ICT 医療情報連携に関する調査 · の基幹病院としての大学病院の役割と ict...

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報告論文 43 平成 27 年度地域志向教育研究費 研究報告 ICT 医療情報連携に関する調査 (地域志向教育研究報告論文) 1) 1),2) 1)杏林 CCRC 研究所 2)杏林大学保健学部 はじめに 杏林大学は医学部と保健学部,総合政策 学部,外国語学部の四学部と医学研究科,保 健学研究科,総合政策研究科の三研究科から なる総合大学で,在学生の三分の一は東京都, 三分の一は東京都以外の首都圏,残り三分の 一がその他と首都圏の地域大学である。杏林 大学は医学部付属病院を持ち,400 万人の人 口を擁する多摩地区の地域医療の中核的医療 センターでもある。多摩地区で唯一つの高度 医療の提供・技術開発・研修を担う特定機能 病院であり,1 次・2 次に加え,3 次救急医 療を有機的にカバーする高度救命救急セン ター,並びに総合周産期母子医療センターで もある。大学病院として臨床医学の教育・研 究の場であると共に,地域医療機関との緊密 な連携のもとに地域医療を実践している。多 摩地区が超高齢社会 ab にむけてカウントダウ ンが始まる中,杏林大学は「地域」大学とし て多摩地区の「健康」を担う責務があり,こ の問題に対して大学としての姿勢を明確にす るため平成 25 年に文部科学省の地(知)の 拠点整備事業(COC 事業)に「新しい都市 型高齢社会における地域と大学の統合知の拠 点」の事業名で応募・選定を受け,各種の 事業を展開してきた。COC 事業で,大学と 地域の包括的連携を推進する拠点として杏 CCRC 研究所 (Center for Comprehensive Re- gional Collaboration) を設け,その研究活動の 一つとして「杏林大学と地域の医療情報ネッ トワーク構築に向けた検討」に取組み,昨年 度より学内での勉強会を続けてきた。今後の 超高齢社会では適切な地域医療と介護を連携 し提供する体制を整え,健康寿命延伸を通じ a 高齢化率が 7-14%の場合を高齢化社会,14-21%を高齢社会,21%以上を超高齢社会とする定 義がよく用いられる。この定義では三鷹市は既に超高齢社会である。 b この問題に関して,平成 27 7 月に公表された日本創成会議首都圏問題検討分科会(座長・増 田寛也・東京大学公共政策大学院客員教授・元岩手県知事・元総務大臣)による「東京圏高齢化危機 回避戦略:一都三県連携して,高齢化問題に対応せよ」が詳しく分析し,「2020 年以降は東京圏も高 齢化率が 26%を超え,急激な高齢化局面に突入する。(中略)高齢化の進展では,特に 75 歳以上の 後期高齢者の増加が著しい。日本全体では後期高齢者は 2015 年の 1646 万人から,団塊世代が後期高 齢者に達する 2025 年には 2179 万人へと 533 万人増大する。このうち,東京圏は 2015 年の 397 万人 2025 年には 572 万人へと,175 万人増加することが見込まれている。」と記載している。

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  • 報告論文

    43

    平成 27 年度地域志向教育研究費 研究報告

    ICT 医療情報連携に関する調査

    (地域志向教育研究報告論文)

    相 見 祐 輝1)  蒲 生  忍1),2)

    1)杏林 CCRC 研究所2)杏林大学保健学部

    はじめに

    杏林大学は医学部と保健学部,総合政策

    学部,外国語学部の四学部と医学研究科,保

    健学研究科,総合政策研究科の三研究科から

    なる総合大学で,在学生の三分の一は東京都,

    三分の一は東京都以外の首都圏,残り三分の

    一がその他と首都圏の地域大学である。杏林

    大学は医学部付属病院を持ち,400 万人の人口を擁する多摩地区の地域医療の中核的医療

    センターでもある。多摩地区で唯一つの高度

    医療の提供・技術開発・研修を担う特定機能

    病院であり,1 次・2 次に加え,3 次救急医療を有機的にカバーする高度救命救急セン

    ター,並びに総合周産期母子医療センターで

    もある。大学病院として臨床医学の教育・研

    究の場であると共に,地域医療機関との緊密

    な連携のもとに地域医療を実践している。多

    摩地区が超高齢社会abにむけてカウントダウ

    ンが始まる中,杏林大学は「地域」大学とし

    て多摩地区の「健康」を担う責務があり,こ

    の問題に対して大学としての姿勢を明確にす

    るため平成 25 年に文部科学省の地(知)の拠点整備事業(COC 事業)に「新しい都市型高齢社会における地域と大学の統合知の拠

    点」の事業名で応募・選定を受け,各種の

    事業を展開してきた。COC 事業で,大学と地域の包括的連携を推進する拠点として杏

    林 CCRC 研究所 (Center for Comprehensive Re-gional Collaboration) を設け,その研究活動の一つとして「杏林大学と地域の医療情報ネッ

    トワーク構築に向けた検討」に取組み,昨年

    度より学内での勉強会を続けてきた。今後の

    超高齢社会では適切な地域医療と介護を連携

    し提供する体制を整え,健康寿命延伸を通じ

    a 高齢化率が 7-14%の場合を高齢化社会,14% -21%を高齢社会,21%以上を超高齢社会とする定義がよく用いられる。この定義では三鷹市は既に超高齢社会である。

    b この問題に関して,平成 27 年 7 月に公表された日本創成会議首都圏問題検討分科会(座長・増田寛也・東京大学公共政策大学院客員教授・元岩手県知事・元総務大臣)による「東京圏高齢化危機

    回避戦略:一都三県連携して,高齢化問題に対応せよ」が詳しく分析し,「2020 年以降は東京圏も高齢化率が 26%を超え,急激な高齢化局面に突入する。(中略)高齢化の進展では,特に 75 歳以上の後期高齢者の増加が著しい。日本全体では後期高齢者は 2015 年の 1646 万人から,団塊世代が後期高齢者に達する 2025 年には 2179 万人へと 533 万人増大する。このうち,東京圏は 2015 年の 397 万人が 2025 年には 572 万人へと,175 万人増加することが見込まれている。」と記載している。

  • 平成 27年度 杏林 CCRC 研究所紀要 相 見 祐 輝  蒲 生  忍

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    て健康長寿社会の実現を目指す必要がある。

    医療介護連携について

    2013 年 8 月 6 日社会保障制度改革国民会議報告書 1(以下,国民会議報告書)に基づき,

    2013 年 12 月に成立した「持続可能な社会保障制度の確立を図るための改革の推進に関す

    る法律」が制定され,政府による超高齢化社

    会とそこでの疾病構造の変化に対応する医療

    の改革が決まった。

    疾病構造の変化とは「平均寿命 60 歳代の

    社会で,主に青壮年期の患者を対象とした医

    療は,救命・延命,治癒,社会復帰を前提と

    した「病院完結型」の医療であった。しかし

    ながら,平均寿命が男性でも 80 歳近くとな

    り,女性では 86 歳を超えている社会では,

    慢性疾患による受療が多い,複数の疾病を抱

    えるなどの特徴を持つ老齢期の患者が中心と

    なる。そうした時代の医療は,病気と共存し

    ながらQOL (Quality of Life) の維持・向

    上を目指す医療となる。すなわち,医療はか

    つての「病院完結型」から,患者の住み慣れ

    た地域や自宅での生活のための医療,地域全

    体で治し,支える「地域完結型」の医療,実

    のところ医療と介護,さらには住まいや自立

    した生活の支援までもが切れ目なくつながる

    医療に変わらざるを得ない」と国民会議報告

    書では記載している。これは所謂健康寿命と

    平均寿命の差の年間への対応が求められるこ

    とを意味している。これを実現していくため

    に国民会議報告書は「急性期から亜急性期,

    回復期等まで,患者が状態に見合った病床で

    その状態にふさわしい医療を受けることがで

    きるよう,急性期医療を中心に人的・物的資

    源を集中投入し,入院期間を減らして早期の

    家庭復帰・社会復帰を実現するとともに,受

    け皿となる地域の病床や在宅医療・在宅介護

    を充実させていく必要がある。この時,機能

    分化した病床機能にふさわしい設備人員体制

    を確保することが大切であり,病院のみなら

    ず地域の診療所をもネットワークに組み込

    み,医療資源として有効に活用していくこと

    が必要となる」と医療機関間の役割分担が必

    要としている。そのため,情報通信技術 In-formation and Communication Technology(ICT)を用いた情報共有の実現により,質の高い医

