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1.序序 序序, 序序序序序序序序序序序序序序序序序序序序序 「」 , 序序序序序 序序序序序序序序序 「」 序序序序序序序序序序序序序序. 序序序序, 序序序序序序序序序序序序序序序序序序序序序序 序序序序序序序序序序序. 序序序序序序序序序序序序序序序序序序, 序序序序序序序序序序序序序序序序, 序序序序 序序序序序序序序序序序序序序序序序序, 序序序序 psychotherapy 序序序序序 序序序 counseling 序序序序序序 . 序序序序, 序序序序序序序序序序序序序序序序序序序序序序序序序序序 序序 , 序序序 序序序序序序序序序序序序序序序序序序序序序序 . 序序序序序, 序序序序序序序序序 序序, 序序序序序序序序序序序序序序序序, 序序序序序序序序序序序序序序序序序序序序序. 序序序序序序序序序序序序序序, 序序序序序序序序序序序. 序序序序序序序序序, 序序 序序序序序序序序序序序序Rorers, C序序序序序序序序序序序序序序, 序序序序序序序序 序序序序序序序序序序序序序序序序序序序序, 序序序序序序序序序序序序序序序序序序序序 序. 序序, 序序序序序序序序序序序序序序序, 序序序序序序序序序序序序序(Bruce, B. A. 1996, 序序 序序序 2009 . 序序序Rogers, C. R. 序序序 序, 序序序序序序序序序序序序序序序序序序序序序序序序序序序序序序序. 序序序序序序序序 序序序, 序序序序序序序序序序序序序序序序序序序序序序序序序, 序序序序序序序序序序序 序. Rogers, C. R. 序序序序, 序序序序序序序序序序序序序序序序序序序序序序序 序序序序序序, 序序序序序序序序序序序, 序序序序序序序序序序序序序序序序序 序 序, 1980 . 序序序序序序序序序序序序序序Rogers, C. R. 序序序序序序序序序序序序, 序序 序序序序序序序序序序序序序序序序序序序序, 序序序序序序序序序序序序序序序序序序序序序 序序序. 序序序 序序 , 序序序 序序序序序序序序序 , 序序序序序序序序序序序序序序序序序序 1

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1. 序文

 近年 , 「臨床心理士」という言葉を目にする機会が増え , 同じように

「カウンセラー」という言葉を聞く機会も増えてきた . それだけ, 社会

の中で心理学的な立場からの援助が必要とされていると言えるだろう .

臨床心理学は専門的な知識と技能を用い , 心理的側面の課題を扱う

学問であり, この学問分野において人々を援助する方法として , 心理療

法(psychotherapy )やカウンセリング(counseling)が挙げられる.

そもそも, なぜ心理療法やカウンセリングを重ねるだけでクライエ

ント(以下 , 被面接者)が社会に適応するための手助けとなるのだろう

か. この疑問は, 一般の人々ばかりではなく , 我々のように心理学を学

ぶ学徒にも, 長年疑問とされ考察が行われてきた問題である .

人が発達していくプロセスでは , 他者の関与が必要である . そうい

う人の性質と, 日本で広く受け入れられているRorers, C の理論を組み

合わせて考えれば, なぜ心理療法やカウンセリングが被面接者の手助け

になるのか, という問題を理解する手助けになると思われる .

人は, 他者に承認を受けることによって , 自尊感情を高めて生きて

いる(Bruce, B. A. 1996, 梶田・浅田訳 2009 ) . そしてRogers, C. R.

の理論は, 被面接者のありのままの自己概念を理解することに重きを置

いている. ここでいう自己概念とは , 自分で自分のことをどのような人

間だと認識しているか , という自己の捉え方を指す . Rogers, C. R. の理

論は , 上記の通りクライエントの受容を心理療法の根幹としているた

め, 来談者中心的アプローチ, もしくは自己理論とも呼ばれている(国

分 , 1980) .

被面接者をありのまま受容するRogers, C. R. のカウンセリング理

論では, 他者から無条件の承認を受けることができるため , 被面接者の

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自尊感情を高める効果があると考えられる .

治療者(以下 , 面接者)は被面接者と協力し , よりよい治療関係を

作り上げていくために , 上記のような理論や技法を1 つ1 つ丁寧に理解

し, 適切に用いていく必要があるだろう .

面 接 で の 面 接 者 の 技 法 の 1 つ に , 「 効 果 的 な 質 問 ( effective

inquiry )」がある. 面接時の面接者の質問の仕方を大別すると , 「開

か れ た 質 問 ( open-ended question ) 」 と , 「 閉 じ ら れ た 質 問

(closed-ended question )」に分けられる. 開かれた質問とは, 「は

い」や「いいえ」 , 簡単な事実よりも, 広範囲な答えを被面接者から引

き 出 す こ と が 出 来 る . 逆 に 閉 じ ら れ た 質 問 と は , 「 は い 」 や 「 い い

え」 , あるいは簡単な事実しか得ることができない . そして優れた面接

では , 開かれた質問が多く用いられるという( David, R. E., Margaret,

T. H., Max, R. U. & Allen, E. I. , 1979 ; 杉本 1990 ) . 被面接者の話の

邪魔をせず, 課題の焦点をずらさずに話を引き出すためには , 効果的な

質問を用いることができなくてはならない .

このように, 心理療法における面接者の行動が, 被面接者に対して

非常に影響の大きい要因であることは , 臨床心理学においても経験的に

言 わ れ て い る . 臨 床 心 理 士 の 教 育 と 訓 練 に 重 き を 置 い て い る 乾

(1996 )は, 治療者機能を教育していくことが心理療法やカウンセリ

ングを行う上で非常に重要であると強調している . 臨床場面ではより面

接者の行動が被面接者に大きく影響を与えると考えられるが , 一般的な

面接においても, 面接者の行動は被面接者に影響を与える .

一 般 的 な 面 接 場 面 で面 接 者 が被 面 接 者 に 影 響 を及 ぼす 例 と して ,

Matarazzo, J. D., Saslow, G., Wiens, A. N., Weitman, M. & Allen, B. V.

(1964 )の研究が挙げられる(大坊・斎藤 , 1987) . この研究は, 面

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接場面において面接者のうなずきを意図的に強化し , 被面接者の発話時

間を測定したものである. この研究によれば, 面接者のうなずきの強化

によって, 被面接者の発話時間は増加するという報告がなされている .

この研究の考察では, 発話時間が増加する要因を「面接者のうなず

きの強化により被面接者の承認欲求が満たされ, 被面接者が面接者の承

認に応えようとしたため」としている . この実験では, 聞き手の“ うな

ずき” という非言語的コミュニケーションによって, 話し手は相手に認

めてもらえたという満足感を得るとしている.

