IPCC 第5次評価報告書の概要...

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WG3 基礎知識編 20151016日版 ガイドブック 基礎知識編 3

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WG3 基礎知識編

2015年10月16日版

ガイドブック 〜 基礎知識編 〜

3

1

INDEX

INDEXと本ガイドブックの見方

序章

気候変動の緩和へのアプローチ

温室効果ガス排出量の現状

緩和の長期的経路

分野横断的な緩和策

エネルギー供給に関する緩和策

2

3

6

7

10

11

4

5

8

9

12

13

1

輸送に関する緩和策

建築に関する緩和策

産業に関する緩和策

農林業・土地利用に関する緩和策

人間居住・インフラ・空間計画に関する緩和策

緩和政策と国際協力

ガイドブックの見方

各ページの内容について、該当するものに印がついています。

また、必要に応じて解説やポイント、 図の見方などを記載しています。

AR5 : AR5で示された内容 Q&A : 伝える場で出そうな質問と答え関連情報 : 内容に関連する事項

INDEXと本ガイドブックの見方

P01

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AR5 Q&A 関連情報

■世界の部門別GHG排出量(2010年)

出典: AR5 WG3 政策決定者向け要約 Fig.SPM.2

GHG排出量の部門別内訳

✔GHG排出量の推移

15

直接排出量※4 間接排出量※4

農林業・土地利用

24%

建築※2

6.4%

輸送14%

産業21%

その他エネルギー※3

9.6%

農林業・土地利用

0.87%

エネルギー※1

1.4%

産業11%

輸送0.3%

建築※2

12%

発電・熱生産25%

49Gt-CO2換算(2010年)

※1:エネルギーにはエネルギー供給部門内部での分配が含まれる。例えば、ガス会社が電力会社から電力を買うと、ここに計上される。

※2:建築部門には、住宅、商業、公共サービス部門が含まれる。なお、建設時の排出量は産業部門にて計上される。

※3:その他エネルギーにはエネルギー供給部門での自家消費が含まれる※4:直接排出量は発電・熱生産に起因する排出をエネルギー供給部門に計上。

間接排出量は発電・熱生産に起因する排出を消費先の需要部門に配分。エネルギー供給=(発電・熱生産+その他エネルギー)

[解説]これまでのページはガスの種類や地域別にGHG排出量が示されていましたが、ここからは排出源となる経済部門別に見ていきます。

排出量の現状

2010年の世界のGHG排出量は約490億トン(49Gt-CO2換算)で、直接排出量で換算すると、エネルギー供給部門(発電・熱生産+その他エネルギー)は35%、農林業・土地利用部門は24%、産業部門は21%、輸送部門は14%、建築部門は6.4%という内訳になっています。発電・熱生産を間接排出量で換算した場合は、エネルギー需要部門(→「序章」参照)に分配され、産業は31%、建築は19%に増加します。

• 人為的なGHG排出量は、2000年から2010年の間で約100億トン(10Gt-CO2換算)増加しましたが、この増加量の内訳は、エネルギー供給47%、産業30%、輸送11%、建築3%となっています。また、間接排出量で換算すれば、建築・産業部門による増加が大きくなっています。

• 2000年以降、農林業・土地利用部門を除くすべての部門でGHG排出量は増加しています。

その他のポイント

AR5 Q&A 関連情報

2

2. 序章

AR5 Q&A 関連情報 IPCCとは

3

2. 序 章 ✔

IPCCは、1988年に世界気象機関(WMO)と国連環境計画(UNEP)により設立された組織で、現在の参加国は195か国、事務局はスイス・ジュネーブにあります。IPCCでは、人為起源による気候変動、影響、適応及び緩和方策に関し、科学的、技術的、社会経済学的な見地から包括的な評価を行い、報告書としてとりまとめています。 また、政治的な判断は行わない機関でもあります。 「第5次評価報告書」(2013年~2014年)は、世界中で発表された9,200以上の科学論文を参照し、800名を超える執筆者により、4年の歳月をかけて作成されました。

第1次評価報告書(FAR) 1990年

人為起源の温室効 果ガスは気候変化 を生じさせるおそ れがある。

第2次評価報告書 (SAR) 1995年

識別可能な人為的 影響が全球の気候 に現れている。

第3次評価報告書 (TAR) 2001年

過去50年間に観測さ れた温暖化の大部分 は、温室効果ガス濃 度の増加によるもの であった可能性が高 い。

第4次評価報告書 (AR4) 2007年

気候システムの温暖化には疑 う余地がない。20世紀半ば以 降に観測された世界平均気温 の上昇のほとんどは、人為起 源の温室効果ガス濃度の増加 によってもたらされた可能性 が非常に高い。

IPCC評価報告書の作成には世界中からノミネート

された大変多くの研究者の中からIPCCビューローに

よって選出・承認されます。

その選出には、各章立てに、研究者の専門性や研

究の質、また全体の地域的なバランス(先進国や、

ある一定の国から執筆者が集中しないようにする

等)を考慮して選ばれます。

日本※2からの執筆者はWG1に10名、WG2に11

名、WG3に10名、SYRに1名、のべ32名です。

執筆者は、基本的に下記のように分類されています。

IPCC AR5 執筆者について※1

統括執筆責任者(CLA) 担当章全体の執筆方針、 編集及び執筆を担当する

代表執筆者(LA) ある章の中の担当部分の原稿を

実際に執筆する

査読編集者(RE) 担当章全体の査読を通し、

編集に貢献する

執筆する

方針を決める

査読する

AR5

第1作業部会(WG1) 報告書

気候システム及び

気候変動の

自然科学的根拠

についての評価

2014年10月 コペンハーゲン

2013年9月 ストックホルム

2014年3月 横浜

2014年4月 ベルリン

第2作業部会(WG2) 報告書

気候変動に対する

社会経済及び自然

システムの脆弱性、

気候変動の影響

及び適応策の評価

第3作業部会(WG3) 報告書

温室効果ガスの

排出削減など

気候変動の緩和策

の評価

統合報告書(SYR)

WG1~WG3の

報告書と特別報告書

の内容に基づき

AR5の最終文書とし

て気候変動に関する

総合的見解を提示

※1.参考 IPCC WG1国内事務局HP (http://ipccwg1.jp/AR5/writer.html)

およびIPCC HP(https://www.ipcc-wg1.unibe.ch/AR5/wg1authors.pdf、

http://www.ipcc-wg2.gov/AR5-tools/WGII-AR5_Authors.pdf、 http://www.ipcc-wg3.de/assessment-reports/fifth-assessment-report/Authors、 http://www.ipcc-syr.nl/index.php/authors-and-review-editors)

※2.執筆者の記載情報がJapan(国籍・国/組織)

■ IPCCとは

■「IPCC第五次評価報告書」(AR5)公表の流れ

■ これまでに出された評価報告書

AR5 Q&A 関連情報 第3作業部会(WG3)報告書の主なポイント

4

2. 序 章

(1)人為起源の温室効果ガス(GHG)排出量は、特に最近10年間に大幅に増加しました。

人為起源の累積CO2排出量の約半分は最近40年間に排出されています。

・ 現状を上回る努力がなければ、2100年の気温は産業革命以前から3.7~4.8℃上昇すると予想されます。

(2)2100年時点のGHG濃度を基準に、緩和シナリオ(経路)を分類しています。

・ 2100年に約450ppmを通るシナリオ(産業革命以前に比べ2℃未満に抑える可能性が「高い」(66%以上の確率))

では、2050年のGHG排出量は2010年比40~70%減、2100年にはほぼゼロまたはそれ以下となり、

急速な省エネに加え低炭素エネルギーの割合が2050年までに3倍~4倍近くまで増加することが特徴です。

・ 今世紀中のピーク濃度が一時的に2100年の濃度を超える(オーバーシュート)シナリオでは、今世紀後半に大気中の

CO2を除去する技術にCO2の削減を頼りますが、課題・リスクが存在します。

(3)緩和には、大幅な技術的及び制度的変化が必要です。

これには、エネルギーシステムや投資パターンの大きな変化が必要となります。

・ 緩和コストは、主要技術の利用が制限されたり、対策の時期がおくれると、大幅に増加します。

・ 緩和策には、大気汚染の改善などの副次的効果があります。

・ 効果的な緩和策には、国際間の協力が必要です。

※出典:AR5 WG3 政策決定者向け要約

AR5 Q&A 関連情報 IPCC第3作業部会の仕事

5

2. 序 章

①第4次評価報告書 ②SRREN(再生可能エネルギーに関するIPCC特別報告書)

③前出以前のIPCC報告書 ④第4次評価報告書以降の新知見や研究

■諸文献、緩和の選択肢、緩和政策の社会的影響を評価 ■特定の選択肢の推奨はしない。 ■以下の資料を基に作成されました。

IPCC第3作業部会は、気候変動の諸科学の文献をもとに緩和の選択肢の評価を行います。

特定の選択肢の推奨はしません。このことを明確にするために、政策決定者向け要約の冒頭に以下が記載されています。

1.諸文献を評価する。対象となる資料は以下の通りです。

気候変動の緩和に関する

①科学サイドからの文献 ④社会サイドからの文献 ②技術サイドからの文献 ⑤経済サイドからの文献 ③環境サイドからの文献 2.緩和の選択肢を評価します。

対象となるのは、

①ガバナンスの各層における緩和策 ②各経済部門ごとの緩和策

注:

3.緩和政策の社会影響を評価します。緩和策の違いが社会にどんな影響を与えるかということです。

ガバナンスは、政策・施策を決定し、マネジメントし、実行する一連の手段を包括する概念です。「政府(ガバメント)」は、国の政策を行うという、狭い意味でのガバナンスを行う主体です。最近では、もう少し広い概念として、ガバナンスという言葉が使われるようになりました。ガバナンスは、様々なレベルでの統治主体(地球的、国際的、地域的、ローカル)や、地球規模の問題に取り組む民間セクター、NGOや市民社会の役割も視野に入れた概念です。(出典:WG2 本編の用語集をもとに作成)

AR5 Q&A 関連情報 温室効果ガスとは 2. 序 章

■温室効果ガスの種類とは

温室効果ガス(Greenhouse gas : 以下、GHG)とは、地球の表面や大気、雲で特定の波長の放射線を吸収したり放出することで温室効果を引き起こすガスのことを呼びます。→地球の気温とエネルギー収支については、WG1ガイドブックを参照

人間活動によって増加した主な温室効果ガスには、二酸化炭素(CO2)、メタン(CH4)、一酸化二窒素(亜酸化窒素、N2O)、フロン類等があります。

京都議定書第一約束期間(2008年~2012年)では、温室効果を持つ6種類のガスが温室効果ガスとして対象とされ、第二約束期間(2013年~2020年)では、1種類追加され7種類のガスが対象とされました。

また、温室効果ガスのうち、オゾン層を破壊する力の強いものは、「オゾン層を破壊する物質に関するモントリオール議定書」においても規制されています。

出典:AR5 WG1 第2章、WG3 Annex1 Final Draft

主要な温室効果ガス モントリオール

議定書 京都議定書

第一約束期間 京都議定書

第二約束期間 寿命

(年)

二酸化炭素 CO2 ● ● *注1

メタン CH4 ● ● 9.1

一酸化二窒素(亜酸化窒素) N2O ● ● 131

六フッ化硫黄 SF6 ● ● 3200

パーフルオロカーボン PFCs ● ● 10000~50000

ハイドロフルオロカーボン HFCs ● ● 1.5~222

クロロフルオロカーボン CFCs ● 45~100

ハイドロクロロフルオロカーボン HCFCs ● 9.2~17.2

四塩化炭素 CCl4 ● 26

トリクロロエタン CH3CCl3 ● 5

三フッ化窒素 NF3 ● -

*注1:二酸化炭素は、地球上で陸上植物や土壌、海、大気を短期的、長期的に循環しており、その寿命を定めるのは困難です。

6

✔ ✔

AR5 Q&A 関連情報 温室効果ガスとは

7

■温室効果ガスの主要な排出源

出典:日本国「『気候変動に関する国際連合枠組条約』に基づく第1回日本国隔年報告書」2013年12月

京都議定書第一約束期間で対象としているガス 日本での主要な排出源

二酸化炭素 CO2 化石燃料の燃焼、工業プロセス(セメント製造)等

メタン CH4 農業(家畜の消化管内発酵、稲作)、廃棄物の埋め立て等

一酸化二窒素(亜酸化窒素) N2O 農業(農業用地の土壌(肥料)、家畜排せつ物)、工業プロセス、化石燃料の燃焼等

六フッ化硫黄 SF6 電気絶縁ガス使用機器等

パーフルオロカーボン PFCs 半導体製造、金属洗浄等の溶剤等

ハイドロフルオロカーボン HFCs 冷蔵庫やエアコン等の冷媒等

京都議定書第一約束期間で指定されている温室効果ガスの日本での主要な排出源は下記の通りです。 また、日本の2011年度のGHG排出量の94.9%はCO2です。

GH

G排

出量

(百

万ト

ン-C

O2換

算)

(年度)

SF6

PFC

HFC

N2O

CH4

CO2(LULUCF※1を除く)

CO2(LULUCF)

純排出量(LULUCFを含む)

※1:LULUCFとは、土地利用、土地利用変化及び林業分野の略称

■日本の温室効果ガス排出量及び吸収量の推移

2. 序 章 ✔ ✔

AR5 Q&A 関連情報

地球温暖化係数とは、温室効果(放射強制力)を示しており、温室効果ガスの種類や期間によっていろいろあります。 地球温暖化係数は、IPCCにより複数提示されており、京都議定書、京都議定書第一約束期間(2008年~2012年)やAR5(一部を除く)では、第2次評価報告書(以下、SAR)の値が利用されており、京都議定書第二約束期間(2013年~2020年)では、AR4の値が利用されています。

なお、GWP100などと表記されているものは、地球温暖化係数のなかでも100年間の累積値を利用しているという意味で、京都議定書などでは基本的にGWP100が利用されています。 地球温暖化係数を見ると二酸化炭素以外のガス種の地球温暖化係数が高くなっており、排出量が多い二酸化炭素に加え、二酸化炭素以外のガス種への対策も重要です。

地球温暖化係数(GWP:Global Warming Potential)とは

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※1:三フッ化窒素は京都議定書第二約束期間から対象ガスに含まれている。なお、同じく追加のガスとしてHFCs に含まれる、HFC-152, HFC-161, HFC-236cb, HFC-236ea, HFC-245fa, HFC365mfc が、PFCs にC10F18が追加されており、AR5ではそれらの値も示されている。

出典:IPCC SAR WG1 Errata table2.14、AR4 WG3 第1章 table1.1 参考:国立環境研究所 地球環境研究センター「ココが知りたい温暖化~二酸化炭素以外の温室効果ガス削減の効果~」

主要な温室効果ガス (京都議定書対象ガス)

地球温暖化係数(SARの値) 地球温暖化係数(AR4の値) 地球温暖化係数 (AR5の値)

20年間累積 (GWP20)

100年間累積 (GWP100)

500年間累積 (GWP500)

20年間累積 (GWP20)

100年間累積 (GWP100)

500年間累積 (GWP500)

20年間累積 (GWP20)

100年間累積 (GWP100)

二酸化炭素 CO2 1 1 1 1 1 1 1 1

メタン CH4 56 21 6.5 72 25 7.6 84 28

一酸化二窒素 (亜酸化窒素)

N2O 280 310 170 289 298 153 264 265

六フッ化硫黄 SF6 16,300 23,900 34,900 16,300 22,800 32,600 17,500 23,500

パーフルオロカーボン PFCs 4,400~6,200 6,500~9,200 10,000~

14,000 5,500~7,310 7,390~10,300 9,500~14,700 4,880~8,210 6,630~11,100

ハイドロフルオロカーボン HFCs 460~9,100 140~11,700 42~9,800 43~12,000 12~14,800 3.7~12,200 13~10800 4~12,400

三フッ化窒素※1 NF3 - - - 12,300 17,200 20,700 12,800 16,100

2. 序 章 ✔ ✔

AR5 Q&A 関連情報 一次エネルギー・最終エネルギーとは?

