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資料概要 マイクロ波直接中継方式開発との関わり 私はアナログ型直接中継器、ディジタル型ノンシフト直接中継器、NEC 及び富士通のシフト型直 接中継器の開発に携わってきた。また、このシステムを中国の天生橋プロジェクトに採用するよう 中国側及び NEC に働きかけたが、実現には至らなかった経緯もある。 この資料は、、私が関与した部分の開発の歴史について、エピソード等を交えて物語風にまとめ たものである。 数年前、J-POWER の北村社長が富士見中継局を視察された際、事前にこの資料が渡されたと のことである。 なお、この資料には次の附録が添付されていたが、附録 2、附録 3 以外はこのホームページの 「主な論文」からしてリンクされているので、ここでは省略した。 附録 1 電源開発㈱の直接中継局運用実績 附録 2 電子通信学会発表論文 附録 3 電子情報通信学会論文誌発表論文 (省略) 附録 4 調査資料 No. 86 投稿論文 (省略)

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資料概要

マイクロ波直接中継方式開発との関わり

私はアナログ型直接中継器、ディジタル型ノンシフト直接中継器、NEC 及び富士通のシフト型直

接中継器の開発に携わってきた。また、このシステムを中国の天生橋プロジェクトに採用するよう

中国側及び NEC に働きかけたが、実現には至らなかった経緯もある。

この資料は、、私が関与した部分の開発の歴史について、エピソード等を交えて物語風にまとめ

たものである。

数年前、J-POWER の北村社長が富士見中継局を視察された際、事前にこの資料が渡されたと

のことである。

なお、この資料には次の附録が添付されていたが、附録 2、附録 3 以外はこのホームページの

「主な論文」からしてリンクされているので、ここでは省略した。

附録 1 電源開発㈱の直接中継局運用実績

附録 2 電子通信学会発表論文

附録 3 電子情報通信学会論文誌発表論文 (省略)

附録 4 調査資料 No. 86 投稿論文 (省略)

