腐食の事例と対策 7. 電 気 防 食† - J-STAGE

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講 座 LECTURE

腐 食 の 事 例 と 対 策

7. 電 気 防 食 †

玉 利 昭 一 *

1 電 気 防 食 法

電気 防食法 には陰極防食法(カ ソー ド防食法)と 陽

極防食法 があるけれ ども,こ こでは陰極防食法 につい

てのべる.電 気防食 は過去30数 年 の間に大 きく発達 し

た技 術の一 つであ り,諸 外国の進歩 に負 う所 も多いが,

日本独 自に開発 された もの も少 な くない.電 気防食法

は防食対 象を陰極に して,金 属をその安 定域に持ち込

む防食法 である.対 象 となるのは電解質中に存 在す る

金属 で,鉄 鋼 の他に,ア ル ミニウム合金,ス テ ンレス

鋼,鉛,銅 合 金な どがあ る.ま た,コ ンク リー ト中や

種 々の溶液 中で も適用で きる.孔 食,応 力腐食割れ,

腐食 疲労,粒 界腐食,脱 亜 鉛腐食な どの防止に も有効

である場合が多い.

1・1 防食電位お よび防食電流密度

腐食 を停止 させ るために到達すべ き最低限必要な電

位 を防食 電位 と呼び,防 食 対象の単位面積当 りに必要

な電 流を防食 電流密度 と言 う.金 属の種 類 と環 境に よ

って,そ れぞれ値 は異な るが,ほ ぼ確定 した値 が求め

られている.鉄 鋼 を例に とれば,天 然水中や土壌中で

防食 電位は-0.85V (CSE,飽 和硫酸銅 電極基準)で

あ る.防 食電流密度は海水中において,0.1A/m2程

度であ るが汚染や流速の影響を受け る場合は大 きくな

る.

1・2 防食方式

(1) 流電陽極法 水中や土中の構造物に,卑(活

性)な 金属陽極を電気的に接続 し,そ の間 の電池作用

に よって連続的 に電流を流す方法であ り,犠 牲陽極法

とも呼ばれ る.Zn合 金,Al合 金,Mg合 金 などが使

用 されて いる.電 気防食技術 の中で陽極材料 の占める

比重 は大 き く,そ の性能が防食効果 を左右す る.こ の

10数 年間 に,内 外 においてAl陽 極 の開発が進 め られ,

現在 ではAl-Zn-In系,Al-Zn-Mg系,Al-Zn-Hg系

の ものが使われ ている.日 本 では93%以 上 の電流効率

を もつ高性能 の陽極が 開発 され ている.Al陽 極 の電

位 と電流効率 に悪影響 を与 える元素 はFeとCuで あ

るこ とが良 く知 られ ている.合 金 中のFeに 対す るSi

の比率が重要 である1).高温海泥 中では,Znは 粒界腐

食 な どのため使用可能温度 に限界 が あ り,Al陽 極 の

電流効率は低下する2).流電陽極の性能を判定す るため,

世界各国で試験法が制定 されてい るが 日本では1982年

に従 来の試 験法が改訂 された3).特 にMg系 流電陽 極

を土壌 中で埋設 使用す る場合,性 能を的確に判定で き

るよ うに した適用範囲の広い標 準試 験法である.

(2) 外部電源法 水中や土中に耐久性電極を設 置

し,直 流電源装置に よ り通電す る方法であ る.耐 久性

電極 としては鉛銀合金電極,高 ケイ素鉄電極,白 金電

極,黒 鉛電極,マ グネタイ ト電極,フ ェライ ト電極な

どがあ る.最 近,注 目されてい るもの として,混 合金

属酸化物の電導性皮膜を もつ複合電極があ る4).この電

極の性能は

(a) 結晶質の混合金属酸化物の厚 さは1ミ ル以下

(b) 抵抗は10-5~10-6Ω ・cm

(c) pH 0.1~8.7,温 度0~87℃ に耐え る

(d) 消耗度 は 塩化物溶 液中で0.5~1.0mg/A-yr.

(600A/m2)

淡水中や海底土中で6mg/A-yr. (150A/m2)

(e) 性能や寿命 は電源のACリ ップルの影響を受け

ないな どであ る.