    療と介護が実現されるよう,従来の医療圏を

    超えた情報ネットワークシステムの構築が急

    務とされる。

    さらに「地域ごとの医療・介護・予防・

    生活支援・住まいの継続的で包括的なネット

    ワーク,すなわち地域包括ケアシステムづく

    りを推進していくことも求められている。こ

    の地域包括ケアシステムは,介護保険制度の

    枠内では完結しない。例えば,介護ニーズと

    医療ニーズを併せ持つ高齢者を地域で確実に

    支えていくためには,訪問診療,訪問口腔ケ

    ア,訪問看護,訪問リハビリテーション,訪

    問薬剤指導などの在宅医療が,不可欠である」

    と医療機関以外の介護を含めた多職種の連携

    が必要としている。

    この連携とネットワーク化には ICT 技術の利用は不可欠であるが,医療情報が高度な

    安全性の確保を求めること,医療機関間の資

    源や機動性の不均衡等を含め未だに多くの課

    題と障壁が存在するのも明らかである。

    各地で各種補助事業や実証研究として実

    施されてきたが,多くは地方都市での実施に

    留まっている。本学が位置する大都市近郊は

    地方都市とは全く違った情報・交通・医療環

    境下にあり,地方都市での経験をそのまま移

    植することが可能か明らかでない。また,今

    後の都市圏で予想される高齢者人口の急増に

    対して新たな技術導入や地方との連携等の対

    応も検討が必要と考える。

    我々は今後の都市型超高齢社会の中での大

  • 45

    ICT 医療情報連携に関する調査

    学病院が果たす役割,また本学のような地域

    の基幹病院としての大学病院の役割と ICT 技術の医療への利活用について,本学の位置す

    る多摩地域と隣接する地域の各医療機関の皆

    様のご意見をお聞きしたく調査紙を作成した。

    調査紙では上記を踏まえ,以下の5個の大

    項目を設けた。

    「Ⅰ.医療機関の間の連携と医療情報の共

    有について」

    「Ⅱ.多職種連携について」

    「Ⅲ.医療 ICT 情報ネットワーク」

    「Ⅳ 実証実験と実用化」

    「Ⅴ 大学と大学病院に期待するもの」

    調査紙は多摩地区及び多摩地区に隣接する

    区部 3 区,併せて 26 医師会と三鷹市と三鷹市に隣接する市の 36 病院他と極めて限定した範囲に配布した。約 1 か月半の回答期間の後,13 医師会と 10 病院から回答を得た。回答は過半数に満たず分析には慎重を要するが今後