 成瀬(2000 )は, 「動作はこころそのものであり , 動作とこころは

同根同型である」としており, 自分の動作とこころは相互に作用し合っ

ていると主張している. この言葉を上記の実験に当てはめると, 面接者

の動きの違いが, 被面接者の動作とこころに影響を及ぼした , といえる

だろう.

 面接者の動作が被面接者に影響を与えるならば , 面接者は話の内容だ

けでなく , 自身の細かな動作にも敏感である事が求められる . 面接者

は , 自分の行動が被面接者にどのような影響を与えるのか予測を立て ,

その影響を考慮した上で面接を行う必要があると考えられる .

先行研究の中には, 会話中の非言語的な動作の重要性を裏付けるも

のがある. 身体言語学者のMehrabian (1971 )によれば, 会話中に発

話者のメッセージの内容と態度が矛盾するとき , 聞き手は言語情報を

7%, 聴覚情報を38%, 視覚情報を55% の割合で重視するという(白

井 , 1987) . この結果から, 聞き手はメッセージの内容よりも, 話し手

の態度に影響を受けやすいということが明らかにされている.

Reade, M. N. &Smouse, A. D. ( 1980 ; Tyson, J.A. &Wall, S. M.

1983 )の研究では, 面接者の言語的行動と非言語的行動の一致するコ

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ミュニケーションは, 不一致のコミュニケーションよりも, クライエン

トに専門性や共感度を高く評定されることが報告されている(織田・佐

藤 , 2003) . また, Charny, M. D. (1966 )によれば, 女性とカウンセ

ラーの面接場面では, 肯定的な内容や具体的な話をしているときには姿

勢の一致が観察されやすく, 否定的な内容や具体性のない話をしている

場合には姿勢の不一致が観測されやすいとしている.

これらの先行研究は, 面接者の非言語的な行動や態度が, 被面接者

の行動や気持ちに重要な影響を及ぼす, ということを裏付けている. 特

に心理療法やカウンセリングの場ともなれば , 面接者の行動には1 つ1

つ責任が伴うと考えられる. 面接者は自分の行動が被面接者にどのよう

な影響を及ぼすのかについて, 知識を深めていかなくてはならないだろ

う.  

ここまでに紹介してきたような実験的研究は , 要因を統制して行わ

れるために, その場限りの要因を含む「実践の場」とはかけ離れている

ようにも思えるかもしれない. しかし, 玉瀬(2008 )は, カウンセリ

ングの場を科学として捉えるのであれば , 基礎的研究は重視されるべき

である, としている. 基本的研究の積み重ねと面接者のたゆまぬ自己研

鑽が, 被面接者に変革を促す面接へとつながっていくのではないだろう

か.

本研究では, 面接場面において面接者の行動の変化が, 被面接者の

発話にどのような影響を与えるかについて調査していく . 今回は特に ,

参加者の音声情報に着目して検討していきたい. 音声情報に着目する理

由は, 被面接者の非言語的な行動と比較すると, 音声情報の方が数量の

変化を見やすいと判断したためである.

今回の研究における面接者の行動の変化とは, 具体的には面接中の

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自然応答(以下 , 統制条件)と筆記しながらの応答(以下 , 筆記条件)

の2 種類である.

Matarazzo, J. D. et al (1971 )の研究 を基に , 話題 を3 つに分

け, 面接の中間となる話題において刺激の提示を行う. Matarazzo, J. D.

は面接中の刺激として, 面接者によるうなずきの強化を用いていた . し

かし, うなずきの強化を面接中に行うことは , 面接に不慣れな実験者に

は負担が大きいと考えられる. よって実験者の動作の中で , 比較的安易

に行えると思われる筆記という手段を刺激として, 予備実験を行う. 各

話題の切り替えについては, Matarazzo, J. D. et al(1971 )を参考とし

て, 時間ごとに話題を区切ることとする.

森本(2001 )によれば, 面接は「相談的面接法」と「調査的面接

法」の2 つに大別することができるという. 相談的面接法とは「一般に

問 題 や悩み を持っ た 被 面 接 者 の 要求に基づい て な さ れ る (保坂 ,

2000 )」面接を指す. これに対し, 調査的面接法は「あらかじめ調べ

たい事象を面接者が用意してそれを質問項目とし, 面接を行うもの(保

坂 , 2000)」とされている. 今回の実験における面接では , 実験者が予

め話題を用意してはいるが , 各話題における内容の推移については, 参

加者に任せている. よってこの面接は, 上記の2 つの面接方法を折衷し

た面接方法を用いていると言えるだろう .

実験の全体の流れとしては, 予備実験を行い, 実験条件を検討して

から, 本実験を行う. 予備実験 , 本実験の面接後に, カウンセラー印象

評定尺度を用いて実験者の態度を評定してもらう. カウンセラー印象評

定尺度については, 予備実験2.2.2 (P.7 )の材料で説明を行う.

予備実験の話題には, 実験者が事前に指導教員と話し合い, 被面接

者 が 話 し や す い と 考 え ら れ る も の を選出 し , 「過去の失敗」 ・ 「趣

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味」・「最近良かったと思うこと」の3 つを暫定的に用いる.

参加者の音声については , 森本(2001 )に従い , 主に無声休止

(=1 秒以上の沈黙)や有声休止(=「ええと」など, 0.5 秒以上の無

意味な音声) , 実験参加者の発音語数(逐語記録の文字を全てひらがな

に変換した文字数) , などを分析 , 検討していく.

上 記 の文章にも見られる通 り , 実 験 の説明を行 うにあたっては ,

「面接者」を「実験者」 , 「被面接者」を「参加者」としている. しか

し考察においては, 本研究の内容から発展して, 今後の展望や一般的な

面接に触れる際に, これらの表現が入り乱れて使用されている. この場

合にも, 本研究に関する記述に対しては「実験者」と「参加者」を用い

ていることを前提として話を進めていく.

2.予備実験

2.1 目的

 実験の環境や条件を統制するため, 予備実験を行う. 特に, 実験参加

者の意見に基づいて, 面接時の話題の内容について検討していく.

2.2 方法 

2.2.1 参加者

 女子大学生2 名(平均年齢21.5 歳 , SD=0.5 )が参加した. 面接で

は実験者と参加者 , 双方への心理的な負担を考慮し, 参加者は実験者と

同性であり知人の女子大学生に限定した. 募集方法は, 実験者が個人的

に研究協力を呼びかけた.

2.2.2 材料

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  A4 サイズのフェイ スシー ト ( 性 別 , 年齢) と , 玉瀬・石田

(1996 )のカウンセラー印象評定尺度を質問紙として使用した. 面接

場面の記録に, IC レコーダー( IC RECORDER, ICD-UX300F, SONY 製)

を用いた. 筆記条件と質問紙の回答に, 筆記用具を用いた. 筆記条件で

はA4 サイズのリングノートに面接内容を記述した. 2 人の参加者に対

し, 同じ服装で面接を行った.