この よ うな優れた特性を持つため,苛 酷な環境に さら

され る埋設管防食の深井戸工法な どに,今 後,多 く使

用 され るもの と考え られ る.電 源装置は普通 シ リコン

整流器であ り,自 動定電位型や手動定電圧型が広 く用

い られてい る.ま た,太 陽電池やCCVT (closed cycle

vapor turbogenerator)な ども使 われる.

(3) 排流法 直流電鉄軌条近 くの埋設管は軌条か

ら流 出す る電流 の一部が流入 し,そ の流 出部 で大 きな

電食 を受け る.排 流法 はこの電食 を防止す る 目的 で使

用 され る方法 であ り,選 択排流法 と強制排流法 がある.

1・3 効果判定

電気 防食 の効果判定法 には,実 物 の観察,厚 みの計

測,試 験片 に よる方法 な どもあるが,一 般 には,電 位

測定法 が多 く採用 されている.し か し,電 位測 定に よ

る効果判定 は現在 なお新 しい課題 である.NACE ST-

ANDARD RP-01-69で 埋設管 の防食基 準 として次 の

五つ をあげている.

(1) 埋設管 の極 く近 くで測定 して,-0.85V (CSE)

† 原稿受理 昭和61年9月22日* 日本防蝕工業(株)技術開発部 東京都大田区南蒲田

(104) 「材料 」 第36巻 第405号

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7. 電 気 防 食 637

より卑 な電位 にす る こと

(2) 防食電流を流 しなが ら測定 し,300mV以 上 の

電位変化 を与 える こと(IR降 下を含む)

(3) 自然電位か ら100mV以 上 の分極量 を与 える こ

と(IR降 下 を含 まない)

(4) E-logi曲 線 で直線部分 のは じま りの 電位 より

卑 に保つ こと

(5) あ らか じめ調査 した電流流 出点 に防食電流が流

入す るこ と

これ らの基準 には不 明確 な点が あるた め,多 くの議論

が なされ ている.例 えば,100mV(真 の分極量)の 基

準が各種土壌 中の腐食防止 に最 も確か である(常 温,

嫌気性バ クテ リアが存在 しない 場合5)),パ イプ ライン

の損傷部が-0.85V (CSE)と なる よ うにOFF電 位

で管理す るこ とが望 ましい6).また,更 に完全 な防食が

要求 され る ときは-1.0V (CSE)の 分極電位(IR降

下を含 まない)を 基準 とすべ きである7)などである.

2 電気防食の設計お よび施工

2・1 海洋構造物

海洋構造物 には鋼矢板岸壁,鋼 杭桟橋等 の港湾施設,

沈埋函,海 底管,石 油備蓄 タ ンク,長 大橋 な ど多 くの

鋼構造物が ある.電 気 防食 に よって,海 水中お よび海

底土壌 中は十分 な防食が可能 であるが飛 まつ帯等 の保

護 と併用 して,は じめて完全 な防食対策 となる.Al合

金陽極 に よる防食法 の普及 に よって,長 期 間にわたる

確実 な防食 が可能 とな り,現 在 主流をな してい る.ま

た外部電源方式 も耐久性電 極や施工方法 の改良,モ ニ

タ リング装置 との組合 せな どに よって,そ の利点が見

直 される傾 向にある.港 湾技 術研究所 の研究に よ り,

鋼矢板 お よび鋼管杭 な どの腐食傾 向が数種に分類 され,

集 中腐食現 象はマ クロセル形成に よること8),また,鋼

矢板 の凸面,鋼 管杭 の海 側面,鋼 矢板 前面の鋼 管杭,

ア ングル材 のエ ッジ部等 のM.L.W.L.(平 均干潮面)

付近 に腐食 が集 中する現 象はマ クロセル形成のみに よ

って説 明す る ことは難 しく,船 の接舷等 に よる付着 物

の除去 に関連 す る9)ことな どが明 らかに された.

