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1 東京理科大学 I 部化学研究部 2011 年度秋輪講書 無機接着剤の製作 金曜班 1.はじめに 昨年度金曜班は,宇宙開発や住宅外装等,限られた用途にしか使われておらず未研究な 部分の多い無機接着剤に注目し,新しい物質(有機物,無機物問わず)を混ぜてみたら, 新たな物性をもつ接着剤を作ることができるのではないかと思い,実験を実施した. 本年度は,昨年の実験結果およびその経験を活かすことでさらによいものができるので はないかと考え,同様に無機接着剤の製作を目的とした.また,昨年の課題として接着強 度の弱さや評価のばらつきが目立ったため,こられのことを改善することがあると認識し た. 2.目的 無機接着剤の有効な利用法として,金属同士の接着がある.従来ネジやナットなどの金 具で行っていた接着が,接着剤に代用されることにより,以下のような利点がある. 異種材料結合ができる(溶接では非常に困難) 平滑で意匠性がいい 複雑な形状の結合が可能 応力を均一分散する 面接着できることにより金属疲労がおきにくい しかし,上記の利点があるにも関わらず,無機接着剤による接着力がボルトやナットを使 った従来の方法に比べるとかなり弱いため,いまだに従来の方法で行われているのが現状 で,より耐久性の高い接着剤の開発がもとめられている. そこで,このような理由から金曜班は「異種金属接着ができる無機接着剤の製作」を目 的とした.様々な成分の組み合わすことで新しい無機接着剤の作成することや被着材の表 面処理を行うことにより,よりよい性能・耐久力のある接着剤ができることを目指し,最 終的に,実験で得られた接着剤が今後どのように利用できるかを評価する. 3.概要 3.1 接着剤の構成 接着剤には,主成分に加えて種々の役割をもった添加物がブレンドされた組成になって いる.液体の接着剤がしっかり濡れて固化し,界面で良好な接着強さが発現するためには,

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東京理科大学 I 部化学研究部 2011 年度秋輪講書

無機接着剤の製作 金曜班

1.はじめに

昨年度金曜班は,宇宙開発や住宅外装等,限られた用途にしか使われておらず未研究な

部分の多い無機接着剤に注目し,新しい物質(有機物,無機物問わず)を混ぜてみたら,

新たな物性をもつ接着剤を作ることができるのではないかと思い,実験を実施した.

本年度は,昨年の実験結果およびその経験を活かすことでさらによいものができるので

はないかと考え,同様に無機接着剤の製作を目的とした.また,昨年の課題として接着強

度の弱さや評価のばらつきが目立ったため,こられのことを改善することがあると認識し

た.

2.目的

無機接着剤の有効な利用法として,金属同士の接着がある.従来ネジやナットなどの金

具で行っていた接着が,接着剤に代用されることにより,以下のような利点がある.

① 異種材料結合ができる(溶接では非常に困難)

② 平滑で意匠性がいい

③ 複雑な形状の結合が可能

④ 応力を均一分散する

⑤ 面接着できることにより金属疲労がおきにくい

しかし,上記の利点があるにも関わらず,無機接着剤による接着力がボルトやナットを使

った従来の方法に比べるとかなり弱いため,いまだに従来の方法で行われているのが現状

で,より耐久性の高い接着剤の開発がもとめられている.

そこで,このような理由から金曜班は「異種金属接着ができる無機接着剤の製作」を目

的とした.様々な成分の組み合わすことで新しい無機接着剤の作成することや被着材の表

面処理を行うことにより,よりよい性能・耐久力のある接着剤ができることを目指し,最

終的に,実験で得られた接着剤が今後どのように利用できるかを評価する.

3.概要

3.1 接着剤の構成

接着剤には,主成分に加えて種々の役割をもった添加物がブレンドされた組成になって

いる.液体の接着剤がしっかり濡れて固化し,界面で良好な接着強さが発現するためには,

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容易に流動する性質,被着材に対する濡れ作用,接着のための固化,の3つの要素が求め

られている.こうした条件を満たすために,接着剤には各役割をもった図1のような材料

が加えられている.また,使用目的によって多岐にわたる材料が配合されているため,同

じ系列の接着剤でも構成材料や比率を替えることにより,粘度の低いものから高いもの,

硬化の遅いものから速いものなどのニーズに対応した数多くの接着剤がつくられている.