9

エネルギーは、生産されてから、実際に私たちエネルギー消費者に使用されるまでの間に様々な段階、経路を経ています。大まかにみると原油、石

炭、天然ガス等の各種エネルギーが供給され、電気や石油製品等に形をかえる発電・転換部門(発電所、石油精製工場等)を経て、私たちに最終的に消費されるという流れになっています。 この際、発電・転換部門で生じるロスまでを含めた全てのエネルギーの量という意味で「一次エネルギー供給」の概念が用いられ、最終的に消費者に使用されるエネルギー量という意味で「最終エネルギー消費」の概念が用いられています。供給されたエネルギーが最終消費者に供給されるまでには、発電ロス、輸送中のロス並びに発電・転換部門での自家消費が発生し、最終消費者に供給されるエネルギー量は、その分だけ減少することになります。

また一般に、「最終エネルギー消費」は「最終エネルギー需要」とも呼ばれますが、これらは同じ意味で利用されます。 エネルギーは利用者側からの需要があり、それに見合った量が供給されると考えます。そのため、過去や現在については使われた分は「最終エネルギー消費」と呼びますが、特に将来については「今後のエネルギー需要はどのくらいになるのか?」といった観点では、「最終エネルギー需要」と呼びます。この供給と需要・消費の考え方を基に、エネルギーを供給する側をエネルギー供給部門、産業部門・建築部門・輸送部門のことをエネルギー需要部門と呼びます。

※1:非化石エネルギーについては、投入量の把握が難しいため、電力や熱として得られたエネルギーから一次エネルギーを換算。

出典:資源エネルギー庁「平成25年度エネルギーに関する年次報告(エネルギー白書2014)」

一次エネルギー供給 エネルギー転換 最終エネルギー消費

発電 熱供給 都市ガス

石炭製品製造 石油精製

輸送部門

建築部門 産業部門

+転換損失

エネルギー需要部門 エネルギー供給部門

石油 石炭

天然ガス 水力・地熱・新エネ等※1

原子力発電※1 国内生産

輸入

2. 序 章 ✔ ✔

AR5 Q&A 関連情報

10

3.気候変動の緩和へのアプローチ

10

AR5 Q&A 関連情報

11

■気候変動の緩和とは? 日本では、気候変動の緩和に向けた方策のことを「地球温暖化対策」と呼び、地球温暖化対策推進法では、「温室効果ガスの排出の抑制並びに吸収作用の保全及び強化その他の国際的に協力して地球温暖化の防止を図るための施策」と定義しています。

■温室効果ガス排出の抑制のイメージ

吸収に係わる分野は、農林業・土地利用になります。

■温室効果ガスの吸収のイメージ(森林の場合)

出典:環境省「STOP THE 温暖化2012」

出典:林野庁HP http://www.rinya.maff.go.jp/j/sin_riyou/ondanka/con_2.html

この条約及び締約国会議が採択する

法的文書には、この条約の関連規定に

従い、気候系に対して危険な人為的

干渉を及ぼすこととならない水準におい

て大気中の温室効果ガスの濃度を安

定化させることを究極的な目的とする。

そのような水準は、生態系が気候変動

に自然に適応し、食糧の生産が脅かさ

れず、かつ、経済開発が持続可能な態

様で進行することができるような期間内

に達成されるべきである。

出典:環境省「気候変動に関する国際連合枠組条約」 http://www.env.go.jp/earth/cop3/kaigi/jouyaku.html

国連気候変動枠組条約 第2章 目的

温室効果ガス排出の抑制とは、エネルギー供給部門(発電部門など)とエネルギー需要部門(輸送部門、建築部門、産業部門)、加えてエネルギー起源以外の農林業や土地利用からのGHG排出を削減することです。

また、森林は温室効果ガスの吸収の役割も

果たしますが、森林破壊や森林の劣化は、温室効果ガスの排出源となります。

出典:地球温暖化対策の推進に関する法律 平成10年10月9日法律第117号

緩和とは

緩和とは、GHGの排出を抑制し吸収源を拡大するための人為的介入

気候変動の緩和(かんわ)とは、温室効果ガス排出の抑制と吸収源の向上のための人為的介入のことです。

緩和は、気候変動への適応(→WG2ガイドブック参照)と同じく、国連気候変動枠組条約第2章に示される目的に貢献します。

3. 緩和へのアプローチ ✔ ✔

AR5 Q&A 関連情報

12

4.温室効果ガス排出量の現状

AR5 Q&A 関連情報

13

■人為的なGHG排出量の推移(ガス種別)(1970年〜2010年)

出典:AR5 WG3 政策決定者向け要約 Fig.SPM.1

GHG排出量の推移

人為的なGHG排出量は、最近10年で急速に増加

人為的なGHGは、1970~2010年の間で増加を続けており、特に2000年からの10年間では約100億トン(10Gt-CO2換算)と大幅に増加しています。

1970~2010年の40年間に増加したGHG排出量のうち、約78%は化石燃料燃焼・工業プロセス起源のCO2です。

4. 排出量の現状

人為

的な

GH

G排

出量

(G

t-CO

2換

算/年

)※

2

※1:京都議定書の対象ガス(SF6、PFCs、HFCs) ※2:GWP100に基づきCO2換算 ※3:林業・土地利用起源はCO2の吸収と相殺された量

各種ガスの 排出量の割合 (2010年)

CO2(化石燃料の燃焼 、 工業プロセス起源):

65%

CO2(林業・土地利用 起源※3):11%

CH4:16%

N2O:6.2%

フロン等※1:2.0%

農業・廃棄物等

森林破壊、森林劣化、 山火事・泥炭火災等

冷媒、半導体製造、電気絶縁体使用等

<化石燃料の燃焼>エネルギー供給・輸送・産業・建築 <工業プロセス> セメント製造等

各種ガスの 排出源の例

1970-2000年は、

年平均1.3%増加

2000-2010年は、

年平均2.2%増加

AR5 Q&A 関連情報

■人為起源(化石燃料の燃焼、燃料の漏出、工業プロセス(セメント生産)、林業・土地利用)のCO2排出量(年)

出典:AR5 WG3 TS Fig.TS.2

GHG排出量の推移

14

人為起源の累積CO2排出量は、最近40年間で約2倍に増加

1750年以降の人為起源の累積CO2排出量のうち、約半分は最近40年間(1970~2010年)に排出されました。

そのうち、排出量の大部分を占める化石燃料の燃焼、燃料の漏出(油田やガス田からのフレア)、工業プロセス(セメント製造)のCO2に限れば、累積排

出量は最近40年で約3倍に増加しています。

4. 排出量の現状

人為

起源

(化

石燃

料の

燃焼

、燃

料の

漏出

、セ

メン

ト生

産、

林業

・土

地利

用)

のCO

2排

出量

(G

t-CO

2換

算/年

※1:移行経済国は主にロシアなどの東欧や中央アジアの旧ソ連圏の国で、アジア地域の移行経済国は含まれない。

220年間 40年間

ほぼ同じ量

OECD加盟国(1990年時点)

経済移行国※1 (旧ソ連圏など)

アジア

中南米

中東・アフリカ

AR5 Q&A 関連情報

■世界の部門別GHG排出量(2010年)

出典: AR5 WG3 政策決定者向け要約 Fig.SPM.2

GHG排出量の推移

15

GHG排出量の部門別内訳

2010年の世界のGHG排出量は約490億トン(49Gt-CO2換算)で、直接排出量で換算すると、エネルギー供給部門(発電・熱生産+その他エネル

ギー)は35%、農林業・土地利用部門は24%、産業部門は21%、輸送部門は14%、建築部門は6.4%という内訳になっています。

発電・熱生産を間接排出量で換算した場合は、エネルギー需要部門(→「序章」参照)に分配され、産業は31%、建築は19%に増加します。

4. 排出量の現状

直接排出量※5 間接排出量※5

農林業・ 土地利用

24%

建築※3 6.4%

輸送※2 14%

産業 21%

その他 エネルギー※4

9.6%

農林業・ 土地利用 0.87%

エネルギー※1

1.4%

産業 11%

輸送※2

0.3%

建築※3

12%

発電・熱生産 25%

49Gt-CO2換算 (2010年)

※1:エネルギーにはエネルギー供給部門内部での分配が含まれる。例えば、ガス会 社が電力会社から電力を買うと、ここに計上される。

※2:輸送部門には、旅客と貨物の両方が入る。 ※3:建築部門には、住宅、商業、公共サービス部門が含まれる。なお、建設時の排

出量は産業部門にて計上される。 ※4:その他エネルギーにはエネルギー供給部門での自家消費が含まれる ※5:直接排出量は発電・熱生産に起因する排出をエネルギー供給部門に計上。

間接排出量は発電・熱生産に起因する排出を消費先の需要部門に配分。 エネルギー供給=(発電・熱生産+その他エネルギー)

[解説] これまでのページはガスの種類や地域別にGHG排出量が示されていましたが、ここからは排出源となる経済部門別に見ていきます。

• 人為的なGHG排出量は、2000年から2010年の間で約100億トン(10Gt-CO2換算)増加しましたが、この増加量の内訳は、エネルギー供給47%、産業30%、輸送11%、建築3%となっています。また、間接排出量で換算すれば、建築・産業部門による増加が大きくなっています。

• 2000年以降、農林業・土地利用部門を除くすべての部門でGHG排出量は増加しています。

その他のポイント

AR5 Q&A 関連情報

16

GHG排出量の増減要因

GHG排出の変化要因とその緩和策との関係イメージ

4. 排出量の現状

■GHG排出の直接的な変化要因と潜在的な変化要因、政策・対策との相互関係

出典: AR5 WG3 第5章 Fig.5.1

※1:GDP当たりのエネルギー消費量のこと。 ※2:エネルギー当たりのGHG排出量のこと。似

たようなもので、「炭素強度」があるが、エネルギー当たりのGHG排出量か、エネルギー当たりのCO2排出量かの違い。

GHG 排出量

人口

エネルギー 強度

一人 当たり GDP

都市化

工業化

インフラ

開発

意思決定・行動

技術

統治

資源利用 可能性

貿易

計画

経済的 インセンティブ

直接 規制

情報提供 R&D

気候政策 以外

人々の意識の醸成

GHG 強度

直接的な変化要因 潜在的な変化要因 政策・対策

潜在的な変化要因

潜在的な変化要因は、ある要因を通じて排出量に影響を与えるプロセス、メカニズム、特性のことで、個々人のことから社会的選択までを含みます。 例えば貿易は、消費パターン、生産場所の移転、国際輸送の排出を通じて影響を与えるだけではなく、貿易のパターンの技術のイノベーションや交換を通じて排出量に影響を与えます。

政策・対策

政策・対策は、回りまわって潜在的な変化要因に影響を

与えます。直接的及び潜在的な変化要因は循環し政策

や対策に影響を与えます。

GHG排出の傾向は、人口、一人当たりGDP、エネルギー強度※1、GHG強度※2に左右されます。

また、人口、一人当たりGDPといった直接的な変化要因は、潜在的な変化要因や政策・対策と相互に関連があります。

AR5 Q&A 関連情報

出典: AR5 WG3 政策決定者向け要約 Fig.SPM.3

GHG排出量の増減要因

17

CO2排出増加の主要な要因は、経済成長と人口増加

化石燃料起源のCO2排出量が世界全体で増加した主要な要因は、GDPに代表される経済成長と人口増加です。

特に、2001~2010年の間は経済成長によるものが急増しました。

また、エネルギー当たりのCO2排出量は、石炭消費の相対的な増加により、2001~2010年の間はCO2排出量の増加要因となりました。

4. 排出量の現状

■化石燃料起源CO2排出量変化の要因分析

■ エネルギー当たりのCO2

■ GDP当たりのエネルギー

■ 一人あたりのGDP

■ 人口

△ 増減を考慮した

総計での変化

【エネルギー当たりのCO2排出量(炭素強度)】 ⇒ 例えば、再生可能エネルギーを増やせば減少

エネルギー当たりのCO2排出量は、2000年まで減少傾向にあったため、CO2排出量の減少要因でしたが、石炭消費の相対的な増加により2001~2010年の間はCO2排出量の増加要因となりました。

【一人当たりのGDP(経済成長)】

最近10年間において、一人当たりのGDPは大きく増加し、CO2

排出量増加の大きな要因となっています。

【人口】

人口は1970年以降増加しており、減少要因であるGDP当たりのエネルギー消費による効果を相殺しています。

【GDP当たりのエネルギー消費 (エネルギー強度)】

⇒ 例えば、エネルギー機器の効率改善などで減少

エネルギー消費の効率は改善しているため、GDP当たりのエネルギー消費は、CO2排出量減少の要因となっています。

増加分

減少分

10年

毎の

CO

2排

出量

の増

減(

Gt-

CO

2換

算/1

0年

AR5 Q&A 関連情報

18

GHG排出量の増減要因

CO2の変化要因とその緩和策の考え方

4. 排出量の現状

CO2※2変化率 =(CO2/エネ※3)の変化率 +(エネ/GDP)の変化率 +(GDP/人口)の変化率 +(人口)変化率 + 交差項※4

CO2排出量の主要な排出要因は、下記右辺のエネルギー当たりのCO2排出量の変化率、GDP当たりのエネルギー消費量の変化率、一人当たりGDPの変

化率、人口の変化率の和として説明することができます※1。

エネルギー消費に伴い、どの程度CO2を排出するかを示しています。 CO2排出量の大きい石炭や石油よりも太陽光発電などの割合が増えると、この値が下がります。 <緩和策の例>

国内総生産(GDP)を生み出すために必要なエネルギーの量を表しています。 より少ないエネルギーでものの生産が可能になったり、サービス産業のシェアが増加したり、エネルギー消費量の少ない機器の普及が進むとエネルギー強度は小さくなります。 <緩和策の例>

生活水準が上がればモノの消費やエネルギー消費が増加し、一人当たりのGDPが増えます。

人口が増えると食糧生産やモノの消費が増え、GDP・エネルギー消費量の増加につながります。

石炭火力

再生可能エネルギー

原子力発電

化石燃料火力発電 +CCS※5

産業プロセスの効率化

高効率機器の普及

高断熱住宅の普及

公共交通網の整備

産業構造のソフト化

エネルギー当たりの

CO2排出量(炭素強度)

GDP当たりのエネルギー消費量

(エネルギー強度)

一人当たりの

GDP 人口

※1:CO2排出量は、茅恒等式と呼ばれる式で(CO2/エネルギー)×(エネルギー/GDP)×(GDP/人口)×人口と示されるが、この式についてCO2排出量の変化量を示すために展開していくと上記のような式として示すことができる。