(1) 防食電流密度 防食電 流密度(初 期)は 施設

の環境や条件 に より異 なるが,日 本では港湾 構造物 に

対す る設計基準 として 次 の値 を とっている.(裸 鉄 面

に対 し)

海水 中0.1A/m2 石 積部0.05A/m2

海土 中0.02A/m2 陸土中0.01A/m2

ただ し,汚 染 のひ どい海水 中,波 浪や潮 流が大 きい場

合 には調査 を行 って適正 な電 流密度 を採用 する.外 国

の基準 として,NACEのRP-01-76 (1983 Rev.)や

DNVのRP B401 (1986)な どがある.表Iに 裸鋼

材 の防食 に必要 な最低設計電流密度 を示す.こ こで初

期電流密度 は新 しい陽極 の出力で計算す る時 に使用 し,

表I 裸鉄面を防食するための最小設計電流密度

に関する指針

DNV RP B401, p. 4, 1986

表II 塗 膜の劣化 率に関す る指針(高 品質塗膜,

膜 厚1mm以 下)

DNV RP B401, p. 5, 1986

表III 被覆パイ プライ ンの最小設計電流密度 に関

す る指針(使 用期 間,30年 まで)

DNV RP B401, p. 5, 1986

最終電流密度 は陽極がそ の使用率 まで消耗 した時点で

満足すべ き電流密度を示す.ま た,平 均電流密度 は陽

極重量を決定す る時に使用す るとしてい る.表IIは 耐

用期間 ごとの塗膜劣化率,表IIIは 塗装 したパ イプライ

ンに対す る最低設計電流密度を示す.防 食電流密度に

影響す る因子には温度,流 速,海 水浸漬率,海 水汚染

等があ る.鉄 面の温度が25℃ 以上になる時は,温 度

1℃の上昇に対 して2mA/m2の 電 流密度 を増す 必要 が

あ る10).流速があ る場合,所 要防食電流は増大す る.長

期現場試験の結果,2m/sec程 度 の流速 がある場合,

平均防食電流密度 として100~150mA/m2の 値 が 得

られ時間的な効果が大 きい ことを示 した.海 洋環 境で

は短 い周期で干満を繰 り返すため,適 切 な防食設 計が

昭和62年6月 (105)

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為 されれ ば,浸 漬 率が小 さ くても相当 の効果 をあげ る

こ とが できる.し か し,干 満部 に対 しては波浪 などの

影響 で,防 食電流密度 は大 き くなる.日 本各地 で行 っ

た試験片 に よって浸漬率-防 食率 の 係 を求 め た 結果

では,良 く防食 された場合,60%の 浸漬率 で も90%程

度 の防食率 が得 られている.海 水汚染 に よって鋼構造

物 の腐食が加速 され るこ とは良 く知 られている.NH4+

(ppm)+1/Cl-(%)の 値 が0.8以 上 の場合水質 は汚染

している と考 え られ,平 均 防食電流密度 も大 き くなる

こ とが発表 されている11).図1にAl陽 極 の取付例 を示

す.

図1 Al陽 極取付法

2・2 地 中構 造物

地 中構造物 では埋設 管,基 礎鋼杭,タ ンク底板な ど

が防食対 象である.地 下埋設 管の防食は電鉄が非常に

発達 している 日本の国情を反映 して,著 し く発展 した

分野 である.

(1) 腐 食 の形態 地下埋設 管の腐食 中最 も大 きな

割合 を占めているのは電食 である.電 車の進行に伴い

一部 の電流 が大地 に流 出 し付 近の埋設 管に流入す る.

流入電流 は変電所近 くで再 び地 中に流れ出 し,変 電所

の負極へ帰流す る.電 流が埋設管か ら土 中に流出する

過程 で,管 に局部的 な腐食 を起す.電 食 以外に も通気

差電池,異 種金属接触電池,コ ンクリー ト貫通部 と土

壌中の電位差 などのため 自然腐食が発生す る.土 壌腐

食 に影響を与え ろ因子 としては多孔性,含 水量,抵 抗

率,塩 濃度,pHな どがあ り,相 互に関連 してい る.

中でも最大 の影響 を持つ ものは土壌 の抵抗率 であ ると

され ている.通 常,103Ω ・cm以 下 の土壌 の腐食性 は

非常 に大 き く,104Ω ・cm以 上では極 めて小 さい と考

えられる.