3.1.2 無機接着剤

現在使用されている無機接着剤の多くは,アルカリ金属ケイ酸塩系・リン酸塩系・シリ

カゾル系のいずれかに分類される.本実験では,アルカリ金属ケイ酸塩系を中心に実験を

行っていく.

アルカリ金属ケイ酸塩系

アルカリ金属ケイ酸塩の水溶液は粘性のある溶液であり,分子式 M2O・nSiO2で表され,

M の種類(Li , Na , K など)および n の大小によって性質の違う,数多くの種類が存在する.

一般には安価なケイ酸ナトリウム(水ガラス)がよく使用されている.

Fig. 1 接着剤の構成

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アルカリ金属ケイ酸塩は水溶液中において,様々な量のシリケートイオンモノマー,ポ

リシリケートイオン,およびコロイド状シリカイオンミセルからなっている.これらの形

態や分布は n 値や,濃度に依存し,n が大きくなるにつれてポリシリケートイオンミセルが

増加する.一般に耐水性は Li>K>Na,接着性はこの逆の順に良いと言われている.

水溶液は強いアルカリ性を示し,加熱によってシラノール間で脱水縮合反応を起こし,分

子間にシキロサン結合(Si-O-Si)を生じる.固形物は融点(軟化点)まで非晶質である.

また,アルカリ金属ケイ酸塩系には硬化剤としては Zn,Mg,Ca 等の酸化物・水酸化物,

Na,K,Ca 等のケイ化物・ケイフッ化物,Al や Zn 等のリン酸塩,Ca,Ba,Mg 等のホウ酸塩

等が使われている.

1例として酸化亜鉛による反応機構を示す.

初期反応には ZnO 粒子の表面で

ZnO+H2O+2OH-→Zn(OH)42-

の反応が起こり,Zn は液中へ溶解し,OH-が消費されるので pH が下がり,ケイ酸ゲルが

粒子表面に析出する.以後はこのケイ酸ゲル層を通して OH-が粒子表面へ拡散し.ZnO と

反応して Zn(OH)2 として固定されるため,さらにケイ酸ゲルの析出が行われ,酸化亜鉛粒

子表面へ無定形シリカが沈積する.

3.2 接着原理

接着は,固体と固体または固体と液体の表面が接触し,互いに相互作用した結果として

強くくっつく現象である.接着強さは接着剤および被着体の表面に強く影響されるため,

その表面の物理的および化学的構造を理解することが重要となる.

3.2.1 接着力の発現

被着材の種類には多くの材料があり,これらを接着剤によって接合するとなると,「何の

働きの力で接着しているのか」を一律に説明することはできないが,過去から現在までに

議論されてきた中で,主なものを以下にあげる.

・機械的結合

接着接合では被着材の表面処理が接着強さに影響を与える.したがって表面処理方法は

被着材の種類によっても異なるが,機械的処理では被着材の表面を荒らし,表面に凹凸を

形成することにより接着面積が増大する,この凹部に液状の接着剤が入り込み,固化する

ことで接着剤は被着材と接合できる.このように,船を停泊させるために錨(アンカー)

を海底に沈め,これを固定する状況に似ていることから,このことを「アンカー効果」と

も呼ばれている.

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・化学的結合

接着剤と被着材とが化学反応を起こして接着するという理論である.しかし,ほとんど

の接着剤が常温で化学反応を行うことがないため,化学的結合の役割は非常に限られてい

る.

・分子間相互作用

①Van der Waals 相互作用

この力は電気的に中性な分子と分子との間に働く相互作用力で,このような力には「配

向力」,「誘起力」,「分散力(ロンドン力)」の3つがある.また,いずれの力の相互作用の

場合もそのポテンシャルエネルギーはγ−6に比例する.

②水素結合

電気陰性度の高い原子と水素原子が結合し,電子密度の低くなった水素原子が電子密度

の高い原子と強く相互作用する結果生じる.また,水素結合を導入することによって接着

強さを増加させることができる.

③その他

酸塩基理論,疎水相互作用,静電気説などの考え方がある.

3.2.2 固体表面のぬれとの関係

図3は固体と液体との表面張力と接触角の関係を示したものである.固体表面にのせた

液体 L の液滴の端には,固体表面が液体を広げようとする力γS ,液体表面側には液体の表

面張力γL ,固体と液体との界面張力γSLが作用

している.