※2:CO2=CO2排出量 ※3:エネ=エネルギー消費量 ※4:交差項は、重複を防ぐための数式。例えば、右辺の各変

化率が25%ずつ減少した場合、左辺のCO2変化率は1、つまり100%削減となる。しかし、実際にはそれぞれの削減量の要因には重複があるため、CO2変化率はこれよりも小さくなる。

※5:CCSについての用語解説は「第7章」を参照。

AR5 Q&A 関連情報 5. 緩和の長期的経路

19

5. 緩和の長期的経路

19

AR5 Q&A 関連情報 5. 緩和の長期的経路 緩和の経路とその特徴

20

2100年のGHG濃度で分類したGHG排出量の経路

AR5で収集された約1200のシナリオについて、2100年時点のGHG濃度別に分類し排出量で示すと下記のようなグラフになります。

GH

G排

出量

(G

t-CO

2換

算/年

ベー

スラ

イン

シナ

リオ

の幅

2100年

点線:約1200シナリオ全体の範囲

出典:AR5 WG3 政策決定者向け要約 Fig.SPM.4

2100年のGHG濃度

90パーセンタイル※1

中央値

10パーセンタイル

AR5データベース全体の範囲

それぞれの帯の色は、2100年時点のGHG濃度で同じ濃度にカテゴリ分けされたシナリオの束を示しています。 例えば、灰色は2100年時点で1000ppm以上の濃度となるシナリオの束です。

※1:10パーセンタイルとは下から10%の値、90パーセンタイルとは上から10%の値。つまり、このGHG濃度の帯は上下10%ずつに含まれる値が除かれて示されている。

ppm CO2換算

ppm CO2換算

ppm CO2換算

ppm CO2換算

ppm CO2換算

ppm CO2換算

ppm CO2換算

AR5 Q&A 関連情報 5. 緩和の長期的経路

カテゴリ分類 (2100年の GHG濃度

(ppm CO2換算))

サブカテゴリ (オーバーシュートの説

明は次項を参照)

RCP シナリオの 位置

CO2累積排出量 (Gt-CO2換算)

2010年比のGHG排出変化 (CO2換算、%)

気温変化(1850-1900年比)

2011-2050 2011-2100 2050 2100 2100年の気温

上昇幅(℃)※3,4,5

1.5℃未満に とどまる可能性

2℃未満に とどまる可能性

3℃未満に とどまる可能性

4℃未満に とどまる可能性

430未満 430ppm未満となったのは個別のモデル研究による限られた研究成果のみ

450 (430-480)

全範囲 RCP2.6 550-1300 630-1180 -72~-41% -118~-78% 1.5-1.7 (1.0-2.8) どちらかといえば 可能性が低い (50%未満)

可能性が高い (66%超)

可能性が高い (66%超)

可能性が高い (66%超)

500 (480-530)

オーバーシュートなし 860-1180 960-1430 -57~-42% -107~-73% 1.7-1.9 (1.2-2.9)

可能性が低い (33%未満)

どちらかといえば 可能性が高い (50%超)

530ppmをオーバーシュート 1130-1530 990-1550 -55~-25% -114~-90% 1.8-2.0 (1.2-3.3) どちらも同程度 (33~66%)

550 (530-580)

オーバーシュートなし 1070-1460 1240-2240 -47~-19% -81~-59% 2.0-2.2 (1.4-3.6) どちらかといえば 可能性が低い (50%未満)

580ppmをオーバーシュート 1420-1750 1170-2100 -16~7% -183~-86% 2.1-2.3 (1.4-3.6)

(580-650) 全範囲

RCP4.5

1260-1640 1870-2440 -38~24% -134~-50% 2.3-2.6 (1.5-4.2)

(650-720) 全範囲 1310-1750 2570-3340 -11~17% -54~-21% 2.6-2.9 (1.8-4.5)

可能性が低い (33%未満)

どちらかといえば 可能性が高い (50%超)

(720-1000) 全範囲 RCP6.0 1570-1940 3620-4990 18~54% -7~72% 3.1-3.7 (2.1-5.8)

可能性が低い※6

(33%未満)

どちらかといえば 可能性が低い (50%未満)

1000超 全範囲 RCP8.5 1840-2310 5350-7010 52~95% 74~178% 4.1-4.8 (2.8-7.8) 可能性が低い※6

(33%未満)

可能性が低い (33%未満)

どちらかといえば 可能性が低い (50%未満)

■AR5 WG3において収集・分析されたシナリオの主な特徴※2

出典:AR5 WG3 政策決定者向け要約 Table SPM.1

緩和の経路とその特徴

21

「2℃未満」と「約450ppm」はよく対応している

産業革命以前からの気温上昇を2℃未満に抑える可能性が「高い(66%以上の確率)」緩和シナリオは、2100年に約450ppmを通るシナリオとよく対応

しています。2100年に約450ppmを通るシナリオの場合、2050年のGHG排出量は2010年比40~70%削減※1、2100年に許容される排出はほぼゼロ

またはそれ以下となります。

※2:数値は10-90パーセンタイルの範囲を表記。 ※3:気温上昇幅はMAGICC(簡易気候モデル)による中位推計値。括弧内は気候システムの不確実性を考慮した場合の値。なおAR5 WG1表SPM.2とは、基準年(WG1は1986-2005年、WG3は1850-1900年)、シミュレーションに用いたツール・

データセット(WG1はCMIP5、WG3はMAGICC)、シナリオ(WG1はRCPのみ、WG3はより幅広いAR5データベース)の想定が異なる。 ※4:気温変化は2100年の値であり、平衡時の気温を示していたAR4の値とは直接比較できない。 ※5:2100年の気温変化は、MAGICCの計算の中央推定値。これは、それぞれのシナリオ区分の中での排出経路の違いを表している。丸括弧内の気温変化の幅は、それに加えて、MAGICCモデルで表される炭素循環と気候システムの不確実性も含んでいる。 ※6:この区分のシナリオでは、モデル(CMIP5、MAGICC)の計算の結果にそれぞれの温度水準未満に留まるものはない。 しかし、現在の気候モデルに反映されていない可能性のある不確実性を考慮し、「低い」という可能性の評価をしている。

※1:2050年の値は、シナリオ数、GHGの種類、マイナス排出技術想定等の差により、AR4における似たカテゴリでの削減量(CO2を2000年比50-85%減)とは異なります。

[解説] 約450ppmを達成するためにはGHGの大幅な削減が必要です。

AR5 Q&A 関連情報 5. 緩和の長期的経路

シナリオとは、将来起こりうる状況を想定した見通しのことです。“将来”には、様々な不確定な要素が存在します。

特に、GHGの将来排出量は、技術進歩、生活様式、経済発展、温暖化政策などに大きく依存しますが、これらは、社会の発展状況により変わります。

そのため、将来社会の発展や緩和政策の度合いを想定したシナリオが用いられるようになりました。

緩和の経路とその特徴

22

シナリオとは?

※1:RCPシナリオの詳細は次ページにあり。 出典:AR5 WG3 政策決定者向け要約、Annex1 より作成

Q.

A.

AR5では約1200通りのシナリオを検討

WG3では、世界の研究機関による将来排出量の推計結果が約1200通り収集されています。これらはベースラインシナリオ(約300)、緩和シ

ナリオ(約900)の大きく2つに分けられます。

また、既存文献の代表的な濃度経路を示す4つのシナリオのことをRCPシナリオと呼びます。

ベースラインシナリオ(約300通り) 現在既に導入または計画されている緩和策に追加して、更なる排出抑制努力はなされないと仮定したシナリオです。

緩和シナリオ(約900通り) 将来、GHG排出抑制の追加的な努力がなされることを仮定しています。緩和シナリオは、例えば政策の導入タイミングやGHG濃度、技術の制約などにより分類され、詳細な分析に用いられます。

代表的濃度経路(RCP)シナリオ(4通り)※1

代表的濃度経路は、英語で Representative Concentration Pathways と呼ばれ、RCPと略されます。 RCPは、WG1、WG2、WG3のそれぞれが並行して作業できるよう、将来のGHGの濃度安定化レベルと、そこに至るまでの経路のなかで、既存文献の研究結果のなかから代表的なものを選んだシナリオです。 RCPの後に続く数字は放射強制力を示しており、RCP8.5はベースラインンシナリオ、RCP6.0、RCP4.5、RCP2.6は緩和シナリオです。

費用効率よく 対策が進む場合

政策が遅れた 場合

技術が制約 された場合

RCP8.5 RCP6.0 RCP4.5 RCP2.6

参考:国立環境研究所 豆知識「シナリオ」とは?

✔ ✔

AR5 Q&A 関連情報 5. 緩和の長期的経路 緩和の経路とその特徴

23

RCPシナリオとは?

■RCPの放射強制力とは?

RCPシナリオ 放射強制力 2100年におけるGHG濃度

(CO2換算)

RCP8.5 2100年において8.5W/㎡を超える

約1,370ppmを超える

RCP6.0 2100年以降 約6.0W/㎡で安定化

約850ppm (2100年以降安定化)

RCP4.5 2100年以降 約4.5W/㎡で安定化

約650ppm (2100年以降安定化)

RCP2.6 2100年以前に 約3W/㎡でピーク、その後減少

2100年以前に約490ppmでピーク、その後減少

RCPの後に続く数字は放射強制力※1を示しています。 放射強制力とは、地球のエネルギー収支による気候変動の要因の影響度合いのことをいい、AR5では産業革命前の1750年を基準としてその増減を表現しています。なお、2011年の人為起源の放射強制力は2.29(1.13~3.33)W/㎡となっています。(→参考:WG1ガイドブック序章)

(W/㎡)

出典:Meinshausen, M., et al., 2011c: The RCP greenhouse gas concentrations and their extensions from 1765 to 2300. Climate Change, 109, 213–241.

2011年は 2.29W/㎡

※1:放射強制力は、特記のない限り1750年を基準とした。

備考:Meinshausen等の研究では放射強制力は1750年の前後22年の平均値が使われている。

出典:AR5 WG1 政策決定者向け要約より作成

■RCPの2500年までの放射強制力の経路 ■4つのRCPシナリオ

Q.

A. RCP8.5は、2100年におけるGHG排出量の最大排出量に相当するシナリオです。また、RCP2.6は将来の気温上昇を2℃以下に抑えるという目標のも

とに開発されたシナリオで、将来排出量の最も低いシナリオです。さらに、放射強制力※18.5W/m2と2.6W/m2の間に2つのシナリオを用意することとなり、

RCP4.5とRCP6.0を開発しました。 出典:NIES論文誌Climate Changeに掲載されたIPCC第5次評価報告書に向けた代表的濃度パス(RCP)シナリオについて

✔ ✔

AR5 Q&A 関連情報 5. 緩和の長期的経路 緩和の経路とその特徴

24

GHG排出量はどのように計算されるの?

参考:AR5 WG3 TS BOX 6

※1:GHG濃度・気温上昇の計算には簡易気候モデル(MAGICC)を使用

Q.

A. AR5で示されたGHG排出量は、統合評価モデルと呼ばれる大規模コンピューターシミュレーションモデルを用いて計算された結果です。

統合評価モデルでは、人口やGDPといったGHG排出量に影響を与える社会経済活動量や緩和策、制約条件を各シナリオに応じて計算の前提条件とし

て設定し、GHG排出量を算出します。日本からは、国立環境研究所の「AIM」、公益財団法人地球環境産業技術研究機構の「DNE21+」等の統合

評価モデルによる計算結果が、AR5に引用されています。

いつ、どのような緩和策が導入される?

人口・経済成長は どの程度になる?

GHG排出量 ・累積排出量

コスト 等

GHG濃度 気温上昇※1

エネルギー消費

統合評価モデル

世界の研究機関が、様々な前

提条件を様々な統合評価モデ

ルを用いて計算

計算結果 計算の前提条件として設定

人口・GDP等 (社会経済活動量)

緩和策 (省エネ・再エネ・CCS等)

約1,200シナリオの 計算結果

各種制約条件 技術の利用可能性

対策の遅れ 炭素価格 等

※すべての緩和策が直接的に前提条件として設定できるわけではありません。

全分野を統合的な 枠組みで計算

・エネルギー供給 ・輸送 ・建物 ・産業 ・農林業・土地利用

✔ ✔

AR5 Q&A 関連情報 5. 緩和の長期的経路

0

200

400

600

800

1900 2000 2100 2200 2300

緩和の経路とその特徴

25

オーバーシュートシナリオはバイオCCSと植林にCO2削減を頼る

2100年に約450ppmを通るシナリオの大部分、約500ppm、約550ppmを通るシナリオの多くでは、一時的に濃度のオーバーシュートが起こります。

一般的に、オーバーシュートするシナリオでは、今世紀後半のバイオCCS(→「第7章」参照)と植林の幅広い普及にCO2の削減を頼っています。

これらの技術や他のCO2除去技術(→「第7章」参照)の利用可能性と実施規模は不確かで、程度は異なるものの課題やリスクが存在します。

オーバーシュートとは、排出量、濃度、気温のどれに対しても用いる考え方で、一時的に長期目標を超える、または上を行くという経路のことをいいます。

■濃度でのオーバーシュートイメージ

目標

オーバーシュートしない シナリオ

オーバーシュートするシナリオ

[解説]

■排出量の経路のイメージ

(ppm

、CO

2換

算)

■CO2除去技術とは?

CO2除去技術とは、①自然の吸収源を増やすこと、②化学工業的に除去することを通じて大気中のCO2濃度を減少させるもので、例えば海洋への鉄散布(鉄肥沃化)、大規模な植林、化学工業的な方法を使って大気中のCO2を直接回収する方法などがあります。 なお、一般的な緩和策との厳密な区分けは定義されていません。

オーバーシュートで 目標を達成しようと した場合の排出量 のイメージ

出典:AR5 WG3 Annex1

-10

0

10

20

30

40

50

60

1900 1950 2000 2050 2100 2150

オーバーシュート するシナリオ

(G

t-CO

2換

算/年

オーバーシュート しないシナリオ

✔ ✔

AR5 Q&A 関連情報 5. 緩和の長期的経路

出典:AR5 WG3 6章 Fig.6.14a

緩和の経路とその特徴

26

オーバーシュートでは、2℃を超える確率が上昇

2100年に500ppmを通る緩和シナリオが、産業革命前からの気温上昇を2℃未満に抑えることができる可能性は、どちらかといえば可能性が高く(50~

100%の確率)なっていますが、オーバーシュートする(期間中に濃度がおよそ530ppmを超える)場合には、気温上昇を2℃未満に抑える可能性は半分

程度(33%~66%の確率)になり、オーバーシュートする方が2℃を超える確率が上昇します。

中白は、上記のカテゴリにおいて、大幅なオーバーシュート( 0.4W/m2以上)が起こるシナリオ

2100年時点で同じ濃度でも、大幅なオーバーシュート(放射強制力が一時的に0.4W/m2以上超過する)が起こるシナリオでは、2100年に産業革命以前からの気温上昇が2℃を超える確率が高くなっています。

■2100年の濃度別・オーバーシュートの有無別の2℃未満となる確率

高い ← 2100年に2度未満にとどまる確率 → 低い

高い

低い

これ

から

21

00

年ま

2度

未満

にとどま

る確

21世紀中の大気中のピーク濃度を制限することは、長期的な大気濃度のレベルを抑えるだけでなく、過渡的な温度変化を制限するために重要です。

オーバーシュートのその他のポイント

CO2換算

CO2換算

CO2換算

CO2換算

CO2換算

CO2換算

CO2換算

( AR5 WG3 第6章 p.441、TS p.51)

AR5 Q&A 関連情報 5. 緩和の長期的経路

■シナリオ別の低炭素エネルギー比率の推移

出典:AR5 WG3 政策決定者向け要約 Fig.SPM.4

緩和の経路とその特徴

27

約450ppmを通るシナリオの特徴は低炭素エネルギーの早期大幅増

2100年に約450ppmを通るシナリオでは、エネルギー供給部門の大規模な世界的変化が示されています。

これらのシナリオでは、2050年までにエネルギー効率がより急速に向上し、低炭素エネルギー(再生可能エネルギー、原子力、CCSまたはバイオCCS(→「第

7章」参照)の割合が2010年比で3倍から4倍近くまで増加することが特徴です。

一次

エネ

ルギ

ー供

給に

占め

低炭

素エ

ネル

ギー

の比

率(

%)

最大値

75パーセンタイル

中央値

25パーセンタイル

最小値

2050年には2010年の 3~4倍

2100年に約450ppmより高い濃度を通るシナリオにおいても低炭素エネルギー比率の上昇が示されていますが、そのタイミングはより遅くても目標に到達できます。

CO2換算

CO2換算

CO2換算

CO2換算

AR5 Q&A 関連情報 5. 緩和の長期的経路 緩和の経路とその特徴

28

再生可能エネルギーとは?