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はじめに

電源開発㈱は昭和 40 年頃に進行波管によるマイクロ波直接中継器を開発し昭和 42 年から北九

州の風師局にて実用化試験局として運用開始した。その後ガンダイオード方式の直接中継方式を

開発し、昭和 50 年から 51 年にかけて、風師(北九州)、布引、竜王(徳島県)の各局で運用を

開始した。その後、昭和 53 年には電界効果トランジスタ(FET)によるノンシフト型の中継器を

開発し、富士見、板山、紅葉山局にて使用した。また、昭和 58 年頃から、シフト型直接中継方式

を採用し、池峰、笠原、淡路、水谷局にて使用した。 原山中継局(野呂局と中国支社間)は 2GHz 帯 PCM 直接中継方式[3] を使用していたが、現

在では廃止されている。 昭和 61 年には、北海道のマイクロ波回線をディジタル化するための直接中継方式を開発し、61

年 10 月に紅葉山中継局に適用した。その後シフト型中継器はディジタル化に伴って再生中継方式

にて更新され、姿を消してしまった。現在では直接中継局は富士見と紅葉山のノンシフト型 2 局

が残るのみとなっている。(直接中継方式の運用実績については附録1参照) 直接中継方式は、電力会社のように、山間地にて中小容量のマイクロ波回線を経済的に構成す

るのに適しており、せっかく電発が長年かけて開発したものであり、大いに利用すべきと考える

が、電発以外でこの方式を採用する電力会社はなく、メーカも製造を中止するなど淋しい状況に

なっている。しかし、この技術はやはり J-Power で継承していく必要があると考え、私が経験

したことをとりまとめ、J-Power の皆さんの参考に供することとしたものである。

1.太陽電池で稼働する低消費型直接中継器の開発 私が初めて直接中継方式の開発に携わったのは、昭和 52 年~53 年にかけて実施した「太陽電

池で稼働するノンシフト型マイクロ波直接中継方式の研究」[1]であった。 直接中継方式は、当社と東芝との間で研究開発が行われてきたが、FET によるマイクロ波デバ

イス技術は、NEC などの通信機メーカの技術が進んでいたので、低消費電力型の直接中継器を

NEC と共同で開発することになり、当社側は私が担当した。この研究で、NEC は、上り下り、

現用予備付の中継器の消費電力を 5W 以下に抑えたシステムを開発してくれ、これを布引局に設

置して白河~布引~下郷回線を構成して実用化試験を行なった。 またこの研究では、パラボラアンテナの背面結合に関するフィールド実験を行なった。背面結

合量については、電波暗室でのデータは存在したが、様々なパラボラ配置と周辺の環境が異なる

フィールドでのデータは皆無であった。このため、北向けマイクロの七飯、北国山、新山、折爪

局にて、NEC の協力により 15 組のパラボラの組合せによるデータを取得した。このデータはノ

ンシフト型直接中継方式の回線設計を行う上で極めて重要な要素となった。 中継局の警報は、PIN ダイオードにより FM 波に浅い PM 変調を加え、両端の無線局に伝送す

る方式とした。 この研究成果は昭和 53 年 12 月に終了し、富士見及び板山中継局に生かすことができた。 この中継器の開発を提唱した佐藤聰英さんは、P-P 中継にアンプを入れたようなものだから、

無給電中継方式として扱って貰えるのではないかと言われた。郵政省に説明すると、「受信信号の

みでなく、不要波も増幅して再輻射するので、無給電中継方式ではない」と言われた。郵政省は

マイクロ波直接中継方式開発との関わり H23 年 12 月 植田 正紀

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電波の有効利用上、この方式がどう位置付けられるかに関心があるとのことであった。直接中継

器には帯域通過フィルタが付いており、不要波を全て再輻射する訳ではないが、再生中継器の IFフィルタのような鋭いフィルタは備えていない。鋭いフィルタが利用できない理由は、マイクロ

波帯フィルタであること、フィルタの帯域を狭くすると通過帯の損失が増加するので、その分を

補償するための消費電力が増えること、及びフィルタの温度特性等によるゆらぎがあるので、あ

る程度の幅を持たせる必要があるからである。不要波に関しては、確かに増幅して再輻射するが、

パラボラを使用するので方向が定まっており、反射板のようにあらゆる方向からの電波を反射し

てまき散らす訳ではないと説明した。P-P 中継と反射板の違いもこの点にある。 無線局となると、出力の規格を守らなければならない。中継器の出力はリミッタにより振幅制

限を行っている。

布引局での太陽電池電源による実用化試験

布引中継局

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富士見中継局(完成後) 2.調査資料「太陽電池電源によるマイクロ波直接中継方式の開発について」[2] 昭和 56 年、富士見と板山の直接中継方式の実用化について、佐藤聰英さんから調査資料を執筆

するよう指示され、調査資料 No.68(昭和 56 年 7 月)に記載した。私は中継器の開発は担当した

が、中継局の建設には関与しなかったので、現場に関する記事は現地を取材して記述した。 局舎、電源方式など現地任せで行われたので、富士見と板山では統一がとれていなくて、富士見

の建物は鉄筋コンクリート、板山の建物は KEC キュービクル方式であった。太陽電池電源の設

計も統一されていない。 3.東電調での共同研究 昭和 56 年頃私は東地域電源調整会議(東電調)技術小委員会通信分科会に所属していて、「簡

易マイクロ波無線方式」の共同研究に参画しいていた。富士見の直接中継局が昭和 55 年 10 月に

運用開始していたので、東電調ではこれを簡易マイクロ波無線方式の 1 種と位置付け、通信分科

会で見学会を行うことになった。東京電力の久保田課長ほか、北海道電力、東北電力、電源開発

(大塚課長代理、城内川越電力所長代理、KEC 遠藤氏、中通岩崎社員、通信課植田)が参加した。

(写真参照) 私は直接中継方式の回線設計法等について説明するよう求められていた。昭和 56 年 10 月 23日、富士見局見学のあと、戸倉の富士見旅館に宿泊し、勉強会が行われて私から説明をした。こ