液滴が平衡状態にあれば,各張力のバランス

から下記のようなヤングの式が成立する.

γS = γSL + γLcosθ

そして上式を書き改めると

cosθ =γS − γSL

γL

Fig. 2 アンカー効果

Fig. 3 固体表面における液滴の接触角

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となる.したがって接触角が小さいほど液滴の広がりは大きくなる.また接着仕事をWaと

して次のような定義を与えるとWaは

Wa = γS + γL − γSL

となる.これに接着仕事を表わすデュプレの式と組み合わせると次のようなヤング-デュプ

レの式が成立する.

Wa = γL(1 + cosθ)

この式から,接触角 θが小さくなるほどぬれやすくなり,接着仕事Waが増大することが

わかる.このように接着剤が被着材の表面を濡らすことによって接着界面をはさんで接着

剤と被着材との分子が接近して親和力を発生することで接着という現象がおきているわけ

である.すなわち,接着は分子と分子との相互作用力が接着現象の支配的な力であるとい

うものである.

3.3 被着材(金属材料)の表面処理

大気中に長時間経過した被着材の表面には,表面の接着性を低下させるものとして表1

に示した物質がある.接着強さの発現には諸説あるが,主体は van der Waals 力であり,

表面に存在する異物を取り除いて清浄にすることが不可欠となる.接着性の乏しい被着材

の表面の表面処理を行うことで,初期接着強さの向上と接着強さのばらつき幅の低減が可

能となり,接着部の信頼性や耐久性を向上することができる.

本実験では,さまざまな表面処理の方法があるなかで,安全性・設備上の問題を考えて

「洗浄」と「研磨」の表面処理を行うことにした.

Table. 1 被着材表面にある異物

金属

汚染物

吸着ガス

機械加工油

炭化物

水酸化物

酸化物

加工変質層 Fig. 4 金属材料の表面層

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3.3.1 洗浄

洗浄は,被着材の表面に付着している異物を水や有機溶剤を用いて取り除く手法である.

本実験では,アルコール系洗浄液で被着材の表面を拭き取る操作を行う.

3.3.2 研磨

研磨は,サンドペーパーやサンドブラスト等により表面に付着している異物を機械的に

取り除くことに加え,表面を適度に粗面化することで接着面積を増加させ,アンカー効果

の向上を目的とした手法である.本実験では,被着材の表面をワイヤーブラシで研磨を行

う.

3.4 接着強さの評価

昨年の金曜班では接着剤の強度を実際のものや,他のサンプルと比較するために,下記

の方法で測定を行っていた.使う試料は,各材質(銅,真鍮,アルミ)の 4×5cm2の板二枚

で,端 1×4cm2を接着剤で張り合わせ接着,その後重りを載せながら,破壊の瞬間の力を読

み取る.JIS K 6856:1994 を参考にした(Fig.5).

crash

Fig.5 昨年までの破壊実験

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しかし,この方法では,金属板が重さに耐えられず曲がってしまうため接着剤の強度が大

きいと正確な測定値を得ることができないなどの問題が生じてしまった.

そこで,今年の金曜班ではより正確に接着剤の強度を評価する方法を考案することにした.

具体的な方法としては,まず5×10cm2,厚さ0.5cmのそれぞれ三種類の金属板(ア

ルミ,真鍮,銅)の先端から1cmのところに約0.5cmの切れ込みを4か所入れ(Fig.6),

左右それぞれ二組の切れ込みの間に釣り糸を通し金属板の上下面を通るように巻きつけて

から結ぶ(Fig.7),そして,結び目のない面に接着剤を塗り別の糸の通した金属板を張り

付ける(Fig.8).それぞれの金属板に付いた釣り糸の結び目が上下逆の状態となるので上

向きの方を固定し.下向きの方におもりを結びつけることによって接着面に垂直な力を加

えることが可能になった.