AR5では、再生可能エネルギーとして、バイオエネルギー、太陽光・太陽熱、水力発電、海洋エネルギー、地熱、風力発電が取り上げられています。

再生可能エネルギーとは、資源が枯渇せず繰り返し使え、発電時や熱利用時に二酸化炭素をほとんど排出しないエネルギーのことで、日本の「エネルギー供給事業者による非石油エネルギー源の利用及び化石エネルギー原料の有効な利用の促進に関する法律(エネルギー供給構造高度化法)」では、「エネルギー源として永続的に利用することができると認められるものとして政令で定めるもの」と定義されています。

※1:再生可能エネルギーで発電された電気を電力会社が一定価格で買い取ることを国が約束した制度のこと。

出典:環境省「平成25年度2050年再生可能エネルギー等分散型エネルギー普及可能性検証検討報告書」をもとに作成

• 大気中の熱 • バイオマス(熱利用) • 太陽熱 • その他の自然界に存在する熱

(地中熱、温度差エネルギー、 雪氷熱、未利用熱等)

• 大規模水力発電

再生可能エネルギー

エネルギー供給構造高度化法における定義

固定価格買取制度※1

の適用対象

• 太陽光発電 • 風力発電 • 中小水力発電 • 地熱発電 • バイオマス(発電)

• 海洋エネルギー (波力、潮流、 海洋温度差)

[解説]

✔ ✔

AR5 Q&A 関連情報 5. 緩和の長期的経路

出典:AR5 WG3 政策決定者向け要約 Fig.SPM.4

緩和の遅れによるリスク

29

カンクン合意下で提出された各国目標は、2℃シナリオの経路とは一致せず

カンクン合意下(→「第5章」参照)で提出された2020年の各国削減目標を基に推計すると、2100年時点での気温上昇を3℃未満に抑えるシナリオに概

ね一致します。これは、同じくカンクンで合意された世界平均気温を2℃未満に抑制することの可能性を排除するものではありませんが、2℃未満に抑制するに

は、2020年以降の大幅な削減が必要となります。

GH

G排

出量

(G

t-CO

2換

算/年

2030年の GHG排出量

50Gt未満 50~55Gt 55Gt超

50Gt未満

50~55Gt

55Gt超

※図の注釈:技術利用制約のないシナリオのみを示している。

■2030年までのGHG排出量

2℃未満に抑える可能性が少なくとも半分程度(33%~66%の確率)のシナリオの幅(2030年時点)

2030年の排出量が、約550億トン(55Gt-CO2換算/年)を超える場合には、緩

和の負担の大きさから、多くのモデル分析において、2℃未満への抑制シナリオを半分程度(33~66%)の確率で達成するシナリオはほとんど得られませんでした。

= カンクン合意は、気温上昇を3℃未満に抑える可能性が高い(66%以上の確率)シナリオを費用効率よく達成する経路に概ね一致

• 2030年に約550億トン(55Gt-CO2換算)を超えると、2030年~2050年に急速な大幅削減が必要となり、低炭素エネルギーの急増、CO2除去技術への長期的な依存、緩和策による経済への影響を長期的にもたらします。

• 2030年までに現状以上の緩和努力が行われなければ、産業革命以前からの気温上昇を2℃未満に抑えるための選択肢の幅が狭くなります。

カンクン合意 に基づく

排出量の範囲

AR5 Q&A 関連情報 5. 緩和の長期的経路 緩和政策

30

カンクン合意下の各国目標とは?

COP16におけるカンクン合意では、各国が2020年における排出削減目標を策定、気候変動枠組条約事務局に登録し、隔年報告書を提出して当該目標の進捗状況等を報告し、国際的なレビューを受けることとされています。

出典:環境省提供資料を基に一部改編

※1:(米国)1990年比約3%削減(土地利用、土地利用変化及び林業部門を含まない値)。また,この目標は,今後制定される関連の国内法令に照らして最終的な目標が国連気候変動枠組条約事務局に対して連絡されるとの認識の下でのもの。法案における削減経路は、2050年までに83%削減すべく、2025年には30%減、2030年には42%減。

※2:(EU)他の先進国が比較可能性のある排出削減にコミットし,途上国がその責任と能力に応じた適切な貢献を行う場合には,削減目標を20%から30%に引き上げるとの立場。 ※3:BAU(Business-As-Usual):追加的な対策を講じなかった場合のGHGの排出量

主要な 附属書Ⅰ国

2020年の排出削減量 備考 基準年

日本 3.8%削減 2009年9月鳩山総理(当時)が発表した25%削減目標を2013年11月に見直し。今後、エネルギー政策やエネルギーミックスの検討の進展を踏まえて見直し、確定的な目標を設定。

2005

米国 17%程度削減 ただし、成立が想定される米国エネルギー気候法に従うもので、最終的な目標は成立した法律に照らして事務局に対して連絡※1。

2005

ロシア 15-25% 人為的排出削減に関する義務履行へのロシアの森林のポテンシャルの適切な算入、及び、すべての主要排出国によるGHGの人為的排出の削減に関する法的拘束力のある義務の受け入れが前提。

1990

EU 20% 又は 30%削減※2 京都議定書第2約束期間は、90年比で20%削減。 1990

主要な 非附属書Ⅰ国

削減目標・行動(非附属書Ⅰ国は、適切な緩和行動の提出が求められています)

中国 2020年までにGDP一単位当たりCO2排出量を2005年比で40~45%の排出削減、 2020年までに非化石エネルギーの割合を15%、2020年までに2005年比で森林面積を4千万ha、森林保有炭素量を13億m3増加。

インド 2020年までにGDP一単位当たりの排出量を2005年比20~25%の排出削減(農業部門を除く)。

ブラジル 2020年までにBAU※3比で36.1-38.9%の排出削減。具体的な行動として、熱帯雨林の劣化防止、セラード(サバンナ地域の植生の一種)の劣化防止、穀倉地の回復、エネルギー効率の改善、バイオ燃料の増加、水力発電の増加、エネルギー代替、鉄鋼産業の改善等

韓国 2020年までにBAU比30%の排出削減。

✔ ✔

AR5 Q&A 関連情報 5. 緩和の長期的経路

出典: AR5 WG3 政策決定者向け要約 Table SPM.2

緩和のコスト

31

緩和コストは、主要技術の利用が制限されたり緩和のタイミングが遅れれば大幅に増加

緩和に関する総コストの推計結果には広い幅があり、シナリオ毎で想定している技術の種類や緩和のタイミングの違いに加え、モデルの構造や前提条件に強く

影響を受けます。

(本ページに記載されているコストに関する指標には、気候変動が緩和された際の便益や緩和の負の副次的効果については考慮されていません。)

※1:括弧なしの数字は中央値、括弧内の数字は14-86パーセンタイルの範囲を示す。 ※2:統一された炭素価格下で全ての国が早急に対策を講じ、全ての主要技術が利用可能なシナリオを費用効果的に緩和が行われるベンチマークとして使用。 ※3:消費者が財・サービスの購入に費やすことができる額の減少。 ※4:消費成長率の減少のみパーセントポイントで示されているため、例えば、「約450ppmを通るシナリオでは、毎年0.06%減少する」と読める。 ※5:原子力逓減:建設中を除き新設なし、既設は更新なし。太陽光・風力制限:総発電量の20%を上限。バイオ制限:バイオエネルギー利用(在来型を除く)を年間100EJ(エクサジュール、100×10^18ジュール、

100×23.8889×10^13Kcal)に制限 ※6:2015-2100年の累積コスト(割引率5%として現在価値換算した値)。一般均衡モデルを用いた分析結果ではベースラインの消費に対する消費ロスの現在価値換算額の増分を用い、部分均衡モデルはベースラインの

GDPに占める削減コストの増分を用いている。 ※7:③は、2030年の排出レベルが55GtCO2換算以下とそれを超える場合、つまり2100年のGHG濃度が430-530ppmと530-650ppmの場合の2つに分けられ分析された。

①費用効率よく緩和が行われた場合

■様々な想定下における緩和コスト※1

カテゴリ分類 (2100年の GHG濃度

(ppm CO2換算))

①緩和が費用効率よく行われる シナリオ※2における消費ロス※3

(ベースラインシナリオとの比較(%))

②技術制限シナリオ※5における 2015-2100年の累積コスト※6の増加割合

(制限なしの場合との比較(%))

③2030年まで緩和が遅れた場合の 累積コストの増加割合※7

(遅れなしの場合との比較(%))

2030 2050 2100 消費成長率

(年率)の減少 (%ポイント)

CCSなし 原子力 逓減

太陽光・ 風力制限

バイオ 制限

2030年55Gt以下 2030年55Gt超

2030-2050 2050-2100 2030-2050 2050-2100

450 (430-480)

1.7 (1.0-3.7)

3.4 (2.1-6.2)

4.8 (2.9-11.4)

0.06 (0.04-0.14)

138 (29-297)

7 (4-18)

6 (2-29)

64 (44-78) 28

(14-50) 15

(5-59) 44

(2-78) 37

(16-82) 500 (480-530)

1.7 (0.6-2.1)

2.7 (1.5-4.2)

4.7 (2.4-10.6)

0.06 (0.03-0.13)

― ― ― ―

550 (530-580)

0.6 (0.2-1.3)

1.7 (1.2-3.3)

3.8 (1.2-7.3)

0.04 (0.01-0.09)

39 (18-78)

13 (2-23)

8 (5-15)

18 (4-66) 3

(-5-16) 4

(-4-11) 15

(3-32) 16

(5-24) 580-650

0.3 (0-0.9)

1.3 (0.5-2.0)

2.3 (1.2-4.4)

0.03 (0.01-0.05)

― ― ― ―

備考 追加対策なしシナリオでは、消費は年率で1.6~3%、(今世紀中に300%~900%以上)拡大すると推計されています。

②利用できる技術を制限した場合 ③2030年まで緩和が遅れた場合

追加的な緩和が遅れれば、中長期的な緩和コストは更に増加します

技術が制限された場合、緩和コストは考慮された技術に応じて実質的に増加します

例えば、約450ppmを通るシナリオでCCSなしの 場合、制限なしの場合と比べて2.38倍に増加

例えば、 約450ppmを通るシナリオで2030年に約550億トン(55Gt-CO2換算)超の場合、遅れなしの場合と比べて1.44倍に増加

AR5 Q&A 関連情報 5. 緩和の長期的経路 緩和のコスト

32

緩和努力とそのコストは国により異なる

緩和シナリオにおいて、緩和努力とそのコストは国により異なります。国を越えたコストの分配は、緩和努力自体の分配とは異なる可能性があります。

国・地域別の緩和努力の配分枠組みについての様々な研究を比較することは、それらの研究は前提条件の違いや配分枠組みの考え方の違いから、推計結果には大きな幅があります。 そのなかで、Höhneらの研究は、異なる配分枠組みについて比較可能性を有しています。Höhne らは、3つの平等原則である、責任、能力、衡平を基に、7つの枠組みを開発し、その7つの枠組みを用いて2100年にGHG濃度が430-480ppmの場合の2030年の地域別GHG排出許容量、 2050年の地域別GHG排出許容量を計算しています。

■緩和の7つの配分枠組み別の2030年の地域別GHG排出許容量(2100年のGHG濃度が430-480ppm CO2換算となる場合)Höhneらの研究に基づく)

OECD 経済移行国 アジア 中東・アフリカ 南米

① ② ③ ④ ⑤ ⑥ ⑦ ① ② ③ ④ ⑤ ⑥ ⑦ ① ② ③ ④ ⑤ ⑥ ⑦ ① ② ③ ④ ⑤ ⑥ ⑦ ① ② ③ ④ ⑤ ⑥ ⑦

いくつかの配分方法では、 OECD諸国は、

2010年比およそ半減程度

2010年比(%)

⑥と⑦は比較対象となる配分方法のためオレンジで表現されている。

最大値 80%※1

20%※1 最小値

参照したシナリオの数

凡例番号→

※1:80%とは、参照したシナリオの中で80%の値という意味。20%も同様。 出典:AR5 WG3 第6章 Table 6.5、Fig.6.29

凡例番号 ― ① ② ③ ④ ⑤ ⑥ ⑦

配分の枠組み 責任 能力 衡平 責任、能力、 開発必要性

一人当たり累積 排出量均等化

部門段階的 アプローチ

限界削減費用 均等化

ベースライン シナリオ

世界での 配分方法

過去の累積排出量に応じて

配分

GDP比の削減費用等に応じて

配分

一人当たり排出量に応じて配分

累積排出量を重視しつつ、能力や持続可能な開発の必要

性に応じて配分

一人当たりの累積排出量を均等化す

るよう配分

様々な部門において、異なる寄与を国が取るこ

と。

排出量を追加的に1トン削減するのに必要なコスト(限界削減費用)を均等化するよう配分

AR5 Q&A 関連情報 5. 緩和の長期的経路

■<プラスの効果の例>緩和策の有無による大気汚染物質の推計結果(2050年におけるブラックカーボン・二酸化硫黄の排出水準)

出典:AR5 WG3 政策決定者向け要約 Fig.SPM.6

緩和策に伴う副次的効果

33

緩和策は様々なプラスの効果・マイナスの効果をもたらす

2100年に約450、約500ppmを通るシナリオでは、大気汚染の削減とエネルギーセキュリティの向上を達成するための費用が減ることに加え、健康や生態系、

資源確保、エネルギーシステムのレジリエンス※1向上といった点でも明確なプラスの効果(よい効果)が存在しますが、定量化が十分でないものを含め、様々

なマイナスの効果(悪い効果)を伴う可能性もあります。

[参考] 緩和策のプラス・マイナスの効果の詳細は各部門別に示されています。

※1:適応、学習、及び変容のための能力も維持しつつ、本質的な機能、アイデンティティ、及び構造を維持する形で、対応または再編して、ハザード事象もしくは傾向または混乱に対処する社会、経済、及び環境システムの能力。

※2:原文では厳格な気候政策と示されており、2100年の濃度が450-530ppmに相当すると示されている。

ブラックカーボン 二酸化硫黄

汚染の増加

汚染の減少

最大値

75%

中央値

25%

最小値

個別の 結果

ベースライン ベースライン 2100年の濃度が450-530ppmに相当※2

2100年の濃度が450-530ppmに相当

2005年

比の

変化

率(

%)