の時の説明資料は手元に残っていないが、瞬断率の計算に関して次のような説明をしたことを覚

えている。 今、直接中継局の両端の区間をd1、d2とするとき、レ―レフェージングの発生確率を別々に計

算すると、瞬断率はd13.5 + d23.5 に比例する。一方、両区間を一括して計算する場合は、 (d1 + d2)3.5 に比例する。d1=d2=dとして両者を比較すると、

富士見中継局(建設中)

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10log (2d)3.5

2d3.5 = 10log 11.32

= 7.5 dB

両区間を一括して計算すると、安全側の設計にはなるが、直接中継のメリットを生かすことが

できないのと送信出力が大きくなり、経済性及び電波の有効利用上の問題がある。一方、区間別

に瞬断率を計算すると再生中継の場合と同じになるが、直接中継方式で問題となる前位区間のフ

ェージングの影響を無視したことになり、瞬断率を過小評価することになる。このため、「両区間

のフェージングの相互作用を考慮した総合的評価法を確立する必要があるが、計算が複雑であり

まだ評価法を確立していない」と説明した。 富士見、紅葉山、板山等はすべて反射板を直接中

継方式に置きかえた局であり、片寄せ配置となっているので、伝搬路信頼度は別々に計算しても、

一括して計算しても大差は無く、安全側で計算すれば問題ない。しかし、直接中継方式のメリッ

トは、中間点に中継局を置いた場合に顕著であるので、直接中継方式を一般化するには厳密な信

頼度評価法を確立する必要があることをこのとき強く感じた。直接中継局の挿入位置とシステム

利得の関係については、KEC 技報 No.70(平成 9 年 3 月)「 マイクロ波無給電中継局及び直接中

継局の挿入位置に関する問題」[11 ]に記載してある。

富士見中継局での研修会

(前列中央が私、後列左端が東電の久保田課長、前列右に大塚さん、城内さん)

4.天生橋プロジェクト逸話

昭和 62 年 5 月、私は天生橋プロジェクトで急きょ中国で行われる第 4 回武漢合作に参加する

ことになった。天生橋計画の通信設備の仕様書を作成する業務である。このとき、当時審議役で

あった佐藤聰英さんから、コンサルタントとして直接中継方式を中国側に推奨するよう指示され

た。中国の山間部では配電線が整備されていないので、太陽電池で稼働する直接中継方式が最適

であるとの考え方で、私も同感であった。実は、この1年ほど前に日本側で行われた天生橋第 2回合作時に、中国側の要人を笠原と板山の直接中継局に案内することになっていて、私は通訳と

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してこれに参加した経緯がある(写真参照)。このような事情から私は再生中継方式を基本とし、

直接中継局を適宜挿入する仕様書案を準備した。これは NEC にとっても受注上有利な条件とな

るはずであり、NEC の海外担当者にこの方式で対応するようお願いした。ところが、NEC の海

外部隊では直接中継方式は使いたくないと言う。NEC が海外で使用しているツインパス型の中継

器は消費電力が小さく、太陽電池で稼働させることができること、また価格も直接中継器とあま

り変わらないので、実績のある方式で応札したい、との理由であった。しかし佐藤審議役は納得

せず、あくまで直接中継方式でやるべきだと主張するので、私は両者の板挟みになり、対応に苦

慮した。NEC が対応してくれないと、中国側に直接中継方式を推奨することはできない。この問

題は NEC の巧妙な戦術により収束することとなった。私は自分の手に負えないので、両者で直

接話し合って決めてもらうこととし、NEC の無線を統括する本部長と、海外部隊、国内部隊の責

任者に来社してもらい、審議役室での会談となった。冒頭で佐藤審議役の持論を聞いたあと、NECの責任者は「直接中継方式は信頼度が高く経済的なので天生橋プロジェクトでは是非採用させて

