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政権下の 政治経済情勢 2020年1月24日 政策研究大学院大学 工藤年博 財務総研

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スーチー政権下のミャンマー政治・経済情勢

2020年1月24日

政策研究大学院大学 工藤年博

財務総研

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(出所)MIMUのHPより。

【7管区域】ザガイン管区域タニンダリー管区域バゴー管区域マグエー管区域マンダレー管区域ヤンゴン管区域エーヤーワディー管区域

【7州】カチン州カヤー州カイン州チン州モン州ヤカイン州シャン州

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ミャンマーの行政区分

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(出所)MIMUのHPより。

人口の分布

• 7管区域の人口密度が高く、7州のそれは低い。

• 第1の都市は下ビルマのヤンゴン、第2の都市は上ビルマのマンダレー。首都はネピドー。

• 人口稠密地域は

①エーヤーワディ・デルタ及びヤンゴン周辺

②中央乾燥地帯及びマンダレー周辺

③北部ヤカイン州の3地域。

• 産業集積は第1にヤンゴン、第2にマンダレー。

ヤンゴン周辺

マンダレー周辺

ネピドー

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ミャンマーの経済成長

1) 1962-88年はビルマ式社会主義時代。

2) 1988年9月-2011年3月は軍事政権時代。

※ 2000年以降は公式統計では2桁成長が続いており、数値の信頼性に疑問がある。

3) 2011-15年は民政移管後のテインセイン大統領時代。

4) 2016年以降は民主化後のアウンサン・スーチー国家顧問時代。

5) 2016年のGDP per capita (current US$)は1196ドル。

Economic Growth of Myanmar

1961-70 1971-80 1981-88 1989-99 2000-102) 2011-15

GDP per capita (constant LCU, CAGR, %) 0.7 2.2 -1.3 4.5 11.2 6.3

(Source) World Development Indicators, accessed on 14 June, 2018.

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ミャンマーの産業構造の変化

1) 政府GDP統計によれば、軍政後期から急速な工業化が進展。

2) 2017年度において、最大の産業分野は製造業(23.9%)で、これに商業(20.8%)、農業(15.4%)、畜・水産業(7.8%)、建設業(6.3%)と続く。 5

GDPの産業別構成比

FY 2005 FY 2010 FY 2017FY 2005-> 2010

FY 2010-> 2017

第1次産業 46.7% 36.9% 23.3% -9.8% -13.5%

第2次産業 17.5% 26.5% 36.3% 9.0% 9.8%

第3次産業 35.8% 36.7% 40.4% 0.9% 3.7%

(出所) Statistical Yearbook, 2018.

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経済成長は巡行速度へ

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• GDP成長率は2013年度の8.4%をピークに低下傾向。NLD政権発足の2016年度には5.9%に低下。

• 2016年度の減速は、洪水による農業生産の伸び悩み、ヤンゴンにおける高層ビルの建

設中断、ヤンゴンでの自動車総量規制、投資委員会の空白期間の発生、投資法細則の制定の遅れ、経済政策の中身の乏しさ等による。

• 2017年度は6.8%、2018年度は6.4%と巡航速度で成長。

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7(出所)Roland Berger, “Myanmar Business Survey #2”, December 2017.

• コンサルティング会社(RB)が2017年6-8月に500人の企業家・幹部を対象に実施した調査によれば、ミャンマーの短期景況感(今後1年)は2016年時点に比べて大幅に悪化。2017年8月以降の「ロヒンギャ」問題の発生により、その後さらに悪化か。

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【質問】現在の経済状況をどうみるか→2016年時点ですでに景況感悪化の兆し。それでも2018年第1四半期においては、

「良い」(Well)が「悪い」(Bad)を大きく上回っている。

(出所)Myanmar Business Sentiment Survey 1st Quarter (May 2018).

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9(出所)Myanmar Business Sentiment Survey 2nd Quarter (August 2018).

【質問】現在の経済状況をどうみるか→しかし、2018年第2四半期においては、「悪い」(Bad)が「良い」(Well)を逆転。

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景況感悪化の要因

10(出所)Myanmar Business Sentiment Survey 2nd Quarter (August 2018).

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ミャンマーの貿易

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1) 社会主義時代後期(この表では1977-88年)を通じて、輸出入は停滞。2) 軍事政権が対外開放に転じた1990年代は輸出入ともに大きな伸び。3) アジア通貨危機後の2000年代は貿易の伸びは低下。とくに輸入には厳しい規制が課され、伸びは鈍化。一方、輸出は天然ガス輸出が開始されたこともあり堅調な伸び。4) テインセイン政権下における国際社会への復帰、対外開放の加速により、輸入が急増。輸出は伸び悩み。結果として経常収支の赤字が拡大。

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貿易拡大は踊り場か

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• 2010年から2015年で、ミャンマーの輸出は1.6倍、輸入は4.1倍に拡大。• 貿易収支は2010年の35億ドルの黒字から、2015年には47億ドルの赤字を記録。• 2016年は輸出入ともに減少。2017年には回復。

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0

5E+09

1E+10

1.5E+10

2E+10

2.5E+10

2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017

ミャンマーの輸出入

輸出 輸入 輸出(伸び率) 輸入(伸び率)