(2) 防食電流密度お よび電位測定 環境や塗覆装

の種類 な どに よって防食電流密度 は大幅 に異 なるた め,

適切 な防食電流密度 を選 ぶこ とが肝要 である.埋 設管

の電気 防食 は大部分塗覆装 と併用 されるので,塗 膜抵

抗 の評価 が重要 な要素 となる.表IVに 所要 防食電流密

度 を示す.塗 覆装 が施 され た埋設管 の電位測定 におい

表IV 埋設体の防食に必要な電流密度(塗 覆装後

相当時間経過ののち)

電食・土壌腐食ハンドブック,p. 215

て,IR降 下 を除 く方法 として,電 源のON-OFFに

よることが多いが,電 源が切れない場合には他の方法

に よらざるを得ない.こ れを解決す るため,塗 覆装の

欠陥を模 した プローブを埋設管の近傍に設置 し,管 と

の接続,切 りはな しに よって,電 流0の 状態で電位測

定を行 う方法が開発 されてい る.埋 設 プローブ法の概

念図を図2に 示す12).また,電 鉄の運行に よって電位は

大 幅に変動するか ら,長 時間の監視が必要 とな る.こ

の よ うな 目的か ら,時 間別 電位度 数分布 記憶装置が開

発 されてい る.図3に 時間別 と測定点別の電位度数分

布 の例を示 す13).

(3) 施 工方法 流電法,外 電法,排 流法の単独 ま

図2 埋設 プ ローブ法 の概 念図

(106) 「材料」 第36巻 第405号

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時間別電位度数分布(24時 間)

地点別電位度数分布

図3 時間別地点別電位度数分布

たは組合せが行われてい る.流 電陽極 には 主 にMg

陽極が使用 され る.外 電法では管路に対す る均等な電

流分布,干 渉防止,用 地 の縮少 などの見地か ら,深 埋

工法が もっぱ ら採用 されてい る.地 下100m程 度 の深

井戸 の中に,グ ラフ ァイ ト,ケ イ素鉄,マ グネタイ ト

などの電極を設置 し,そ の周 りにバ ックフ ィルとして,

焼成石油 コー クス粉末 などを圧入す る工法 であ る.

タン ク底板 の防食 には流電法,外 電法 のいずれ も行

われてい る.直 径100mに も及ぶ大型 のものが多 いの

で電流分布が防食効果を左右す る.タ ン ク底板外面 の

中 で,最 も激 しい腐食部位 は周辺部 であるため,こ の

部分を重点的 に防食す る亜鉛 シー トを敷 く工法 は電気

防食効果 のほか に,Zn化 合物 による腐食抑制効果を

ね らった ものである.

3 船 舶

船舶 の電気防食 で主 な対象 となるのは船体外板,プ

ロペ ラ,バ ラス トタン クお よび復水器 な どである.バ

ラス トタ ンクの防食 には,主 にZn陽 極が使用 され,

塗装 との併用が多い.塗 装 と併用すれ ば,防 食電流密

度 は大幅 に低減 でき,通 常 は5~10mA/m2で 良い.

バ ラス トタン クの電気防食効果 に影響 を与 えるのは温

度,漲 排水条件,応 力などである.船 尾 プ ロペ ラ周 り

を防食す るた め,古 くか らZn陽 極が用 い られ ている.

船体外板 の防食 には,環 境 の変化 に対応 して,船 体を

常に一定 の電位 に保 ち,し か も塗膜 を傷 めないよ うに

防食電流 を供給す る電位 自動制御外部電源方式が広 く

採用 され てい る.装 置 の概要 を図4に 示す.防 食電流

図4 船体外板自動防食装置

密度 は塗膜 の損傷程度 によ り異 なるが実用的には20~

50mA/m2程 度であ る.海 水潤滑式船尾管軸受の プロ

ペ ラ軸 ス リーブの腐食 は 船体外板 に取付け られたZn

陽極 の二次的作用 に基づ くものである.プ ロペ ラ軸が

回転中 は中間軸受等 のベア リン グに油膜が形成 され,

プ ロペ ラ軸 と船体間 には大 きな抵抗 を生ず る.し たが

って防食電流 の回路 は,Zn陽 極→海水→ プ ロペ ラ翼

→ プ ロペ ラ軸 → 軸 ス リーブ→ 海水 → 船尾管 → 船体→

Zn陽 極 とな り,軸 ス リーブか ら電流が流出 し腐食す

る.こ れ を防止す るには低抵抗 の軸 アース装置 をプ ロ

ペ ラ軸系 に取 り付 け,軸 ス リーブの腐食電流 を軸 アー

ス装置 を通 して船体へ流 せば良い.軸 アース装置用 ブ

ラシとしては,油 汚れ,腐 食等 に耐 え,低 抵抗 を長時

間維持 できる銀-黒 鉛 ブ ラシが最 も良 く,銀 の リン グ

と組合 せて使用 する.軸 アース装置 の管理 は軸-船 体

電位差計 または軸-船 体電流計 で行 う.