頂きたいと思います。ただ一点だけ問題があるので、これを解決したうえで同方式をプロポーザ

ルに入れたいと考えています。」と言う意味の発言をした。この「一点の問題」が何であったか思

い出せないが、天下の NEC であれば当然問題を解決し、直接中継方式で対応してくれると確信

した佐藤さんは、この会談に大変満足された様子であった。このあと、エレベータホールまで送

って行った私に、NEC の責任者は意外なことを口にした。「本日は有難うございました。お陰様

で円満に話がつき、安心致しました。」という意味の話である。私は一瞬耳を疑ったが、すぐに

NEC が「一点の問題」を解決する意志はなく、従って直接中継方式を採用する意志も全くないこ

とを悟らされた。 この奇妙な会談は、対立する問題の核心に触れることなく、対決を避けて両者が納得する形で

収拾するという、実に巧妙な日本的な解決法だと感じ入って、今でも忘れることができない。 武漢合作では、中国政府はすでに中国語による基本仕様案を作っていて、直接中継方式は使わ

ない旨、言い渡された。

板山局へ中国政府要人を案内(ネクタイの両名は高級工程師)

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5.ディジタル方式の直接中継器の開発 昭和 61 年からマイクロ波回線を逐次ディジタル化することになったが、そのためのディジタル

方式直接中継器を開発することになり、私が担当した。 研究契約を結ぶ前に、NEC に事前検討を行うよう頼んだが、しばらくしてディジタル方式の直

接中継器はできませんと言ってきた。理由を聞くと、ディジタル方式では波形整形を行うが FM方式のようにリミッタで出力制限を行うと波形がくずれるからだという。出力制限を行わないと、

無線局の免許が与えられない。私は非常に落胆したが、このことを佐藤聰英さんに話すと、リミ

ッタを使うからだめなのであって、利得制御を行なえば問題ないはずだと言われた。振幅制限を

行うのも利得制限を行なうのも結果は同じではないかと疑問に思ったが、NEC に検討してもらっ

たら、利得制御だと振幅は制限されるが波形はくずれないので、問題ないとのことだった。佐藤

さんは大学で増幅器の研究をして卒業論文を書いたと聞いていたが、さすがに発想が違うと感服

した。 ディジタル化でもう一つ問題になったのは、どうやって警報信号を送るかということだった。

FM 方式の場合は、直接中継器にて PIN ダイオードにより浅い PM 変調をかけて警報信号を送っ

ていたが、ディジタル方式では主信号が PM 波であるため、PM 変調をかけると主信号に影響を

与えるという問題があった。NEC で主信号に影響を与えない限度の PM 変調について検討しても

らったところ、実用上問題なく警報信号を送ることができることが実証され、この方式は実用新

案として工業所有権を取得した。 開発した中継器については、昭和 62 年の電子通信学会全国大会で、日本電気の西海敏夫さん、

小野寺敏之さんと連名で発表した[5]。(附録 2 参照) ところで、アナログ方式の直接中継器の増幅度は、F/B 干渉の制約から約 40dB であったが、

ディジタル方式では約 50dB とすることができるので、回線設計の自由度が大きくなる。また、

増幅度を 50dB 以上にすると、瞬断率の計算を再生中継の場合と同じにしても、実用上差支えな

いと考えられる。そうすれば私が提唱した、受信電力変動分布の畳込みという厄介な問題から解

放される。ただし、非再生中継方式であるため、前位区間のフェージングによる熱雑音の塁加は

避けられないので、熱雑音変動分布の畳込み積分は必要になる。熱雑音の塁加特性は、中継数が

増えるほど大数の法則により平均的な値に収れんするが、直接中継のような 2 区間の場合が、最

も隣接区間の雑音変動の影響が大きくなる。 6.紅葉山直接中継局(ディジタル方式) マイクロ波回線のディジタル化は、北海道から着手することになったので、まず紅葉山直接中