    の全医療施設等を対象とした大規模な調査に

    は基礎調査となるものであり,また現在の動

    向と意向を知る手がかりになると考える。

    調査結果の概要

    「Ⅰ.医療機関の間の連携と医療情報の共

    有について」では「医療機関の役割分担につ

    いて積極的な議論が行われています。杏林大

    学医学部付属病院は,大学病院として医学教

    育と医師の研修に加え,特定機能病院として

    先進的な医療の提供に努めています。さらに

    地域の基幹病院として一・二次救急から多摩

    地区の三次救急施設として地域の医療に積極

    的に関与しています」とし,「医療機関間の

    連携の必要性」「医療情報共有の必要性」「医

    療機関間の役割分担」について選択肢と自由

    記載欄を設けた。

    医療機関の連携に関しては医師会・病院共

    に連携の緊密化が必要と考えているが,病院

    で「連携は十分な程度に実現されている」と

    の認識がある。

    自由記載欄においても幾つかの課題を指

    摘しつつ基本的には連携の緊密化に肯定的で

    ある。医療情報の共有化を進めることを求め

    ているが,慎重な検討を求める意見がほぼ半

    数と多い。また,安全面を含め技術的な問題

    点を指摘する声がある。役割分担については

    明確化を肯定する意見が過半数を超える。し

    かし,それぞれの医療機関の方針と受診者側

    への配慮を求める意見がある。

    「Ⅱ.多職種連携について」では「今後急速

    に進展する高齢化に対して,医療機関の間の

    情報共有のみならず,地域包括ケアシステム

    等で薬局や介護,社会福祉,行政関係者等と

    の多職種連携や情報共有を進めていくことが

    求められています。また,実際に幾つかの試

    みや情報共有サービスも実用化されていま

    す。選択肢に〇をつけご意見をご記入下さい」

    とし,「多職種連携の推進」「多職種連携のた

    めの情報共有システム」について選択肢と自

    由記載欄を設けた。

    多職種連携の推進は大学病院から診療所

    まで医療のあらゆる分野で進行しているが,

    程度の差はあれ,更なる連携を求めることが

    多い。

    自由記載欄では連携の拡大を求める声が

    多い。多職種連携のツールとしての ICT 技術に関しては,その有効性を認めつつ技術的

    な問題点を指摘する意見がある。また連携に

    関する具体的な手段や情報に関する自由記載

    では多くの技術的な問題や現場での問題点が

    列挙されている。

    多職種連携は地域包括支援センターでの

    場合も,院内での連携もある。回答者の立場

    により受け取る意味内容が異なる可能性があ

    り,この点設問は不明瞭であった。

  • 平成 27年度 杏林 CCRC 研究所紀要 相 見 祐 輝  蒲 生  忍

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    「Ⅲ.医療 ICT 情報ネットワーク」では「地

    域または全国規模での医療情報の共有を可能

    とする手段として ICT を利用した医療情報

    ネットワーク(以下,医療 ICT 情報ネットワー

    ク)が有効であると考えられ,総務省の実証

    実験等を含め多様な取組みが行われ,一部に

    は実用化のレベルに達しているものもありま

    す。また,そのシステムの安全性と堅牢性の

    確保にも大きな進歩が見られると言われてい

    ます」とし,「医療 ICT 情報ネットワークに

    ついて研修等の実施の有無」「医療 ICT 情報

    ネットワークの導入検討の有無」について選

    択肢と自由記載欄を設けた。

    研修の有無では医師会が多職種連携の研

    修に積極的であるのに対し,病院が全体的に

    消極的で,両者の差が際立つ。導入検討の有

    無でも同様の傾向がみられる。病院では情報

    管理やコストが導入を懸念する最大要因とみ

    られる。一方,医師会では医療介護総合確

    保法による東京都の補助による閉鎖型 Social Network Service を用いた情報共有ネットワークの導入が進行していることが読み取れる。

    このサービスについては将来的なコストに対

    する不安も表明されている。

    「Ⅳ 実証実験と実用化」では「これまで

    地方都市を中心に医療 ICT 情報ネットワーク

    を構築する実証実験が行われ,香川県の「医

    療 Net さぬき」,岐阜県の「ぎふ救急ネット」

    等の実用化が進められてきました。しかし,

    都下を含め大都市近郊での実用化は未だにわ

    ずかです」とし,「実証実験実施,または改

    良し実用化する必要性」「先進事例に則した

    実証実験または改良実用化を検討する場合の

    導入分野」「先進事例に則した実証実験また

    は改良導入を行う場合の導入技術」「実証実

    験への協力可能性」について選択肢と自由記

    載欄を設けた。

    実証実験について既に行われた成果を再

    検討・改良して実用化を試みると中間(また

    は慎重な)姿勢が大半を占める。

    自由記載欄ではむしろ消極的意見が多い。

    導入分野は都市圏の特性か遠隔医療に関する

    興味は低い。導入技術に関しては現在の ICT技術の趨勢を示しておりクラウド上にある

    SNS 型情報共有システムをタブレット端末から利用する形態と推測できる。また,マイ

    ナンバーの利用を想定した IC カードに興味を示す病院が多い。

    この項では実証実験ごと,基盤となる ICT技術を分けて設定したが不明瞭であった。ま

    た実際の実証実験では複数の技術の利用や複

    数のカテゴリーに分類可能な技術が利用され

    ている。この点も不明瞭であった

    「Ⅴ 大学と大学病院に期待するもの」で

    は「近年,医療機関の役割分担について積極

    的な議論が行われています。杏林大学医学部

    付属病院は,大学病院として医学教育と医師

    の研修に加え,特定機能病院として先進的な

    医療の提供に努めています。さらに地域の基

    幹病院として一・二次救急から多摩地区の三

    次救急施設として地域の医療に積極的に関与

    しています」とし,「大学病院の役割と連携

    についての期待と考え」「特に本学に期待す

    る役割と連携」「本学を含め大学病院と連携

    する場合,共有が必要な情報と手段」につい

    て自由記載欄を設けた。

    本学を含めた大学病院への期待は,地域

    (多摩地区)の医療の中心としての役割を期

    待する意見,また具体的な提案も数多く寄せ

    られた。

    この設問に関しては大学病院一般への期

    待と杏林大学への要望を分ける意図であった

    が,設定が不明瞭であった。

  • 47

    ICT 医療情報連携に関する調査

    調査の総括

    本調査は調査対象が限定されており,回収

    数も多くはなく,これのみから地域の意向を

    推測することは極めて危険であると考える。

    しかしながら,現状については「医療機関間

    の連携,医療機関の間の役割分担の明確化,

    多職種連携,情報共有,ICT 技術の利用」はいずれも必要であり,ある程度は達成されて

    いるが不十分であるとの点では認識が一致す

    る所であり,今後へ向けても方向性と問題点

    が暗示されていると考える。病院と医師会・

    診療所の目指す理念は一致するが,現状の選

    択は一致していない。

    現在,地域包括支援業務等を担当する医師

    会や病院は多職種連携の閉鎖型 SNS による ICT 情報ネットワークの導入に積極的である。これは多職種連携の場でより密度が高い

    情報交換と機動性が求められた結果と考える

    のが妥当であり,技術導入した結果として多

    職種連携が活発化したのではないだろう。

    一方,病院は情報提供と共有の必要性を認

    識しつつ,費用や情報漏洩への懸念から ICT技術の導入には慎重で躊躇するのも肯首出来

    る。病院内では電子カルテシステムcが採用

    され画像が多用される医療の情報量は膨大

    で,漏洩する危険性や外部からの侵入を懸念

    し外部と接続しない独立の情報システムが採

    用される。そのため,病院間,病院と診療所

    間の情報提供は文書または CD-ROM 等の電子媒体が利用される場合が多く,提供側も機

    動性に欠ける思いを持っている。また,医療

    情報を相互に交換する場合の情報を電子化す

    る電子カルテシステムは病院,診療所ともそ

    の規模に応じた設備投資が必要であり,問題

    が潜在している。

    今後の展開

    ICT 技術は日進月歩であり,現在の多くの課題が実は杞憂であり,医療側の懸念は根拠

    のないものかもしれない。また数か月先には

    解決されるかもしれないが,医療側がその急

    速な進歩を常に把握することは極めて困難で

    はないだろうか。それゆえに ICT 技術を提供する側からの情報提供,医療側も研修に積

    極的に取組む必要がある。

    研修の機会として平成 28 年 2 月 29 日には三鷹ネットワーク大学を会場に,調査対象

    とした医師会,医療機関の皆様にご案内して

    「ICT を用いた地域医療ネットワークの方向性」講演会を開催した。この講演会では蒲生

    が上述の調査の報告を行なった後,総務省情

    報流通行政局情報流通高度化推進室長の吉田

    宏平氏に「地域医療における ICT 利活用の意義」について講演をお願いした。続いて地

    域病院の野村病院の余語氏,地域医師会理事

    の窪川氏,ICT 関連企業 Skeed の宮島氏よりそれぞれの立場からの発言をお願いした。

    吉田氏からは医療等分野の ICT 化の進展について現状と課題について貴重な講演をい

    ただいた。技術的な用語や最先端の概念,さ

    らに今後の政策を含めた示唆に富む講演であ

    り技術的な面では理解困難な部分もあった

    が,筆者なりの要約は以下の通りである。

    「医療情報の電子化はレセプト電子化がほ

    ぼ完了し,電子カルテ化が進行中である。医

    療に関する情報も含め電子情報は爆発的に増

    c 電子カルテは大手の富士通が約三分の一のシェアを持ち,ソフトウェア・サービス,シーエスアイ,日本電気が 10%代で続く。基本的には標準規格化が図られ相互の情報交換は可能とされている。しかし,各社毎に若干の差異があり,また各医療機関の要請で独特の「方言」が取り入れられること

    があるようである。

  • 平成 27年度 杏林 CCRC 研究所紀要 相 見 祐 輝  蒲 生  忍

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    加しており,その活用により多くの有効な資

    源を確保できる。しかしながら医療情報連携

    ネットワークに関しては多くの問題を抱え普

    及率は低い。今後はクラウド等を活用した低

    廉なネットワークモデルを確立する必要が

    ある。この際,PHR (Personal Health Record) 2 と EHR (Electronic Health Record) 3 の二つの概念が必要である。PHR は個人が健康・医療・介護情報等をクラウド上で管理・活用する仕

    組みである。PHR の概念自体は以前からあるが,技術的発展により実現可能性が高まっ

    ている。PHR は個人の日常の生活記録,健康状態を医療機関,特にかかりつけ医と共有

    できるシステムへの発展性を含んでいるし,

    また個人の健康意識の向上にも利する所があ

    ると考える。一方,EHR は病院や診療所が持つ医療情報をクラウド上で共有し利活用す

    るシステムである。各提携医療機関の相互参

    照のみならず,代理機関による匿名化等を介

    して広範な疫学的利用も視野に入れる。この

    際に重要となるのが個人識別子としてのマイ

    ナンバー 4 の活用である。技術的進歩により

    システムの安全性は向上しており,今後は

    PHR と EHR の確立とこの二つの間を連携されることが地域包括ケアを含めた医療におけ

    る ICT の将来像である。」以上,吉田氏の講演で触れられている

    EHR は病院間連携の基盤,PHR は多職種連携の基盤と理解できる。個人の情報を,ICT技術を利用し管理することには常に安全性に

    関する危惧と厳しい議論が付きまとう。安全

    性の確保に全力を挙げるのは当然であり確か

    に重要な問題ではあるが,悪意ある攻撃はど

    のような場合にも存在しうる。しかし安全性

    を徒に求めてその技術による大きな便益の導

    入を先延ばしする,または放棄することは医

    療分野に関しては社会的な大きな損失とも言

    える。

    ICT 技術を用いて情報共有することがより良い医療連携や受診者の利益を意味するので

    はないし,受診者の利益や満足度を向上させ

    る唯一つの手段でもない点に注意が必要であ

    ろう。調査に見る ICT の利活用に関しての意見では,受診者への直接的なサービスや満

    足度を向上させる様々な示唆がある。電子紹

    介状や外来予約システム,待ち時間に関する

    情報をより明瞭に開示伝達することは,技術

    的には簡単にできることではないか。

    また医療連携とは離れるが,吉田氏が講

    演の中で触れられた ICT 技術の一つであるロボット技術も今後の課題である。これはロ

    ボットに受付や介護を担当させる意ではな

    い。ロボットに利用されているセンサー技術

    を病院内や在宅においても利用し Hospitalityを向上させることである。誤嚥や転倒をいち

    早く発見し医療スタッフが駆けつけること,

    高齢者の困惑状態や疲労を察知し声がけや援

    助を行なうこと,また医療スタッフ側にもそ

    の疲労を感知し適切な援助を要請すること

    等,早期の感知を人の手に結びつける多様な

    利活用の可能性があり,それにより「顔が見

    え手のぬくもりのある医療」を実現できるの

    ではないか。医療は Hospitality に基づく人の行為であり,それを ICT 技術により補完可能であると考える。

    今回の調査は小規模なものであるが,寄

    せられたご意見の中には多くの問題点が指摘

    されている。しかし同時に多くの示唆と将来

    への展望が含まれている。それらに真摯に向

    き合いより良い地域医療実現の一端を担えれ

    ば望外の幸せである。

    引用文献

    1. 社会保障制度改革国民会議「社会保障制度改革国民会議報告書~確かな社会保障を将

    来世代に伝えるための道筋~」2013 年 8

  • 49

    ICT 医療情報連携に関する調査

    月 6 日 https://www.kantei.go.jp/jp/singi/koku-minkaigi/

    2. 総務省 「クラウド時代の医療 ICT の在り方に関する懇談会 報告書」平成 27 年 11月 13 日 http://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01ryutsu02_02000114.html

    3. 総務省「健康情報活用基盤構築事業(平成

    23 ~ 24 年度成果報告書)」平成 25 年 5 月17 日 http://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01ryutsu02_02000067.html

    4. 総務省「情報通信薄暑平成 26 年版」平成26 年 7 月 http://www.soumu.go.jp/johotsusin-tokei/whitepaper/ja/h26/pdf/index.html

  • 平成 27年度 杏林 CCRC 研究所紀要 相 見 祐 輝  蒲 生  忍

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    医師会からのコメント • 地域の中核病院と診療所病院との連携を強化することが先ず必要。次に,中核病院間との

    連携に拡大する

    • さらなる医療機関相互の連携が必要であるが,個人情報の扱いに注意が必要である。 • 「医療機関間連携」の柱の一つに「医師間連携」がある。担当医師の変更により連携が崩れ

    るのはよく見られる現象(現状)である。

    • FAX, 電話,メールだけではなく,ICT を用いた電子連絡帳,掲示板的なものを構想中です。• ④は結論ですが,高齢会員・導入コスト・システムの横を継ぐ為には大きな費用負担が予

    測され,困難が多い。

    • 病病連携,病診連携,診診連携,それぞれ不十分だと思います。が,在宅患者の受け入れ,退院患者の在宅への移行といった病診連携が今後最も重要となってくると思います。

