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2012.12 NHO Iwakuni Clinical Center 1 児外科だより 「うんち出てますか?」~小児の慢性便秘について~ 小児外科 医長 谷 守通 便秘は、一時的な“急性”のものと、1 ~ 2 ヶ月以上続く“慢性”のものに分類されます。慢性便秘には、 “原因が病気のもの”と“原因がないもの”があります。それでは、便秘を引き起こす病気とはどのようなも のでしょうか。 私の専門の小児外科では、『ヒルシュスプルング病』が有名です。これは、腸の壁にある神経節が先天的 にない病気です。病気の範囲はそれぞれですが、肛門は必ず含みます。神経節がない腸は上手く動くこと (蠕 ぜんどう 動運動)ができず、内容物を運べないため頑固な便秘を引き起こすことがあり、手術が必要です。 また、『直腸肛門奇形(鎖 さこう 肛)』という病気もあります。いろいろな型があり、正常な位置に肛門が開口し ない先天異常です。大腸が正常な肛門に開かず、尿道や膣などに細い穴だけでつながっていると、当然便 がほとんど出ないのですが、肛門が正常な位置から少しだけずれている患者さんも便秘になります。肛門 うんちは何日に何回くらい出れば良いのでしょうか。 正常排便回数の目安は、欧米では生後 4 週までは 1 日数回、3 ヶ月で 1 日 2 ~ 3 回、2 歳頃には 1 日 2 回、 4 歳を越えると 1 日 1 回程度とされています。日本人では、満 1 歳までは 1 日 1 ~ 10 回、1 歳で 2 回程度 という調査結果があります。例えば、赤ちゃんは 1 日に何回もうんちが出るのが普通なのです。ただ、こ こに書いたほど便が出なくても、体重増加が良くて他に症状がなければ、心配しなくても良いこともある でしょう。 日本には、小児の便秘はどんなものか、検査や治療はどうしたら良いのか、というガイドラインはあり ません。国際的な機能性消化管障害のガイドラインに『RomeⅢ(2006 年)』というのがあるので、参考にし てみましょう。 「こどもには便秘なんかないでしょ」と思っていませんか? 実は、こどもだって便秘になるし、大人 よりも深刻な症状が出ることがあります。うんちが出ないと、お腹が張って食欲がなくなり、成長や発 育が遅れたり、食べたものを吐いたりすることがあります。便が硬くなるので、肛門が切れて痛んだり、 出血することもあります。また、遺 いふんしょう 糞症(便を漏らす)の原因になることもあります。 慢性便秘の分類 慢性便秘とは うんちが週に2回しか出ないと、ほぼ慢性便秘ということになりそうです。「3日出なかったら便秘だよ」、 とも聞いたことがあります。そんなこどもさんは、病院を受診した方が良いかもしれませんね。 <慢性機能性便秘…下記 6 項目のうち 2 項目以上が 1 ヶ月以上続く> ①排便が 1 週間に 2 回以下 ②トイレットトレーニングが終わった後も、週 1 回以上便失禁 ③大量の便貯留があったことがある ④排便時痛 ⑤直腸内に大量の便塊 ⑥便でトイレが詰まったことがある

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2012.12                NHO Iwakuni Clinical Center