大気汚染物質の大幅な減少による健康・生態系影響の低減は、現在、大気汚染の抑制が十分に法制度・計画されていない地域で特に大きくなります。

AR5 Q&A 関連情報 5. 緩和の長期的経路 緩和策に伴う副次的効果

34

緩和策は化石燃料輸出国の収入を減らす可能性がある

緩和策は化石燃料の経済的価値を目減りさせ、化石燃料輸出国の収入を減らす可能性がありますが、地域や燃料種によってその影響は異なります。

• ほとんどの緩和シナリオでは、主要な石炭・石油輸出国の関連貿易収入は減少します。

• 緩和の効果は、天然ガスの輸出利益については不確実性が高く、2050年頃までは収入が増加するという研究事例もあります。

• 当面の間は、化石燃料燃焼の際にCCSを利用することで、化石燃料の経済的価値は減少するという緩和策のマイナスの効果は

低減します。

[解説] 化石燃料についてのプラス・マイナスの効果は両側目あります。 詳細は、第7章を参照ください。

AR5 Q&A 関連情報 6. 分野横断的な緩和策

35

6.分野横断的な緩和策

AR5 Q&A 関連情報 6. 分野横断的な緩和策

■ベースラインシナリオにおける部門別GHG排出量(直接排出量)

※1:この図ではエネルギー供給のなかでも主要な排出源である発電だけを扱っている。 出典:AR5 WG3 政策決定者向け要約 Fig.SPM.7 より一部抜粋

エネルギー消費・GHG排出の現状・見通し

ベースラインシナリオでは、ほぼ全ての部門で排出量が増加

ベースラインシナリオでは、農林業・土地利用部門を除き、すべての部門でGHG排出量は増加します。

36

GH

G直

接排

出量

(G

t-CO

2換

算/年

←点線:2010年実績値

輸送

(CO2)

建築

(CO2)

産業

(CO2)

発電※1

(CO2)

農林業・ 土地利用 (CO2(森林吸収と排出を相殺

後))

全分野のCO2以外のガス

増加

増加

増加

増加

増加

最大値

75%

中央値

25%

最小値

参照したシナリオの数

農林業・土地利用部門のなかでも、CO2

以外の排出量は増加する見込みですが、 CO2排出量は徐々に減少し、いくつかのシナリオでは今世紀の後半に吸収側に回るとされています。

AR5 Q&A 関連情報 6. 分野横断的な緩和策

■2100年に約450ppmを通るシナリオにおける部門別GHG排出量(直接排出量)※1

緩和策

37

二酸化炭素除去技術の利用可能性は需要部門の緩和策の規模に影響を与える

緩和シナリオにおいて、エネルギー供給・需要部門の緩和策の導入ペースと、農林業・土地利用部門の緩和策の発展の間には強い関連があります。どの分野

でどのくらい緩和努力を行うのかという配分は、バイオCCSと大規模植林などの二酸化炭素除去技術の利用可能性に強い影響を受けます。バイオCCSが利

用できればエネルギー供給部門での早期大幅削減が可能となり、バイオCCSがなければ大規模植林による吸収源の増加及び需要部門での早期削減が必

要となります。

GH

G直

接排

出量

(G

t-CO

2換

算/年

約450ppmを通るシナリオ (CCS(バイオCCS)ありの場合)

約450ppmを通るシナリオ※2

(CCS(バイオCCS)なしの場合)

※1:この図ではエネルギー供給のなかでも主要な排出源である発電だけを扱っている。

※2:グラフ下部の数字はシナリオの数を表す。CCSなしの場合は、約450ppmに達するシナリオが少なかったため、シナリオの数が少ない。

※3:農林業・土地利用部門は、森林吸収を含む正味の排出量を示している。

CCS(バイオCCS)があれば、発電部門での早期

大幅削減が可能

CCSがなければ、 発電部門の削減が制限されるので、大規模植林を行い、吸収源を増加させること

が必要

出典:AR5 WG3 政策決定者向け要約 Fig.SPM.7 より一部抜粋

GH

G直

接排

出量

(G

t-CO

2換

算/年

) 輸送部門CO2

建築部門CO2

産業部門CO2

発電部門CO2

農林業・土地利用

CO2以外(全部門計)

2010年実績値

最大値

75%

中央値

25%

最小値

部門個別のシナリオ

輸送

(CO2)

建築

(CO2)

産業

(CO2)

発電

(CO2)

農林業・

土地利用

(CO2)※3

全分野のCO2以外のガス

輸送

(CO2)

建築

(CO2)

産業

(CO2)

発電

(CO2)

農林業・

土地利用

(CO2)※3

全分野のCO2以外のガス

CCSがなければ、発電部門の削減が制限されるので、需要部門での早期削減が必要

需要部門 需要部門

参照したシナリオの数

AR5 Q&A 関連情報 6. 分野横断的な緩和策

■緩和シナリオ※1における2030年・2050年の最終エネルギー需要の削減余地(ベースラインシナリオとの比較)

緩和策

38

エネルギー需要部門の効率向上と人々の行動変化は重要になる

2100年に約450、約500ppmを通るシナリオにおいて、エネルギーの効率向上と人々の行動変化(緩和に関する人々の意思決定と行動の変化)は、社会の発展を損なうことなくエネルギー需要を削減するための主要な緩和策です。

出典:AR5 WG3 政策決定者向け要約 Fig.SPM.8

最終

エネ

ルギ

ー需

要の

削減

割合

ベー

スラ

イン

比、%

輸送 建築 産業

■530-650ppmを通るシナリオ(全部門※2) ■430-530ppmを通るシナリオ(全部門) ●部門研究※3

○部門研究(一部門の個別対策など)

参照した シナリオの数

輸送の最終エネルギー需要は、2050年までに10-45%削減余地がある

建築の最終エネルギー需要は、個別研究(冷暖房)では2050年までに70%削減、全部門を扱った研究では35-45%の削減余地がある

産業の最終エネルギー需要は、2050年までに約30%の削減余地がある

※1:ここでの緩和シナリオとは、2100年に430-530ppm、530-650ppmを通るシナリオに加え、部門個別の研究結果が含まれる。

※2:統合評価モデルで全部門について計算されたなかでの個別部門の結果を示している。

※3:他の部門を考慮せず、個別部門で計算された結果。

最大値 75パーセンタイル

中央値 25パーセンタイル

最小値

AR5 Q&A 関連情報 6. 分野横断的な緩和策

■需要部門でできる主要な緩和策

出典:AR5 WG3 TS TableTS.3より作成

緩和策

39

人々の行動、ライフスタイル、文化はエネルギー消費と排出量に大きく影響

人々の行動(緩和に関する人々の意思決定と行動)、ライフスタイル、文化(生活様式)はいくつかの部門では高い緩和の余地があり、特に技術進歩や社会構造変化を補う場合には、エネルギー消費と排出量に大きな影響をもたらします。

移動・輸送の回避(需要の削減) 自動車利用の回避(道路需要の削減) コンパクトな都市、公共交通を利用する都市への居住

輸送

行動変容(家電の利用等) ライフスタイルの変容(一人あたりの住居の大きさ等)

建築

衣類など、製品の需要の削減 自動車製造需要を削減する移動手段の代替

産業

移動・輸送時間の短縮 移動・輸送手段の多様化

人間居住

食料のロスや廃棄物の削減 低炭素な農作物に向けた食事の変化 長寿命の木材製品の利用

農業・森林

AR5 Q&A 関連情報 7. エネルギー供給

40

7. エネルギー供給に関する緩和策

40

AR5 Q&A 関連情報 7. エネルギー供給 エネルギー消費・GHG排出の現状・見通し

41

エネルギー供給部門からのCO2排出量は2050年には2〜3倍へ増加

エネルギー供給部門からの直接CO2排出量は、エネルギー強度の改善がこれまでよりも早く大幅になされなければ、2010年の144億トン/年(14.4Gt-CO2

換算/年)から、2050年にほぼ2倍~3倍まで増加する見込みです。

2100年のGHG濃度を約450、約550、約650ppm程度に抑制するには、化石燃料の資源制約だけでは不十分です。

GH

G直

接排

出量

(G

t-CO

2換

算/年

←点線: 2010年 実績値

輸送

(CO2)

建築

(CO2)

産業

(CO2)

発電※2

(CO2)

農林業・

土地

利用

全分野のCO2

以外のガス

最大値

75%

中央値

25%

最小値

※1:図はGHG排出量のため、CO2排出量より多くなっている。

出典:AR5 WG3 第7章 Fig 7.3

■<見通し>エネルギー供給部門(発電)からの CO2直接排出量(ベースラインシナリオ)

■<現状>エネルギー供給部門からのGHG排出量※1

GH

G排

出量

(G

t-CO

2換

算/年

発電・熱供給 エネルギー起源N2O その他 燃料生産・供給 固体燃料の製造 石油精製

※2:ここではエネルギー供給部門のなかでも主要な排出源である発電だけを扱っている。

出典:AR5 WG3 政策決定者向け要約 Fig.SPM.7 より一部抜粋

80Gt-CO2換算/年

参照したシナリオの数

エネルギー供給部門

AR5 Q&A 関連情報 7. エネルギー供給 緩和策

42

GHG濃度の低位安定化を達成するためには電力の低炭素化は重要な緩和策

GHG濃度の低位安定化(430-530ppm)を達成するには、電力の低炭素化(炭素強度の低下)は費用効率の良い重要な緩和策であり、ほとんどの

シナリオでは需要部門よりも発電部門において急速に低炭素化が進みます。2100年のGHG濃度を約450ppmに抑えるシナリオの多くの場合、低炭素エネ

ルギー※1の割合は、現状の30%から2050年までに80%以上に増加し、CCSなしの火力発電は2100年までにほぼ廃止になります。

出典: AR5 WG3 TS Fig .TS.18

■電力に占める低炭素エネルギーの割合(2050年)

最大値

75%

中央値

25%

最小値

電力

に占

める

低炭

素エ

ネル

ギー

比率

(%

80%以上

約30%

分類 具体的な内容

GHG排出強度削減 • 再生可能エネルギー、原子力発電、CCS・バイオCCSの大規模な普及拡大

• 化石燃料からの切り替え • 化石燃料チェーンからの漏えい(メタン)ガス

排出削減※2

技術効率改善によるエネルギー強度削減

• 化石燃料の採掘、輸送、転換の効率改善 • 電力、熱、燃料の輸送、流通、貯留の効率改

善 • 熱電併給

生産と資源効率改善 • エネルギー採掘、転換、輸送と配給に関する技術の製造時に必要となるエネルギーの効率改善

構造的およびシステム効率改善

• エネルギー供給システムへの再生可能エネルギーの統合ニーズへの対処

活動量の変化 • 他のエネルギー事業者の需要部門からの需要

※1:再生可能エネルギー、原子力、化石燃料+CCS、BECCS ※2:天然ガスの採掘の際に、ガスの主成分のメタンが漏洩する。

■エネルギー供給部門の緩和策

出典: AR5 WG3 TS Table TS.3

AR5 Q&A 関連情報 7. エネルギー供給 緩和策

43

再生可能エネルギーの性能は向上・コストは低下

多くの再生可能エネルギー技術は、AR4の時点より大幅な性能向上・コスト低下を示しており、大規模普及が可能な水準にある技術は増加しています。

再生可能エネルギーは、2012年の世界全体の新設発電容量の半数以上を占めています。

■現時点で利用可能な技術の発電コストの比較※1(2000年基準ドル/MWh )

出典:AR5 WG3 TS Fig.TS.19

運用に関する条件※3

全負荷時間高

全負荷時間低

全負荷時間高+CO2価格100$/t-CO2

全負荷時間低+CO2価格100$/t-CO2

※1:加重平均資本コスト率10%で計算した均等化発電コスト(LCOE)。LCOEによる発電コストの比較可能性は限定的。

※2:原子力のコストには、廃炉コスト、フロント・バックエンドコストを含む。 ※3:全負荷時間とは、1年間のうち最高出力で発電可能な時間を指す。詳細

はAnnexIIIを参照。

石炭火力 (微粉炭)

天然ガス 複合発電

バイオマス 混焼

バイオマス専焼

地熱

水力

原子力※2

太陽熱(CSP)

太陽光(屋根上)

太陽光(電気事業)

陸上風力

洋上風力

0 100 200 300 400 500 600 700 800

再生可能エネルギー

天然ガス複合発電の 全負荷時間高の中央値

天然ガス複合発電の 全負荷時間低の中央値

• 再生可能エネルギー技術に関する政策実施により、近年の導入量増加に成功しましたが、市場におけるシェアを大幅に拡大するには、多くの再生可能エネルギー技術が依然として直接・間接的支援を必要としています。

• 再生可能エネルギーをエネルギーシステムへ統合する際の課題やコストは、技術の種類や地域の状況、既存のエネルギーシステムの特性によって異なります。

• 再生可能エネルギーの利用は、エネルギーへのアクセスやセキュリティの向上に加え、しばしば他のプラスの効果(大気汚染の削減、地域雇用の機会、エネルギー供給における事故の低減)をもたらします。

• 再生可能エネルギーは、プラスの効果だけでなくマイナスの効果ももたらしますが、適切な技術の選択や運用調整、設備の立地を通じて、それらを減らすことができます。

再生可能エネルギーの現状・課題・見通し等

AR5 Q&A 関連情報 7. エネルギー供給 緩和策

44

原子力は確立した低GHG排出のベースロード電源だがリスク・障壁が存在

原子力は確立した低GHG排出のベースロード電源ですが、世界の発電電力量に占めるシェアは1993年以降減少しています。

原子力はエネルギー供給の低炭素化に更なる貢献をなし得ますが、様々な障壁やリスクが存在します。

0

5,000

10,000

15,000

20,000

25,000

19

75

19

78

19

81

19

84

19

87

19

90

19

93

19

96

19

99

20

02

20

05

20

08

20

11

0%

10%

20%

30%

40%

50%

60%

70%

80%

90%

100%

19

75

19

78

19

81

19

84

19

87

19

90

19

93

19

96

19

99

20

02

20

05

20

08

20

11

新エネ等

水力

天然ガス

石油

石炭

原子力

■世界の発電電力量の推移

出典:IEA, Energy Balances of Non-OECD Countries 2013 より作成

発電

電力

量(

TW

h)

発電

電力

構成

• 主な障壁・リスクとして運転リスク、ウラン採掘・資金・規制に関するリスク、未解決の放射性廃棄物管理問題、核兵器拡散の懸念、世論の反対があります。

• これらの課題のいくつかを解消するための新たな核燃料サイクル、炉型技術の研究が進められており、安全性や廃棄物処理に関する研究開発は進展しています。

原子力発電の 現状・課題・見通し等

出典:AR5 WG3 政策決定者向け要約

✔ ✔

AR5 Q&A 関連情報 7. エネルギー供給 緩和策

45

CCSなしの高効率天然ガス火力発電はつなぎの技術で将来は減少

天然ガスが利用可能で、採掘・供給時のGHG漏出が少なければ、現在の世界の平均的な石炭火力発電を、最新の高効率天然ガス複合発電や熱電併給

発電に置き換えることで、エネルギー供給からのGHG排出量の大幅な削減が可能です。ただし、2100年に約450ppmを通るシナリオでは、CCSなしの天然

ガス火力発電は、つなぎの技術として当面は増加しますが、いずれピークに達し、2050年までには現状より減少、今世紀後半には更に減少します。

■発電技術のCO2排出強度(2010年、2030年、2050年)

出典:AR5 WG3 TS Fig.TS.19

石炭火力(微粉炭)

天然ガス複合

バイオマス混焼※1

バイオマス専焼※1

地熱

水力

原子力

太陽熱(CSP)

太陽光(屋根上)

太陽光(電気事業)

陸上風力

洋上風力

発電用の 直接排出量

発電時の直接排出量

ライフサイクル排出量

1000 800 600 400 200 0 -200

2050年 2030年

天然ガス複合発電は2010年

平均を下回るが、430-530ppmを通

るシナリオでは、2030年、2050年の水準を上回る

430-530ppmを通るシナリオ

(g-CO2/kWh) 発電用の 直接排出量

1000 800 600 400 200 0 -200

2030年の世界平均 2050年の世界平均

石炭火力+CCS(酸素吹)

石炭火力+CCS(微粉炭)

石炭ガス化複合+CCS

天然ガス複合+CCS

波力・潮力

2050年 2030年

2010年

2010年

商用化以前の技術 現在商用可能な技術

430-530ppmを通るシナリオ

※1:バイオマス発電の直接排出量は明確に示されていないが、ライフサイクル排出に含まれている。バイオマスのライフサイクル排出にはアルベド効果(植物が太陽の光を反射すること)が含まれている。

• CCS技術は、火力発電のライフサイクル排出量を削減することが可能です。

• バイオCCSは、多くの低位安定化シナリオで重要となる大規模なマイナス排出のエネルギー供給を可能とするが、課題やリスクもあります。

CCSの現状・課題・見通し等

2030年の世界平均 2050年の世界平均

AR5 Q&A 関連情報 7. エネルギー供給 緩和策

CCSは化石燃料起源の排出削減を可能とするがリスクも存在

CCS技術は、火力発電のライフサイクルを通じた排出の削減を可能にします。

46

CCSとは、産業やエネルギー関連など、大規模にCO2を排出する工場や発電所などから比較的純粋なCO2を隔離し、採掘し終わった油田やガス田、海底などに貯留することをいいます。

■CCSとは?