    病院からのコメント

    • どこの医療機関も業務が多忙で情報の確認などに時間がかかり転院がスムーズにできない現状がある。ファーストコールで情報を全て獲得することも難しく今後人員の問題や情報

    提供のあり方を積極的に検討していく必要があると思う。

    • 地域医療においては地域包括ケアシステムに見られるような,一人の患者を複数の医療機関で支える仕組みを構築することが必要と考えられる。そのためには,診療所,病院,高

    次機能病院が地域の中でのそれぞれの役割を明確にして,患者と各医療機関にとって有益

    となる連携を検討することが必要。

    • 当リハケアセンターは介護老人保健施設であり,狭義の病院・診療所ではないので,意見を言う立場にないと思われるが,入所者が専門的な医療を必要とするような場合,或いは

    ICT を利活用した医療連携に関する調査票 アンケート結果

    配布数:62  アンケート回収数:23枚(回収率 37.1%)

    I. 医療機関の間の連携と医療情報の共有について

    1. 医療機関間の連携の必要性 医師会病院 合計 割合

    1医療機関間の連携は十分な程度に実現されており、各医療機関の運営方針もあるので、現状以上 の連携は必要ない。

    0 0 0 0.0

    2医療機関間の連携は十分な程度に実現されているが、更なる緊密化を図ることが望ましい。

    1 4 5 21.7

    3医療機関間の連携は未だに不十分で、更なる緊密化は望ましいが、具体的な連携の方策についてはより慎重に検討する必要がある。

    6 3 9 39.1

    4医療機関間の更なる連携緊密化は必須であり、積極的に検討し具体化する必要がある。

    6 3 9 39.1

    未記入 0 0 0 0.0

    合計 13 10 23 100.0

  • 51

    ICT 医療情報連携に関する調査

    急変したような場合,病院受診をお願いしなければならず,病院との連携は常に問題になる,

    避けられない点である。その点,当施設に関しては,三鷹中央病院(関連病院)と比較的

    密に連携しており,近隣の大病院,杏林大学病院,武蔵野赤十字病院も受け入れが悪いと

    言うほどではないので,医療環境は比較的恵まれているかもしれない。

    • メンタルの情報は連携しにくい所もあり,スティグマを解消していく意味も必要である。• 在宅医の立場からは,特に病診連携が不十分であると感じている。例えば患者さんが入退

    院を繰り返すような場合,在宅側と病院側がチーム意識を持って連携し医療情報を共有す

    ることで,状況に応じた適切な療養場所や医療が提供できる可能性が高くなる。

    医師会からのコメント • ICT により,画像診断を含め,検査データの共有化は進めてほしい。さらに在宅医療での

    多職種間での情報の共有化も重要。

    • ICT を利用することにより患者情報を共有しやすくなるが,多職種間のコミュニケーションレベルの情報共有と比べて,血液データそのほかの医療データを扱う地域医療連携では

    機種の選定も難しいのでしょうか。

    • ICT は機械は統一されてるし共有もできない。また平成 30 年 3 月までは国で補助金を出すが,平成 30 年 4 月からは市もしくは医師会で支払うことになっており,市や医師会がお金を払うのが難しいこともあるかもしれない。ICT は便利であるが多職種連携でかかわる人数が多くなると,秘密保持は難しくなり,ICT に変わる何かを探したほうが良いと考えている。

    • ICT 技術の利用は,実際の十分な連携があって成立するもので,その逆ではないと考える。• 1 年前から ICT を試験導入しています。今後情報管理の安全性等十分に検討していきなが

    ら運用を広げていきたいと考えています。

    • 個人情報(生保など)の管理には細心の注意を払う必要があると考えます。

    2. 医療情報共有の必要性 医師会病院 合計 割合

    1医療情報は個人情報であり医療機関には守秘義務もあるので、医療情報の共有を現状以上に拡大することは望ましくない。

    1 0 1 4.3

    2医療情報の共有を現状以上に進めることが望ましいが、ICT技術を利用する必要はない。

    1 0 1 4.3

    3医療情報の共有を現状以上に進めることが望ましいが、ICT技術を利用する場合は共有する項目や方法は慎重に検討すべきである。

    6 5 11 47.8

    4医療情報の共有は必須であるが、ICT技術を利用する必要はなく、その他の方法を積極的に検討し具体化する必要がある。

    0 0 0 0.0

    5医療情報の共有は必須でありICT技術を利用した方法を含めて、積極的に検討し具体化する必要がある。

    6 3 9 39.1

    未記入 0 1 1 4.3

    合計 14 9 23 100.0

  • 平成 27年度 杏林 CCRC 研究所紀要 相 見 祐 輝  蒲 生  忍

    52

    病院からのコメント

    • 入院案内後,実際転院してくるまでの間の情報がリアルタイムで知ることができると,受ける側としては,患者様に合わせた準備ができる。送る側としても相手方が情報を知るこ

    とが出来れば余計な情報提供などのタイムロスもなく,業務改善にもつながっていくと考

    えます。同一の個人は或る特定の医療機関にかかる傾向があり,厚労省もかかりつけ医を

    勧めてもいるので,普段,全医療機関が個人の情報を共有する意味は余りないと思われ,

    かかりつけ医以外の医療機関に受診の必要性が生じた場合,必要な情報の伝達がかかりつ

    け医から受診医療機関になされれば良いと思われる。社会保障に対する費用の拡大を抑制

    しようという中で,医療費が削られているにもかかわらず(介護も同様),費用の拡大に繋

    がることは明らかであり,必要な情報が無駄な費用を費やさずに,個人情報が漏洩されな

    いような手段で,伝達されるよう考えるべきであると思われる。

    • 一人の患者を複数医療機関や施設,行政で支える地域医療においては,患者情報の共有は必須の課題と考えられる。さらに情報の共有のみならず,患者情報の更新や承認なども重

    要な課題である。

    • 患者にとって本当に必要な医療を必要なタイミングで提供するためには,医療情報の共有は必須であるが,膨大な情報をただそのまま垂れ流しするだけでは時間と労力の無駄でし

    かない。ICT などを利用し,必要最小限の情報を常に共有するという意識が重要である。• 2次医療圏の医療機関(病院,診療所)で,救急時に必要な患者情報(診療方針や既往歴,

    検査結果,処方薬等)を共有する仕組みを作っていく必要があると思う。現時点では,問

    題意識を持った医療機関が,別々に医療情報の共有方法を構想しているように思う。地域

    医療を充実させる為に,杏林大学医学部付属病院や慈恵第3病院等の大病院が協力しあっ

    て,2次医療圏の情報システムを構築して欲しい。

    3. 医療機関間の役割分担 医師会病院 合計 割合

    1医療機関の選択は患者に委ねるべきであり、医療機関の役割分担を明

    確化する必要はない。0 0 0 0.0

    2医療機関の間の役割分担は現状でもある程度実現されており、このまま

    で十分である。1 1 2 8.7

    3医療機関の間の役割分担をこれまで以上に明確化することは望ましい

    が、各医療機関の方針も尊重し、慎重に検討すべきである。9 4 13 56.5

    4医療機関の間の役割分担をこれまで以上に明確化することが必要であり、

    積極的に検討し具体化する必要がある。3 5 8 34.8

    未記入 0 0 0 0.0

    合計 13 10 23 100.0

  • 53

    ICT 医療情報連携に関する調査

    医師会からのコメント • 地域医療構想でも,病床の機能分化を求めています。• 1. 専門医と総合診療医の役割分担を明確にしていく必要がある。 2. ゲートキーパーの役

    割を果たす医師(小児科医,総合内科医,総合診療専門医等)の育成をする必要がある。

    • 診療所の行いたい役割とそれを公に公表して欲しいかが異なることがあるので,そこは慎重に意見を聞いていただきたい。

    • この分野でも国の方針に応ぜざるを得ないが,問題点も多々あるように思われる。• 病院・クリニック毎に方針が違うので,各々の方針を考慮しつつ役割分担すべきだと思い

    ます。

    • 各医療機関の専門分野については,決められた様式で記載していただき,情報共有することで役割分担がスムーズにいくかと存じます。

    • 医療機関の診療実態成績につき評価する方法が必要。地域間格差を含め,受診側に情報を流す必要がある。

    病院からのコメント

    • 各医療機関の役割や方針など定期的に情報交換する場が必要だと考えます。• 一医療機関で医療自体を完結することが困難であると同時に,施設管理,物品管理および

    基準管理などを一医療機関で行うことは,管理項目の数から考えてもきわめて難しい現状

    にある。医療機能の役割分担だけでなく,規格や基準の共通化を図りその保守管理に必要

    な活動を分担して行うことも必要と考える。

    • 現状に於いても,大学病院はかかりにくい状況にあり,役割分担を明確にすればする程,一般の市民にとっては更にかかり難い状況になり,誰の為の医療かわからなくなる。或る

