回の開催となった。

2018 年 7 月「晴れの国おかやま」の住民は、想定していなかっ

た西日本集中豪雨の被災を受け、開催は危ぶまれた。本来ならばご

欠席されても致し方ない状況の中であるにもかかわらず、講師をお

願いしていた小野氏、南氏は豪雨で被災を危ぶまれる最中の田辺市

から、地元を心配しながらの来岡。被災された地域からも集まり頂

き、皆さんの協力でシンポジュームは開かれた。8 月 24 日、豪雨

が嘘のような晴天の下、200 人を超える参加者となった。

小野氏から「放っとけやん」と、早くから住民が立ち上がった和歌

山県民の草の根活動、そしてそれを受けて、資金と仕組み両方で、こ

の課題にいち早く取り組んだ和歌山県行政の姿勢を紹介された。民

間だけでは資金に限界がある。国の補助金事業には縛りがある。民

間支援事業に、県独自の行政資金を出したことは画期的だ。

さらに、産・官・学・民・医・福そして地域の連携が取れていることに

驚かされた。有志によって作られた居場所。ひきこもり青年を受け

入れる「場」の提供。これら住民自ら、危機感をいち早く察知し動き

始めている。そして、住民の動きに行政が、速やかに動いた。素晴ら

しい官民一体だ。

その連携の要となっているハートツリーの南氏の現場でしかわか

らないひきこもりの現実、支援の姿、ポイント。支援者の担うべき役

割など、大変参考になる話が満載だった。

このシンポジュームで得た知識と情報を、ぜひとも当地で活かし

ひきこもりで悩む家族に、一隅の希望が見えることを心から望む。

ひきこもりサポート会議 一同

38

8050 脱却を考える シンポジューム風景

39

12. 講演会に向けて事前映画会

2019 年 1 月 26 日開催、山本昌知医師の講演会に向けて、事前

の映画「精神」を観た。

「精神」は、山本昌知精神科医師が開設した診療所「こらーる岡山」

の診療風景と患者の姿を追ったモザイクのないドキュメンタリー。

すでに閉鎖された「こらーる岡山」を知らない人にも、独自の診療

で、真摯に患者に向き合ってこられた山本医師を知っていただこう

と企画した。

・第 13 回釜山国際映画祭最優秀ドキュメンタリー賞

・第 5 回ドバイ国際映画祭最優秀ドキュメンタリー賞

・マイアミ国際映画祭で審査員特別賞

・香港国際映画祭で優秀ドキュメンタリー賞

・ニヨン国際ドキュメンタリー映画祭審査員賞

ひきこもり、心を病んだ人が

山本医師と数分話すだけで

心が軽くなると言う

80 歳を超えて今も現役で

診察を行う

どんな言葉が

閉じ込められた心を軽くするのか

ぜひ知りたい

当事者の家族の方たちに

ぜひとも知って欲しい

山本医師を知っていただくために

まず 映画で紹介することにした

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小さな診察室

書類に埋もれた机

山本医師は そこで患者を一瞥すると

カルテに目を落とす

それで・・・調子は どうなん?

普通に ごくごく普通に尋ねる

穏やかな口調が 父親の声に重なる

背を丸めた患者が 話し始める

小さなことまで

延々と 話が続く

山本医師は ただ うなづくだけ

背を丸めた患者が消え入りそうに

小さなことまで

延々と 話が続く

患者の話が終わると

山本医師が問う

そうか・・・で、自分は どうしたいの?

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13. 生き方を考える 山本昌知医師講演会

■2019 年 1 月 26 日山本昌知講演会

会場 岡山シンフォニーホール小ホール

主催 NPO 法人まちづかい塾

協力 市民の会エスポアール岡山

NPO 法人リスタート

支援が必要な子の親の会たんぽぽ

きらめき障害福祉会及び関係者

司会 中村恵美

講師 山本昌知医師 プロフィール

1936 年岡山県生まれ。

岡山大学医学部卒業後、医療法人広知会青山病院に勤務。

1972 年岡山県精神保健福祉センター所長。

■1997 年「こらーる岡山」診療所を開院。2016 年閉院。

短期宿泊も受け入れ、居場所併設の診療所として寄り添ってきた。

■「当事者の主体性の回復」を提唱。山本医師は日々の診察で、周り

に悩みや不安を打ち明けられず孤立する患者を多く見てきた。「自

分らしさを出せる人間関係が社会に不足している」として医療や

福祉の枠に囚われない居場所づくりを考えコラール岡山診療所を

開設。退官後その意志は現在、大和診療所に引き継がれる。

■2018 年 8 月、山本医師が発起人となって岡山市内に「愚痴庵」

設立。「単なる愚痴でもいいし、参加者同士で趣味の話や哲学を語

り合ってもらってもいい。多様な人たちが集まり、自らの生き方

について学び合う場にしたい」と話している。

■愚痴庵 2018年 10月スタート

毎月第1月曜と第3日曜の午後1時~4

時、岡山市北区岩田町にある地活センタ

ーミニコラの 2 階、カイロスで開催。

周りに悩みや不安を打ち明けられず、孤

立する患者を多く見てきた。医療や福祉

の枠に囚われない居場所づくりを考えた。

元日本精神神経学会理事長佐藤光源

元県衛生部長大森文太郎・万成病院名

誉院長・黒住教の黒住宗晴名誉教主な

ど、専門の方々が協力し開設となった。

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山本昌知医師 物語り

「病気はあなたのほんの一部。とらわれちゃいかんよ」

山本医師の原点は駆け出しで赴任した病院での体験。

患者たちが治療らしい治療を受けないまま何十年も入院。

病棟は無断離院を防ぐため、出入り口には全て鍵がかけられていた。

「人として尊重される環境ではなかった」と山本医師。

なぜ病室に、鍵が必要なのか?

鍵をなくそうじゃないか、と対話を重ねるうちに患者たちは「自分

たちもおかしいところがある。鍵に支えられているところがある」

と言い出した。看護師からも「患者さんのためじゃなく私たち自身

の安心のために鍵をかけている」と言う。

対話を繰り返し、人として互いを尊重する信頼関係の必要を説き

6年後、再びその病院に戻ると病棟の鍵を外し、退院に力を注いだ。

だが、在宅を支える体制がないため、患者はすぐ再入院してくる。

当時は「キャッチャーのいない所へボールを投げ込むようだった」と

振り返る。

世間体を気にする家族。身内にさえ病気を隠す者もいる。

そんな孤独が、病気を作ると考える。

「人との関係が弱ければ治るものも治らない」

「病を抱えても孤立せず、その人らしく生きられる地域づくりをし

たい」と山本医師は話している。

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講演会で

山本先生は、次のエビソートを話された。

ある日、10 年以上も私の患者だった人から言われたことがある。

「私は、自分を変えなくては、とずーーっと悩んでいました。しか

し、変われない。そんなある時、先生は私に変わらんでもいいよ、と

言われました」

「そう思うと、気が楽になりました。私は 10 年の間、何をしてい

たんだろう、そう思いました」と患者が言った。

山本医師は、言葉を続ける。

「儂は、その君に悪いことをしたと思う。人間、そう簡単に変われる

ものでは無いんよ」

「あんたは、あんたじゃ。変わらんでも生きていけるんよ」

「長い間、失礼なことをしてしもうたなーー」

「人が生きていくのに、こうでなきゃならん。ああでなきゃに成ら

なければならない、なんて決まりは無いんよ」

「あんたが、一番、楽な自分で居ることが、一番いいんよ」

「長年医者をしていて、そう思った。無理をしちゃいかん」

「自分が何者か、どんな人間なのかを知りなさい」

「そして、生きやすいように生きればいいんじゃ」

と、山本医師は患者と話したそうだ。

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事前予約プラス 10 名分で準備していたが、開演前の当日参加者