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小児外科だより

「うんち出てますか?」~小児の慢性便秘について~

記 小児外科 医長 谷 守通

 便秘は、一時的な“急性”のものと、1 ~ 2 ヶ月以上続く“慢性”のものに分類されます。慢性便秘には、

“原因が病気のもの”と“原因がないもの”があります。それでは、便秘を引き起こす病気とはどのようなも

のでしょうか。

 私の専門の小児外科では、『ヒルシュスプルング病』が有名です。これは、腸の壁にある神経節が先天的

にない病気です。病気の範囲はそれぞれですが、肛門は必ず含みます。神経節がない腸は上手く動くこと

(蠕ぜんどう

動運動)ができず、内容物を運べないため頑固な便秘を引き起こすことがあり、手術が必要です。

 また、『直腸肛門奇形(鎖さこう

肛)』という病気もあります。いろいろな型があり、正常な位置に肛門が開口し

ない先天異常です。大腸が正常な肛門に開かず、尿道や膣などに細い穴だけでつながっていると、当然便

がほとんど出ないのですが、肛門が正常な位置から少しだけずれている患者さんも便秘になります。肛門

 うんちは何日に何回くらい出れば良いのでしょうか。

 正常排便回数の目安は、欧米では生後 4週までは 1日数回、3ヶ月で 1日 2~ 3回、2歳頃には 1日 2回、

4 歳を越えると 1 日 1 回程度とされています。日本人では、満 1 歳までは 1 日 1 ~ 10 回、1 歳で 2 回程度

という調査結果があります。例えば、赤ちゃんは 1 日に何回もうんちが出るのが普通なのです。ただ、こ

こに書いたほど便が出なくても、体重増加が良くて他に症状がなければ、心配しなくても良いこともある

でしょう。

 日本には、小児の便秘はどんなものか、検査や治療はどうしたら良いのか、というガイドラインはあり

ません。国際的な機能性消化管障害のガイドラインに『RomeⅢ(2006 年)』というのがあるので、参考にし

てみましょう。

 「こどもには便秘なんかないでしょ」と思っていませんか? 実は、こどもだって便秘になるし、大人

よりも深刻な症状が出ることがあります。うんちが出ないと、お腹が張って食欲がなくなり、成長や発

育が遅れたり、食べたものを吐いたりすることがあります。便が硬くなるので、肛門が切れて痛んだり、

出血することもあります。また、遺いふんしょう

糞症(便を漏らす)の原因になることもあります。

慢性便秘の分類

慢性便秘とは

 うんちが週に 2回しか出ないと、ほぼ慢性便秘ということになりそうです。「3日出なかったら便秘だよ」、

とも聞いたことがあります。そんなこどもさんは、病院を受診した方が良いかもしれませんね。

<慢性機能性便秘…下記 6項目のうち 2項目以上が 1ヶ月以上続く>

①排便が 1週間に 2回以下     

②トイレットトレーニングが終わった後も、週 1回以上便失禁

③大量の便貯留があったことがある 

④排便時痛

⑤直腸内に大量の便塊       

⑥便でトイレが詰まったことがある

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 原因となる病気がある場合はその治療が必要です。病気がない慢性便秘治療時の一番の問題は、こども

の慢性便秘は悪循環を繰り返す、ということでしょう。便をためると便が硬く大きくなり、排便時に肛門

が裂けて強い痛みを感じます。すると次回の排便を我慢するようになり、長時間便が停滞すると便の水分

が吸収され、再度便が硬くなります。

 最後になりますが、注意することがまだあります。便秘の治療は長期化することが多いのですが、

治療を止めるとまた悪くなることがしばしば見られます。便秘は悪循環を起こすので、放置しては

いけません。長い目で見て、じっくり根気よく対処することが必要なのです。

慢性便秘の治療

 また、慢性的に大腸が拡張していると腸は徐々に太くなり、腸管の収縮力が弱

まって、便意も起こらなくなります。直腸内に大きな硬い便塊がたまると、直腸が

収縮出来ないままになってしまい、便が出ないと思って下剤を飲んで上から軟らか

い便が来ると、便塊が栓になり腹痛を起こしたり、軟便が便塊の脇を通って肛門か

ら少しずつ漏れ出してくる状態になることがあります(図 1 参照)。これは遺糞症の

原因にもなります。困ったことに、便が出ているので、もしくは軟便が出ているので、

便秘ではないと誤って判断されることもあります。便が出ないからといって下剤を

飲むだけでは、解決しないことがあるのには注意しなければなりません。

 便がたくさん貯留している場合は、まず一度たまった便を除去することが必要で

す。つまり、浣腸・便を出す坐薬を使う・摘てきべん

便(肛門から便を掻き出す)・洗腸(肛門

からチューブを入れて大腸のなかを洗う)といったことを行い便を出します。あまり

にも便が多いときは、全身麻酔をかけて摘便や洗腸を行うこともあります。10 歳の

男の子でお腹の腫瘍を疑われて紹介された患者さんは、S 状結腸という大腸の終わり

近くの腸などが便でパンパンになって、肝臓の下まで届く状態でした。ほとんどお

腹は便でいっぱいで浣腸ではどうしようもなく、全身麻酔で 3時間以上かかってやっ

とのことで便を出しました(図 2参照)。

 貯留便がなくなれば、更に浣腸や坐薬を続けて、拡張した大腸が細くなるように

促しながら便の硬さを観察し、内服薬を調節します。お薬は便を軟らかくする種類

や腸の動きを促すようなものを用います。漢方薬の有用性も多く報告されていて、

我々も積極的に使用しています。また、規則正しい生活習慣や排便習慣、食物繊維(海

草類、豆類、きのこ類、穀類、果物など)や乳酸菌をたくさん摂るなど、食生活は慢

性便秘の解消に非常に重要です。

直腸、S 状結腸が便でパンパン

【図 1】直腸内の様子

【図 2】CT のイメージ

便塊

肛門

直腸

S状結腸

肝臓

直腸

軟便

<慢性便秘を引き起こす病気の例>

①腸管神経異常〈ヒルシュスプルング病など〉 ②肛門の異常〈直腸肛門奇形、肛門狭きょうさく

窄など〉

③内分泌・代謝異常〈甲状腺機能低下症、高カルシウム血症など〉

④消化器疾患〈嚢のうほうせいせんいしょう

胞性線維症など〉⑤脊せきずい

髄・神経疾患〈脊髄奇形、脊髄損傷、重度心身障害、脳性麻痺など〉

⑥腹壁異常〈腹筋が弱い為に起こる病気など〉 ⑦結合織異常〈SLE(全身性エリテマトーデス)、強きょうひしょう

皮症など、)〉

⑧薬剤〈麻薬、抗けいれん剤、抗うつ剤、自律神経作用剤など〉

⑨その他〈食物アレルギー、乳糖不耐症、重金属中毒など〉

が少しずれているだけだと、小児外科医が診察するまで異常に気付かれないこともしばしばあり、注意が

必要でこれも手術を要する病気です。このような病気の診療にあたっている小児外科医は、慢性便秘の治

療に関しても慣れているのです。

お腹

軟便だけ漏れてくる