    程度の病診の区別は必要かもしれないが,更なる区別は国民の為になるとは思えない。お

    金がない人は,増々かかり難くなっている。

    • 明確に説明した上で患者さんや御家族に選択を委ねるのが望ましいと考えます。• 各医療機関がそれぞれの役割をきちんと明確化し,その内容を患者側に正確に伝えること

    が必要。そうでなければ,患者に医療を受けるときの混乱が生じ,医療に対する不信につ

    ながる。

    • 2次医療圏の全医療機関が,胸襟を開き,それぞれの得意分野をオープンにして共有しあう地域連携が必要だと考える。

  • 平成 27年度 杏林 CCRC 研究所紀要 相 見 祐 輝  蒲 生  忍

    54

    Ⅱ. 多職種連携について

    1. 多職種連携の推進 医師会病院 合計 割合

    1 現状である程度の成果を上げており、このままで十分である。 0 0 0 0.0

    2 現状でも成果を上げているが、更なる連携を進めることが望ましい。 4 3 7 30.4

    3連携は不十分でこれまで以上に進めることが望ましいが、連携の具体的な内容や方法については慎重に検討すべきである。

    4 4 8 34.8

    4連携は不十分でこれまで以上に推進する必要があり、積極的に検討し具体化する必要がある。

    5 3 8 34.8

    未記入 0 0 0 0.0

    合計 13 10 23 100.0

    医師会からのコメント • 当医師会では ICT を利用した多職種連携を開始しています。個人情報の保護は重要な問題

    です。

    • 医療・介護総合確保推進のための新たな財政制度基金医療分による都補助で医療機関間ICT 連携,多職種間 ICT 連携を行う予定です。西多摩医療圏では後者は年度内に施行予定です。

    • 情報共有も含めて検討していただきたい。• 全体的には顔の見える関係は進んではいるが,連携構築の方策を練ってもその輪の中に入っ

    てこない医療機関を,今後どのように引き込むかが問題である。

    • 一行政単位では一定成果を上げていても他行政(隣接市)との連携はこれからの課題と考える。

    • ICT への参加,勉強会,ワークショップ,等。定期的・具体的に実践していくことが大事だと思います。

    • 医師会においても,多職種の方々との顔の見えるフォーラム等を開催してまいりましたが,ICT の導入により更に効率化をはかっていけたらと考えております。

    病院からのコメント

    • 今後,医療機関と地域との関わりは,密になっていくと思うため,地域の現状を医療機関側がもっと現状把握するべきだと考えます。

    • チーム医療という形で,多職種連携を推進しているが,今後は一つの医療機関でのチーム医療にとどまらず,複数の医療機関,施設にまたがったチーム医療が求められると考えら

    れる。

    • 在宅現場の現状を正面から見つめ,状況をきちんと理解しようとすれば,④以外の回答は

  • 55

    ICT 医療情報連携に関する調査

    ありえません。

    • 他職種連携については,1次医療圏単位で,行政と協力して,当院のような中小病院が,きめ細かく連携していくべき。まだまだ不十分ではあるが,取り組みを始めている。

    医師会からのコメント • 在宅に関するシステムはあるが,その他はない• 介護職種の情報をストレスなくスムーズに医師に伝える方法として,またチーム内の情報

    共有に今後は ICT のツールが必要になってくるかもしれない。ICT の操作方法に対する不安も,実際に行ってみるとそれほど敷居は高くない。

    • 対象とする患者,共有する情報の範囲,緊急度の違いによる情報伝達方法の選択,等のルール作りが必要と思います。

    • 個人情報漏えいの他,ICT のネットワーク内においても記載してよい内容のルール作りが必要かと思われます。

    • 連携を拡大する上で,各メーカーの既存システム間の互換性が必要と考える。

    病院からのコメント

    • 共有できるシステムがあると,お互いにやり取りしやすくなると思います。Ⅰ -2 において記載したとおり,どういった情報を共有するか,情報の更新や承認が課題。少なくとも在

    宅医療の現場では,ICT 技術の利用によって,これまでの連携方法では解決困難であった問題を次々にクリアしていった。ICT を今後更に有効活用することで,多職種で作られる在宅チームの質は格段に上がっていくことは間違いない。

    • 情報共有システムについては,2次医療圏共通のものがよいと考える。

    2. 多職種連携のための情報共有システム(複数回答) 医師会病院 合計 割合

    1情報共有は必要だが守秘義務もあるので、情報共有を拡大することは望ましくない。

    0 0 0 0.0

    2情報共有を現状以上に進めることが望ましいが、ICT技術を利用する必要はない。

    0 0 0 0.0

    3情報共有を現状以上に進めることが望ましいが、ICT技術を利用する場合は共有する項目や方法は慎重に検討すべきである。

    4 3 7 29.2

    4情報共有は必須だが、ICT技術を利用する必要はなく、その他の方法を積極的に検討し具体化する必要がある。

    1 0 1 4.2

    5情報共有は必須でありICT技術を利用した方法を含めて、積極的に検討し具体化する必要がある。

    4 5 9 37.5

    6既にICT技術を利用した情報共有システムがあるが、さらに改善する必要がある。

    5 1 6 25.0

    7既にICT技術を利用した情報共有システムがあるため、新たに導入する必要性はない。

    0 0 0 0.0

    未記入 0 1 1 4.2

    合計 14 10 24 100.0

  • 平成 27年度 杏林 CCRC 研究所紀要 相 見 祐 輝  蒲 生  忍

    56

    3. 連携する関係者の範囲,具体的な連携手段,共有する情報の範囲等についてのコメント 医師会から • 医師,看護師,ケアマネージャーが主で,必要に応じて歯科医師,薬剤師,理学療法士,等。

    スマートフォンや iPad が便利と思います。患者に選択権を持たせて,できればアクセス制限を設けるべきである

    • 連携の手段は,直接の会話,電話,FAX,ICT,メール,でしょうか。安全に患者情報を受け渡しするなら ICT のシステムが良いかと思う。セキュリティーが確保されているならば連携の範囲,情報の範囲はそれほど絞らなくても良いと思う。ただし,管理の責任上,医

    師をからめた方が安全かと思う。

    • 連携する関係者は医師,ケアマネージャー,ヘルパー,ソーシャルワーカー,歯科医師,薬剤師,訪問看護士になりますが,実際患者の計画を立てるのはケアマネージャーです。

    共有する情報の範囲は,医師,ケアマネージャー,歯科医師,薬剤師,訪問看護士に限る

    のが良い。ヘルパー,ソーシャルワーカーはケアマネージャーに直接話をしてもらう。

    • 患者さんが触れる範囲が連携する関係者の範囲であり,多くは一行政単位間であるが,場合によっては都道府県をまたぐこともありえる。

    • ケアマネージャー,訪問看護師,リハビリ,薬剤師,訪問医が関われば十分機能すると思います。ただ入力するのが手間がかかるので,対象患者は独居・認知症・老老介護・認認

    介護等に絞るべきだと考えます。

    • ひとりひとりの患者ごとに,医療機関が中心となって情報公開の階層を設定していくことになるかと存じます。

    • 対介護システムは複雑な物は困難です。SS-MIX2 に対応することは難しく,電カルよりのシステムと区別する必要がある。

    • 患者の個人情報を知り得ぬ様にして,医療情報が全てわかるようにすべき。

    病院から

    • 関係者の範囲:医療機関(急性期・慢性期・クリニック診療所 etc. ),訪問看護ステーション(NS,ケアマネ etc.),訪問リハビリ。共有する情報,簡単なアナムネの様なものと,今後の方針,本人・ご家族の希望など。

    • 【関係者の範囲】医療機関の医療者のみならず,療養にかかわる福祉施設の担当者。【連携手段】IT 機器を利用することが考えられるが,セキュリティの問題や利用環境の構築が課題。

    【情報の範囲】現病歴,既往歴,生活歴,生活環境,患者を支えるキーパーソン,公的助成・

    支援の利用状況等,療養の継続および今後起こりうる問題の対応に有用と思われる情報。

    • 基本となる共有情報の枠組みを定めて ICT 利用を図るのがよい。• 連携する関係者も共有する情報も常識の範囲内であれば多い方がいいと思いますが,個人

    情報ですので患者さんやご家族の許可が必要です。 連携の手段:顔の見える連携が最も

    理想的ではありますが,病院内とは異なり,地域における連携を顔の見える形で行うこと

    は簡単ではありません。従いまして,これまでは,書類,電話,FAX,ノート,メールな

  • 57

    ICT 医療情報連携に関する調査

    どが連携の手段として用いられてきました。しかし,どれにも限界がある中で,ICT 連携が登場しました。もちろん ICT が完璧なわけではありませんので,それぞれの長所を生かし無駄なく効率的で確実な連携を目指していくことが必要です。