が多く、開演間際の飛込もあり、126 名の参加となった。スタッフ

は配布資料を増やすために、事務所のコピー機へ走り、急遽、椅子を

壁際へ並べた。スタッフを含むと 145 名。定員 100 名の部屋が、

箱詰めになった。参加リストを見ると、2 時間はかかる県内いたる

所からも多くの参加があった。山本医師は「こらーる岡山診療所」が

閉院して 2 年。その後も週に何度か診療を続けている。型にはまら

ず、約300人の通院患者の話に時計を気にせず耳を傾けてきた山

本医師の言葉を一つとして聞き逃すまいと、参加者は聞き入った。

「人との関係が弱ければ治るものも治らない」

「人間を生産性基準でしか見ず、数値化できる部分だけ評価する。

社会の価値観の狭さが病を生産する」

レジュメも何も資料を作らず、山本医師は懐古するように語った。

シンポジューム、講演会を経て

45

14. シンポジューム・講演会を終えて

「8050 を考える」をテーマに、夏と冬に多くの方と話し合う機会

ができた。行政関係部署、福祉関係者、就労支援団体など支援関係者

だけでなく、ひきこもり体験者、ひきこもりを抱える家族、そして、

引きこもっている当事者。

皆それぞれの立場で「今、何かしなければ」と情報を求めていた。

私たち、ひきこもりサポーター会議は、小さな支援グループでし

かない。私たちにできることは、多くの関係者が個々に「何かしなけ

れば」と考えている想い、知恵、能力、人力、時間、そして資金をつ

なぐ事。支援ネットワークづくりを進める一石になることしかでき

ない。私たちだけでなく、今回を機に各々が周囲と協力をするきっ

かけになる一石を投げてくれれば、一石一石の波紋がつながり、大

きなうねりが生まれるのではないだろうか。

私たちは、ひきこもりの人たち、自分の居心地の良い所へだけ出

かけられる人たち、ニートの人たちへ、就労支援することが、社会参

加の唯一の道と考えてきた。

しかし、ここに来て、今更就職は困難な人たちがいることが解っ

た。20 代から就職に失敗し、少し休養のつもりが、どんどん時代の

流れに取り残され、社会体験が少ないまま高齢化している。そんな

50 代以上の人たちに、今更、どんな就労があると言うのだろう。定

年制が廃止されたとはいえ、普通でも 50 歳以上の転職は難しい。

決して差別ではない。生産性・効率性の観点から、盛りを過ぎた人材

は、欲しがられない。数字がすべてを語る現在の競争社会の中で、生

産性の低い人材を雇う余裕はない、と企業は言う。生産性が低いう

えに、特性がある人を雇用すると、そのサポート役をひとり用意し

なければならない。人件費は二倍になり、効率は落ちる。さらに、職

場において他者との歩調のずれで、トラブルが起きやすい。補助金

が出ても、お金で解決できない問題が出る。

こう言う企業がまだまだ多い中、合理的配慮という明確には定義

できないものさえあれば普通に働けます。と言われても受け皿は増

えない。共生社会と言う言葉を、よく耳にするようになったが、共に

就労しなければ、共生社会へ入られないのであろうか。共生とは、字

のごとく「共に」「生きる」社会の、はずである。

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国は、納税者が減り社会保障費が増える。この現状を回復させる