4.実験

4.1 接着剤の製作

【使用器具】

・ピペット

・安全ピペッター

・へら

・固定器具

・保存用容器

・ビーカー

Fig.6 切れ込みの入れ方

Fig.7 糸のつけ方

Fig.8 金属板の張り方

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【使用薬品・試料】

・3 号ケイ酸ナトリウム

・酸化マグネシウム

・酸化亜鉛

・酸化カルシウム

・リン酸アルミニウム

・銅板

・アルミ板

・真鍮板

<ケイ酸接着剤の製作>

操作1:3 号ケイ酸ナトリウムに各々の硬化剤*1を混ぜて,ケイ酸接着剤を作った.

操作2:アルミ板・銅板・真鍮板の三種の金属板に表面処理*3を行った.次に,表面処理を

行った金属板に製作した接着剤を塗布*4 して,異種金属板と接着させた.比較の

ため,表面処理を行わなかったサンプルも作成した.その後,自然乾燥*5 させ,

接着するまでの経過時間を計測した.

操作3:接着完了後,破壊実験*6を行った.

*1 硬化剤:酸化マグネシウム,酸化亜鉛,酸化カルシウム,リン酸アルミニウム

*2 今回は結合剤の質量に対して30%の硬化剤を混合した.

*3 表面処理の仕方については 4.2 に記述した.

*4 接着剤を塗る量に注意した.

*5 多湿だと接着性能が落ちるため,湿度には十分注意した.

*6 破壊実験の詳細は 3.4 に記述した.

4.2 被着材の表面処理

【使用器具】

・ワイヤブラシ

【使用薬品・試料】

・銅板

・アルミ板

・真鍮板

・消毒用アルコール

【実験操作】

ワイヤブラシで接着させる部分の表面のさび等を磨き落とした.次に消毒用アルコール

などで表面を拭いて,汚れや油脂類を取り除いた.

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4.3 保存性能の評価

【使用器具・試料】

・製作した接着剤 ・容器

【実験操作】

製作した接着剤がどのくらいの期間保存できるのか保存容器にいれて検証した.

5. 実験結果

5.1 破壊実験の測定結果

各サンプルに対して数回の破壊実験を行い,その結果を以下に示した.なお,結果につ

いてはそれぞれの平均値と最低および最高記録のみを記載した.

Table. 2 3号ケイ酸ナトリウム+ZnO の測定結果

平均値[kg] 最低記録[kg] 最高記録[kg]

銅+真鍮 1.33 1.00 1.69

アルミニウム+真鍮 0.91 0.20 2.70

アルミニウム+銅 0.57 0.25 1.00

Table. 3 3号ケイ酸ナトリウム+MgO の測定結果

平均値[kg] 最低記録[kg] 最高記録[kg]

銅+真鍮 0.49 0.30 0.68

アルミニウム+真鍮 0.51 0.46 0.55

アルミニウム+銅 0.56 0.30 0.82

Table. 4 3号ケイ酸ナトリウム+Al2O3の測定結果

平均値[kg] 最低記録[kg] 最高記録[kg]

銅+真鍮 0.78 0.48 1.70

アルミニウム+真鍮 0.95 0.80 1.10

アルミニウム+銅 0.87 0.60 1.30

Table. 5 3号ケイ酸ナトリウム+Al3PO4の測定結果

平均値[kg] 最低記録[kg] 最高記録[kg]

銅+真鍮 1.59 1.00 2.18

アルミニウム+真鍮 0.62 0.35 1.10

アルミニウム+銅 0.83 0.45 1.20

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5.2 保存性能の結果

作成した4種類の接着剤(3号ケイ酸ナトリウム+酸化マグネシウム,酸化亜鉛,酸化ア

ルミニウム,リン酸アルミニウム)を数日間容器に保存しその状態変化を観察した.その

結果を以下に示した.

Table. 6 保存性能の結果

接着剤の種類(3号ケイ酸ナトリウム+) 1週間後

酸化マグネシウム キャラメルのような硬さの粘度の高い状態になっていた.

酸化亜鉛 完全に乾燥していた.

酸化アルミニウム 結合剤と硬化剤が分離していた(混ぜなおすことができた.)

リン酸アルミニウム 完全に乾燥していた.

接着剤の種類(3号ケイ酸ナトリウム+) 3週間後

酸化マグネシウム 乾燥してあめのようになっていた.

酸化亜鉛 そのままの状態だった.

酸化アルミニウム 再び分離して結合剤がゲル化していた.

リン酸アルミニウム ひび割れが起こっていた.