カウンセラー印象評定尺度(巻末 , 資料1 )

 この尺度は, 純粋性 , 尊重性 , 共感性の3 要因について, それぞれ4

項目で評定する構成となっている. 項目内容は「自然な態度で接してい

る」 , 「ありのままの自分を出している」などカウンセラーを評定する

ものである . この質問紙は , それぞれの項目に対し「非常に感じられ

る」から「全く感じられない」の5 段階で評定する内容となっている .

提示内容 や項目 の順序 は玉瀬( 2008 ) を参考 と し た . 玉瀬・ 乾

(2000 )の研究では , この質問紙は面接場面のビデオを見た参加者

が , ビデオでのカウンセラーの面接態度を評定するために用いている .

本来この質問紙は 0 ~4 点の5 段階評価になっているが, 本研究では

参加者が直接対峙する実験者の評定を行ったため、0 点を避けることが

予想された.  よって、質問紙の点数を1 ~5 点の5 段階に変更し, 質

問紙調査を行った.

2.2.3 手続き

 面接は参加者ごとに, 個別に行った. 実験者は前もって面接室の遮光

カーテンを閉め, 天候や時間帯によって室内の明るさに差が出ないよう

にし, 室温は25 度に設定した. 実験者の服装は2 回とも同じものを着

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用した.

実験者自身が面接者の役割を行い, 参加者に本研究が治療とは関係

ない調査的な面接であることを説明し, 研究協力の同意を得た . 教示後

に, 参加者の同意を得た上で面接場面の録音を始め, 面接を開始した.

参加者は入口から離れた席に, 机を挟み実験者と向かい合って座っ

た. 実験者は面接中 , 前傾姿勢を保つことに留意した.

面接は3 つの話題に分け, 「過去の失敗」・「趣味」・「最近良か

ったと思うこと」という話題を1 つずつ順に与え, 思い浮かんだことを

自由に話してもらった . 実験者は「趣味」の話題のみ筆記条件を行い ,

「過去の失敗」と「最近良かったと思うこと」は統制条件で面接を行っ

た. 話題の切り替えは, IC レコーダーの時間経過を観察しつつ, 3 分ご

とに行った . 筆記条件は , 参加者の発話が始まると同時に筆記を開始

し, 話題が終了するまで行った.

 面接終了後に, 質問紙調査を行った. 調査用紙が「実験者の面

接態度を評定」する内容のものであったため , 心理的な負担を考

慮して, 実験者は参加者の回答中は別室へ移動していた. 席を外す際

に, 実験者は録音を停止した. 調査用紙への回答後 , 面接の感想を尋ね

た. 感想を聞く際に, 実験者は統制条件で会話を進め, 筆記と録音は行

わなかった.

2.3 結果

予備実験を行った結果 , 参加者から, 実験者が提供した「過去の失

敗」について, できれば話したくなかったという“ 拒絶 ” の反応が見ら

れた. この意見により「過去の失敗」についての話題は、参加者に心理

的な負担を与えると考えられたため , 倫理的な問題を考慮し, 話題項目

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について, 再び検討することとなった. さらに, 筆記を開始した瞬間は

実験者の手元が気になるが, その後は話を進めるにつれ気にならなくな

ってくるという意見も得られた.

2.4 考察

 2.4.1 結果への考察

  「過去の失敗」は , 予備実験を実際に行う前は , 参加者によって

「昔の笑い話」として積極的に語られるのではないかと予想していた .

しかし参加者の意見から, 昔の失敗について語ることは, 心的な不快感

があることが明らかとなった. このことから, 自分の失敗を自発的に語

ることと, 他者に促されて語ることは違った意味合いを持つと考えられ

る.

面接中に筆記されることが徐々に気にならなくなる, という意見

が得られたことから, 参加者は筆記されることを意識はしているが , 警

戒的な反応は示さなかったといえる. この意見が得られた要因は, 2 つ

考えられる. 1 点目は, 時間経過によって参加者が筆記条件に慣れてい

ったということである . 2 点目は , 参加者と実験者が知人であったた

め, 筆記されることへの抵抗感が薄く, 筆記条件に対して最初から大き

な反応を示さなかったということである .

2.4.2 本実験へ向けて

 面接を進める中で , 被面接者が話題の「内容」に反応を示すと ,

その話題の中では実験者の動作に対する反応よりも, 話題自体に参加者

の意識が集中し, 筆記条件への反応が現れづらくなると感じた. このこ

とから, 面接では暗い話題や盛り上がり過ぎる話題は避けた方がよいと

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思われる. よって先述したように, 面接で用いる話題の変更を試みた.

参加者の感想から, 心理的抵抗の大きい「過去の失敗」という話題

を「子どもの頃について」へ改定した. この改定に伴い, 他の話題につ

いても再び検討を行った. 「趣味について」は, 面接時に, 実験者が参

加者に対して問いづらさを感じ, 話題を広げづらかった. そのため趣味

と比較し, より広範に話題が発展すると考えられる「好きなこと」に変

更を行った. 「最近良かったと思うこと」については , 話題が限定的に

なり過ぎてしまうため, こちらも話題が広がると期待される「最近気に

なること」へ変更した. これにより本実験の話題は予備実験に比べ, よ

り自由な発想ができる抽象的な話題へ変更されたと考えられる.

変更した話題は「子どもの頃について」が“ 過去の事象” を, 「好

きなこと」が“ 過去から現在の事象” , 「最近気になること」は“ 現在

と , 未来を含む事象” が回答されると予想された . 本実験では , 過去 ,

現在 , 未来という時系列に従い , 参加者に話題の提示を行う . つまり

「子供の頃について」 , 「好きなこと」 , 「最近気になること」の順で

話題の提供を行うこととなった.

話題以外の実験条件も, 予備実験を終えてから一通り見直しを行っ

た. 座席配置は指導教員と共に検討し直し, 被面接者の座席は通常の心

理療法と同様に, 入口に近い席へ移動した. 話題の切り替えは, 実験者

の時間を気にしている仕草が, 参加者に圧迫感を与えると考えられたた

め, 時間ではなく, 話題が途切れたら次の話題へ移るよう変更した. ま

た予備実験では感想の録音を行わなかったが, 本実験では感想の際にも

録音を続けることにした.

予備実験は2 件とも同じ日に行ったため服装が同一のものになった

が, 本実験でも被面接者への刺激を統一するため, なるべく同じ服装を

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用いることにした.

面接時の参加者と実験者のストレスを軽減するため, 実験参加者は

実験者と直接の知人であり, 同姓の女子大生に限定した. これは実験者

が面接初心者だったことから, 面接には実験者と参加者の双方にストレ

スがかかると予測し , 定めた条件である . 予備実験を行った感想とし

て, 参加者を限定したことは実際に双方のストレスを軽減していたと感

じられた. ここから, 本実験でも参加者を, 実験者と直接の知人である

女子大生に限定して実験を行うことにした.