ために、就労可能な年齢は働くように勤労を言う。働いていないひ

きこもりの人たちが社会復帰できて、納税者側になれば一石二鳥と

の考えなのか、就労支援事業の対象年齢を 40 歳から 65 歳へ上げ

た。働けるうちは働けるよう、定年制も廃止の方向へ進んでいる。お

かげで、生きがいを持って現役を続けられる人が増えた。一方、70

歳を超えた人が仕事中に事故にあう。80 歳に近いバスの運転手が死

亡事故を起こす。など経年による能力低下が事故につながることも

少なくない。機械化が進む中、機械に疎い高齢な人材は、肩身の狭い

思いをする職場が増えている。

引きこもっている間に高齢化した人たちへ、自尊心を守れる職場

があるのだろうか。いささか疑問に思う。仕事があればよい、と言う

ものではない、のではないだろうか。職場でいかに達成感を持ち、自

尊心を満たすことができるか。人が人として、生きがいを感じられ

る職場であるかが、大切ではないだろうか。引きこもり当事者には、

単にお金の為だけに働くことに、抵抗感を持つ人が多い。お金だけ

の為に労働するのではなく、生きがいとして「はたらく」そういう

「働き場」を求めている。たとえ生産性がなくても、それを一つの社

会参加の姿と、認められないだろうか。

引きこもっている人たちは「自分らしく生きたい」と共通して言

う。これはひきこもりに関係なく、人間だれもが思う事だ。生活の

為、職場では「自分らしさ」は控え、協力・協調しあう。そして帰宅

後や休日の自分時間に「自分らしさ」を取り戻し、心のバランスを図

っている。しかし、いつの間にか昭和世代は、職場時間とプライベー

ト時間の境を見失ったようだ。サービス残業、休日接待、等々。ブラ

ック企業の表れも、昭和世代の価値観の影響がある。ゆとり世代の

若者の価値観とは、明白に分かれている。さらに現代の若者は、職場

においても自分らしさを譲らない。「自分らしく生きたい」=「自分

らしく働ける職場」・・。今すぐには難しいが、世代が変われば、そ

ういう価値観の会社が増えるのだろう。今は、過渡期である。

「自分らしく生きたい」という若いひきこもりの 40 代くらいは

就職による社会参加は難しくない。しかし、順応力が衰え始め、新し

いことが受け入れにくくなる 50 代以上のひきこもりの人たちへ、

どんな職場を用意できるのだろうか。

昔は高いスキルを持っていたとしても、経年の衰えは否めない。

47

就労移行事業所の職員が言う。

「65 歳未満と対象年齢が引き上げられたけれど、実際、紹介できる

職場は難しい」「20 年ほど前に働いていた経歴も、今の進歩の中で

は、使えない」「希望職種が機械化され、機械のオペレーターの募集

しかない、今からオペレーター資格は取りにくい」「学歴が高い場合、

企業側から敬遠される」「管理職より年齢が大きいと、敬遠される」

など、ハードルは高く、門扉は狭い。

さて、「自分らしく生きる」へ視点を変えて考えてみた。共に生き

る共生社会は、お金に換えられる生産性がなくても、社会参加でき

るのではないだろうか。直接お金に換えられる生産性を考えなけれ

ば、長年ひきこもって来た人たちを、社会参加させること道が開け

るのではないだろうか。

例えば、朝夕の通学路の見守り、被災地の復興支援、地域活動な

ど、志があっても時間がなくて出来ない人たちの代わりにはたらく。

代わりにそのような役割を担う事で、社会に参加できる。

・・・など、 ふと頭をよぎった。

しかし、労働するからには、対価は欲しいだろうなーー

そこで、思う。ひきこもっていた期間を、無駄だったと感じさせない

就労は無いだろうか。

例えば、対人が苦手な高学歴の人には、模擬テストの採点とか

コンピーター関係が得意な人は、自宅でできるパソコン作業 等々

探せばある。これは対価に変わる。納税者になる可能性もある。

ひきこもったまま高齢化した人たち専用のハローワーク窓口、あ

ったらいいな。シルバー人材センターとはまた違った内容になる。

ひきこもった人たちは、障害者就労支援や就労移行事業を利用する

ことに抵抗のある人もいる。

現状が病的な一面を持つこ

とを否定している人も多い。

その自心を壊さない支援が

必要だと感じる。

国は削減したい方向では

ある。しかし最悪の場合は

生活保護受給で、最低の生

活の保障がある国であるこ

とに感謝したい。 ひきこもりサポート会議

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まずは「生きる」意欲を育む必要がある。そのためには、信頼でき

る人と共に考え、最初の一歩を踏み出さなければ、ひきこもったま

ま、孤独死が先に待っている。せっかく生きているのだから、生きが

いある日々を送れるように、支援の方法を考えたい。

世の中の役に立ってないと

人はダメみたいな価値観があ

る。生産性がなくても、それ

なりに生きて良いという肯定

感を持たせる事は、できない

だろうか。

山本医師の言った言葉が浮かぶ。

「自分が何者かどんな人間なのかを知りなさい」

「そして、生きやすいように生きればいいんじゃ」

「自分らしさを出せる人間関係が、社会に不足している」

山本医師の言葉は、引きこもって

いる人たちの救いになることも、

なんとなくわかる気がする。

まずは産官学民医福、地域が

連携し情報を共有して、潜伏し

ているひきこもり当事者と、接

触する事から始めなければなら

ない。この最初のハードルが高

い。隠そうとしてきた家族が、

しびれを切らして、相談窓口を

探し始めた。国も乗り出してき

たから、窓口は近々に広がるだ

ろう。支援プログラムも進み始

めている。

まだ進まないのは横の連携。そして、出口の確保。

就労だけを目的にすれば、又、ひきこもる人が出るのは目に見えて

いる。就労以外の社会参加のあり方を認め、その出口を作らなけれ

ばならない。単一の機関だけでは、何もできない。ぜひとも、多くの

協力と支援で、早急に就労以外の出口を用意し、安心して出られる

準備には、産官学民医福、地域の連携が、最も急がれると思う。

何歳になっても働きたいという意 欲があれば、働く場はある。 本人が「何を目的」にするのかで 生き方は変わる。 出来る事を出来るだけ出来る時ま での生き方もある

平日は働き、土曜日は居場所 自分らしさを大切にする若者

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15. ひきこもりの社会参加支援の一つとして

本会では、ひきこもり体験者など「生きにくさ」を感じながら働い

ている、もしくはニート中の若者支援を行っている。

1.居場所「夜カフェ」

2.絵本セラピー

3.アンガーマネジメント

4.当事者家族の相談支援

1.夜の居場所 2 年前の毎週土曜日 18 時~21 時

定着しているが、広がりがない。つな

がりたい気持ちはあるが、お互い誰か

の連れてくる新しい仲間を当てにして

いる。参加者たちの自由な発想で、ゲ

たり、誰かの悩みを聞いたり、他の居

場所の情報交換したり・・。

2.絵本セラピー 講師や参加者の都合で開催日はその都

度決まる。決まったら広報して新たな

参加者を増やす。共通の話題がなく人

との関りが希薄な人たちも、そこで読

む絵本をテーマにしたディスカッショ

ンで、参加しやすい。当日参加者同士

3 人程度でグループディスカッション

のため、新たな友達が広がる。

3.アンガーマネジメントセミナー 「生きにくさ」を感じる人たちは、人

間関係のトラブルになりやすい。その

時の回避の仕方は、当事者及び当事者

家族に実践的セミナーとして効果が出

ている。職場や学校でも取り入れられ

今後も社会参加に必需なスキルである。

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4.当事者家族の相談支援 シンポジュームや講演会で出会った家族の方たちが、後日、連絡