6. 考察

6.1 破壊実験の結果におけるばらつきについて

今年の実験結果についてもばらつきの問題が生じてしまった.ばらつきの原因としては

以下のことが考えられる.

① 塗り方に関する問題

接着剤を塗る作業を何人かで分担して行っていたが,混ぜ方や,接着面への伸ばし方に

関して個人差が生じていた.また,接着剤を両方の金属板にしっかり付着させるために塗

った後に圧力をかけたが,その方法に関しても個人差があった.これらのことがばらつき

の要因になったのではないかと考えられる.測定をした後に接着面を観察してみたが,接

着強度が大きかったものに関しては接着面にまんべんなく付着していたが,逆に接着強度

が小さかったものは接着面に均一に付着しておらず,所々で接着剤による厚みが生じてい

た.あらかじめ,塗り方に関して統一した決まりを設けていればこれらの問題は解決

できたのではないかと考えられる.

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② 混ぜ方の問題

接着剤を混ぜる際の混ぜ方にも個人差があり,そのことが結合剤と硬化剤の反応具合に影

響しばらつきの要因となったのではないかと考えられる.完全に反応しきっていないもの

は接着剤の付着面に硬化剤の粉末が残っていた.

③ 塗るタイミングの問題

結合剤と硬化剤を混ぜた瞬間から種類によって差はあるが,反応が進むため,同じ容器

で作った接着剤で一つずつ金属板に塗っていくと最初に塗ったものと最後に塗ったもので

は塗った時の接着剤の乾燥具合が微妙に変化してしまったためばらつきが出てしまったの

ではないかと考えられる.

④ 乾燥に関する問題

同じ種類の接着剤にも関わらず破壊した際に適度に乾燥していたものとそうでないもの,

また逆に乾燥しすぎてひび割れが起こっていたものが存在した.作成したサンプルは全て

一つのタッパーに保存していたが,いくつかのサンプルを重ねておいたために,空気の触

れ方に差が生じ乾燥時間に影響したのではないかと考えられる.

⑤ 破壊操作の問題

サンプルを破壊する際に,重りによる力のかかり方が接着面全体に均一でなかったために

ばらつきが起こってしまったのではないかと考えられる.

均一でなかったものに関してははがれる際に一部しかはがれないものが存在した.

⑥ 金属表面の問題

明らかに汚れのひどい金属板に関しては軽く研磨してからアセトンですすぐなどの表面

処理を施したが,購入したばかりのきれいな金属板に関しては表面処理をしなかったが,

きれいな金属板に関しても目に見えない程度のちりなどが付着しており,そのことがばら

つきの要因となったのではないかと考えられる.しかし,表面処理をしていないものでも

接着力が大きかったものもあるので,表面処理による影響は少なかったと思われる.

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6.2 接着力の強さについて

実験結果にばらつきはあったものの,硬化剤の違いにより接着力が変化した.

昨年の実験結果から ZnO と MgO に関しては結合剤である3号ケイ酸ナトリウムとの反応

による硬化の速度の違いにより接着力に違いが生じてくること(MgO は硬化が早く進行し

てしまうため濡れ面積が小さくなってしまう.)ことが知られており,測定方法を変えても

その差に変わりはなかった. また,MgO については結合剤との反応により生成した

Mg(OH)2 が空気中の二酸化炭素と以下ように反応して塩基性炭酸マグネシウムが生成して

しまうことも接着力低下の可能性として考えられる.

2 Mg(OH)2+CO2 → MgCO3・Mg(OH)2+H2O

Al2O3と Al3PO4に関しては ZnO と同じように結合剤との反応が比較的穏やかであり,反

応により白色無定形の個体である Al(OH)3 が生成しそれが接着力の強さに結びついている

のではないかと考えられる.

しかし,Al2O3と Al3PO4を用いて昨年と同じ方法で破壊実験を行ったところ,ZnO を用い

た時のように比較的高い接着力が期待されたが,実際には50g以下ではがれてしまうも

のがほとんどだった.これは昨年と今年の破壊方法では力のかかり方が違うため,接着剤

の分子の配列などにより耐えられる力の方向が変化するためではないかと考えられる.

また,金属板による接着力の違いを見てみると,特に ZnO と Al3PO4 を用いた際にアルミ

ニウムを用いたサンプルが,用いてないものに比べて接着力が低かったが,これはアルミ

ニウムの表面にできた酸化被膜が接着剤との親和力を低下させたためではないかと考えら

れる.