出典:独立行政法人産業技術総合研究所HP https://unit.aist.go.jp/emtech-ri/ci/e-keyword/CCS/ccs.html

• CCSの要素技術は確立しており、化石燃料採掘・精製業において既に利用されていますが、商用規模で稼働中の火力発電への適用には至っていません。

• CCSは、規制によりインセンティブが導入されるか、十分な炭素価格(又は直接的な支援)により、発電効率の低下などに伴う追加投資額・運転費用が埋め合わされ、CCSを導入していない競合する電源に対する競争力が確保された場合に普及が可能となります。

• 将来のCCS大規模導入には、経済的なインセンティブと、短・長期の貯留の責任に関する明確な規則が必要です。

CCSの現状・課題・見通し等

[解説]

✔ ✔

AR5 Q&A 関連情報 7. エネルギー供給 緩和策

47

バイオCCSにはバイオエネルギー調達リスクも存在

バイオCCSは、大規模なマイナス排出のエネルギー供給を可能とするため、 430-530ppmを通る多くのシナリオ(低位安定化シナリオ)において重要となりま

すが、課題とリスクもあります。

課題とリスクには、CCS施設で利用されるバイオマスの上流側での大規模な供給に関連するもの、CCS技術そのものに関連するものがあります。

■バイオCCSとは?

バイオエネルギーの燃焼 バイオCCS

CO2 CO2 CO2

CO2

CO2

⇒CO2排出はゼロ ⇒CO2排出はマイナス

大気から吸収 大気へ排出 地中貯留

バイオCCSとは、バイオエネルギーを発電所などで燃焼させた際に発生するCO2を地中貯留することをいいます。光合成により大気中のCO2を吸収した植物を燃焼させCO2を貯留することで、CO2排出はマイナスになります。

※1:政策・施策を管理し、決定し、実現する手段を包括する総合的な概念。ガバナンスは、国際社会が直面する多くの種類の問題に対処するための様々なレベルの政府(地球規模、国際間、地域間、地方間)の活動と民間・非政府組織および市民社会の活動として認識される。

[解説]

• バイオエネルギーは緩和において重要な役割を担う可能性がありますがが、その持続可能性やシステムの効率性等、考慮すべき課題があります。

• ライフサイクル排出量の低い緩和策(いくつかは既に利用可能)はGHG排出量を減らす可能性がありますが、効果は、立地条件固有であり、効率的なシステム、土地利用管理・ガバナンス※1の持続可能性に依存します。

バイオエネルギーの現状・課題・見通し等

土地由来のGHG排出 食料安全保障

水資源 生物多様性保全 人間生活への影響

■大規模普及への障壁

✔ ✔

AR5 Q&A 関連情報 7. エネルギー供給 緩和策に伴う副次的効果

48

エネルギー供給部門の緩和策に伴うプラスの効果とマイナスの効果

CCSの大規模導入には、輸送時のリスクのほか、運用の安全性、長期的なCO2貯留の安定性等の懸念もあります。一方で、CO2貯留の安定性の確保、

CO2貯留による地下の圧力変化の可能性(誘発地震など)、CO2漏出による人間健康や環境への影響の可能性に関する知見は増加しています。

経済 社会 環境 その他

バイオマス供給の上流側の効果については農林業・土地利用部門を参照

原子力による 石炭代替

↑ エネルギーセキュリティ(燃料価格変動の影響低減)

↑ 地域の雇用創出(ただし正味の効果は不確実)

↑ 放射性廃棄物、廃炉後の炉に関する負担

健康への影響: ↓ 大気汚染、石炭採掘時の事故 ↑ 原子力事故と廃棄物処理、ウラン採

掘・加工 ↑ 安全性・廃棄物に関する懸念

生態系への影響: ↓ 大気汚染、石炭採掘 ↑ 原子力事故

核の拡散リスク

再生可能エネルギーによる 石炭代替

↑ エネルギーセキュリティ(資源調達、短中期の多様性)

↑ 地域の雇用創出(ただし正味の効果は不確実)

↑ 灌漑、洪水抑制、海運、水資源供給(貯水式水力、規制された河川)

↑ 需要量と整合を図るための追加的対策(太陽光、風力、太陽熱の一部)

健康への影響: ↓ 大気汚染(バイオエネルギーを除く)

↓ 石炭採掘時の事故 ↑ 電力網整備区域外でのエネルギーアクセ

ス ? プロジェクト固有の社会受容性(例:風

力の景観の問題) ↑ 立ち退きの脅威(大規模水力)

生態系への影響: ↓ 大気汚染(バイオエネルギーを除く) ↓ 石炭採掘 ↑ 生息環境への影響(水力の一部) ↑ 景観、野生生物への影響(風力) ↓ 水使用量の低減(風力、太陽光) ↑ 水使用量の増大(バイオエネルギー、

太陽熱、地熱、貯水式水力)

太陽光、直流式風力における希少な金属類の使用増

CCS付火力に よる石炭代替

↑↑ 化石燃料に関する産業における人的・物的資本の維持またはロックイン(→「第10章」参照)

健康への影響: ↑ CO2の漏洩リスク ↑ サプライチェーンの上流における活動 ↑ 安全性の懸念(CO2貯留、輸送)

↑ サプライチェーンの上流における活動による生態系への影響

↑ 水使用量の増加

CO2貯留の長期間のモニタリングが必要

バイオCCSによる石炭代替

あてはまる箇所についてはCCSの行を、バイオマス供給については農林業・土地利用部門を参照

メタン漏洩の防止、回収、処理

↑ エネルギーセキュリティ(一部においてガスの利用可能性増)

↓ 大気汚染減による健康への影響 ↑ 炭鉱における労働安全

↓ 大気汚染減による生態系への影響

出典: AR5 WG3 TS Table TS.3

プラスの効果(よい効果)は↑↓ 、マイナスの効果(悪い効果)は↑↓ で示されており、プラスマイナスを考慮した正味の効果が不明なものは?で示されている。なお、矢印が上向きの場合は「増加、向上」を、下向きの場合は「減少、低下」を意味する。

AR5 Q&A 関連情報 8. 輸送部門

8. 輸送に関する緩和策

49

AR5 Q&A 関連情報 8. 輸送部門 エネルギー消費・GHG排出量の現状・見通し

50

輸送部門の最終エネルギー消費は全体の27%、CO2排出量は67億トン(2010年)

輸送部門の2050年のCO2直接排出量は、ベースラインシナリオの場合、2010年の67億トン(6.7Gt-CO2換算/年)の約2倍になる見込みとなっています。

公共交通機関の利用促進やコンパクトシティ化はモーダルシフトにつながり、長期的には都市の再開発や高速鉄道システム等の新規インフラへの投資につなが

ります。これらの緩和策の効果は不確かなものの、2050年の輸送部門のエネルギー需要をベースライン比で約40%削減する可能性があります。

■<見通し>輸送部門のCO2直接排出量 (ベースラインシナリオ)

出典: AR5 WG3 政策決定者向け要約 Fig.SPM.7 より一部抜粋

■<現状>輸送部門からのGHG排出量※1

※1:図はGHG排出量のため、CO2排出量より多くなっている。

出典: AR5 WG3 第8章 Fig 8.1.

GH

G排

出量

(G

t-CO

2換

算/年

発電からの間接排出量

道路

鉄道

パイプライン他

HFC&間接N2O

国際航空

国内航空

国際&沿岸船舶

国内船舶輸送

直接間接総排出量 2.9

(直接排出量 2.8)

直接間接総排出量 4.9 (直接排出量 4.7)

直接間接総排出量 7.1 (直接排出量 7.0)

CO

2直

接排

出量

(G

t-CO

2換

算/年

輸送 建築 産業 発電

約2倍

輸送部門CO2

建築部門CO2

産業部門CO2

発電部門CO2

農林業・土地利用

CO2以外(全部門計)

2010年実績値

最大値

75%

中央値

25%

最小値

農林業・

土地利用

CO2

以外

2010年 67億トン

(6.7Gt-CO2/年)

参照したシナリオの数

AR5 Q&A 関連情報 8. 輸送部門 緩和策

51

輸送部門の緩和策

分類 具体的な内容 現状・課題・見通し等

GHG排出強度削減 • 低炭素燃料への転換(低炭素起源の電力、水素)

• 様々な輸送機関における特定のバイオ燃料の活用

• メタン由来の燃料がシェアを拡大しています。 • 低炭素エネルギー起源の電力は、短期的に電車に、短・中期的に

はバスや軽自動車や二輪車に使用される可能性があります。 • 低炭素エネルギー起源の水素の活用は長期的な選択肢です。 • 液体・ガス状のバイオ燃料は、技術進歩によって更に利用が増加

する可能性があります。 • 緩和策は気候変動以外の政策と組み合わせることにより、全ての

地域で、経済成長してもGHG排出量を増加させずにすむ可能性があります。

• 既存のインフラのままでは、モーダルシフトが制約され、自動車の先進技術への依存につながりかねません。

• 都市化が急速に進んでいる国において公共交通機関や低炭素インフラに投資することにより、エネルギー効率の悪い交通手段の固定化を防ぐことができます。

技術効率改善によるエネルギー強度削減

• 燃費の良いエンジンや車両の設計 • より先進的な駆動装置の設計 • 車両の軽量化

構造的およびシステム効率改善

• 乗用車から公共交通、自転車、徒歩、飛行機やトラックから鉄道へのモーダルシフト

• エコドライブ • 貨物輸送の改善 • 輸送インフラ計画

活動量の変化 • 旅行の回避 • 高い乗車率、積載率 • 輸送需要の削減 • 都市計画

出典: AR5 WG3 TS Table TS.3及び政策決定者向け要約より作成

AR5 Q&A 関連情報 8. 輸送部門 緩和策

52

2030年のエネルギー効率は、 2010年比30〜50%改善

車種によって異なりますが、自動車のエネルギー効率は、2030年に2010年比30~50%改善すると見込まれています。

輸送部門の緩和策の費用対効果は、車種や交通手段によって大きく異なります。

■旅客輸送部門の技術の 排出強度・削減費用

※1 CO2排出量を1トン削減するのに必要な費用。加重平均資本コスト率5%として計算

※2 電気自動車(高)は電力のCO2排出係数が600g-CO2/kWh、(低)は200g-CO2/kWh

排出強度(g-CO2/人・km) 削減費用※1(ドル/t-CO2) 自動車

ガソリン車(2010)

ハイブリッド車(2010)

ガソリン車(2030)

ハイブリッド車(2030)

普通乗用車※2

ガソリン車(2010)

ハイブリッド車(2010)

ディーゼル車(2010)

CNG車(2010)

電気自動車(高)(2010)

電気自動車(低) (2010)

ガソリン車(2030)

ハイブリッド車(2030)

+バイオ燃料50%(2030)

ディーゼル車(2030)

CNG車(2030)

電気自動車(低)(2030)

二輪車

ガソリン車(2010)

バス、大型車

ディーゼル車(2010)

ハイブリッド車(2010)

航空機

ナロー~ワイドボディ(2010)

ナローボディ(2030)

ナローボディ(2030) (オープンローターエンジン)

鉄道

電車(排出係数高)(2010)

電車(排出係数低)(2010)

2010年のストック平均

2010年のストック平均

2010年のストック平均

2010年のストック平均

SUV、中型車

電気自動車の一部、航空機や場合によっては高速鉄道も、2030年にCO2を1トン削減するコストが100ドルを超えると予測されています。

エネルギー効率は2030年に2010年比30~50%改善

【グラフの見方】 ※金額は、CO2を1トン削減するための費用

• 2010年のガソリンSUV車新車を基準とした2010年の中型ハイブリッド車の削減費用は最大で約200ドル/t-CO2。

• 2030年の中型ハイブリッド車は2010年のガソリン普通車新車を基準とすると最大で約200ドル/t-CO2費用がおさえられる 。

◇2010年は車両本体価格が高いため、燃費分を考慮しても費用が高くなるが、2030年には台数も増えて本体価格も安くなり、さらに燃費も向上することから、費用が低減されると考えられる。

削減費用計算時の 比較対象技術

ガソリンSUV新車(2010) ガソリン普通車新車(2010) ガソリンSUV新車(2030) ガソリン普通車新車(2030) 平均的な新規航空機(2010)

出典: AR5 WG3 TS Fig.TS.21

AR5 Q&A 関連情報 8. 輸送部門 緩和策に伴う副次的効果

53

輸送部門の緩和策に伴うプラスの効果とマイナスの効果

ブラックカーボン等の粒子状物質や対流圏オゾン、NOxなどの排出を低減することにより、短期的に健康と緩和とのコベネフィットをもたらします。また、歩行者用

インフラの優先順位付けと非動力源の輸送及び公共輸送の統合は、全ての地域において経済的、社会的なコベネフィットをもたらします。

出典: AR5 WG3 TS Table TS.5

経済 社会 環境

低炭素電力についてはエネルギー供給部門を、バイオマス供給については農林業・土地利用部門を参照

燃料の排出強度の削減 (電力、水素、CNG、バイオ燃料、その他の燃料)

↑ エネルギーセキュリティ(多様化、石油依存減、原油価格変動リスク回避)

↑ 技術の波及効果(バッテリー技術の家電への応用)

都市大気汚染による健康影響: ? CNG・バイオ燃料(正味の効果は不確か)

↓ 電力・水素(ほとんどの汚染物質減)

↑ 軽油へのシフト(汚染増の可能性あり)