してきて相談に乗っている。当事者と会って欲しいという希望もあ

る。訪問を始めて半年では、信頼関係の構築は難しく、まだ当事者と

会うところまでは、進んでいない。

私たちの役割は、まず家族に安心してもらう事にある。家族が焦

るあまりに、当事者の周りで騒ぐと、ますます引きこもってしまう。

家族との関わりを遠ざけようとする。

私たちが何とかするのではなく、まずは家族が信頼関係を取り戻

す。これから始めるべきと考える。病院も支援窓口も、本人が行かな

ければ、それで業務や責任の範疇から外れる。しかし親子は、一生そ

の関係性が続く。親子の信頼関係が、ひきこもり脱出の基盤だ。親子

の会話がない。と言う親は多い。しかし会話がなくても、お互い依存

しあっている。信頼関係と依存は違う。お互い自立した個人として

互いを尊重する上で、信頼して関わり合う。この距離感が必要だ。ま

ずはその距離づくりから相談支援は始まる。親子は似ている。似て

いるから分からないものがある。第三者が入ることで、行き違いを

矯正し依存過剰を切り離せるようになる。何十年もの長い間、親子

の歪んだ依存生活に変化をもたらすような、特効薬はない。

各地の家族会に顔を出す親たちは、すぐに解決する情報が手に入

ると期待している。そして大概の場合、期待は裏切られる。納得でき

る情報を求めて、いろんな家族会を回る親。諦めてしまう親・・・。

山本医師の言葉を伝えたい。

「人が生きていくのに、こうでなきゃならん。あのように成らなけ

ればならない、なんて決まりは無いんよ」

「自分を知って、自分らしく生きたら良い」

子どもの生き方を認めて、親の考え方を変える。これが一番手っ取

り早いのではないだろうか。

引きこもっている当事者は、親の期待に潰れている人も多い。又、

親の価値観で縛られている自分を捨てたいと思っている人も多い。

親は、子供を勝手にさせているが自由にさせていない。時間、お金、

成績、生産性・・・数字のない時間を与えてみてはどうか、と考える。

子供たちは、数字に疲れている。そんな気がする。

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16. 支援の転機 就労支援 & 生き方支援

「8050 問題」など長期高齢化する当事者・家族の孤立が地域の

課題となる中、従来の「就労支援」から 1 人 1 人の特性に寄り添っ

た「生き方支援」へと転換期を迎えた。

多くの引きこもりが「働くよりも前に、自分らしく生きていくこ

とが大事なんだ」という人間本来の価値観を、声を上げて言い始め

た。生産性のない暮らしをしつつ、言いにくかった「働くより前に」

だ。今まで、そんなことを言えば「一人前に働いてから言え!!」と親

からの一喝で、黙るしかなかった。そして、ひきこもった。

長期に引きこもっている人に、今更、学校や仕事の選び方が違っ

ていたのではなど、探っても仕方がない。しかし、まだこれから社会

へ出ようとする人には、選び方を考えてもらいたい。つまずいて引

きこもらないためにも。

ひと昔前は、自分を殺して働き、給与を得ることに達成感があっ

た。ほとんどの若者は、小市民的将来設計で、温かい家庭を継続でき

れば、幸せを感じた。

しかし、今は就職の選択肢が多いその中で、なるべく自分を殺さ

なくて良い職場を探し始めた。しかし、やりたくて自分にできる仕

事は難しい。本人の素養や能力、失敗を乗り越える精神力が必要だ。

ところが社会は変わり、社会体験のないまま子供時代を過ごした

若者が多い。情報だけが氾濫する社会で、自分の能力を知る機会も

なく社会へ出て、躓く。本当の自分は?と躓いた人たちは、そこから

自分探しを始める。自分探しの迷路は、ますますバーチャルな自分

を作る。バーチャルな社会の中では失敗体験がないため、失敗に対

して大きな恐怖心がある。失敗体験がないから自信が育たない。負

の連鎖が自分探しの迷路の中に育つ。

いろんな働き方、いろんな職種が広がっているにもかかわらず、

自分の理想を追うために、つまずくと転職を繰り返し、ひきこもる。

仕事の考え方、選び方にも問題があるのかもしれない。親や学校

の相談の姿勢にも問題を感じる。「何になりたいの?」「どんな仕事が

したいの?」と尋ねる。本人に向いているか否かは二番目のようだ。

まずは何ができるのか。そこから考えるべきではないだろうか。

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◇ もし 仕事を考えるなら・・・

やりたい事、やりたくない事の横軸で選ぶのは、趣味

出来る事、出来ないことの縦軸で選ぶのが、仕事

おとなしい人、自己表現が下手な人、自分の意思が弱く見受けられ

る人へ、家族も支援者も「何がやりたいのか」問う。やりたいと言う

仕事では、出来ない、向いていない仕事は上達がなく達成感は無い。

やりたいことではなく出来る事を探すことが大切。

さらに、いろんな体験から「出きる」を増やす訓練も必要。

やりたくないと思っても、出来る事は上達し達成感が得られる。

社会が認めてくれる達成感が、仕事を継続する拍車になる。

出来ないのにやりたい仕事は、趣味にしかならない。自分はでき

ると、思い込んでいる場合が多い。これは自信過剰。社会で認められ

ない場合、自分の価値観との相違に苦しくなる。自分の能力、才能を

社会の中で理解し、見切る時期が必要となる。

一般的就労

出来る事

やりたい事 やりたくない事

出来ない事

人が出来ていると 認めてくれること

必然的

偶然的

やりたい事をチャレンジ ↓

出来ない場合は

見切る時期が必要

想像

解決

チャレンジしなければ 失敗はしない

しかし 成功もない

やりたくなくても やるからには 勝!! 一つのゲームである

上達すると達成感がある 卓越した才能がなければ無理

続かない、辞めたくなる 趣味なら大丈夫

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◇ 居場所の作り方

居場所のはじまり

「居場所」とは「たまり場」の事である。

近年、地域コミュニティが希薄になり、地域のつながりを再生する

ために、求められてきた。特に、阪神大震災時の救助に近隣コミュ

ニティの希薄が障壁となり、全国で地域住民のつながりを重視する

ようになった。近所の人の「あの家では裏の左の部屋に寝たきりの

老人がいる」「二階に子供が寝ている」の情報が、時を急ぐ救助の

有効な情報となった。

昭和初期の日本は、隣近所に住む家族のそれぞれがどこの部屋で

寝起きしているか知っていた。醤油などの貸し借りもあり、隣家の

家の中の事情まで知る交流があり、家族同様の付き合いがあった。

高度成長により、電話やテレビが普及し冷暖房が完備され、窓を

閉め切った暮らしで、家の中は地域から孤立した。と同時に、家族

も地域から孤立した。隣にだれが住んでいるかも解らない世情で、

日本古来の地域力が失われた。そこへ個人情報機密が進み、ますま

す地域からの孤立が進んだ。近隣が助け合わなくても暮らせる、便

利な暮らしの弊害である。

高齢化が進み独居老人問題にも、「地域力」が必要な事が再認識

され、コミュニティ再生に地域の人が日常的に溜まる場所が求めら

れた。昔の井戸端会議や路地裏の縁台文化での再生である。その時

「それをどう呼ぶか」との中で、「たまり場」では不良グループな

どの悪いイメージがある、という事で「居場所」と呼称された。

今、求められている井戸端会議や路地裏の縁台文化とは、何の目

的もなく自然と集まり、情報を共有し気心を共有できた場である。

そして、昔ながらの日本人気質で助け合い、支え合う日常を育んだ

場である。

しかし個人情報の公表を拒む風潮の中、「情報交換する場」は育

まれにくい。そこで人為的に作らなければならなくなったのが、目

的別の「たまり場」つまり「居場所」である。「高齢者の居場所」

「子どもの居場所」そして「ひきこもりの居場所」である。

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自分の経験から考える「居場所」 山本計子

ひきこもり問題がクローズアップされる昨今、居場所の必要性が

言われている。

居場所って物理的に作るものなのか?本来、居場所とは、

①人などがいるところ(場所)・居所(いどころ)。

②人が世間、社会の中で落ち着ける場所。安心していられる場所。