    4.  その他,多職種連携に関する問題点や意見

    医師会から • 個人情報の保護,費用。• 患者が情報を持ち歩く IC カードを検討して欲しい。• 連携は一ケース毎に基本的には終了するが,その積み重ねで機関間の持続する連携になっ

    ていくが,営利の面もあり,地域での公共性の確保が必要と考える。

    • お互いに意見を言いやすい関係作りが大事だと思います。• ケアマネージャーの方々など,医師への連絡手段が限られているかと思いますので,時間

    に制限されない双方向への連携手段は今後,ますます求められていくかと思います。

    • 膨大な時間労力を要し,長く事業を継続する事。

    病院から

    • 身分法等を踏まえた活動範囲の明確化と,多職種連携をリードするための権限を有した調整者の選任。

    • 例えば,急性期病院を筆頭に医師の多くは,在宅医療・在宅ケアに関わる人たちが共有すべき情報が何であるかを知らない。しかも,これらの医師は,在宅ケアや介護施設,介護

    事業者に対しても関心と知識を持たないことが多い。さらには介護側に対して傲慢にふる

    まうこともある。自分たちは特別なポジションにいて,忙しく働いているのだから連携に

    参加する必要性も時間もないと考えている。罪の意識など全くなく,誰からもたしなめら

    れることがないので,修正されることもない。このような医療者の態度もあり,多くの介

    護従事者は,医療者との関わりは敷居が高く面倒であると感じている。医療的な部分の責

    任もとりたくないため,医療面は専門外であるからと,きちんと向き合い関わることから

    逃げてしまうようになる。こういった状況が蔓延すると,専門職としての自分の仕事のノ

    ルマをこなし,他の職種との形式的な書類のやりとりや,とりあえずの顔合わせや会議へ

    の出席などを行ってさえいれば,地域包括ケアという仕組みの中で「自分は十分に仕事を

    している」と錯覚するようになる。多職種連携は誰のために何故行うのかという最も基本

    的な認識が欠けてしまっている者は,患者を部分に切り分け,物のように扱うことを何と

    も思わなくなる。医療や介護の提供者が多職種連携を自分にとってのメリットと考え,自

    分のために連携しようとするならば,手間暇とお金をかけて連携のシステムを作る必要性

    はどこにもない。それは患者にとっての不幸につながるからである。" 多職種連携を行うのは 100% 患者のためである " 当たり前のことを言うとキョトンとされる。これらのように,「問題の根は深い」と感じます。

  • 平成 27年度 杏林 CCRC 研究所紀要 相 見 祐 輝  蒲 生  忍

    58

    Ⅲ. 医療ICT情報ネットワーク

    1. 以下のような医療ICT情報ネットワークについて研修等を実施したことがあるか(複数回答)

    医師会病院 合計 割合

    1 実施したことがない。 8 8 16 53.3

    2救急・災害医療(岐阜県や熊本県等で救急病院と救急隊の連携の下に実用化が進められています。)

    3 0 3 10.0

    3地域医療(鳥取県や京都府等で地域共通診察券として実用化が進められています。)

    1 1 2 6.7

    4遠隔医療(香川県等で離島や僻地と基幹病院の連携の下で実用化が進められています。)

    0 0 0 0.0

    5多職種連携(鶴岡市他の幾つかの事例が厚生労働省のHPで紹介されています。)

    8 1 9 30.0

    6 その他 0 0 0 0.0

    未記入 0 0.0

    合計 20 10 30 100.0

    5 の事例についてのコメント 医師会から

    • 行政,関係機関と ICT 連携会議を定期的に開き,セミナーも開催した。• 地域災害医療計画に基づく全都的ネットワークに参加していくつもりです。• 在宅医療に関する ICT• メディカルケアステーションの試行。• カナミックに勉強会を開いてもらいました。

    病院から

    • 東京都および厚労省の補助金を得た。• 呼吸器を付けず日中独居となる ALS 患者の在宅のチーム連携を MCS を用いて行いました。

    それまでは多職種の連携は主に連絡ノートを用いていましたが,タイムリーな情報交換が

    できず歯がゆい思いをしておりました。MCS 連携を始めてから,日々症状が変化する中で,本人の精神状態も含めたヘルパーさんからの情報提供が,医療的判断にとても役に立ちま

    した。最期が近くなってきた時には息子さんとの MCS 上でのやりとりがとても有効で,よい看取りができたと感じております。亡くなられて 2 年近く経ちますが,息子さんとの交流は今も続いています。

  • 59

    ICT 医療情報連携に関する調査

    2. 医療ICT情報ネットワークを導入することを実際に検討したことがあるか 医師会病院 合計 割合

    1 医療ICT情報ネットワークの導入を検討する予定はない。 0 3 3 13.0

    2 医療ICT情報ネットワークの導入を検討したが、導入しなかった。 0 1 1 4.3

    3 今後、医療ICT情報ネットワークの導入を検討する予定である。 3 4 7 30.4

    4 現在、医療ICT情報ネットワークの導入を検討している。 5 1 6 26.1

    5 何らかの医療ICT情報ネットワークを既に導入している。 5 1 6 26.1

    未記入 0 0 0 0.0

    合計 13 10 23 100.0

    1 または 2 を選択した場合に懸念されることについてのコメント

    病院から

    • 情報管理(漏えい etc.)ある程度アウトラインが決まってきたらそのシステムに参加する意向はあります。

    • コスト。東京都での実用がほとんどない。• " システム名:MCS(患者サポートチームの連携をタイムラインで行う),地理的範囲:範

    囲なし,共有可能職種:制限なし(患者・家族参加のタイムラインあり),共有情報範囲:

    制限なし。 <問題点>介護職の参加が少ない。病院,行政の参加はほとんどない。ICT連携の必要性を理解しない人や,ICT を面倒と感じたり,苦手意識などからその連携に参加しない人は,自然と連携の輪から外れていってしまう。その結果,重要メンバー不在の

    中途半端な連携になる。きちんと連携することの重要性を分かっている在宅チームのメン

    バーはしらけて,やり甲斐を失う。最終的に患者にとっての不利益につながる。 <改善

    点>・タイムライン上に,その患者の疾患や医療的手技についての説明や医療用語の解説

    など,ケアマネや介護職に役立つ情報ががワンクリックで見れるようになれば,介護と医

    療の連携のハードルが低くなるのではないか。 ・患者の情報欄に患者の希望(エンディ

    ングノート)などを掲載することで,提供者側の関わり方も変わったってくると感じます。

    3 または 4 を選択した場合の,内容や予定についてのコメント

    医師会から • 在宅医療の患者情報に関わる多職種間の情報共有。・・・メディカルステーション(株エン

    ブレース),現在は市内で。近隣の市でも同様のシステムのため,将来は市境を超えた連携

  • 平成 27年度 杏林 CCRC 研究所紀要 相 見 祐 輝  蒲 生  忍

    60

    も可能。

    • これから市と ICT 業者と話し合う予定。• 当面,国分寺市内。• 世田谷区医師会,玉川医師会,世田谷区行政と検討会を開催し,導入するシステムを比較

    検討中です。平成 28 年度中に実施予定。医師が管理者権限を持ち,招待する形式を想定しております。地域は区内を想定しておりますが,杉並区,目黒区等,隣接する地域は相互

    乗り入れもできたらと考えております。システムはエンブレースのメディカル・ケア・ステー

    ションの導入が有力です。

    • カナミック,メディカルケアステーション,他,医師,訪問看護ステーション,CM,地域包括,ヘルパーステーション,患家。

    病院から

    • 具体策,予定はまだありません。• 未定。• 大学病院,専門病院,クリニック• 拠点病院とのネットワークや地域(北多摩)のクリニック・施設・行政とのネットワーク

    が最低でも PSW が関与していく。• これから学びます。• 検討内容を,まだ具体化していない。

    5 を選択した場合のコメント

    医師会から • メディカルケアステーションを利用している登録者は 200 を超えた。• KANAMIC を利用した在宅療養情報システムを医師会主導で導入した。まだ使いずらいの

    と登録を医師がしなければならない点が普及を妨げている。

    • 地域支援態勢が行政により確立されるのが確実になった時に医療圏の病院・診療所医師会を結ぶものとして。

    3. 医療 ICT 情報ネットワークを導入し維持するために必要となる費用・設備や人的資源についてのコメント

    医師会から • 東京都の補助で導入,八王子の補助で維持。• 地域医療介護確保基金の補助金を利用している• 基金や自治体補助で運用すべきです。

  • 61

    ICT 医療情報連携に関する調査

    • 高い。• 検討しているシステムでは導入にかかる費用は個々の端末の通信費。とりまとめの窓口の

    人件費,研修費に若干の費用負担がかかる。

    • まだ白紙状態。• 補助事業を活用したい。• メディカルケアステーションが採用された場合には,基本的に無料となりますので,維持

    費はかからない予定です。説明会の開催等,導入にかかる費用は都の補助金で対応する予

    定です。

    • 導入:10 万×端末数,維持:5000 ~ 10000 円 / 月 各事業所,サーバー維持費:40 ~ 50万 / 年

    病院から

    • システムの初期費用,ランニングコストに関して費用対効果(指標)をどのように評価するのか,またオペレーションにどの程度のスタッフ(業務量)が必要となるのかがわから