4 工 場 施 設

工場施設 には.各 種 熱交換器,海 水取水 ロス クリー

ン,海 水輸送管,ポ ンプ等多 くの防食対象 がある.

4・1 復水器

(1) 防食 電流密度 および防食電位 通常,0.15~

0.3A/m2の 防食電 流密度 で設 計されるが,汚 染海域

では0.4~0.6A/m2程 度 が必要である.銅 合金 は-

0.6V (SCE,飽 和甘 こう電 極基準)程 度 まで分極 させ

れば,ほ とん ど完全に防食 される.管 の一 部 または全

部にチ タンが使用 される場合,銅 合金を防食 し,か つ

チ タン管に水素吸収 を起 さない よ うに電位 を管理 する

必要がある.チ タンの 水素 吸収 臨界電位 はお よそ-

0.7Vと されているので,チ タ ン管 と銅合金 が共用 さ

れてい る時には-0.6~-0.7Vに 電位 を管理すれ ば良

い.防 食 対象面積 として,通 常,管 径の10倍 程度 の深

さまでを とっているが,こ れは設 計上 の手法 であ り,

これ以上の深 さ まで電 流が到 達 しない とい うことでは

ない.

(2) 施工法 復 水器 の防食 では鉄 イオ ンの注入 と

電 気防食 の併用 が効果的である.通 常 は水 室に鉛銀合

金電 極を と りつけ,自 動 定電位装置 に より管板面 の電

位 を管理 しなが ら通電す る.定 電位電気 防食装置 の電

極 として鉄電 極を使用 する方法 も多 く行わ れているが,

防食電 流に よって発生 す る鉄 イオ ン濃度 は1~3ppb

程 度であ り,十 分 な濃 度 とは言えない.こ のため,防

昭和62年6月 (107)

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図5 定電流-定電位制御による双極鉄電極概略図

食電 流の大小 にかか わ らず常 に5~10ppbを 連続的

に注入 できる双 極型鉄電 極が開発された.こ れは鉄電

極 中央 部に絶 縁された補助 陰極板 を備えた ものであ る.

この補 助陰極に定電流回路をつな ぎ,通 常の定電位回

路 と組合せて使用す る.本 装置に よ り,銅 合金の管を

防食す るために必要な濃度の鉄 イオンを管板の電位に

左右 されず常時供給で きる.図5に 概要を示す.

4・2 そ の他 の工場施設

(1) コンデ ンサー カバ ーや仕切板 にZn陽 極や

Fe陽 極をボル トで取 付ける.

(2) スク リー ン 外部電 源法 も使 われるが,主 に

Al陽 極で防食 している.ス ク リーンの 強度を必要 と

する部分 に,マ ルテ ンサ イ ト系 または フェライ ト系の

ステ ン レス鋼 を使用す ることが多 く,過 防食には十分

な注意が必要 である.

(3) 海水輸送管 内面 海水輸送管 では海水 に よる

腐食 作用 に加えて,流 速 の影響 を考慮 する必要 がある.

塗装 と併用 すれば,所 要 電流は低減 し,電 流分布 も良

好にな る.防 食電流密度 は流速,内 面の塗覆装な どに

よ り異な るが,塗 膜の経年劣化状態の推定 と陽極間隔

の選定が設計上重要 な要素 である.主 にAl陽 極お よ

びZn陽 極が用い られ る.

(4) 温水器,ス トレージタンク 淡 水中では,水

の抵抗 が高 く電 流分布 が悪いため,塗 覆装 と併用 され

る ことが多い.防 食 電流密度は水の硬度に関連 し,カ

ル シウム硬度2以 下で は250~300mA/m2を 要 す る

が,10以 上では70~100mA/m2程 度で良い.タ ン ク

内に白金-チ タン 線を良 い電流分布が得 られ るよ うに

配線す る.最 近 では電位検 出用 のセ ンサーに より,防

食状態 を常 時監 視で きる装置 も採 用 されてい る.