との意味合いを持っている。

一見、物理的な place をイメ-ジするが、実際はどうだろうか。

仮に、友達とランチに出かけてカフェなどに行けば、確実に私が座

れる席がある。それは、明らかに居場所である、のかも知れない。

しかし、そのランチ会にあまり気の合わない友人が居たり、ただ付

き合いで参加しているような会合であったなら、単に物理的に確保

された場所ではあるものの、心地よい居場所と思えるだろうか。

このように「居場所」とは、単に物理的な設えのみが整って満た

されるものではない、という経験を持つ方も少なくないと思う。

私には短い間ながらも勤めに就いていた時期がある。それは、臨

時職の範疇のもので、4 か月~7 か月ほどの在籍で、辞令に従い次

へ移るというかたちで、5 か所の職場を巡った。

学生生活を終えたばかりの若い頃のことで、社会や職場という大

人の世界など、今以上に何も知らない頃のこと。大先輩の職員さん

の「密な輪の中」に、いきなり放たれたようなものだった。

職務の中の私の持ち場は明白だし、物理的に与えられた私の席も

あった。けれど私はどうしたらいいんだろう…との焦燥にかられ、

モゾモゾ痒いような、フワフワ浮いているような時期を過ごした。

時には、胸が苦しくなるように思えたこともあった。しかし少しず

つ、そこに「あるべき自分」を見つけていったように思う。2 か所

目の職場に移った時、同種の職場とは言え、前所との違いに戸惑っ

た。職務に関しては無条件に従えばいいだけで、問題はない。しか

し、また新たな職員の輪の中に放たれたのだから、その輪において

の「あるべき自分」を、再び模索することになった。

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その時、「私の居場所は、どこだろう…」と感じ、同時に早く自

分の居場所を見つけないと…と思った。

では、その時どうやって「私の居場所」見つけたのかと問われて

も、具体的なことは覚えていない。今になって考えてみると、まず

与えられた仕事には精一杯取り組むこと。わからないことには教え

を乞うこと。職員間で過ごす時は、とにかくそれぞれの話に耳を傾

け、すき間があったなら自分の話も挟み込ませてもらう。

このような感じで過ごしているうちに、自ずと居場所が見えてき

て、その職場においての「あるべき私」も周知されていったように

思う。こんな感じで、私は 5 か所の職場でそれなりに「あるべき自

分」やその「私の居場所」を確保してきたと思う。

なにも、私は自分の僅かな経験を誇って言っているわけではな

い。しかし今、そうした経験や、この年まで過ごしてきた中で醸さ

れた感覚をもって居場所づくりについて考えてみた時、「居場所っ

て物理的に作るべきものなの?」という思いが、台頭する。

生きづらさや自ら社会の輪に入れない、というような思いを持つ

人があるなら、物理的に居場所と称される場所を作り、提供するの

は、ある意味で容易なことだ。また、その居場所なるものを、より

心地よく整えることも、そこそこ可能なことと思う。しかし、その

ように物理的な設えや装備だけで、課題は改善するのだろうか。居

場所を利用する人たちのニーズに、どれだけ応えらるのだろうか。

居場所というものの目的が、単にひきこもりや生きづらさを抱え

る人たちのための一時的なシェルターであるなら、それも一定の意

義はあると思う。しかしながら、私が経験したように「あるべき自

分」を見極めるには、見えない何かが足りなくはないだろうか。

また、居場所というものが、単に「好きなことができる場所」で

よいのだろうか。居場所の中にはゲームをはじめ、何かに特化した

サービスを売りにしている所もあるようだが、好きなサービスの見

つからない者は、居場所を見つけられないままになってしまう。

居場所が、利用したい者のニーズをすべて吸収することなど、まず

不可能だ。

では、仮にニーズがすべて汲み上げられ、すべてのクライアント

が居場所に身を預けられたとしたら、問題は解決するのだろうか。

私は、それでは解決にならないと思う。

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ここで論議されている「居場所づくり」というのは、利用したい

者から見ると受動的なことなのだ。心地よい居場所を選んで、自ら

ドアを叩くなら明るいし、居場所の利用を通して自らの殻を破るこ

とができるなら素晴らしい。けれど、ただ好きな事があるところへ

行くだけ、さらに好きなことだけを要求するようにもなりかねな

い。このことに、いつまで、どれだけ対応できるのか・・・。ま

た、対応して行って良いのかも疑問に思う。

居場所づくりにおいて、私はソフト面での環境づくりは、より重

要と思う。生きづらさを抱える人のいくらかは、内在しているであ

ろう「自分で居場所を見つける力」を見失っていたり、発揮しきれ

ないでいたりするのではないだろうか?

曖昧な表現でしか表しきれないが、居場所と称される所での出会い

を通して、能動的に居場所が作れる自分を感じ、自分の可能性を発

見してほしい。また居場所の開設者は、それを受け止めたり助長し

たりする心ある対応を、設えの一つとして備えてほしい。

現代、ひきこもりをはじめ、生きづらさを訴える人が多くなった

のはどうしてだろう…。

昔も同様の人は一定数あったと思うが、現代ほど顕著な問題とし

てとらえられてはいなかったと思われる。そんな病巣に関して、私

なりの暴論を述べてみる。

①生活にゆとりができたことにより、子育ても大らか過ぎるように

なった。

②情報の過多により価値観が多様化し、我儘も個性としてまかり通

るようになった。

③ウチの子が 1 番!は、今も昔も同じと思うが・・・。

昔は、1 番であるはずのウチの子が、人に迷惑をかけたり、世間か

ら敬遠されることの無いように、厳しく躾けた。

しかし今は、ウチの子が一番なのだから周りが気を遣って当然とば

かりに親が考え、協調性、社会性の育成がおざなりになっている。

こんな現代の風潮が、影を落とす事になってはいないのだろう

か。居場所とは「生きる力」が、逞しくなる場所で有ってほしい。

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常連が育み守った「居場所」 藤本まりこ

居場所ねーーー

世間で「居場所」と呼ぶが「たまり場」という感に変わりはない。

「居場所を作る」を「たまり場を作る」に置きかえてみよう。

昔、「たまり場」は、いつも行く喫茶店や飲み屋、近所のお好み

焼き屋や食堂、散髪屋だった気がする。そして困りごとがあると、

皆で駆け込んで、相談に乗ってもらったのが地域のお寺やお宮。

私の幼少期に井戸は無いから、井戸端会議は無い。その代わりタバ

コ屋の店先や世話焼きおばさんの家がその代わりを果たしていたと

思う。夕涼みに出された縁台で将棋を打つおじさんたちの周りに、

なんとなくいろんな人が集い、なんとなく顔見知りになって。

自分の小遣いで出かけられるようになった頃は、友達が行くと言う

からついて行った店が、友達と溜まる場所になった。

きっかけは「お茶しに行こう」とか「ランチに行こう」など食べる

ことから始まる。そして、そこにいる人たちが心地よく、さらに店

の店主が温かく迎えてくれる。そういう場所へ、しげしげ通うよう

になり常連になる。心地良い場所だから、他の人も誘そう。人に

も、「心地いい場所があるよ」と教える。

客が増えるわけだから、店主も常連を大切にする。当然、一見の

客と常連の客では、店主の扱いも少し変わってくる。1 杯の珈琲で

何時間いても、営業妨害だと言って追い返すことは無い。それどこ

ろか、おやつをサービスしたり、時には賄いランチが出る。常連と

して扱われる人は、店主が忙しい時に申し訳ないから、誰かれ無し

に自ら店を手伝う。暇な時には、店主と世間話に花が咲く。人生相

談も受けてくれる。その中で、個人的な相談も。

いつのまにか誰かが連れてきた人と友達になり、友達の友達は自分

の友達という、変な構造が生まれる。そこは、お茶を飲みに行く場

所ではなく人の温もりを得る為に行く場所になり、仲間ができる場

所になる。社会や人との関わり方を学ぶ場となる。珈琲代がなくて

も「バイト代が出たら払うから」と付け払いに甘えても立ち寄りた

い場所になっている。中には踏み倒す人も(笑)