予備実験は特に時間帯を考慮せず, 参加者の予定に合わせ, 午後4

時から5 時頃に行った. 本実験では時間帯による刺激を出来るだけ一定

にするため, 昼食後の比較的リラックスしている時間帯に面接を行うこ

ととした.

予備実験の参加者は2 人だけであったにも関わらず, 1 度目の面接

と2 度目の面接では, 実験者の緊張に大きな違いがあった. 実験者の緊

張感は, 参加者への会話の促し方などにも表れ, 参加者の発言にも影響

を及ぼしていると考えられた. これにより, 本実験でも前半と後半で実

験者の緊張感が異なることが予想される.

3.本実験

3.1 目的

 面接場面において, 面接者の行動の変化が被面接者にどのような影響

を与えるのかを検討していきたい. そのため予備実験と同様に, 面接中

の面接者の行動を統制条件と筆記条件に分け, 録音した被面接者の音声

を分析していく.

「筆記条件では被面接者に心理的な負担がかかる」という仮定を前

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提とし, 「筆記条件下では, 参加者の沈黙や有声休止が増加する(仮説

1 )」 , 「筆記条件下では発音語数が減少する(仮説2 )」という2 つ

の仮説を立て, これを検証する.

3.2 方法

3.2.1 参加者

 女子大学生19 名(平均年齢21.1 歳 , SD=0.79 )が参加した. 内

1 名の音声データに不備があったため, 結果からデータを除外した(平

均年齢21.1 歳 , SD=0.8 ) . 予備実験同様 , 面接時における実験者と

参加者双方への心理的負担を考慮し, 参加者は実験者と同性の知人に限

定した. 募集方法についても, 予備実験と同様に, 実験者が参加者個人

に研究協力を呼びかけた. 一部の結果に, 予備実験で収集した参加者2

名分のデータを加えて使用した(使用する場合は結果で適宜示す) .

3.2.2 材料

 予備実験と同様に, A4サイズのフェイスシート(性別 , 年齢)と, 玉

瀬・石田(1996 )のカウンセラー印象評定尺度を質問紙として使用し

た . 面 接 場 面 の 記録に , IC レコーダー ( IC RECORDER, ICD-UX300F,

SONY 製)を用いた . 筆記条件と質問紙の回答に , 筆記用具を用いた .

筆記条件ではA4 サイズの黒いリングノートに面接内容を記述した. 19

名の参加者に対し, 予備実験でも用いた服装と, 心理的抵抗感が少ない

と思われる無地の服装の2 種類を着用した.

3.2.3 手続き

 面接は参加者ごとに個別に行った. 予備実験同様 , 面接室の遮光カー

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テンを閉め , 室温を25 度に保って面接を行った . 実験の開始時間は ,

予備実験での考察を踏まえ, 昼食後から夕食前の時間と考えられる午後

1 時以降から午後6 時までとした.

実験者は, 本研究が治療とは関係のない調査的な面接であることを

説明し, 合わせて実験で行うのは日常的な会話ではあるが , 不快で答え

たくない質問があれば答える必要はないこと , 作為的な沈黙は避けても

らうことを研究説明書(巻末 , 資料2 )に基づき説明した. 教示後 , 参

加者の同意を得た上で ICレコーダーでの録音と面接を開始した. 実験者

は, 腕時計を外して実験に臨んだ. 参加者は入口に近い席に, 机を挟み

実験者と向かい合って座った. 実験者は面接中 , 前傾姿勢を保つことに

留意した.

面接では参加者の「子どもの頃について(以下 , 話題1 )」 , 「好

きなこと(以下 , 話題2 )」 , 「最近気になること(以下 , 話題3 )」

の3 つに, それぞれの話題で参加者が思いつくことを自由に語ってもら

った. 時間制限や話の内容に制限は特に設けず, 会話は基本的に参加者

が実験者に語る形式とした. 面接者が1 つのエピソードを語り終わった

後 , 実験者は「他にも何か思いつくことはありますか」と質問を行っ

た. それ以上エピソードが出てこない場合は, 実験者が参加者に現在の

話題を終えていいか確認した後 , 次の話題を提示した.

実験者は話題1 と話題3 で統制条件を行い, 中間の話題2 のみ筆記

条件で面接を進めた. 筆記条件は参加者の発話が始まると同時に筆記を

開始し, 話題2 が終了するまで筆記を続けた. 筆記は参加者からも内容

が確認できるよう, 参加者と実験者の間にある机上にノートを置いて行

った.

面接終了後 ,  実験の真の目的を説明してから調査用紙に回答

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してもらう先行グループと, 調査用紙に回答してから実験の説明を行う

後行グループの2 グループに分け, 調査用紙に回答してもらった. どち

らのグループも, 調査用紙への回答が終了してから面接に対する感想を

聞いた. 感想を聞く際 , 実験者は統制条件と同様に応答を行い, 筆記は

行わなかった. 参加者の調査用紙回答中は予備実験と同様 , 実験者は席

を外した.

3.3 結果

 森本(2001 )に従い, 音声記録から参加者それぞれの休止時間

(沈黙と有声休止)と, 発音語数 , 初発反応時間を算出した.

 まず3 つの話題ごとに, それぞれ参加者の平均休止時間を算出し, 図

を作成した. 休止時間とは, 無声休止(=沈黙)と有声休止(=「えぇ

と」 , 「うーん」などの無意味な音声)を合わせた総量(秒)である .

休止時間を見るには, それぞれの話題で沈黙と有声休止の回数をある程

度確認する必要があった. そのため, 3 つ全ての話題において, それぞ

れ5 分以上音声が確認できた参加者のデータ(6 名分)を使用して休止

時間を算出した(図1 ) .

図 1 :参加 者 6 名の 話 題 別平均休止時 間

14

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次に, 発音語数の算出を行った. 発音語数とは, 逐語記録の文字を

全てひらがなに変換した文字数を指 し , これはMicrosoft Office Word

2007 の機能を用いた . 本研究では , 各参加者の発音語数を3 つに分

け, 話題ごとの平均文字数を算出した.

この算出結果を用い , 参加者ごとに発音語数が多い話題順に整理

し, 試験的にではあるが, 面接全体を通して各参加者の発音語数がどの

ように振り分けられているか分類した.

話題2 ・話題1 ・話題3 (パターン1 ) , 話題2 ・話題3 ・話題

1 (パターン2 ) , 話題1 ・話題2 ・話題3 (パターン3 ) , 話題3,

話題2, 話題1 (パターン4 )の順に発音語数が減少する4 通りに分類

できた. その4 分類に, それぞれ参加者が属しているパターンの割合を

図示した(図2 ) .

パターン1 は39 % , パターン2 は33 % , パターン3 は22 % ,

パターン4 は6 %の割合であった. この図の作成と発音語数の算出にあ

たっては, 予備実験で用いた話題と本実験で用いた話題が異なっていた

ため, 予備実験参加者のデータは取り除き, 本実験参加者のデータのみ

を使用した.