5 コンク リー ト構 造物

近年,コ ンク リー ト中鋼材の腐食問題が大 き く取 り

上げ られてい る.コ ン クリー ト構造物 の防食法 として

は エポキシ樹脂被覆鉄筋や亜鉛 めっき鉄筋 を使用す る

方法,防 錆剤添 加法,各 種 材料 に よる コンク リー ト表

面被覆法,電 気防食法 な どがあ る.

5・1 コンク リー ト中鋼材の腐食

図6に 鉄の アノー ド分極曲線を示す.ア ル カ リ性溶

液中で鉄を アノー ドとして電位を貴方 向へ変化 させれ

ば,一 般 にABCDEの よ うな アノー ド分極曲線 が 得

られ る.AB電 位域 では,鉄 は活性態 を示 し,電 位 の

上 昇 とともに溶解が増大す るが,CD電 位域 では不働

態化 し,ほ とん ど溶 解 しない.DEで は酸素 ガスが発

図6 鉄のアノー ド分極曲線

生 す る.し か し,コ ンク リー ト中の鉄は当初か ら不働

態化 してい るので図の破線部が現れず,自 然電位Fか

ら始 まる実線FDEの 曲線が得 られ る.コ ン クリー ト

中にCl-イ オ ンが存在 する と,G電 位 において 電流

が増大 し,孔 食 が発生す る.こ の孔食 の発生 し始 める

臨界電位 を孔食電位 と言 う.孔 食 は鉄 の 自然電位 が孔

食電 位 よ り貴に一定時間保 持 された とき発生 し,孔 食

箇所の内部が アノー ド,そ の外部が カソー ドとな り,

電池作用 によって腐食が進行す る.同 時に孔食内部で

はア ノー ド反応 の進行 に よりCl-イ オンの濃度が高 く

なる.ま た,腐 食生成物(FeCl2)の 加水分解 によ り,

(108) 「材料」 第36巻 第405号

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7. 電 気 防 食 641

液 のpHが 低 くなるため,鉄 の溶解 が促進 される.孔

食 の発生 した鉄の電位を再 び卑の方向へ移動す ると,

図のH電 位で孔食の進行が停止す る.こ の電位を孔食

停止電位 または再不働態化電位 とい う.こ の値 よ り卑

な電位に保てば,孔 食は発生 しない と同時に,既 に存

在す る孔食 の生長 も止 る.さ らに鉄 の電位が卑 な方 向

に変化 し,不 働態 の破壊が生 じた場合(AB電 位域),

鉄 は活性態 となって全面的 に溶解す る.し か し,A点

より卑 な電位 で鉄 の腐食が 防止 され る.不 働態皮膜 の

ない鋼材 に対 して,こ の値 が防食電位 となるが,不 働

態 皮膜 がある場合 は再不働態 化電位 が防食電位 となる.

5・2 腐食状態 の判定

コンク リー ト中鉄筋の腐食 状態評価 について,AS

TM14)に は次の値 が示 されてい る.

-0 .20<E 90%以 上の確率で腐食 が生 じていない

-0 .35<E≦-0.20不 確定

E<-0.35 90%以 上の確率で腐食が生 じてい る

上記Eは 飽和硫酸銅電極基準の 自然電位測定値であ る.

5・3 防食電位お よび防食電流密度

(1) 海水 中に浸漬 されるコンク リー ト構造物 海

水 中に コンクリー トが浸漬 している場合,防 食電流密

度 は2~5mA/m2程 度 と小 さい.こ れは 酸素 の拡 散

が少 ない ことと鋼 や コンク リー ト表面に生成す る石灰

質皮膜のため塩分の浸透 を妨げ ることな どに よるもの

であろ う.電 気防食の施工 も容易であ り,流 電陽極に

よる実施例が多い.防 食電位 は海水中鋼材 の防食電位

で ある-0.85V (CSE)と すれば良い.