たまり場は、お金に換えられない「人と人を繋ぐ」「人との関わり

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方、社会を学ぶ」「心の支え」そういう「場」であった。

「たまり場」となる店に、一見の客は少なくなる。客が少なくな

ると、店はつぶれる。店がつぶれると自分たちの行く「場」がなく

なる。それは自分が困る。店が継続できるように、常連たちは努力

する。新しい客を呼び、常連層を厚くする。一見の客も、店の継続

の為、邪魔にならないよう気づかう。時には話しかけ、常連になる

ように、つながりを作る。常連は「たまり場」の客であり、時には

スタッフの役割も自ら担う。能動的な関わりがそこに生まれる。

今、言われている「居場所」は、昔の「たまり場」と全く異なる

ものになっている気がする。

「居場所」に求めているのは、今も昔と同じく「人と人を繋ぐ」「人

との関わり方、社会を学ぶ」「心の支え」である。しかし、昔と違

い、全てにおいて受動態の場合が多いと感じる。

茶代(参加費)を払っているのだから、心地良いサービスが受けられ

るのが当然のように、そこを査定する。しかし、そこを支える常連

だから、一見客とは違う心地よいサービスが受けられるのだ。

自ら心地よいサービスが受けられるような能動的な働きをしている

だろうか? 茶代(参加費)500 円が高いと言う人もいる。「居場所」

は、金で買えないものを得られる場所なのに。「安・楽・短」昔、

旅行の条件によく使われた言葉である。安く・楽で・行きやすい短

距離の場所。「居場所」もそれで 選択されるようだ。残念ながらそ

こに、自らの「居場所」を育て守ろうとする能動的意識が見受けら

れない。お世話されるのが当たり前、でなければ他所を選ぶ。

「居場所」は、常連(利用者)の能動的な働きで継続し、成長す

る。自ら自分に、そして自分のように行き場を必要とする人に必要

だと感じ、それを継続させ成長させる常連(利用者)の能動的な働き

がなければ、閉鎖になる。

さらに付け加えれば「居場所」は常連で成り立つ。たまに来る

のは「一見客」と同じで、「居場所」の安定にはつながらない。

常連層を厚くすることが、「居場所」の安定、継続につながる。

自分に合った「居場所」をみつけたら、可能な時間で常連として

能動的に参加し、自分にとって居心地の良い「居場所」を成長させ

継続するように、自ら努力する場である。自分の心を安定させる為

「居場所」を求める人が、そこをどう考えているのか問いたい。

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「居場所づくり」僕の拘りのポイント 村本和孝

僕は平成 15 年以降、「若者・ひきこもり・不登校生徒等の居場所」

を 3 か所の開設に携わったきた(県外を含めると。5 か所)。それぞ

れ「居場所の利用者」に障碍特性・発達課題・年齢等に、幅があるた

め、少し抽象的な話になるが、参考にしていただければ幸いだ。

ポイント①「立地条件の選択」

一般的な「駅前にあること」、「利便性のよい市内にあること」、「交

通機関等の利用が便利であること」が必ずしも「居場所」としての絶

対条件ではない。もちろん、交通のアクセスについては便利に越し

たことはないが(笑)。地方では、自家用車移動が主の場合があり、

郊外に無料で駐車出来る場所も、開催地として可能である。

ポイント②「対象者の選択」

居場所に集うのは自由だが、全ての人に立ち寄りやすい居場所を

考えると、焦点がぼける。

中心となる対象者は、あらかじめ決めておく方が、当事者にとって

解りやすく、利用しやすい。小中高校生等の子供世代、高校生~40

歳、30 代後半から 50 代など、社会感覚、価値観、嗜好などの類似

や共通認識が、居場所を心地よくする。

ポイント③「居場所の理念」

私が携わってきた「居場所」も含めて少し検討をしてみたい。

「誰のための居場所」なのか、「なぜこの居場所を用意したのか」と

いう発起人及び開設の同志たちの、ぶれない理念が大切である。

私が今までも「管理者の立ち位置」として、守ってきたのは次の 3

つの理念だ。

① まずは、利用者(参加者)主体になる場所

② 利用者が、自然体で居られること・喋れること

③ いつも参加したくなる満足感・充実感の達成がある

これを「居場所」の理念とすることで、利用者が毎回でなくても参

加しようという、意識の啓発、継続につながる。

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ポイント④「利用金額の設定・及び内容」

料金設定については、本当にさまざまな金額設定が各団体によっ

て、存在する様子だ。

※岡山市内の「居場所」等の料金体制は 1 回 500 円~1000 円の

参加費で 2 時間~3 時間開催の場所が多い。

(公民館等利用の場合、茶代実費として 200 円が多い)