継のディジタル化について郵政省の理解を得る必要があった。このため昭和 60 年 12 月頃から、

本省説明を始めた。 紅葉山中継局をディジタル化するに当たって、郵政当局からは、再生中継方式が採用できない

理由と、ディジタル回線として十分な信頼性が確保できることを説明するよう求められた。私が、

直接中継局の伝搬路信頼度は二つの区間の受信電力変動の畳込み積分で求められることを説明し

かかったとき、担当の係長が「コンボリューションですね。」と言われた。畳込みは英語で

Convolution という。畳込みの説明をするのは難しいので、相手がわかっていると知って、まず

は安心した。この係長は電電公社から出向していた人で、技術的に詳しく、熱心に説明を聞いて

くれた。しかし、2 回目からの説明に対しては非常に厳しくなり、再生中継で行うよう強く求め

られた。陸上課の中で反対意見が強かったものと考えられる。何度も足を運んで説明した結果、

昭和 61 年 3 月になって、担当係長から今回の紅葉山に限り許可するが、その他の局については許

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可しないと宣言された。なぜ駄目なのか聞いたところ、この方式は電波技術審議会にかかってい

ないからだと言う。とりあえず、紅葉山の免許が貰えることになったので、まず安心したが富士

見等のディジタル化の前に電波技術審議会に持ち込む必要があることを強く感じた。ともあれ、

紅葉山中継局は昭和 61 年 11 月に運用開始した。 7.電波技術審議会 昭和 63 年 10 月 22 日付電波技術審議会諮問第 41 号において、小中容量回線の技術的条件の見

直しが行われることになり、この分科会に当社の委員が任命された。このとき、当社から直接中

継方式を認めるよう要望し、平成元年の答申に反映された。答申の中継方式の項に「検波再生中

継方式であること。ただし、4相位相変調方式を用いた方式においては、非再生方式も用いるこ

とができるものとする。」と記載されている。この解説として「雑音、波形歪等の相加による劣化

を避けるため、検波再生中継方式とすることが適当である。ただし、4 相位相変調法式を用いた

小容量方式については、比較的中継数が少ないと考えられること、非再生中継を用いたとしても

特性劣化が少ないこと、システム経済性が求められることから、非再生中継方式の使用も可能と

することが望ましい。」と記載されている。この、「ただし」以下の記述は直接中継方式の必要理

由をみごとに表わしている。 この答申の結果は電波法関係審査基準に反映され、7GHz 帯において、F/B 干渉比を 40dB 以

上とれば、直接中継方式を使用することができる旨、規定されている。これにより平成 2 年 11月には、赤城~富士見~奥只見の回線のディジタル化が完了した。 昭和 61 年頃に、無線局の新設審査は本省から地方電波監理局に移管されているので、もし審査

基準に直接中継方式が含まれていなかったら、富士見の直接中継は認められなかったはずである。 8.調査資料「マイクロ波直接中継方式の伝搬路信頼度について」 平成元年に私は念願のパソコンを購入した。今のパソコンと較べると随分性能は落ちるが、そ

れでも N88 ベーシックを使って畳込み積分ができる環境が整った。 年末年始の休みを使って、紅葉山のディジタル化で郵政省に説明した理論を実際に計算するこ

とができたので、この結果を調査資料にて報告することにした。これまで検討してきた直接中継

方式の伝搬路信頼度の考え方を整理して記載し、畳込み積分による理論的推定カーブと追分→紅

葉山→落合回線の受信電力実測カーブを比較して示すことができた。 また、直接中継方式はパルスを再生しないので、雑音の塁加が生じる。FM 多中継回線の雑音

の塁加の計算は非常に複雑であるが、2 区間だけの場合は、雑音変動を表す 2 区間の密度関数の

畳込み積分で計算することができる。この雑音塁加特性についても論文に記載した。ガンマ分布

の計算にはガンマ関数及び多ガンマ関数の値を知る必要があるが、市販のガンマ関数表では必要

な値が調べられないので、会社のメインフレームにて必要な範囲のガンマ関数表を作成してもら

い、論文の付録として添付した。 これら結果は調査資料 No.86 (平成 2 年 3 月)に記載した。(附録 4) 9.電子情報通信学会論文誌発表 平成 3 年から 5 年まで、私は四国支社勤務を命じられた。 少し時間的余裕ができたので、直接中継方式の伝搬路信頼度に関する理論を学会に発表し、公