↓ 騒音低減による健康影響(電気・燃料電池車)

↓ 道路の安全性(電気自動車の低速時の静かさ)

電気・水素の生態系影響: ↓ 都市大気汚染 ↑ 物質利用(非持続的な資源採

掘)

? バイオ燃料の生態系への影響

エネルギー強度の低減 ↑ エネルギーセキュリティ(石油依存減、原油価格変動リスク回避)

↓ 都市大気汚染の削減による健康影響 ↑ (耐衝突性の増加による)交通安全性

↓ 都市大気汚染減による生態系や生物多様性への影響

コンパクト都市の形成 輸送インフラの改善 モーダルシフト

↑ エネルギーセキュリティ(石油依存減、原油価格変動リスク回避)

↑ 生産性(都市渋滞・移動回数の削減、安価なアクセスしやすい輸送)

? 公共交通機関・自動車製造業での雇用機会増減

健康影響(非動力源の移動利用): ↓ 運動量の増加 ↑ 大気汚染物質の曝露のおそれ ↓ 騒音(モーダルシフト、移動削減)

↑ 雇用に関わる交通利便性の公平性(特に途上国)

↑ 道路の安全性(モーダルシフト、徒歩・自転車のためのインフラ)

生態系影響: ↓ 都市大気汚染 ↓ 土地利用競合

移動距離の削減・回避 ↑ エネルギーセキュリティ(石油依存減、原油価格変動リスク回避)

↑ 生産性(都市渋滞・移動回数の削減、徒歩)

↓ 健康影響(非動力源の交通手段)

生態系影響: ↓ 都市大気汚染 ↑ 新規/短縮航路 ↓ 交通インフラと土地利用の競合

プラスの効果(よい効果)は↑↓ 、マイナスの効果(悪い効果)は↑↓ で示されており、プラスマイナスを考慮した正味の効果が不明なものは?で示されている。なお、矢印が上向きの場合は「増加、向上」を、下向きの場合は「減少、低下」を意味する。

AR5 Q&A 関連情報 9. 建築部門

9. 建築に関する緩和策

54

AR5 Q&A 関連情報 9. 建築部門 エネルギー消費・GHG排出量の現状・見通し

55

建築部門の最終エネルギー消費は全体の32%、CO2排出量は88億トン(2010年)

ベースラインシナリオの場合、 2050年までに建築部門のエネルギー需要は2010年の約2倍、CO2排出量は50~150%増加する見込みとなっています。エネ

ルギー需要の伸びは、豊かさやライフスタイルの変化、近代的なエネルギーサービスや住居へのアクセスの増加、都市化によってもたらされます。

※建築部門には、住宅、商業、公共サービス部門が含まれる。なお、建設時の排出量は産業部門にて計上される。

■<見通し>建築部門のCO2直接+間接排出量 (ベースラインシナリオ)

出典: AR5 WG3 TS Fig.TS.15. より一部抜粋

■<現状>建築部門からのGHG排出量※1

GH

G排

出量

(G

t-CO

2換

算/年

) 業務

家庭

直接間接総排出量 3.8 (直接排出量 2.5)

間接

直接 業務 家庭 N2O間接排出量 その他

直接間接総排出量 6.3 (直接排出量 2.9)

直接間接 総排出量 9.2 (直接排出量 3.2)

※1:図はGHG排出量のため、CO2排出量より多くなっている。 出典: AR5 WG3 第9章 Fig.9.1.

輸送 建築 産業 エネルギー

供給

CO

2直

接+

間接

排出

量(

Gt-

CO

2換

算/年

50~150 %増

2030

2050

2100

参照したシナリオの数

2010年 88億トン

(8.8Gt-CO2/年)

輸送部門CO2

建築部門CO2

産業部門CO2

エネルギー供給CO2

2010年実績

AR5 Q&A 関連情報 9. 建築部門 エネルギー消費の用途別構成比

56

最終エネルギー消費の32〜34%は暖房

家庭やオフィスの最終エネルギー消費では、暖房が32~34%を占めています。

また、家庭では調理や給湯の割合が大きいのに対し、オフィスでは照明の割合が非常に大きくなっています。

■家庭における最終エネルギー消費(2010年値)

※PWh=1012kWh 出典: AR5 WG3 第9章 Fig.9.4.

■オフィスでの最終エネルギー消費(2010年値)

暖房 調理

給湯

家電

冷房

照明

暖房 その他

冷房

照明 給湯

家電

調理

暖房

給湯

照明

冷房

その他 (IT機器など)

合計=24.3 PWh※ 合計=8.42 PWh

AR5 Q&A 関連情報 9. 建築部門 緩和策

57

建築部門の緩和策

分類 具体的な内容 現状・課題・見通し等

GHG排出強度削減 • 建物への再生可能エネルギー設備の導入 • 低炭素エネルギーへの燃料転換(例:電力)

• 十分に設計された建築基準や機器性能基準は、環境的にも費用対効果の面でも最も効果的な手段です。

• 市場の分断、情報やファイナンスの不足などの障壁が、費用対効果の高い対策の普及を阻害します。

• 建物や機器のライフサイクルの全段階に政策が対処することにより、障壁を克服することは可能です。

• 先進国では、ライフスタイルや行動の変化によって短期的には現状比で最大20%、今世紀中頃までに最大50%のエネルギー需要削減を達成する可能性があります。

技術効率改善によるエネルギー強度削減

• 高効率機器(高効率ボイラー、エアコン、ヒートポンプ)、給湯、先進的なバイオマスストーブによる調理、照明、家電の選択

生産と資源効率改善 • 建物のライフサイクルにおける効率改善 • 部品、機器、家電の耐久性向上 • 建物の省エネ・低排出物質の選択

構造的およびシステム効率改善

• 設計プロセスの統合 • 建物の低/ゼロエネルギー化 • 建物の自動化と管理 • 都市計画 • 地域冷暖房、スマートメーター/グリッドの導入 • 性能検証の実施

活動量の変化 • 行動の変化(例:温度自動調節器の設定、電気機器利用)

• ライフスタイルの変化(例:一人当たりの住居の大きさ、順応する快適さ)

出典: AR5 WG3 TS Table TS.3及び政策決定者向け要約より作成

AR5 Q&A 関連情報 9. 建築部門 緩和策

長寿命の建築物や関連インフラは固定化(ロックイン)のリスクが高い

長寿命の建築物や関連するインフラは、重大な固定化(ロックイン※1)のリスクがあり、急速に建設が進んでいる地域ほど重要になります。

58

■地域別の固定化(ロックイン)のリスク (冷暖房エネルギー)

出典: AR5 WG3 第9章 Fig.9.12.

現時点で予定されている政策しか実施されない場合、現在の最高水準の建物が標準化される場合と比較して、2050年時点でロックインされる可能性のある建築部門のエネルギー需要は、2005年のおよそ80%に相当します。

実績値 緩和シナリオ ロックインによる消費増 *ロックインによる消費増は2005年比

北米 西欧 東欧

中国および アジア計画経済国

南アジア 旧ソ連

世界全体 南米 中東・北アフリカ サハラ以南

アフリカ その他

アジア太平洋 太平洋 OECD

急速に建設が進んでいる地域ほど重要

※1:代替したほうがよいにもかかわらず、市場がある水準で行き詰る状態。

AR5 Q&A 関連情報 9. 建築部門 緩和策に伴う副次的効果

59

建築部門の緩和策に伴うプラスの効果とマイナスの効果

建築部門の多くの緩和策は、エネルギーコストの削減に加えて、エネルギーセキュリティ、健康や環境上の効果、職場の生産性、燃料不足の減少、雇用創出

など、重要かつ多様なコベネフィットをもたらします。

経済 社会 環境 その他

燃料転換、再生可能エネルギーについてはエネルギー供給部門及び農林業・土地利用部門を参照

燃料転換 再生可能エネルギー導入 屋上緑化 その他GHG排出強度削減対策

↑ エネルギーセキュリティ ↑ 雇用への影響 ↑ エネルギー補助金の必要性低下 ↑ 建物の資産価値

燃料貧困(住宅): ↓ エネルギー需要 ↑ エネルギーコスト ↓ エネルギーアクセス (エネルギーコスト増)

↑ 女性・子供の生産時間 (伝統的な調理コンロの代替)

住宅内の健康影響: ↓ 屋外大気汚染 ↓ 屋内大気汚染(途上国)

↓ 燃料貧困 ↓ 生態系影響(屋外大気汚染減)

↑ 都市の生物多様性(屋上緑化)

都市のヒートアイランド効果の低減

既存建物の改修 優れた新築建物 高効率家電製品

↑ エネルギーセキュリティ ↑ 雇用への影響 ↑ 生産性(商業ビル) ↑ エネルギー補助金の必要性低下 ↑ 建物の資産価値 ↑ 災害強靭性

↓ 燃料貧困(改修、高効率機器)

↓ エネルギーアクセス (投資コスト増)

↑ 熱環境の快適性 (改修、優れた新築建物)

↑ 女性・子供の生産時間 (伝統的な調理コンロの代替)

健康影響: ↓ 屋外大気汚染 ↓ 屋内大気汚染(高効率コンロ)

↓ 屋内環境条件の改善 ↓ 燃料貧困 ↓ 不十分な換気 ↓ 生態系影響(屋外大気汚染減)

↓ 水消費・汚水発生

都市のヒートアイランド効果の低減(改修、優れた新築建物)

エネルギー需要削減のための行動変化

↑ エネルギーセキュリティ ↑ エネルギー補助金の必要性低下

↓ 屋外大気汚染減と屋内環境条件の改善を通じた健康影響

↓ 生態系影響(屋外大気汚染減)

出典: AR5 WG3 TS Table TS.6 プラスの効果(よい効果)は↑↓ 、マイナスの効果(悪い効果)は↑↓ で示されている。 なお、矢印が上向きの場合は「増加、向上」を、下向きの場合は「減少、低下」を意味する。

AR5 Q&A 関連情報

60

10. 産業部門

10. 産業に関する緩和策

60

AR5 Q&A 関連情報

61

10. 産業部門 エネルギー消費・GHG排出量の現状・見通し

産業部門の最終エネルギー消費は全体の28%、CO2排出量は約130億トン

ベースラインシナリオでは、 エネルギー効率の改善が大幅に加速されない場合、2050年の産業部門の排出量は2010年比50~150%増える見込みとなっています。特に、利用可能な最高技術(BAT:Best Available Technology)導入が進んでいない国やエネルギー集約型ではない産業ではBATの導入により、エネルギー原単位を現在水準と比べて25%削減することができます。

■<見通し>産業部門のCO2直接+間接排出量 (ベースラインシナリオ)

出典: AR5 WG3 TS Fig.TS.15 より一部抜粋

■<現状>産業部門からのGHG排出量

出典: AR5 WG3 第10章 Fig.10.4 GH

G排

出量

(G

t-CO

2換

算/年

GH

G排

出量

(G

t-CO

2換

算/年

) 産業からのN2O排出量

その他産業

セメント生産

鉄・非鉄金属

化学品

廃水処理

廃棄物の埋立・焼却

直接排出量

間接排出量

熱・発電からの間接排出量

(2010年)

参照したシナリオの数

輸送 建築 産業 エネルギー

供給

CO

2直

接+

間接

排出

量(

Gt-

CO

2換

算/年

50~150 %増 2030

2050

2100

2010年 約130億トン

(13Gt-CO2/年)

輸送部門CO2

建築部門CO2

産業部門CO2

エネルギー供給CO2

2010年実績

AR5 Q&A 関連情報

62

10. 産業部門 緩和策

産業部門の緩和策

分類 具体的な内容 現状・課題・見通し等

GHG排出強度削減 • プロセス排出の削減 • 廃棄物の利用と産業部門でのCCS • HFC(冷媒)の代替と漏洩の修理 • 低炭素電源やバイオマスへの燃料転換

• エネルギー効率改善に加え、GHG排出効率及び資源利用効率の改善、素材及び製品のリサイクル・リユース、製品・サービス需要の低減が排出削減に役立ちます。

• 産業部門の排出量の大部分はCO2が占めていますが、CO2

以外のガスにも大きな削減ポテンシャルがあります。

• 主要な緩和策としては、プロセス最適化や冷媒回収によるHFCsの排出削減、リサイクル、代替品利用があげられます。

• 企業や部門間の体系的な取組や協調行動は、エネルギーや原材料の消費量を削減することを通じてGHG排出量も削減することができます。

• 大規模なエネルギー集約型産業及び中小規模工場の両方で、高効率モーター等の分野横断的な技術や空気や蒸気の漏えい防止等の対策を適用することにより、プロセスやプラントのエネルギー効率を費用効果的に向上させることができます。

• 廃棄物管理における緩和策では、廃棄物削減に次いでリユース、リサイクル、エネルギー回収が重要となります。

• リサイクル・リユースの割合はまだ低いため、廃棄物処理技術や化石燃料の需要を減少させるためのエネルギー回収により、廃棄物処理に伴う直接的な排出量を大幅に削減することができます。

技術効率改善によるエネルギー強度削減

• 効率的な蒸気システム、溶解炉やボイラーシステム、電気モーター(ポンプ、ファン、エアーコンプレッサー等)、電子制御システム、熱交換、リサイクル

生産と資源効率改善 • 生産損失の削減 • プロセス革新、新設計、構造用鉄鋼の再

利用 • 軽量車等の製品設計 • フライアッシュ(飛散灰)によるクリンカー代

構造的およびシステム効率改善

• 製品の徹底利用(カーシェアリング、衣類の長期使用、新しく耐久性のある製品の使用)

活動量の変化 • 衣類等の製品需要の低減 • 自動車製造需要の削減に向けた旅行形

態の代替

出典: AR5 WG3 TS Table TS.3及び政策決定者向け要約より作成

AR5 Q&A 関連情報

63

10. 産業部門 • 緩和策に伴う副次的効果

産業部門の緩和策に伴うプラスの効果とマイナスの効果

多くの緩和策はコスト効率的であり、より良い環境コンプライアンスや健康上の便益など複数のコベネフィットに関連しています。

経済 社会 環境

低炭素エネルギー(CCS含む)についてはエネルギー供給部門を、バイオマス供給については農林業・土地利用部門を参照

CO2やCO2以外のGHGの排出強度の削減

↑ 競争力、生産性 ↓ 地域の大気汚染減や労働環境の改善による健康影響(アルミニウムからのPFC)

↓ 地域の大気汚染や水質汚濁の削減を通じた生態系影響

↑ 水資源保全

新技術・プロセスによる技術的なエネルギー効率向上

↑ エネルギーセキュリティ(エネルギー強度の低下による)

↑ 雇用への影響 ↑ 競争力、生産性 ↑ 途上国での技術波及効果(サプ

ライチェーンのつながりによるもの)

↓ 地域の大気汚染減による健康影響 ↑ 新しいビジネス機会 ↑ 水利用・水質 ↑ 安全・労働条件・職業満足度

生態系影響: ↓ 化石燃料採掘 ↓ 地域汚染と廃棄物

財の素材利用効率、リサイクル

↓ 中期的な消費税収入 ↑ 廃棄物・リサイクル市場における

雇用への影響 ↑ 製造業における競争力 ↑ 産業クラスターのための新しいイン

フラ

↓ 健康影響と安全性への懸念 ↑ 新しいビジネス機会 ↓ 地域紛争(資源採掘の削減)