図 2 :発音語数のパター ン

15

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パターンとは別に3 つの話題をそれぞれ個別に見てみると, 話題1

の平均発音語数が 1831.06 文字 , 話 題 2 が 2225.56 文字 , 話 題 3 が

1026.56 文字となり, 話題2 が最も平均発音語数が多くなった.

 多数の参加者の発音語数は, 実験者の発言も含んだ総発音語数の半数

を超え, 参加者の方が実験者よりも話していることを示してしたが, 20

名中3 名は発音語数が総数の半分以下となった.

次に, 初発反応時間を算出した. 初発反応時間とは, 面接者が教示

を終了して最初の話題を提供してから, 参加者が話し始めるまでの時間

のことを指し, 本研究では, 参加者それぞれの初発反応時間を図に示し

た(図3 ) . 予備実験でのデータを含めた参加者20 名の平均は, 1.25

秒だった. これに比べ, 発音語数が総数の半分に届いていない参加者3

名の初発反応時間の平均を算出したところ, 4.17 秒であった.

図 3 :各参加 者 の初発反応 時 間

カウンセラー印象評定尺度の回答結果から , 項目別平均点を算出

し, 棒グラフを作成した(図4 ) . この図を作成する際 , 予備実験の参

加者2 名分のデータも含めた. 説明順序により区別した先行グループと

後行グループ(※1 )間で, 平均点の比較を行うために対応のないt 検

定(両側検定)を行った(※1 グループの編成については, 3.2.3 手続

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きにおいて既出済み) .

その結果 , 先行グループの平均は49.00 点(SD=6.71 ) , 後行グ

ループの平均が50.44 点(SD=5.05 )であり, 2 群に有意差は見られ

なかった(t=-.516, df=16, p>.05 n.s. ) . よって, 説明を調査用紙の

回答前にすることと, 回答後にすることで, 参加者の実験者に対する印

象に差は見られない, ということが明らかとなった.

これとは別に参加者20 名を, 面接を行った順に前半と後半で10

名ずつに分け, カウンセラー印象評定の平均点を比較した. 平均点の比

較を行うために , 対応のないt検定の(両側検定)を行った . その結

果 , 前半に面接行った参加者10 名の平均は52.80 点(SD=4.77 )と

なり, 後半の10 名は47.30 点(SD=6.09 )点となり, 2 群に有意差

が見られた(t=2.246, df=18, p<.05 ) . t検定の結果と平均値から, 前

半期に面接に参加していた参加者の方が, 後半に面接を行った参加者よ

りも実験者に対する評価が高かったと解釈することができる.

図 4 :グルー プごと の項目 別参加 者平均点

調査用紙回答終了後に聞いた参加者の感想を , 表にまとめた(巻

末 , 資料3 ) . 結果 , 「メモについて」 , 「参加 者 自身の気持ち」 ,

「実験について」 , 「実験者について」 , の順に多く意見・感想が得ら

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れた.

3.4 考察

 ここでは結果について項目ごとに詳細に検討していき, 総合的な考察

は全体考察に譲ることとする.

3.4.1 仮説1 検証

本実験では, 休止時間と発音語数の2 点について, 「筆記条

件において参加者の休止時間が増加する(仮説1 )」 , 「筆記条件にお

いて発音語数が減少する(仮説2 )」という2 つの仮説を立てていた.

ここでは結果からまず仮説1 を検証していきたい.

仮説1 では, 話題2 での休止時間が最も長いと仮定していた. し

かし結果の図1 より, 話題1 の休止時間が最も長かったため, 仮説は実

証されなかった. 話題1 で休止時間が最も長かった原因は, 面接前に実

験者と参加者が会話する時間を設けなかったことが影響したと考えられ

る. 事前の会話がなく突然面接を始めたため, 話題1 が実質的には導入

部分の役割を果たしていた. そのため参加者は話題1 ではまだ緊張して

おり, 休止時間が多かったのではないだろうか .

結果でも記述したように, 図1 の休止時間の算出には, 6 名分のデ

ータのみを使用している. よってこの算出結果は, 全ての話題で長く話

した参加者の傾向に偏っていると考えられる . 参加者全員の休止時間を

加えれば, 今回とは異なる結果となる可能性も考えられる.

3.4.2 休止時間

仮説1 の検証で述べた通り, 休止時間は話題1 において最も長く

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なり, 話題が進むにつれ徐々に減少する傾向が見られた. つまり, 面接

は後半になるにつれ話題が盛り上がり, 参加者は夢中で話をしていたと

言える. このような傾向になった要因としては, 実験参加者の実験に対

する緊張感が, 時間経過に伴って減少したためと考えられる .

 休止時間の算出に用いた参加者6 名は, 全体の平均面接時間(25 分

40 秒)よりも長く話した参加者ばかりであった. よって, 休止時間に

用いた参加者との会話はより盛り上がっており, 後半に向かって休止時

間の減少が顕著となったのではないだろうか . よって, 除外した12 名

のデータを休止時間の算出に加えた場合 , 休止時間の減少は緩やかにな

るのではないかと思われる .

 3.4.3 仮説2 検証

仮説2 では, 筆記条件を行った話題2 の発音語数が一番多いと仮

定した. しかし発音語数が話題2 で最も増加したことから, 仮説と反す

る結果となった. 結果が仮説に反した要因は3 つ考えられる. 3 つの要

因とは, ① 実験者と参加者が知人であったこと . ② 筆記条件の時に書い

ている内容を参加者に見えるように書いていたこと. ③ 筆記をすること

で「自分の話を真剣に聞いてくれている」という参加者の意識が働いた

こと, である. 実際に, この2 つの要因により筆記があまり気にならな

かった, という要因①と②を支持する参加者の意見も見られた. これら

2 つの要因が参加者の心理的負担を軽減する役割を果たし, 筆記条件自

体が発話を抑制しなかったのではないだろうか. そして, ③ の要因によ

って発話が促進されたのではないかと考えられる .

 3.4.4 発音語数

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  話題1 の「子どもの頃」について語りにくいという参加者の意

見があったにも関わらず, 結果的には話題1 ではなく話題3 が最も発音

語数が少なくなった. 話題3 の発音語数が最も少なかったのは, 参加者

がみな大学3 年生と4 年生の, 進路を意識する年代だったことが理由で

はないかと考えられる .

実験者の主観的な感想から言えば, 「面接」という言葉に就職活動

を連想し , 表情が固くなる参加者も見受けられた . 「最近気になるこ

と」と言われて , 実際に半数以上(18 名中11 名)の参加者が進路 ,

あるいは就職活動を「気になること」の1 つとして語っている. 自分の

進路が決まっていない場合 , この話題を語ることはかなりのストレスを

もたらすと考えられ, そのため発話が抑制されたのではないだろうか.