(2) 大気 中に曝露 され るコンク リー ト構造物 大

気 中に曝露 され る コン ク リー ト構造物 では酸素 の拡 散

速度 が大 き く,ま た外部 か ら運ばれる塩分 な どの浸透

に よって腐食 作用 は大 きくな り,防 食 電流密度 も大 き

くな る.通 常,10~30mA/m2程 度であ り,環 境,コ

ンク リー トの性質,か ぶ り厚 さ等に よ り異な る.コ ン

ク リー ト構造物の防食電位は環境な どに よ り大幅に変

化す る可能性があ るため,0.1Vの 電位変化(IR降 下

を除いた真 の分極量)を 採用す る ことが最 も実際的で

あ り,信 頼性が 高い と考 え られる.電 位測 定用照合電

極 としてはパーマネ ン ト型 飽和硫酸銅 電極(携 帯用)

や鉛電 極(携 帯用,埋 込用)が 適 している.

(3) 施工方法 海水に浸 漬 してい るコンク リー ト

構 造物 については通常の海水中鋼 材の防食 と同様であ

る.大 気中に曝露 される コンク リー トの防食方法 とし

ては次の よ うな ものがあ る.

(a) コン ク リー ト表 面 に導 電 性 プ ラ ス チ ッ ク線 状 電

極 や 白金 線 状 電 極 を配 置 し導 電 性 ポ リマ ー コン ク

リー トや モ ル タ ル で覆 う方 法

(b) 白金 電 極 な どの一 次 電 極 と導 電 性 塗 料(二 次 電

極)を 併 用 す る 方 法

(c) コ ン ク リー ト表面 にZnな どの 金 属 を溶 射 し,

これ を 電 極 と して 通 電 す る方 法

電 源 装 置 と して は 通 常 の 直 流 電 源装 置 が 用 い られ る.

コ ン ク リー トの 抵 抗 は 温 度 ,湿 度 の 変 化 に よ って 大 幅

に 変 動 し,コ ン ク リー トが 乾 燥 して い る時 は 抵 抗 が 大

き くな り,防 食 電 流 は流 れ に くい.し か し,鋼 材 の 腐

食 も小 さ くな る.こ れ に対 し,コ ン ク リー トが 湿 って

い る時 は鋼 材 の腐 食 も大 き くな り,防 食 電 流 は流 れ や

す くな る.こ の よ うに,コ ン ク リー ト内鉄 筋 は腐 食 程

度 と防食 電 流 の流 れ や す さ が好 都 合 な対 応 を示 す た め,

電 圧 を一 定 と して通 電 す る 定電 圧 法 が適 して い る と言

える.ま た,環 境 に よっ て は太 陽 電池 の使 用 も可 能 で

あ る.大 気 中 に あ る コ ン ク リー ト中鋼 材 の 防 食 に つ い

て は,現 在 多 くの 研 究 が 進 め られ て お り,今 後 の 発 展

が 期 待 され る分 野 で あ る.

参 考 文 献

1) R.F. Crundwell, NACE Paper No.166 (1982).

2) C.F. Schrieber and R.W. Murray, Mater. Perform.,

20, No.3, 23 (1981).

3) 流電陽極試験法及 び同解説,防 食技 術, 31, 612 (1982).

4) C.F. Schrieber and G.L. Mussinelli, NACE Paper

No.287 (1986).

5) Thomas J. Barlo and Warren E. Berry, Mater. Per-

form., 23, No.9, 16 (1984).

6) 布村恵治,腐 食防食協会第65回 腐食防食 シンポジウム資

料, p. 21 (1986).

7) R.A. Gummow, NACE Paper No.343 (1986).

8) 善 一章,港 湾技術研究所報告, 15, No.3, 208 (1976).

9) 善 一章,腐 食防食協会春期 学術講演大会予稿集, p.

324 (1982).

10) DNV, RP B 401, p. 4 (1986).

11) 横 井聡 之,昭 和60年 度港湾技術研究所講演会講演集, p.

216 (1985).

12) 笠原晃明,防 食技術, 30, 526 (1981).

13) 江下和 雄,山 室富士 雄,腐 食防食協会第30回 腐食防食討

論会予稿集, B-310, 287 (1983).

14) ASTM C876, Half Cell Potentials of Reinforcing

Steel in Concrete (1980).

昭和62年6月 (109)