    ない。

    • MCS は基本的に無料であり設備も特にいらない。MCS の基本的説明,使い方,トラブル発生時の対応などに人員が必要となる。

    • メリットを享受する医療機関がそれにみあった費用を負担すればよい。 費用,設備,人的資源などのコスト負担は,何が出来るかにより変わってくる。

    4. ICT 情報ネットワークに対するコメント

    医師会から • ICT にはお金がかかり,平成 30 年 3 月まで国で補助するが 4 月からは市もしくは医師会で

    お金を払うことになっており,この事業は破綻すると言われています。このような状況で

    積極的に利用する医師会はそう多くはなく消極的な利用にとどまっている。

    • トラブル防止のため,事前の研修会は必要かと思います。• 導入コストに見合う効果があるか疑問。入力の手間を誰が行っても負担が多い。

    病院から

    • 今後,医療機関同士の連携に ICT を活用することで,患者の利便性が向上すると考えられるが,インフラ整備やセキュリティ対策など,検討を要する部分も多い。

    • 機器が発達しシステムが高度化してくると,人の意識は,数字,時間,お金にとらわれがちになる。連携の中心にあるのは,「人のいのち」であり「人生」であるということを皆が

    共有していなければ,連携そのものがいびつなものとなる。

  • 平成 27年度 杏林 CCRC 研究所紀要 相 見 祐 輝  蒲 生  忍

    62

    Ⅳ. 実証実験と実用化

    1. 地方都市と同じような医療ICT情報ネットワークの実証実験を大都市近郊で

    実施すること、または改良し実用化することについて 医師会病院 合計 割合

    1 そもそも、医療ICT情報ネットワークは不要であり実証実験の必要はない。 0 0 0 0.0

    2地方都市と大都市近郊では様々な条件と環境が異なるので、地方都市で成功した医療ICT情報ネットワーク例を大都市近郊で実証実験や実用化を試みる意味はない。

    0 0 0 0.0

    3地方都市と大都市近郊では様々な条件と環境が異なるので、全く違うモデルを考えて医療ICT情報ネットワーク実証実験を行い、実用化を試みるべきだ。

    2 2 4 17.4

    4地方都市と大都市近郊では様々な条件と環境が異なるが、地方都市での実証実験の成果を再検討し大都市近郊用に改良し実用化を試みるべきだ。

    10 8 18 78.3

    5地方都市と大都市近郊で大きな差はないが、大都市近郊での実証実験で再検討し大都市近郊用に改良し実用化を試みるべきだ。

    1 0 1 4.3

    6地方都市と大都市近郊で差はないので、既に地方都市で実証実験が行われ成果が出たものを大都市圏に直ちに実用化すべきだ。

    0 0 0 0.0

    未記入 0 0 0 0.0

    合計 13 10 23 100.0

    医師会からのコメント • 東京では地方と異なり基幹病院のエリアが重なっており,導入に影響は出ないでしょうか?

    医療情報を共有できるのは開業医にとっては良いが,病院の膨大な患者データを共有でき

    るものとできないものに選り分ける必要はないのでしょうか。病院側の業務量の負荷は増

    えませんか?

    • ICT 検討会においては,なるべくランニングコストがかからず,入力作業も少なくて済むシンプルなもの,LINE に近いもので良いのでは,という意見が多かったです。まずは掲示板のようなものから始めて,あとは個々にアプリを購入し,カスタマイズしていく方向を

    考えております。

    病院からのコメント

    • 大都市での実用化が少ない一番の理由は何か?ニーズが無い理由は何か?• ICT の基本となる機能や情報項目については,地方と大都市でも大きく変わらないと考え

    られる。異なる点としては,地方と大都市では情報の項目が同じであっても,それぞれの

    地域特性に合わせた解釈が必要となることが考えられる。

    • 地方の場合は,大学病院を頂点にピラミッド型の医療連携体制が作られることが多いが,大都市の場合はそもそも縦のつながりが薄いため,ICT によるネットワーク作りは大変有効であると考える。

  • 63

    ICT 医療情報連携に関する調査

    2. 先進事例に則した実証実験または改良実用化を検討する場合、どのような

    分野にまず導入するのが好ましいと考えるか(複数回答可) 医師会病院 合計 割合

    1救急・災害医療(岐阜県や熊本県等で救急病院と救急隊の連携の下に実用化が進められています。)

    6 5 11 25.6

    2地域医療(鳥取県や京都府等で地域共通診察券として実用化が進められています。)

    7 5 12 27.9

    3遠隔医療(香川県等で離島や僻地と基幹病院の連携の下で実用化が進められています。)

    1 1 2 4.7

    4多職種連携(鶴岡市他の幾つかの事例が厚生労働省のHPで紹介されています。)

    11 7 18 41.9

    5 その他 0 0 0 0.0

    未記入 0 0 0 0.0

    合計 25 18 43 100.0

    医師会からのコメント • 1. 在宅療養にかかわる医療,介護の連携を災害時要援護者も想定して,消防署,警察,市

    に広げても良い。 2. 病院への患者紹介時に事前に初診受付できるシステムがあると患者さんは安心。病院の空床情報もあればよい。

    • 特に事例はない。• 23 区内にて,同じシステムを導入した地域の事例を参考にさせていただく予定です。

    病院からのコメント

    • 【救急】受入医療機関にとって必要な情報を入手し共有をスピーディーに行って救急応需を折り返す。【地域医療】一元化された一人の患者情報に対して,複数医療機関からアクセス

    →診療情報提供の迅速化につながる。

    • まずは携帯しやすいレベルから徐々に拡大していく。• 東京都補助金事業としての武蔵野市医師会を中心とした MCS による連携システム(ソフト

    バンクからの 300 台以上の iPad の多職種事業所への無料配布)は,まだまだ改善の検討余地はあるにせよ,今の所ある程度の有効性があると考えています。

  • 平成 27年度 杏林 CCRC 研究所紀要 相 見 祐 輝  蒲 生  忍

    64

    3. 先進事例に則した実証実験または改良導入を行う場合、どのような技術を

    導入するのが好ましいと考えるか(複数回答可) 医師会 病院 合計 割合

    1サーバー・クライアント型情報提供(基幹病院のサーバー上の情報を周辺の登録クライアント医療機関が利用する)

    0 2 2 4.0

    2 クラウド型情報共有(幾つかの医療機関がクラウド上の情報を共有する) 9 6 15 30.0

    3ICカード型個人識別(個人識別情報と受診情報を記憶した地域共通診察券等です。今後、マイナンバーの利用が想定されます。)

    3 6 9 18.0

    4遠隔会議システム(登録医療機関間での症例検討等、遠隔医療に利用可能です。)

    1 1 2 4.0

    5タブレット等専用端末の利用(救急隊と救急医療機関との早期の情報交換等に利用可能です。)

    6 3 9 18.0

    6SNS型情報共有(SNSの基盤技術を限定されたメンバーで利用するもので多職種連携等に利用可能です。)

    7 3 10 20.0

    7 その他 0 0 0 0.0

    未記入 1 2 3 6.0

    合計 27 23 50 100.0

    医師会からのコメント • 特に事例はない。• カナミックを導入しています。• 現時点で,世田谷行政側から予算はいただけないようですので,大掛かりなサーバーの導

    入は難しいと考えます。

    • 将来に渡って利用可能な様に,バージョンアップ可能な様に,国のやっている様なサーバーミスは許されない。

    病院からのコメント • クラウドデータと IC カード(個人識別)を合わせることで,それぞれの医療機関からの診

    療情報提供および取得が容易になる。また,患者も自身の診療情報に対して,いつでもど

    こでもアクセスが可能となる。※パスワード管理などのセキュリティ対策は必須。

    • 調布市医師会でメディカルケアステーションの情報共有ツールを導入したので,その仕組みを生かすような ICTが好ましいと思う。三鷹市,武蔵野市,府中市もメディカルケアステーションの情報共有システムを使っていると聞いている。