(ドル) (%)

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• ミャンマーの輸出は相変わらず、天然ガス、衣類(縫製品)、農産品(豆類、砂糖、コメ)という少数品目に依存する構造(上位5品目で全輸出の約7割)。輸出品目の多様化・高度化が起きていない。これが輸出が大きく伸びない理由。

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ミャンマー vs.ベトナム【1人あたりGDP(2016年)】

ミャンマー 1,370ドル

ベトナム 2,310ドル

【GDP(2016年)】

ミャンマー 663億ドル

ベトナム 2,013億ドル

【輸出(2016年)】

ミャンマー 117億ドル

ベトナム 1,766億ドル⇒ベトナムの輸出は携帯電話、電子製品・部品、衣料、履物など工業製品が中心。こうした輸出の多くの部分は外資系企業が担う。 14

約1.7倍

約 3倍

約15倍

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• ベトナムへの直接投資は、2000年代後半から急増。• ミャンマーへの直接投資は、2010年を例外として長期低迷。2015年、2016年と20億ドルを突破したものの、ベトナムの120億ドルと比べると大きな格差。

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0 1000 2000

Agriculture

Livestock/fishery

Mining

Manufacturing

Power

Oil&Gas

Telecom&Trans.

Hotel&Tourism

Real Estate

Other Services

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17

1716

1064

3

3

0

0

Avg. 2001/02-2011/12

0 1000 2000

Agriculture

Livestock/fishery

Mining

Manufacturing

Power

Oil&Gas

Telecom&Trans.

Hotel&Tourism

Real Estate

Other Services

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1283

333

1254

1390

296

636

343

Avg. 2012/13-2018/19

16(Source) DICA (2019), processed by Homma

Manufacturing sector’s

share is 2/3 in terms of

number of project

Increase of investment amount and diversification of investment sectors

Diversification of investment sectors

(Unit: US$ Million)

(Note) Year 2018/19 includes 2 months data up to the end of Nov. 2018

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• 第三国経由、ティラワSEZを入れると日本の対ミャンマー投資は上位にくる。

17(出所)上田隆文JICA投資促進アドバイザーの発表資料(2018年8月23日)。

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• 2011年の民政移管後、対ミャンマーFDI・ODA・送金が急増。

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1961-70 1971-80 1981-90 1991-2000 2001-10 2011-16

FDI, ODA and Remittances Received by Myanmar (Annual Average)

FDI ODA Remittances

US$ million

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ミャンマーへの国際観光客

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• ミャンマーへの国際観光客(空路利用者のみ)は、2010年の33万4000人から、2015年には122万2000人へと3.7倍の増加。

• 2016年度以降は観光客数の伸びは鈍化。

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ロヒンギャ問題の影響は

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• ミャンマーへの国際観光客数(空路利用のみ)は、2018年1月、2月と前年同月比割れ。しかし、2018年3月以降は前年並みの水準に回復。

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International Tourists (by air)

International Tourists (by air) year on year

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22(出所)The Economist, “Building Myanmar: Bridging the infrastructure gap”, 2017.

【携帯電話】• ミャンマーの携帯電話事業は経済改革の最大の成功事例。軍政時代、携帯電話(SIM

カード)は平行市場で1500~2000ドルで取引。前政権は2013年にテレノール(ノルウェー)とウーレドゥー(カタール)にライセンス発給、2014年にKDDI、住商がMPTと合同事業を開始、2016年にベトナム軍隊通信グループ(ベトテル)らの企業連合にライセンス発給。

• 携帯電話普及率は2010年の1%から2016年には9割、現在はほぼ100%に。急速な成長は一段落。

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23(出所)The Economist, “Building Myanmar: Bridging the infrastructure gap”, 2017.

• 電力需要は2030年までに現在の5倍に拡大すると予測されている。• 発電量に占める民間部門の割合は2011年時点の約1割から、2016年にはおよそ

半分にまで上昇。しかし、NLD政権発足後、新規プロジェクトは停滞気味。

• 今後いっそう民間部門の投資を呼び込むためには、政府は投資家のリスクを軽減あるいはシェアする措置を講じ、迅速な意思決定をする必要あり。

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経済減速の原因• 2016年にはすでに成長減速の兆しがあり、景気悪化のすべてがNLD政権が原因というわけ

ではない。現実には、短期的要因と構造的要因が交錯している。

【短期的要因】

①外部要因:洪水の被害、天然ガス価格の低下、中国の経済減速など

②内部要因:

・開発見直し(高層ビル、MIC認可案件、プランテーション等)、規制強化(自動車規制、屋台・露店の撤去、バス規制、環境規制、汚職撲滅等)

・ロヒンギャ問題

【構造要因】

①前政権期の高成長は主に「自由化」と「国際経済環境の改善」(制裁解除)によるもの。これらの効果はワン・ショット的。例えば、携帯電話の普及、日本の中古車輸入など。

②今後は更なる「自由化(規制緩和)」に加えて、インフラ整備、制度整備、人材育成等の「造り上げる」政策が必要。インフラ整備が進まないと、中小企業も農民も外資系企業も投資できない。法の支配(Rule of Law)を実現するためには、まずは「法」が必要。教育は国家百年の計。いずれも時間がかかる。