知の理論として認めてもらうことを考えた。 四国支社には私のものよりもはるかに性能の良いパソコンがあったので、調査資料に記載した

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内容を再チェックし、全体を要約する形でとりまとめ、電子情報通信学会の論文誌に「マイクロ

波直接中継方式の伝搬路基本特性について」[9] を寄稿した。2 名の査読委員から随分注文が付け

られたが、なんとか承認され、平成 5 年 6 月の論文誌 B-Ⅱに掲載された。(附録 3) 10.シフト型直接中継方式

シフト型直接中継方式の研究にも私は若干関与した。昭和 59 年に電発、NEC、富士通の 3 者

による「ディジタルマイクロ波無線方式に関する共同研究」[4] を行ったが、この中でシフト型

直接中継方式の概略検討を行なった。この研究で富士通は直接増幅型を、NEC はレフレックス増

幅型を提案した。レフレックス方式は、受信周波数と送信周波数をフィルタで分けて一つの増幅

器を共用するもので、消費電力低減などで有利と思われたが、2 波の混変調の問題があるのと、

回路が複雑となって消費電力も直接増幅型とほとんど変わらないことがわかり、富士通の直接増

幅型に軍配が上がった。 この研究にて、あるメ―カ担当者から興味深い話を聞いた。シフト型中継器とヘテロダイン中

継器の違いは中間周波部の有無であるが、昔はマイクロ波帯の増幅器、フィルタ、復調器等を製

造するのが困難であったので、ヘテロダイン中継方式は非常に有効であった。現在では、マイク

ロ波帯でこれらの回路を容易に製造することができるので、中間周波部を持たないシフト型の方

がヘテロダイン中継器よりも単純で、信頼性、経済性で有利となるということであった。ノンシ

フト型では信号の分岐挿入ができないが、シフト型ではシフト発信器による変調と、マイクロ波

帯ディクリミネータでの復調により、分岐挿入が可能となる。 シフト型直接中継方式は、笠原、淡路、水谷局等で使用された。笠原局は商用電源が利用でき

る局であるが、実験的な意味と、東南海地震対策として太陽電池によるシフト型直接中継装置を

導入した。 西向マイクロのディジタル化が行われる前には、東芝製のガン・インパット型無線装置が使用

されていたが、この機械は故障やトラブルが多く、保守に手を焼いていた。私は何としてもディ

ジタル化は東芝製でなく富士通製とすべく、色々画策したがその一環が、シフト型中継装置を虫

食い状態に挿入して、実績作りを進めることであった。双子~笠原間での富士通による 16 QAM伝送実験の実施もその一環であった。東芝の政治力が怖かったので、用意周到に準備したが、思

ったような軋轢を生じることもなく、富士通への特命発注がすんなりと決まった。 11.NEC 奥野さんとの関わり NEC のマイクロ波無線方式設計部門の奥野泉さんとは、昭和 52 年の低消費電力直接中継方式

の開発依頼の付き合いである。FM 方式及びディジタル方式を含む、太陽電池供給による直接中

継方式の実現の陰には、開発に情熱を持って取り組んでくれた奥野さんの努力に負うところが大

きい。太陽の日射量を測定するための、乾電池で動作する日射量測定記録装置も製作してくれて、

太陽電池電源システムの検証を行ってくれた。昭和 59 年のレイテ・ルソン直流連系プロジェクト

では、私はこの日射量計をルソン島南部に持ち込んで日射量を連続測定し、同プロジェクトの太

陽電池方式の設計に役立てた。 平成 13 年、私が KEC 技術部で働いていた時、奥野さんが白山を訪ねてくれて、中部電力に直

接中継方式を売り込むと言って、資料提供等の協力を求められた。直接中継方式の利点を中部電

力に説明したところ同社では山間部のマイクロ波回線が多いので、現場の技術者は是非導入した

いと反応は上々であったとのことである。ところが、話が中部電力本社ではこの方式の使用に難

色を示し、採用されなかったとのことである。

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平成 20 年 9 月には、私の仲介により奥野さんは岐阜大の中村先生と一緒に J-Power 本社を訪