    4. 今後、都市圏での実証実験を行う場合に、協力する可能性はあるか。 医師会 病院 合計 割合

    1 積極的に参加する。 0 0 0 0.0

    2 内容により参加する。 8 8 16 69.6

    3 各医療機関や部門の判断に委ねる。 4 1 5 21.7

    4 参加は見合わせる。 1 0 1 4.3

    未記入 0 1 1 4.3

    合計 13 10 23 100.0

  • 65

    ICT 医療情報連携に関する調査

    1. 大学病院の役割と連携についてどのような期待と考えがあるか

    医師会からのコメント • 先ず,急性期病院としての役割を期待します。• 西多摩には高度先進医療提供病院がありませんので,貴大学に期待しております。• 地域の医療機関への指導的役割,研究機関としての先進的な取り組みはもちろん,教育機

    関として開業医の生涯教育を担っていただきたい。また連携としては,学生や研修医を積

    極的に地域に出して,開業医の下で業務,研修を行うべきである。

    • 現在杏林大学と地域の病院は良く連携していると思います。地域包括ケアシステムの構築に向けて在宅医療を支える体制にどう取り組むかが課題でしょうか。

    • 中核病院→地域の病院→診療所という流れか,中核病院→診療所の流れとなるが,癌の連携と同じように癌・脳卒中でなくても 1 回 / 月の診療日に何か異常があったら患者の状態を大学病院の連携室にファックスで送って,担当の医師がチェックして欲しい。

    • 先進医療,救急対応,相談・応援機能,疾患ごとの連携システム,情報発信など,期待しています。

    • 高度な治療が必要なケースを紹介させていただきたいです。また,最新の情報等をご教授いただきたいと思います。

    • 救急対応の他,様々な疾患についての連携パスを構築していただけたらと存じます。• 介護に対する理解,地域包括ケアシステムとどう向かい合うか。例えば勤務医は何ができ

    るのか,不明である。

    • 患者さんのためになるような方向性。

    病院からのコメント

    • 1. 教育研修 2. 各種ネットワーク研修会 3. 各種症例検討会 4. 二次医療圏の中心となりリーダーシップをとる。

    • 慢性期病院の役割を再確認していただいて今後の方針説明をして,転院が上手くいくよう本人またはご家族へ説明していただきたい。

    • 1. 医療機能として高度急性期,急性期の一部の受け皿の役割。 2. 教育機能として医師の卒後教育支援,さらにコメディカルの卒後教育支援。 3. 研究機能として地域医療を進めていく上で必要な疫学研究や臨床研究の率先および支援。 4. 病院管理,医療管理の支援として,設備や医療材料,薬品の基準などの共通化とその保守管理。

    • 一~三次救急の積極的拡大を望む。他の救急医療機関との連携が望ましい。• 大学病院,地域の病院,診療所,もともとこれらの医療機関の性質は異なりますので,地

    域全体で患者を支えていく体制作りにおいては,それぞれの役割分担を明確にしていくこ

    とが今後ますます重要になります。 地域医療の場面での大学病院の最も重要な役割である高度先進医療の提供と救命救急の充実を望みます。まずはそこを連携の軸の中心に据えて

     Ⅴ . 大学と大学病院に期待するもの

  • 平成 27年度 杏林 CCRC 研究所紀要 相 見 祐 輝  蒲 生  忍

    66

    地域のチームに参加していただきたいと思います。

    • 1. これまで通り,重症で高度治療が必要な患者への対応。 2. 2次医療圏内の大病院と連携して,共通のインフラを構築して欲しい。

    2. 本学には特にどのような役割と連携を期待されているか

    医師会からのコメント • 多摩地区での共通の医療情報が共有できれば良い。• 1.ICT を含め,先駆的取り組みで開業医の先生方をサポートしていただきたい。 2. 医療レ

    ベルの向上(特に開業医)に力を入れていただきたい。

    • 地域連携パスを用いて連携をより充実させる。• 癌に特化しているので,最先端の治療および検査で癌患者をフォローして欲しい。• 多摩地区の医療の中心の一つとして期待しています。• 地域医療との連携を密にお願いしたいです。• 病診連携にあたって,患者さんの情報をオンラインで共有できると良いかと思います。また,

    災害拠点病院でありますので,災害時の連携体制についても,会員医療機関に周知できた

    らと思います。

    • 勤務医の社会医療活動をどう取り組んでいくか,検討いただきたい。 例)B 会員としての医師会加入,介護認定審査会への協力,地域包括ケアへの参画,介護予防への取り組み,

    地域教育への協力,患者家族への教育。

    病院からのコメント

    • 自院で対応困難な重症例の受け入れを常に積極的にしてくださるので非常に助かっています。できればバックトランスポートについてもっと連携できればと思っております。

    • リアルタイムで,地域の状況を提供して欲しい。• 地域の救急拠点病院として救急治療の受け入れ配分などのトリアージュ機能を持っていた

    だくと,地域が第一に相談できて,患者の受け入れが救急施設へ入院出来やすくなるのでは。

    • 杏林大学病院には「地域密着」の視点が重要と考えます。杏林大学病院には「地域密着」の視点が重要と考えます。地域のかかりつけ医である病院や診療所,医師会,保健行政機関,

    更には介護事業所を含む福祉の分野とも意識して連携をとっていただくことを願います。

    そして,まずは院内において,連携の重要さと具体的実践についての教育や指導が必要で

    はないでしょうか。学生にも他職種連携の重要性を教育していただきたいと考えています。  

    在宅医の立場から言いますと,例えば連携に全く興味のないドクターがひとりおられるだ

    けで,在宅での療養や介護というある意味厳しい状況に置かれている患者・家族に生まれ

    る大学病院に対する " 医療不信 " という意識は,おそらく病院の先生方が想像されるよりもはるかに根深くそして速いスピードで地域に広がる感じがします。(これは,実際に患者

    さんやご家族の本音を聞ける立場の人間でないと実感できないものと思います。)とは言え,

  • 67

    ICT 医療情報連携に関する調査

    患者の立場は弱いですから,病院に対しては,逆らわず,何も言わず,我慢して諦めてい

    くことが少なからずあります。 日々,病院という箱の中にいて病院のシステムの中で動

    くしかなくなると,かつての私がそうであったように,本当に大切なものが自分の視野か

    ら遠のいていく可能性があるということを,病院の職員の皆様には知っておいていただき

    たいと常日頃思っています。

    • 1. これまで通り,重症で高度治療が必要な患者への対応。 2. 2次医療圏内の大病院と連携して,共通のインフラを構築して欲しい。

    3. 本学を含め大学病院と連携する場合,どのような情報共有が必要であり,また,どのような手段での情報共有が望ましいか

    医師会からのコメント • IC カードを利用して,情報は多ければ多いほど良い。• 相互の情報共有が必要で,地域の先生方が大学で講義する時間を増やす必要があるのでは

    ないでしょうか。顔の見える関係を作る機会を増やす必要があると思います。

    • 最終的には ICT を用いた連携になるのでしょうか?緩和ケアの必要な患者さんの治療の連携について病院主治医,かかりつけ医,介護職種と連携・調整をできると良いでしょうか?

    • 柏市における主治医・副主治医制は個人医院は在宅のみしているわけではなく外来をしており外来を休んで退院する患者に会いに病院に足を向けることは難しく,退院する前に家

    族がこれから見てもらう個人医院に紹介状を持ってきてもらうことになりますが,医師の

    紹介状と看護サマリーをつけてほしい。介護保険を書く時にキーパーソンとなる人は誰な

    のかわかり,退院までの本人の状態もわかるため。

    • 当面の患者さんの加療のために必要な情報の共有。当面は現在の紙ベースでもと考えています。

    • ICT も利用して退院時等に役立ててみたいと思います。• 病院の登録医を中心に,メーリングリストの作成や病院ホームページ上に,パスワードを

    設定した電子会議室を設置することも有用かと思います。なお,世田谷区医師会では,役員・

    希望した会員・事務局においてグループウェアソフト「サイボウズ」を活用し,情報共有

    を図っております。

    • 画像,情報提供書等の共有。

    病院からのコメント

    • 現病歴と既往歴,今後の方向性。それに対しての本人・家族の想いの共有が最低限いると思います。

    • Ⅱ -4 に記載した情報の範囲について,杏林大学がリードして医師会と協力して進めていただきたい。

    • 三次救急までどの科で対応できるのかという情報と病状の共有,多くのチャネルによる連

  • 平成 27年度 杏林 CCRC 研究所紀要 相 見 祐 輝  蒲 生  忍

    68

    携手段が望まれる。

    • 主体的に退院前カンファレンスを行っていただいたり,ICT の連携にご参加いただくなど,地域の医療ネットワークの一員という認識のもと,多職種のメンバーとフラットな関係性

    を築いこうという姿勢が,地域の信頼,ひいては患者・家族の信頼を強固なものにしてい

    くものと確信しています。

    • 1. 紹介患者の診療経過,処方内容,既往,検査データ,画像の共有。 2. 病棟単位の空床状況,ER の受け入れ可否。

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