着目したいのは, 「筆記条件は特に気にならなかった」としてい

る参加者8 名の内7 名の発音語数が, 筆記条件を行った話題2 で最も増

加していたことである . この結果から, 本人があまり意識していなくて

も, 実験者に筆記されることで参加者は何らかの影響を受けているとい

えるのではないだろうか. 面接では被面接者の意思が最も尊重・重視さ

れるべきであるが, 面接者は本人も気づいていない無意識の変化を見落

とさないことも重要だと思われる.

結果図2 (P.17 )に見られる, 発音語数の4 つのパターンは, パ

ターン1 と2 は共に話題2 の発音語数が最も多く, 両者の割合を合わせ

た72 %の参加者が話題 2 を多く語るという結果になった . 本研究で

は, 「好きなこと」という内容が発音の増加を促したのか, 筆記条件が

発音の増加を促したのかは調査していない. よって, 発話の増加に影響

していたのは「好きなこと」という話題内容であって, 筆記条件は参加

者に影響を与えていない可能性も考えられる. しかし参加者の意見の中

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に「メモを見ることで話す内容を整理した」 , 「メモを書いている間の

方が話しやすい」などの意見があったことから, 筆記条件によって発音

が増加したのではないかと思われる . また, 話題内容と筆記が共に発話

の増加を促していた可能性も考えられる.

パターン4 は, 18 名中1 名の反応であり, 本研究においては少数派

の反応であったといえる. この反応が現れた要因として, 実験者にとっ

てこの参加者が本実験の最初の相手であったことが挙げられる . 実験者

の緊張感が, 参加者の発話に対し, 他の参加者の時とは異なる影響を与

えたのではないだろうか.

 3.4.5 初発反応時間

  初発反応時間は, 20 名の平均時間は1.25 秒であり, 発音語数が実

験者よりも少なかった3 名の平均時間が4.17 秒であった. つまり, 面

接で実験者よりも話さなかった参加者は , 初発反応時間の長いといえ

る. このことから, 初発反応時間の長い被面接者は , 語り始めだけでな

く, 面接全体を通して慎重な態度で臨んでいたといえる.

 主観的な感想を交えれば, 初発反応時間の長かった3 名の参加者は普

段の生活において「無口」であるとか, 「無愛想」であるということは

感じられない. しかし実験中の「面接」においては , 少し緊張が感じら

れたのも確かである.

3.4.5 カウンセラー印象評定尺度

結果の図4 (P.19 )より, 実験説明の先行グループと後行グルー

プで反応に差が見られないか検討した. カウンセラー印象評定尺度の得

点は , 先行グループと後行グループのグラフでほぼ一致した . 仮説で

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は, 先に実験の説明を行ってから調査用紙に回答した先行グループの方

が高得点を取るとしていたが, 結果は後行グループの方がやや平均得点

が高くなった. しかしt 検定による平均点の有意差は見られなかったた

め, 実験の説明を行うのが前であっても後であっても, 面接者の印象に

は特に影響がないことが判明した. 「面接者に対する評定」はあくまで

面接の中でどのように振舞ったかが重要であり, 面接が終わった後の行

動は含まれていないことが窺われる.

 これとは別に参加者全体を「前半」と「後半」に分け, 平均点をt 検

定で比較したところ, 前半のグループの方が有意に高かった. この原因

は, 実験者の緊張感が実験への慣れにより減少し, 前半と比較して後半

の参加者に対して高圧的な態度を取ってしまったためだと思われる . こ

れは実際の治療場面でもこのようなことが起こるのではないかと思わ

れ, 面接者は面接場面で常に緊張感を保つことが重要であると考えられ

る.

3.4.6  参加者の感想

参加者から, 「知り合いだから筆記されても大丈夫だが, これが

初対面の人ならいやだ」という意見や, 「今は書いているのが見えるか

らいいが, 書いている内容が見えなかったとしたら, 怖い」という意見

が出ていることから, 状況によって, 筆記条件は発言の抑制要因になり

うると考えられる. 序文でも触れたMatarazzo et al. (1971 )の実験

は, 面接者のうなずき強化が被面接者の承認欲求を満たしたため, 面接

における被面接者の発言時間が長くなるとしていた . しかし違った視点

で考えれば, 初対面である面接者のうなずき強化は, 承認欲求を満たし

ていたのではなく , 被面接者に発話を促すような圧迫感を与えていた ,

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という可能性も考えられる. 面接者の行動が同じであっても , 被面接者

との関係性によって, その行動による影響・作用は全く異なるだろう.

本研究の参加者の意見に基づいて考えれば, 面接場面で初対面の

相手に対し筆記を行うことは, 避けた方がいいといえる. 筆記するにし

ても, 相手に筆記内容が見えないように書くことは避けるべきであると

言える. しかし実験の結果から, 基本的な信頼関係(面接者が被面接者

の批判的な内容を書かないなど)が成り立てば, 筆記は相手に話すこと

を促す手段になりうる. 今回の実験から, 面接者は, 第一に自分と被面

接者の関係性を正確に把握した上で, 自身の行動が被面接者にどのよう

な影響を与えるか熟考 , あるいは先行研究から学ぶ必要があると感じ

た.

意見・感想の系統については, 実験者が「筆記されることはどう

思いましたか」と尋ねていたために, 必然的に筆記に関する感想が多く

なった. 最も多かった参加者の意見は, 「メモは気にならなかった」と

いうものと , 実験自体が「楽しかった・面白かった」というものであ

る.

3.4.7 除外したデータについて

 取り除いた1 名のデータに関しては, 実験者が参加者との話題に

夢中になり, 筆記を誤って3 つ目の話題で行ってしまった . これは, 乾

(2009 )が言うところの逆転移(counter transference )感情の出現

であると考えられる. 逆転移感情とは, 「 面接者が被面接者について

感じ取る気持ちの動き」を指す. 面接者は本来 , 自身の逆転移感情を自

覚し , 被面接者に対し中立的で受動的な態度を保たなくてはならない .

たった21 名の , 内容的には参加者の悩みなどに触れない面接におい

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て, 逆転移の経験を得たことは貴重な体験であった. 全体で見ると, 実

験の前半部分において逆転移による失敗をしたために, その後の実験で

は被面接者の話に夢中になり過ぎないよう, 一定の距離を保とうとする

意識が芽生えていたように思う .

4.全体考察

4.1 仮説について

本研究では , 実験者の仮説とは異なる結果が得られた . 仮説では

「話題2 において休止時間が増加し, 発音語数が減少する」としていた

が, 結果では話題1 において休止時間が最多であり, 話題2 で発音語数

が最も増加していた. これらの結果から, 仮説は実証されなかったとい

える.