ねてくれて、反射板のフェージング対策についてのプレゼンテーションを行ってくれた。 終わりに 直接中継方式について、私が関わりを持った経験を思い出しながら記載したが、私はこの方式

に部分的に携わっただけであり、このシステムには多くの技術者の関わりがあって実現し運用さ

れてきたものである。特に、進行波管による初期の方式から一貫してこの方式を指導されてきた

佐藤聰英さんの存在が非常に大きい。設備産業会社の中にあって通信部門は直接利益を生むこと

がないので、常に予算の制約があり、いかにして信頼性の高い通信回線を経済的に構築するかと

いうことを電発の通信技術者は追及をしてきた。また、昔の通信機メーカはユーザの要求に応え

てユニークな機器を開発製造することに協力してくれた。現在ではメーカのメニューから選択し

て利用せざるを得ないのが実情で、ユーザの要求にメーカが個別に応えてくれる状況にはないと

思われる。 しかし、電力系統の保護・制御・運用に関わる通信システムに関しては、必要な機能と信頼性

を備えた設備を経済的に導入する努力を続ける必要がある。このためには、各社が個別に開発す

るのでなく、電力会社が一体となって取り組むべきであると思う。東日本大震災以後、電力会社

には更なる効率化が求められると思われるが、その中で電力会社が協力し合って、仕様を統一し、

一定の受注額をメーカに保証する仕組みを作る必要があると考える。 J-Power の通信部門がその先頭に立ってリードしていくことを希望する。 参考文献 1. 「低消費電力形マイクロ波直接中継器の実用化システムの研究開発に関する共同研究報告書」

平成 53 年 12 月 電源開発㈱、日本電気㈱ 2.佐藤聰英、植田正紀 調査資料 No.68「太陽電池電源によるマイクロ波直接中継方式の開発に

ついて」 昭和 56 年7月 3.「2GHz 帯 PCM 多重無線回線用直接中継装置について」昭和 56 年 10 月 29 日

富士通株式会社資料 4.「ディジタルマイクロ波無線方式に関する共同研究報告書」 昭和 60 年 2 月

電源開発㈱、日本電気㈱、富士通㈱ 5. 植田正紀、西海敏夫、小野寺敏「7GHz 帯ディジタルマイクロ波直接中継装置」 電子通信学会全国大会(昭和 62 年)(附録 2 参照) 6.「ディジタルマイクロ波無線方式に関する共同研究報告書 マイクロ波直接中継方式の研究」

昭和 62 年 3 月 電源開発㈱、日本電気㈱ 7. 平成元年度電気通信技術審議会答申 諮問第41号「ディジタル固定マイクロ回線網の構成に

必要な技術的条件」のうち「電気通信業務の新しい少容量回線及び公共業務用の新しい小中 容量回線の技術的条件並びに降雨減衰の推定法に関する技術的条件」平成 2 年1月 22 日

8. 植田正紀 調査資料 No. 86「マイクロ波直接中継方式の伝搬路信頼度について」(平成 2 年 3 月)(附録 4 参照)

9.植田正紀 「マイクロ波直接中継方式の伝搬路基本特性について」電子情報通信学会論文誌 B-2 (平成 5 年 6 月)(附録 3 参照)

10.KEC 技報 No.58、「マイクロ波直接中継方式の回線設計の考え方(前編)」平成 3 年 1 月 11.KEC 技報 No.59 「マイクロ波直接中継方式の回線設計の考え方(後編)」平成 3 年 7 月 12.KEC 技報 No.70 「マイクロ波無給電中継局及び直接中継局の挿入位置に関する問題」

平成 9 年 3 月

Page 11: NEC J-POWER 2 3 1 2 3 4 No. 86ma-ueda.sakura.ne.jp/TechnicalInfo/10DirectRepeater...2 電波の有効利用上、この方式がどう位置付けられるかに関心があるとのことであった。直接中継

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附録 1 電源開発㈱の直接中継局運用実績 調査資料 No. 86 「マイクロ波直接中継方式の伝搬路信頼度について」の付録より

平成 2 年 3 月現在

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附録2