6.3 保存性能の結果について

結合剤と硬化剤の反応速度が速いものは1週間後には完全に乾燥していたが,Al2O3を用

いたものに関しては,一度結合剤とよく混ぜ合わせてから保存したにも関わらず,1週間

後に分離しており,再び混ぜ合わせることができた.これは,Al2O3と結合剤の反応が遅い

のに加え,Al2O3が水に溶けない性質をもっていることが関係していると考えられる.

いずれにせよ,今回作成した各接着剤は保存には適さないことがわかった.

6.4 金属板のさびについて

昨年と同様,接着剤をぬった金属板は結合剤の OH-による腐食により表面にさびが生じ

てしまった.特に,銅と真鍮に関してはさびがひどいものが存在したが,アのルミニウム

に関しては表面の酸化被膜の影響によりあまり腐食されてなかった.

実用的に接着剤を使用できるようにするためには表面処理などを施して金属板表面をさび

ないように化学的に変化させるか,あるいは結合剤そのものをさびないものに変える必要

がある.

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7.まとめ

今回の実験から分かったことを基に,実用化に向けて必要な点などを以下にまとめた.

① 実験結果のばらつきは様々な要因が重なって起こるので,実験時のあらゆる操作を統

一し,かつその操作は慎重に行う必要がある.

② 接着力は硬化剤の違いにより変化するが,Al2O3 や Al3PO4 を用いた時のように力の

かかり方により接着力が大きく変化するものがあるので一概にどの接着剤が強いと

言うことはできない.実用化にはあらゆる力のかかり方に耐えられる接着剤を作成す

る必要がある.

③ 金属板の種類に応じても接着力は変化するので,それぞれの金属板に適した接着剤を

作成する必要がある.

④ 作成した接着剤は保存に適さないものであったが,実用化のためには最低でも1か月

以上は使用できる接着剤を作成する必要がある.

⑤ 接着剤による金属板のさびは実用化の大きな壁となるのでさびを発生させない方法

を考える必要がある.

8.反省点および感想

今年の実験では昨年の実験の反省を生かして,より実用化に向けて実験を進める予定だ

った.さらに,温度変化による接着剤の耐久力の測定や,様々な力のかけ方による接着強

度の測定,および表面処理による接着強度の強化などの実験を行う予定であったが,実際

には夏休みに実験室が使えなかったことや実験設備の不足,自分たちの知識不足などによ

り昨年より踏み込んだ実験を行うことができなかった.

そして,大きな目標であった実験結果のばらつきを抑えることもできなかったので接着剤

の取り扱いの難しさを改めて感じた.

また,実用化のためにはまとめで述べたような点を全て解決させる必要があるため,自分

たちの実験がいかに実用化にほど遠いものかわかった.

しかし,今回の実験で評価方法を改良してより正確に測定できた点は大きかったと言える.

接着剤の実験を継続するかどうかはまだわからないが,別の実験でも今年の反省を十分に

いかして取り組むようにしたい.

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9.参考文献

1)プロをめざす人のための接着技術教本

日本接着学会 日刊工業新聞社 2009.6.30

2)入門ビジュアル・テクノロジー よくわかる接着技術

セメダイン(株) 日本実業出版社 2008.2.1

3)ここまできた接着技術

柳原榮一 工業調査会 2003.9.15

4)機械技術者のための接着設計入門

宮入裕夫 日刊工業新聞社 2000.4.28

5)被着剤からみた接着技術 金属材料編

柳原榮一 日刊工業新聞社 2003.3.31

6)接着系結合系の信頼性技術

野中保雄 日科技連 1992.9.18

7)化学便覧 応用編二版

日本化学会 丸善株式会社 1973.11.10

8)接着剤

東京理科大学一部化学研究部 2010 年度金曜班 輪講書

10.メンバー紹介

チーフ 2C 成田滉平 1 OK 金丸明樹

サブチーフ 2C 石川大稀 1K 岩佐崇弘

会 計 2OK 坂口岳志 1K 藤崎康平

班 員 2C 塚本直人 1K 伊藤憲佑

2C 浪岡亨 1K 井口裕太

2K 大森絵梨 1K 大橋奈実

1K 中山季咲