今回の実験では , 実験者の面接者としての未熟さをカバーするた

め, 参加者は実験者の知人に限定した. このため, 面接を行っているの

が「知人」であることが参加者に強く影響し, 実験者の動作にはあまり

反応が見られなかったのではないかと思われる . 仮説が実証されなかっ

たことで, 今回の実験では「面接者の動作」よりも「面接者自身」の方

が被面接者に与える影響が大きい, ということが分かった .

4.2 本研究で得られたこと

 本研究では, 参加者への面接中の動作よりも , 面接者自身の影響が大

きいということが分かった . 今回のような実験で参加者の反応を観察し

たい場合は, 筆記条件よりも強烈な刺激を用いる必要があると考えられ

る. 面接者の動作が「突然後ろを向く」 , 「伸びをする」など, ある種

演技がかった大げさな動作であれば , 面接者の動作に対する参加者の反

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応をみることができると考えられる . あるいは実験自体は変えずに, 参

加者を全て知人でない人々にすれば , 仮説通りの反応が見られるのでは

ないだろうか.

 今回の実験で気がついたことは, 一連の実験の中でうまくいく時とう

まくいかない時があるように, 同じ面接の中でも, 参加者との関係が良

好な時間と, 停滞しているような重苦しい雰囲気の時とがあるというこ

とだ. 面接の雰囲気は, 実験者の参加者への受け答えにより, よくも悪

くも反転することがある. そして, 1 対1 で向き合っているとき, 実験

者は参加者の感情の変化を拾わざるを得なかった. 自分の言葉が適切だ

ったかそうでなかったかについて, 参加者の反応で一言ごとに気付かさ

れるため, 不適切な発言をした場合には , 実験者の心的ダメージは大き

いものであった.

 参加者の満足感が面接全体の総合得点であるのに対し, 実験者の面接

への満足感は, ほとんど参加者の最後の感想に依っていたといえる. 面

接中にいくら話が盛り上がっていても, 最後の感想で参加者が実は不満

を抱えていたと知ると, 実験者の満足感はないに等しい. これは, 面接

の中で実験者に投影同一視という「自分の願望の満足を相手の願望の満

足によって得る」(小此木 , 1980)心理機制が働いていたのだと考えら

れる . つまり , 実験者は多かれ少なかれ参加者に自己を投影しており ,

あたかも参加者の感情が自分の感情であるかのように同一視していたの

だといえる.

 実験の最後に , 実験者が参加者に対し「実験の感想」を求めたとこ

ろ, 「筆記についての感想」 , 「参加者自身の気持ち」 , 「実験への感

想」と共に, 「実験者に対する感想」を何度か聞くことがあった. 実験

の感想を求めたにも関わらず, 実験者についてのコメントを聞くのは意

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外な思いがしたが, 参加者から見た時 , 実験者は実験の要素の一部であ

ったのだと言えるだろう. 森本(2001 )によれば, 対面している面接

の場合 , 被面接者は面接者を「面接構造の一部としてとらえる傾向があ

る」という. 本実験での参加者の感想は, これを裏付けるものだといえ

るだろう.

4.3 実験者の感想

 参加者全体を見ると, 前半の参加者からは「楽しい」という意見が複

数出ていたのに対し, 後半は実験自体への戸惑いや実験者への不満など

が多く見られ, 「楽しい」という意見は見られなかった. これは, 前半

は短く済んでいた面接が, 後半になるにつれ長引いていたことと無関係

ではないだろう. 考察の3.4.5 でも触れた通り, 実験者の面接への「慣

れ」が, 無意識に面接場面での参加者への接し方を圧迫感のあるものに

変えていたと考えられる . 被面接者の面接への満足感を得るためには ,

面接者は常に少し緊張した状態で, どんな場合にも被面接者の様子を第

一優先として考える必要があるのではないだろうか .

 実験者はどの面接でも, 同じような態度をとるよう努めたが, 参加者

によって面接への感想 , 実験者への感想は様々であった. 好意的な意見

を聞くこともあれば, 実験への不満を聞くこともあり, これはもちろん

実験者の技量不足が原因で, 参加者ごとに面接者の接し方が異なってい

たことも要因の1つであるのは間違いない . しかし面接を思い返すと ,

参加者は実験者に対し, 批判的な感情も好意的な感情も, どちらも共に

抱いていように思う. 乾・宮田(2009 )によれば, 治療初期の被面接

者は, 関心を持って傾聴を続ける面接者へ尊敬 , 信頼 , 愛情を向けるこ

とが多いが, 面接者の中立性や受け身な態度から, 被面接者の欲求は満

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たされることがない . この感情は , やがて面接者への不信感や苛立ち ,

怒りに変化し出すという. このような被面接者から面接者への気持ちの

動きを転移感情(transference )といい, 面接者に対する負の感情は特

に陰性転移と呼ばれている. 被面接者は, 面接者に対し正負どちらの感

情も内包していて, 面接者との関係性の変化の中で, その時々で表出す

る感情が異なるのではないかと感じられた.

 参加者から不満の出る面接では , 感想を聞く前から参加者と実験者

が, お互いに疲労していることを感じていたように思う . 実験者が疲労

を感じている場合や, 次の話題に切り換えるため, 参加者の発話に対し

て疎かな反応を示すと, 参加者は明らかな反応を示し, また実験者が見

当外れな質問や意見を投げかけた時にも , 参加者は敏感に反応を示し

た. 基本的に語る立場であるはずの参加者は, 面接中はとてもよく実験

者の話を聞いていると感じた.

 今回の面接で印象的だったこととしては, 参加者が「子どもの頃につ

いて」語る内容と, 「最近気になること」で語る内容の対比が挙げられ

る. 参加者は「子どもの頃」について語る時には, 自分の性格 , その時

どう思っていたか, などといった内面的な内容を多く語っていた. しか

し, 「最近気になること」となると , 途端に自分の外部的な問題となる

進路 , 金銭的な問題 , 家族はどうしているか, 政治について, などの内

容が多く見受けられた.

参加者は, 今の自分の内面を気にしていないわけではなく , 自己の

内面と向き合うことを避けているように感じられた. この原因は, 参加

者が全員大学3 年生か4 年生であり, 青春期の後期の自己同一性が不安

定な時期であることが関連していると考えられる .

実験参加者は「すでに作られている自己の内的な価値基準を, より

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同世代と適合した規範に修正し」 , アイデンティティを統合・確立する

ために努力している(乾 , 2009)難しい時期に直面している年代といえ

るだろう. この時期は一般的に「モラトリアム」と呼ばれ, 言い方を変

えるとこれは「おとなになるための猶予期間」(小此木 , 1999 )であ

る. 不安定に悩みが渦巻く内面を語りたくない, もしくは向き合いたく

ないと考えるのは, ごく普通の反応であると思われ, 話題3 の発音語数

が最も少なかったことも頷ける.