但し各団体とも金額に合わせた「何らかのおもてなし・イベント」

を用意している。例えば、お茶・お菓子・ゲーム・調理・食事・運動・

カラオケ等々

ポイント⑤「事業の継続性」

「事業の継続性」は各種の助成金・補助金等を利用して行う事業に

ついては求められる一番の課題となることが多い。

自立した運営を目指すためには、立ち上げ期の助成金・補助金等

を有効に活用し、その期間にしっかりした基盤づくりが必要である。

最後に総括して、ポイント①から④の何かが少しでもズレ・違和

感が起こってしまった時に、利用者離れや「居場所」としての存在価

値が低くなってしまう。勿論、状況変化や利用者の変化に合わせて、

カタチを変えていく必要性はあるが、基軸となる理念が変わっては

ならない。

繰り返しになりますが、最重要ポイントは

①「利用者が、安心して居られる場所」

②「利用者が、自然体で居られる場所」

③「利用者のニーズが、この場所にあること」

少しでも参考になれば幸いです。

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たんぽぽの会の活動から「居場所を考える」 後藤智子

1、体育館活動

「楽しかったー」汗をかいて、顔を真っ赤にして、子どもたちが話

している。今日初めて活動に参加した子。連れてきてくださった方

が、「この子こんなに動けるんだ。」とびっくりされる。

学校に行けずに普段は家と、昨年出来たばかりの公民館の図書コ

ーナーが居場所。地域の子ども食堂に参加するようになり、そこの

スタッフの方が、たんぽぽの体育館活動のことを知り、連れてきて

くれた。

たんぽぽの会は平成 23 年、宇野小学校特別支援学級の親子活動

からスタートした。平成 24 年より独立して活動している。

はじめは支援クラスの保護者会で「子どもたちだけで遊びに出る

とトラブルになる」そんな声から、小学校の体育館を借りて親子で

活動を始めた。

また、我が家事情としては、不登校の娘たちを学校につなげるき

っかけ作りの場、就学前の息子にとっては、療育がなくなり、学校生

活のスモールステップの練習場になれば、との思いもあった。

活動スタート時は、学校行事や地域行事参加のためのスモールス

テップを中心として組み立ててた。

運動会の練習、長縄大会の練習…。しかし大人側主導の活動に子

どもたちはのってこず、来てもパニックを起こしたり、帰り際、上手

く終われなかったり…。

そして顧問の先生から「個性の強い子達の集団でエラーが出るの

は当たり前、どこがエラーだったか、子どもたちと考えていきまし

ょう」と方向のシフトチェンジ。そして子どもたちのユニークな発

想に支援を考え直すこととなった。

そして 7 年間の紆余曲折を経て、子どもたちの興味関心に合わせ

て様々な活動が展開されていく、今の形になった。

・好きな遊び、やってみたい遊びが次々展開する 2 時間。

・ずっと同じ遊びに取り組む子。次々遊びを変えていく子。

・ひとりひとり自分が「楽しい」「気持ちいい」時間を過ごす空間。

そんな居場所が、生まれた、

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スタートは、安心できる家族単位の活動からだが、まわりの家族

と混ざり合う交流も出てきた。

剣道の気合いにひかれて、「やってみたい」と入ってきたり、「ブラ

ンコ押して」と近くの大人に声をかけたり、やり方を、先に始めてい

た子が後からの子に教えてくれたり、自然な混ざり合いが始まった。

主催者やリーダーから「〇〇をしましょう」の縛りはない。そこに

あるもので活動が始まり、子どもたちの興味で活動が移って行く。

2、子ども企画の活動

複数の活動の中で、子どもたち同志の関係が、出来ていきます。こ

の子ども企画は、まさに子どもたちの「やりたいことをゼロから」子

どもたちが提案してくるシステム。

遊戯王、ゲームをテーマにした企画からスタート。子どもたちの

好きなこと、興味あることをまずは会の中で。そして、自信が出てく

ると会の外へも。その活動時間も 2 時間から 1 日へ。さらに2日連

続企画。今では泊まりを入れての合宿にまで広がった。そして目標

は「子どもたちだけでの合宿」まで、膨らんできている。

3、バンド活動

音楽をテーマにした活動。

子どもたちだけでは、形になるまでに時間がかかる。うまくいかな

くて続かない。子どもたちが、良い感じの音楽が体験できたら先に

続くのでは。まずは成功体験を、とのアイデアから、大人サポートの

バンド活動が始まった。

障害があってもなくても、大人も子どもも、一人一人が楽しむ活

動になってきている。

4、引きこもり問題と「たんぽぽの会」の活動を考える

引きこもり問題は大人の問題ではなく、もっと早い段階からスタ

ートしているものと思われる。でも、気がついたところから、できる

ことはある。気が付くのが遅すぎた、なんてことはない。

子ども対象のたんぽぽの会だが、22 歳の入会者がいる。行くとこ

ろがない。事業所も 1 週間に 1 回なら受け入れてくれる。そんな話

を聞いていた。一緒に活動をしてみると、お菓子作りは 7 時間続け

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て活動できる。バイトも裏方の仕事を選び、自分で判断して行動で