↓ 地域の大気汚染・水質汚濁の削減と廃棄物処理を通じた生態系影響

↓ バージン素材や自然資源の使用(非持続型資源の採掘削減)

製品需要の削減 ↓ 中期的な消費税収入 ↑ 多様なライフスタイルの選択による幸福 ↓ 消費後の廃棄物

出典: AR5 WG3 TS Table TS.7 プラスの効果(よい効果)は↑↓ 、マイナスの効果(悪い効果)は↑↓ で示されている。 なお、矢印が上向きの場合は「増加、向上」を、下向きの場合は「減少、低下」を意味する。

AR5 Q&A 関連情報 11. 農林業・土地利用

11. 農林業・土地利用に関する緩和策

64

AR5 Q&A 関連情報 11. 農林業・土地利用 GHG排出量の現状・見通し

65

農林業・土地利用部門は、世界の人為起源GHG排出量の約4分の1を占める

農林業・土地利用部門の主な排出源は、森林伐採、農業由来の土壌栄養管理や家畜などで、2010年の世界の人為起源GHG排出量約490億トン

(49Gt-CO2換算/年)の約4分の1(100億トン~120億トン/年)を占めています。

ベースラインシナリオのCO2排出量は、2050年までに2010年の半分以下に減少し、今世紀末前にはCO2吸収源となる可能性があります。

■<見通し>農林業・土地利用部門のCO2排出量 (ベースラインシナリオ)

※農林業・土地利用部門は、森林吸収を含む正味の排出量を示している。 出典: AR5 WG3 政策決定者向け要約 Fig.SPM.7

CO

2直

接排

出量

(G

t-CO

2換

算/年

最大値 75% 中央値 25% 最小値

0

10

-10

2030

2050

2100

2010年実績値

2100年にゼロ以下(排出源ではなく吸収源)になる可能性がある

■<現状>部門別のGHG排出量(2010年)

出典: AR5 WG3 政策決定者向け要約 Fig.SPM2

直接排出量 間接排出量

輸送14%

産業 21%

その他 エネルギー

9.6%

エネルギー 1.4%

産業 11%

輸送0.3%

発電・熱生産 25%

農林業・ 土地利用

24%

農林業・ 土地利用 0.87%

49Gt-CO2換算 (2010年)

建築 12%

建築6.4%

AR5 Q&A 関連情報 11. 農林業・土地利用 緩和策

66

農林業・土地利用部門の緩和策

分類 具体的な内容 現状・課題・見通し等

供給部門側 の改善

• 家畜管理や肥料・堆肥管理によるメタンや一酸化二窒素(亜酸化窒素)の大気への排出削減

• 土壌や植生における既存の炭素プール(貯蔵庫)※の保全によるメタンや一酸化二窒素の大気への排出削減

• 排出原単位の削減 • 植林、森林再生、統合システム、土壌中の炭素隔離による

大気中からの二酸化炭素の除去 • 化石燃料やエネルギー集約型製品の代替(バイオマス燃

焼・熱電併給、バイオ燃料、バイオマスストーブ、断熱)

• 林業における最もコスト効率の高い緩和策としては、植林や森林管理、森林破壊の減少がありますが、その重要性は地域によって大きく異なります。

• 農業における最も費用効果の高い緩和策としては、農地管理、牧草地管理、有機土壌の回復などがあります。

• バイオエネルギーは緩和においてポテンシャルはありますが、取組の持続可能性やバイオエネルギーシステムの効率性を考慮する必要があります。

需要部門側 の対策

• 食品のロスや廃棄の削減 • 人間の食生活の変化 • 長寿命の木材製品の利用

出典: AR5 WG3 TS Table TS.3及び政策決定者向け要約より作成 ※炭素プール(貯蔵庫) 森林バイオマスや土壌などにおいて炭素を貯蔵し、吸収あるいは放出することができるシステム

出典: 林野庁海外林業協力室「CDM植林の基本的ルールについて」

AR5 Q&A 関連情報 11. 農林業・土地利用 緩和策に伴う副次的効果

67

農林業・土地利用部門の緩和策に伴うプラスの効果とマイナスの効果

農業、森林保全・管理政策は、緩和と適応の両方に関連する場合により効果的となります。

森林の減少や劣化による排出量を削減する活動が継続的に実施される場合に、費用対効果が高い緩和策であり、経済的、社会的で適応性のあるコベネ

フィットをもたらします。

経済 社会 環境 制度

供給部門側の対策 (*印) 林業、農業、家畜、統合システム(混農林業など)とバイオエネルギー 需要部門側の対策 食料サプライチェーンでのロスの削減、食習慣の変化、木材・林産品の需要の変化

* 雇用への影響 ↑ 起業意欲 ↓ 農業における 労働集約

的でない技術の利用 ↑* 収入源の多様化、市場へ

のアクセス ↑* (持続可能な)景観管理

への追加的な収入 ↑* 所得集中 ↑* エネルギーセキュリティ(資

源の十全性) ↑ 持続可能な資源管理のた

めの革新的資金メカニズム ↑ 技術革新・移転

↑* 統合システムや持続可能な農業の強化による食料・作物生産

↓* 非食料作物の大規模単一生産による(地域単位での)食料生産

↑ (持続可能な)森林管理・保存による文化保存地・レクリエーション地域

↑* 人間健康、動物福祉(農薬の削減、燃焼の減少、混農林業や牧農方式の取組)

↓* 燃焼による健康影響(農業、バイオエネルギー)

* ジェンダー、世代内外の衡平性 ↑ 参加、公平な利益配分 ↑ 利益集中

生態系サービスの提供 ↑ 生態系保全、持続的管

理、持続可能な農業 ↓* 大規模単一生産 ↑* 土地利用の競合 ↑ 土壌の質 ↓ 土壌の浸食 ↑ 生態系の強靭性 ↑ アルベド、蒸発

↑↓* 特に天然林における活動を行う場合の(先住民や地域コミュニティにとって)現地での借地・土地利用権

↑↓ 土地管理決定への参加メカニズムへのアクセス

↑ 持続可能な資源管理のための既存の政策の施行

出典: AR5 WG3 TS Table TS.8 プラスの効果(よい効果)は↑↓ 、マイナスの効果(悪い効果)は↑↓ で示されている。 なお、矢印が上向きの場合は「増加、向上」を、下向きの場合は「減少、低下」を意味する。

AR5 Q&A 関連情報

68

12. 居住・インフラ等

12. 人間居住・インフラ ・空間計画に関する緩和策

68

AR5 Q&A 関連情報

69

12. 居住・インフラ等 世界人口の現状・見通し

都市人口は今後も増加を続ける見通し

2006年時点の都市部が占めるエネルギー消費の割合は全体の67~76%、エネルギー起源CO2で見ると71~76%を占めています。

都市化は世界的なトレンドであり、所得の増加とも関係しています。また、都市における高水準の所得は、高いエネルギー消費やGHG排出と相関があります。

■都市人口の推移および2050年までの予測

出典: AR5 WG3 第12章 Fig. 12.2

世界

人口

(10億

人)

1000万人以上

500~1000万人

100~500万人

10~100万人

10万人以下

都市部以外

2050年までに、都市人口は56~71億人(世界人口の64-69%)まで増加する見込み

2011年時点で、世界人口の52%以上は都市部に居住

AR5 Q&A 関連情報

70

12. 居住・インフラ等 緩和策

人間居住、インフラ、空間計画に関する緩和策

分類 具体的な内容 現状・課題・見通し等

GHG排出強度削減 • 都市への再生可能エネルギーの導入 • 都市規模の燃料転換プログラム

• 今後20年間に世界の都市部の大部分が開発されるため、都市地域における緩和の絶好の機会となります。

• 緩和策は複数の政策手段と組み合わせて実施すると、最も効率的です。

• インフラと都市の形態は強く結びついており、土地利用のパターンや交通手段の選択、住居、行動様式を固定化(ロックイン)させます。

• 緩和のポテンシャルは、都市形態やインフラが固定化(ロックイン)されていない、急速に都市化している地域において最も大きいものの、そのような地域では必要な統治、技術、財政、制度的能力が限られている場合が多くなっています。

• 都市の成長の大部分は、途上国の中小規模の都市において起こると考えられています。

• 気候変動緩和のための空間計画手法の実現可能性は、都市の財政状況や統治能力に大きく依存します。

技術効率改善によるエネルギー強度削減

• コジェネ、熱カスケード利用 • 廃棄物のエネルギー化

生産と資源効率改善 • インフラの供給管理 • インフラに投入する原料の削減

構造的およびシステム効率改善

• コンパクトな都市形成 • アクセスのしやすさの向上 • 土地利用の混合

活動量の変化 • アクセスのしやすさの向上 • 移動時間の短縮 • 輸送機関の充実

出典: AR5 WG3 TS Table TS.3及び政策決定者向け要約より作成

AR5 Q&A 関連情報

71

12. 居住・インフラ等 緩和策に伴う副次的効果

人間居住、インフラ、空間計画に関するプラスの効果とマイナスの効果

都市スケールの緩和策は、成功すればコベネフィットをもたらす可能性があります。

世界の都市地域は、大気汚染や水質汚濁の防止、雇用機会や競争の維持といった課題に直面しています。

経済 社会 環境

コンパクトな発展、インフラ ↑ イノベーション、生産性 ↑↑ 賃料、住居の資産価値の上昇 ↑ 資源の効率的な利用・運搬

↑ 運動量増加による健康増進 ↑ オープンスペースの確保

アクセス性の向上 ↑ 通勤、通学時間の削減 ↑ 運動量増加による健康増進 ↑ 社会交流、精神面の健康

↑ 大気汚染の減少、生態系・健康への影響低減

混合的な土地利用 ↑ 通勤、通学時間の削減 ↑↑ 賃料、住居の資産価値の上昇

↑ 運動量増加による健康増進 ↑ 社会交流、精神面の健康

↑ 大気汚染の減少、生態系・健康への影響低減

出典: AR5 WG3 第12章 Table 12.6 プラスの効果(よい効果)は↑↓ 、マイナスの効果(悪い効果)は↑↓ で示されている。 なお、矢印が上向きの場合は「増加、向上」を、下向きの場合は「減少、低下」を意味する。

AR5 Q&A 関連情報 13. 緩和政策と国際協力

13. 緩和政策と国際協力

72

AR5 Q&A 関連情報 13. 緩和政策と国際協力

73

国・地域レベルの政策の状況

政策的措置の種類 措置に関する現状・効果等

経済的手段 → 税

• いくつかの国では、GHG排出削減を具体的な狙いとした税政策が、他の技術や政策等とともに、排出量とGDPの間の関連を弱めることに役立ちました。

• 税収を他分野における減税、低所得層への所得移転に利用している国もあります。 • 政府の歳入を増加させる緩和策は、一般的には社会的コストの低減につながります。

経済的手段 → 取引許可書

• AR4の時点から、キャップ&トレード(排出量取引の一つの手法。政府がGHGの排出枠(キャップ)を設定し、それを個々の主体に配分し、個々の主体間の排出枠の一部の取引(トレード)を認める制度)は、多くの国・地域で実施されましたが、キャップ(総排出量の上限)が緩かったこと、また排出制約が義務化されなかったことなどから、これまでの短い期間における効果は限定的でした。

経済的手段 → 補助金

• 社会・経済状況によっては、様々な部門においてGHGを排出する活動への補助金を削減することにより、排出削減が達成される可能性があります。

• 政治経済的な障壁は大きいが、税・予算体系を改革して燃料補助金を減らした国もあります。

規制的アプローチ • 規制的アプローチには、再生可能エネルギーを電力供給へ一定以上導入するポートフォリオ基準や、燃料補助金の削減と組み合わせたりするエネルギー効率改善基準などがある。

• 規制的アプローチは、市場の失敗やエネルギー効率の良い技術を採用する際に障壁がある場合に用いられます。

情報的手法 • エネルギー効率基準などの規制措置やラベリング制度などの情報手段は広く利用されており、多くの場合、環境面で効果を発揮しています。

• これらの政策は、プラスマイナスの便益を相殺しても社会的にプラスの便益をもたらすことが多いですが、それらの政策がどの程度個々の企業や個人にとってマイナスのコストで実施されるかは、科学的にも意見が分かれています。

政府による公共財や 公共サービスの提供

• 政府による計画と提供は、インフラとライフスタイルをより少ないエネルギー消費、GHG強度へ移行することを促進します。

自主的行動 • 有能な業界団体と一体になった強い制度的枠組みが、政府と産業界の間の緩和に関する自主的協定の成功要因です。 出典: AR5 WG3 第15章 、 AR5 WG3 政策決定者向け要約、AR5 WG3 TS Table 9より作成

緩和政策 ✔

AR5 Q&A 関連情報 13. 緩和政策と国際協力 緩和政策

74

大幅削減には投資パターンの大きな変化が必要

大幅な排出削減には、投資パターンの大きな変化が必要です。

GHG排出削減、気候変動に対するレジリエンス向上に向けた資金移転は、世界全体で年間3,430~3,850億ドルに達すると推計され、その多くは緩和を

目的としています。

■発電部門の年間投資額の変化(2010〜2029年、ベースラインシナリオとの比較)

出典:AR5 WG3 政策決定者向け要約 Fig SPM.9

発電部門 全体

再生可能 エネルギー

原子力 火力発電 (CCSあり)

火力発電 (CCSなし)

化石燃料 採掘

省エネルギー (全部門)

年間

投資

額の

変化

※(

2010~

2029年

(10億

ドル

(2010基

準)

/年)

2100年に430-530ppmを通るシナリオ(オーバーシュートなし)では、ベースラインシナリオと比較し、2010~2029年の間、発電部門の在来型の火力発電等(CCSなしの火力発電)の技術への年間投資額は300億ドル(2010年比-20%)減少し、一方、低炭素電力(再生可能エネルギー、原子力、CCS火力)への投資は1,470億ドル(2010年比100%増)増加すると推計されています。 加え、輸送・建築・産業部門での省エネ投資は、約3,360億ドル増加すると推計されており、このなかにはしばしば既存設備の近代化も含まれます。

最大値

中央値

最小値

平均値

OECD 非OECD 世界全体

減少 減少

増加 増加 増加

増加

AR5 Q&A 関連情報 13. 緩和政策と国際協力 緩和政策

75

気候変動に係わる地域単位の計画・戦略の策定は大幅に増加

AR4の時点から、多くの国・地域で気候変動に関わる計画や戦略の策定は大幅に増加しました。

世界全体の排出量のうち、国の法令や戦略の対象となる割合は、2007~2012年の間に、45%から67%に増加しています。

しかし、世界の排出量を過去の傾向から大きく変えるには至っていません。

■2007年、2012年時点の各国における気候変動関連計画・戦略の状況

出典:AR5 WG3 TS Fig 36

4.不明

3.気候関連の法令・戦略、調整主体なし

2.気候関連の戦略、および調整主体あり

1.気候関連の法令あり

GH

G排

出量

(G

t-CO

2換

算)

GH

G排

出量

(G

t-CO

2換

算)

GH

G排

出量

のカ

バー

率(

%)

世界全体 南米 中東・ アフリカ

アジア 経済 移行国

OECD 非附属書Ⅰ国 附属書Ⅰ国

監 修 : 甲斐沼美紀子 (国立環境研究所 社会環境システム研究センター フェロー

公益財団法人地球環境戦略研究機関 研究顧問)

協 力 : 竹内敬二 (朝日新聞社 編集委員)

企画・制作 : IPCCリポート コミュニケーター・プロジェクト

著 作 : 環境省