4.4 今後の課題

細かい反省点を挙げていけばきりがないが , まず大きな反省点は ,

実験全体を通して実験者の態度や感情を統制することが困難であり, 特

に後半の参加者の面接では圧迫的な面接を行ってしまったことが挙げら

れる.

予備実験・本実験で共通の反省点は, 教示を行う際に, 自分では全

ての参加者に同一の説明をしているつもりでも, 言葉の表現が微妙に変

化していたことが挙げられる. またスケジュールの関係上 , 数人の参加

者は通常と異なる面接室で実験を行ったため, 参加者ごとに異なる刺激

を与えてしまった. 他には, 面接を始める前に, 5 分ほど参加者と話す

時間を設定するべきであったと思う. 久々に話す知人は特に, 会ってか

ら数分で面接を行うのは, お互いの心理的負担が大きいように感じた.

 面接中の実験者は, 知人である参加者に対し敬語で話しかけ, 参加者

への相槌のみを行い, ほとんど自己開示を行わなかった. 今回の実験は

このように根本的な条件設定に, 通常の面接とは異なり, 参加者が不自

然さを感じる作為的な要素を含んでいたと言える. また数人の参加者か

ら, 話し終えた後に「他にも何かありますか」と聞かれることが, 話す

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ことを強制されているように感じたという意見が挙げられた. このこと

から, 面接の方法自体に改善の余地があると考えられる.

4.5 今後の展望

 本研究では, 「面接者の行動」より「面接者自身」が被面接者に影響

を与えていたことが明らかとなった. 今後は筆記条件をより強い刺激に

置き換えることで, 面接者自身が被面接者に与える影響が , どの程度の

ものなのか調べることができると思われる.

 今回は, 変化量を観察しやすい音声データのみに重点を置いて調査し

たため, 参加者の動作に関する調査は行っていない. だが, 面接中に緊

張状態に置かれた参加者は, 個人差こそあれ, それぞれ特有の動作(腕

を組む, 足を組む, 太ももの下に手を入れる , どもり, 視線が合うこと

の回避など)を行っていた. これらの「動作」ついて調査を行えば, 統

制条件と筆記条件で参加者の反応により顕著な違いが見られるかもしれ

ない . David, R. E. et al. (1979 )は , 「姿勢 , 声の調子 , 態度から ,

人 の 情 動 に つ い て の 重 要 な 情 報 が 得 ら れ る 」 と し て い る ( 杉 本 ,

1990 ) . 被面接者だけではなく面接者の動作についても細かに見てい

くことで , 面接者の行動が被面接者にどのような影響を与えているの

か, より詳しく知ることが出来ると考えられる. また, 面接者の行動を

「筆記」のみに限定せず, 様々な行動変化のパターンを作れば, 面接者

のどのような行動がより強く被面接者に影響を与えるのかが明らかにな

るだろう.

 今回の実験では, 発話の増加が話題内容によるものなのか, 筆記によ

るものかまでは検討しなかった . 発話の増加が内容によるのであれば ,

面接者はより会話の内容に注意を傾ける必要がある. 逆に筆記が発話の

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増加を促したのだとすれば, 面接者はより面接中の非言語的な動作に集

中する必要があるだろう. どちらも重要であることは確かだが, より重

きを置くべき方向性が明らかになれば, 被面接者を支援するために役立

つと思われる.

要約

目的と意義

 本研究では, 面接場面において面接者(実験者)の行動が , 被面接者

(参加者)にどのような影響を与えるかについて , 数量的な変化を確認

しやすい音声情報に着目して検討した . 実験では同一の参加者に対し

て, 「統制条件」と「筆記条件」を行うことで, 条件別に参加者の反応

を比較検討することを目的とした. 「話題2 で筆記されることにより参

加者は心理的負担を感じ, 休止時間が増加し, 発音語数が減少する」と

いう仮説を立て, これを検証した.

方法

 2 名の参加者に, 実験の条件 , 特に話題内容について検討を行うため

に予備実験を行った. 予備実験では「過去の失敗」 , 「趣味」 , 「最近

良かったこと」の3 つの話題を参加者に提示し, 思いつくことを自由に

語ってもらった. 予備実験の結果から本実験で用いる話題内容を本決定

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し, 他にも座席配置 , 面接時間帯 , 面接時の服装などを決定した.  

本実験では, 19 名の参加者に対し「子どもの頃について」 , 「好き

なこと」 , 「最近気になること」の3 つの話題について面接を行い , 参

加者に自由に語ってもらった. 実験者は「好きなこと」の時にだけ参加

者の発言内容を筆記し, 面接全体を通して録音を行った. 音声データの

不備により, 1 名のデータを除外した.

結果と考察

 本研究では, 実験者の「話題2 で休止時間が減少し, 発音語数が増加

する」という仮説とは異なる結果が得られた. 実験の結果は, 話題1 に

おいて休止時間が最も多く , 話題2 での発音語数が最も増加していた .

仮説が実証されなかった理由としては, 面接時の心理的な負担を軽減す

るため, 参加者を実験者の知人のみに限定したが挙げられる. しかし結

果が実証されなかった事によって, 筆記条件という「面接者の動作」よ

りも, 「面接者自身」の方が, 参加者に与える影響が大きいことが明ら

かとなった.

今後の展望

 本研究では筆記条件よりも「面接者自身」が被面接者に影響を与える

ことが明らかとなった. 今後は, 筆記条件よりも強い刺激を用い実験

を行うことで, 面接者自身の参加者に対する影響力を検討できると思

われる.

 今回は音声情報のみ分析を行ったが, 音声に限らず参加者の「動作」

に注目することで, より多面的に面接者の行動が被面接者に及ぼす影響

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を確認することができると考える.

「症状も, それに対する心理療法も , 客観的で対象的なものではな

くて, 実のところどこまでも主観的で, 主体的なものである. 」(伊藤

(編)・河合・岡・宮下・長谷川 , 2004 )と言われるように , 「ここ

ろ」が個々人によって異なっている以上 , 万人に通用する心理療法など

あり得ないだろう. しかし被面接者の年代や性別における傾向というの

は存在するように思う. 「面接者の行動」 , 「被面接者の動作」といっ

た面接の要素を分析し, それらのデータを蓄積させていくことは, その

ような「傾向」を解き明かすために役立つだろう.

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謝辞

多くの方々に支えられ, 無事に卒業論文を書き終えることができま

した.

本研究を形にすることができたのは , ご自身もお忙しい中熱心にご

指導してくださった乾吉佑先生 , 3 年次に論文指導をしていただいた目

白大学人間学部心理カウンセリング学科田中勝博教授 , 臨床心理学ゼミ

の同期・後輩の皆様 , 理解を示し励ましてくれた両親 , そして何より ,

ストレスのかかる実験に笑顔で参加してくださった友人の皆様のおかげ

です . 皆様の貴重なお時間を割き , 本研究にご協力いただけたことを ,

心から感謝いたします.

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