きる。居場所には、その人に出来ることが沢山あった。

極端な行動もあるので、まわりのサポートは不可欠だ。しかし、そ

の方のペースで、たんぽぽの活動に楽しんで参加している。それを

見ていると周囲の皆も、その人がいてくれて嬉しい、楽しい気持ち

になってきた。「事業所が受け入れてくれる日数が、増えました」と

母親から連絡があった。安心できる場所で、安心できる仲間の中で

活動が広がると、社会生活が安定してくる。これは私たちにとって

も、良い経験になった。

居場所とは、そこで過ごす時間の中で、互いに成長できる場所で

あるべきではないだろうか。

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居場所・・・

「居場所」とは、居心地が良く、気兼ねの無い人たちが、めいめい

の想いで集い、気ままなおしゃべりの「たまり場」が進化したものと

考えられる。

但し、昔と違い集う場所に対し、お金がかかるようになった。

お金を払うなら、それ相応の見返りを求めるようになり、開催する

人、利用する人、その隙間で儲ける人、などの立ち位置が発生した。

しかし、そこには、お金に換算できない「心の癒し」がある。

自分で感じた価値に値する金額を自分が決めて支払う、ドネーシ

ョン(寄付制)という支払制度がある。寄付や募金に慣れていない日本

人には、料金設定がなければ、かえって難しいようだ。各々で違う

「心の癒し」代金はいくらが妥当か・・? なんて決められるはずも

ない。さらに、ひきこもりの人たちは、殆ど無収入。所得の無い人た

ちからは、実費徴収も難しい。これには法的補助が欲しいところだ。

しかし障害枠就労やアルバイトであろうと、収入がある人は、自

分の心の為に、又そこで得る「心の癒し」以外にもある「社会性体

験」「人間関係体験」「対人関係練習」「人生感の醸造」などの付加価

値を認め、何か節約してでも支払うべきではないだろうか。社会へ

参加しようという、能動的な動きとして大切な姿勢だ。節約して参

加費として出資し参加することで、人として心の安定を得られ、さ

らに自立した個人として自認できる。そして、能動的に参加するこ

とで「居場所」継続に貢献し「居場所」やそこに集う人たちと共に成

長していく。この「正のスパイラル」が「居場所」には必要と考える。

自分の席を作ってもらい、遊ばせてもらい、多様なサービスを、単

に受けるだけの受動態の場で「居場所」の機能が働くのか、いささか

疑問が残る。

「居場所」の開設者は「場」を開くだけである。後は、利用者が自

ら発案し、自ら仲間を集い、人間のつながり方、距離感、社会性を学

び、自らを育てる「場」ではないだろうか。「居場所」は社会の中で

自分の席を見つけにくい人が、いろんな体験を、怖がらず安心して

のびのび試せ、自らの発想を活かせる能動的な「場」であるべきと

考える。一人一人にスポットが当たる「場」でありたい。利用者が能

動的に参加しなければ、単なるサービス業になると、懸念される。

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◇ 就労と居場所

就労場所と居場所。これの連携が、就労を継続させるポイントで

はないだろうか。今回のシンポジューム、講演会、居場所開催の事業

を経て、そう考えるようになった。

①就労場所の創出・・・

就労場所は、利益を出すことを目標に人が集まる所。その同じ目

標を目指し、特性を社員一同理解することが大切だ。経営陣だけ、担

当者だけでは、同僚から邪魔にされる。会社の中に心の居場所、安心

して働くことのできる場所がないと言う場合が多い。仕事を与える

だけではなく、会社の同僚、仲間、組織の一員として安心し、ともに

同じ目標を目指し、働ける場が求められる就労の場である。

②就労を目指す人・・・

自分の特性を自認し、相手にもそれを隠さず伝える。相互理解の

上で、就労場所を決める。一方的に、合理的配慮を求めてはならな

い。一般で働いている人たち全てが、適切な合理的配慮のできる人

とは限らない。合理的配慮をしたくでも、どうすればよいかわから

ない人たちも多くいる。それを、当事者も理解した上で、ともに役割

を果たしながら働かなければならない。不都合を自分の能力不足又

は、相手の理解不足と決めつけない。まずはコミュニケーションを

とれる環境づくりが大切である。そのコミュニケーションとは、し

ゃべるという事だけではない。伝えるという事だ。伝える手法は直

接「話す」以外にも、いろんな手法がある。場に応じた工夫が必要。

③家族・支援者は・・・

働き稼ぐことだけが社会参加ではないことを、理解しよう。まず

は、本人が自尊心をもって、社会の一員として社会とつながること

が大切だ。自分たちのイメージや理想を本人へ求めていないか、も

う一度考えみませんか。

その子が生まれてきた時に、元気に笑顔で成長することが、一番

の願いだったのではないだろうか。その子の持っている特性を、摘

んでしまったことは無いだろうか。「あなたの為に」この思いが一番

の癌である。周囲が出来るのは、情報提供のみ。求められたら、出

来る範囲でのサポート。それしか無いのでは。親離れ子離れは大切。

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④居場所の創出・・・

就労の場の人とのつながりは、ともに利益を目指す仲間。そこに

互いに邪魔にならない距離感が必要である。邪魔になれば退職で縁

は切れる。

家族という場のつながりは、ともに幸せを目指す仲間。そこに互

いに邪魔にならない距離感が必要である。邪魔になってもその縁は

切れない。かといって依存し過ぎては、お互い手かせ足かせになり、

共倒れになる。

ここで居場所の役割が求められる。

そこへは、利害関係のつながりではなく、切ることのできない家族

関係のつながりでもない、多様な人たちが集う場所である。さらに

中心の人たちは、利害関係(社会)の中での人との距離感がとりにくく

負担がある。家族との距離感もとりにくく負担がある。そういう人

たちが、互いに何の利害関係もなく集まっている。リラックスして

いても誰の足を引っ張られることもなく、他人だから、近づきすぎ

ることもない。

ここで、会社、就労場所での息苦しさやストレスから開放される。

家庭での縛りから解放される。それが居場所である。トラブルが起

きないよう最低限のルールの基に、気安く集い、社会生活の中のス

トレスから解放される場である。そこへ支援者も参加し、専門家も

参加し、互いに利害関係のない中で、相談したり、愚痴を言ったり。

居場所で、「心のバランス」を取り戻す人も少なくない。

また利害の無い気兼ねない会話だから、人と人とのコミュニケーシ

ョンの取り方の練習になる。自信がつくと、他所でも気兼ねのない

付き合いが出来るようになる。

ただし、就労場所の話、悩みは説明しにくい。それぞれの人間関係

性、立場、そこ特有の出来事など、他人には解りづらい。一方的話だ

けで、第三者の正しいアドバイスになるかどうか、不安がある。

この場合、就労場所と連携している居場所があると共通認識があ

るので、理解されやすくて都合が良い。

社会参加しにくい人たちとって、居場所は学校の保健室のように

必要な場所なのではないだろうか。

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◇ 編集後記

8050 問題を考える 1 年を終えて、たく

さんの方に出会い、たくさんの協力をいた

だき、感謝の 1 年だった。まだ、8050 問

題を知らない方も多く、国の政策の遅れも

気になる。

国がどうにかしてくれる。行政が何とか

してくれる。では、今、大変な引きこもり当

事者やその家族は、待っていられない。日々、

年老いていく現実がある。その内、仕組みが

整うだろう、と待ってはいられない。

和歌山の事例にみるよう、まず住民が動

かなければ、行政は動きにくい。たえず、税

金を無駄に使わない様、効果効率的な仕組

みを検討している行政は、なかなか動けな

いのが実情ではないだろうか。

国が動き始めた今、自治体は少しでも早

く新しい仕組みをつくり、仕組みが稼働す

る必要を強く感じた。。

そのためには、従来の縦型、部署別、組織

別ではなく、産官学民医福そして地域と当

事者家族、家族会、自助会の連携が必要だ。

情報を共有し窓口を広げ、潜伏し苦悩し

ているひきこもり当事者や、当事者家族が、

早く支援の手とつながることが大切だ。

多くの民間の支援団体が、動き始めてい

る。国の支援事業だけでなく、地域に根差し

た地域行政が民間とつながり、縦割りの隙

間を作らない仕組みづくりに、今回の事業

が役立つことを強く願う。 編集委員

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誰一人取り残さない社会を目指して

協力

(敬称・法人格略)

岡山市保健福祉課・岡山市市民協働企画市民活動支援室・岡山市こころの健康センター・岡山市ひきこもり地域支援センター・岡山市発達障害支援センター ・岡山県ひきこもり地域支援センター・岡山県精神保健福祉センター・岡山県メンタルセンター岡山・総社市地域ひきこもり支援センター・KHU きびの会 ・きらめき福祉会・家族会エスポアール岡山 ・社会福祉法人旭川荘のぞみ寮・ワーカーズコープ・パナソ岡山大供オフィス・スマイル訪問支援・すたんど・リスタート・あすてっぷ・岡山カトリック教会内旧檣灯センター・自助会かたつむりの会吉備・支援が必要な子供の親の会たんぽぽ・志塾 FS 岡山・だっぴ ・山陽新聞社・山陽放送・岡山放送・リビング新聞岡山・そのほか ボランティアの皆様

ありがとうございました。 (順不同)

監修・発行 NPO法人まちづかい塾 編集・校正 かたつむりの会きび ひきこもりサポート会議 所 在 地 岡山市中区藤崎 25 番地 活動紹介 http: michicafe.net 相談窓口 http: hikikomori3.info 初版発行: 2019 年 2 月

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今日もまったり お茶日和り

特定非営利活動法人まちづかい塾

http://[email protected]

ひきこもりサポート会議

http://hikikomori3.info

この冊子は、独立行政法人社会福祉機構の補助金で、作成しました。