③急速な成長による「歪み」への対策。前政権は軍事政権からの移行を円滑にするために「短期的な成果」(Quick Wins)を求めた。急速な開発で副作用も発生。ヤンゴンの渋滞対策や違法建築の取り締まり、許認可の正規化、税金の徴収、汚職撲滅などは、NLD政権として取り組まざるを得ない課題。但し、これらが景気減速に拍車をかけた側面あり。 24

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統制・計画経済から開放・市場経済への発展・移行

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伝統的/農業・農村/インフォーマルな閉鎖経済

近代産業/国有企業

自由化・規制緩和・対外開放

近代的市場経済の基礎(インフラ、法・制度、人材)の確立=多くは政府が担うべき仕事で、時間と労力がかかる

近代的・世界経済に統合された

市場経済

計画経済/軍事政権計画経済/軍事政権市場経済/民主政権市場経済/民主政権

これが経済発展の基盤これが経済発展の基盤

(出所)筆者作成。

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NLD政権固有の原因• スーチー氏の政策の優先順位

� 「平和なくして経済発展なし」とのスローガンの下、少数民族武装勢力との停戦合意を目指す「連邦和平会議」(21世紀パンロン会議)に注力。しかし、大きな成果は出ず。

� (一部辺境地域を除き)武力衝突はなく、治安はよい。投資促進の障害にはならないのに、なぜ和平会議に力を入れるのか。

� ひとつは選挙公約を果たすため。もうひとつの狙いは連邦民主主義(Federal Democracy)に基づく「新憲法」の策定(?)→目論見ははずれる。

• (前政権に比べて)経済担当大臣の(実質的な)決定権限が弱く、行政経験・知識も不足。本来、経済政策の司令塔となるべき、チョーウィン計画・財務大臣(→2018年5月に汚職疑惑で辞任)、タンミン商業大臣などの機能不全。結果として、すべての案件にスーチー氏の決済が必要となる。それでもNLD身内からしか人材を登用しない。

• (国軍出身、前政権寄りの)高級官僚・行政官が、NLD出身大臣に対して暗黙の「抵抗」。「頭は変わっても首が変わらなければ、方向は変えられない」。

• 一般公務員による「怠業」。(元軍人の)怖い上司がいなくなり、かつ賄賂も少なくなったことから、仕事をしないことによるパニッシュメントも、仕事をすることに対するインセンティブもなくなる。 26

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ロヒンギャ問題と制裁の可能性

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【アラカン山脈】

• ミャンマー西部のラカイン州とミャンマー本土(中央平原地帯)を分ける南北の全長950キロ、標高3000メートル級の山脈。

• 山脈の北端はインド・マニプール州に連なり、西にはバングラデシュ・チッタゴン丘陵地帯を臨む。南端ではエーヤワディー・デルタにつながる。

• 人・モノの移動が制限されたことで、ビルマ王朝の進出を防ぎ、ラカイン独自の言語、文化、王朝が維持された。

• 降水量:山脈の西側は多雨地帯、東側は乾燥地帯

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ラカイン王国の歴史①• 15-18世紀にかけてこの地域にラカイン王国が勃興。1430年

にカラダン川流域に王都ムラウーを建設。

• 16世紀末、東はタウングー王朝の都バゴー、西はチッタゴンまで支配。

• 1785年、コンバウン王朝がムラウーを占領。ラカイン王国、滅亡。マハームニ大仏をマンダレーへ持ち帰る

→2018年1月の記念式典(後述)、ラカイン族のビルマ族への反発

• ベンガル地域のインド系やさらに西方のアラブ系との交易ネットワークを担った、重層的な地域であり、東南アジアと南アジアの結節点。仏教もイスラム教もあった世界

→しかし、現代のミャンマー人からみれば仏教の伝統が強調され、ロヒンギャからみればムスリムの存在が強調される。

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ラカイン王国の歴史②

• 英国東インド会社の支配領域との国境がナフ川に引かれた。しかし、人々は治安状況や経済状況によって両岸間を流動、不安定化。

• 1824年、第一次英緬戦争。1826年、ヤンダボ条約でラカイン地

域及びタニンダーリー地域が英領に割譲された。コウンバウン王朝によりラカイン王国が滅亡してから、わずか40年あまり。

• その後、英国は1852年の第二次英面戦争で下ビルマを併合、1885年の第三次英緬戦争を経て1886に全ビルマを英領インドに併合。ラカインが植民地化されてから60年後。

→ラカインはミャンマーに支配された歴史が浅く、植民地化の

なかで近代化とナショナリズムを、ミャンマー本土よりも早く経験。

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植民地経済と第二次世界大戦• 英領植民地化により、ベンガルと接する北部では「チッタゴン

人」の流入。多くは季節労働者。

• 稲作とコメ貿易の発展(vent for surplus)により、南部にはビルマ族が流入。イラワディ・デルタとの経済圏を形成。

• 人口の増加:1830年の10万人→1911年の53万人。ラカイン

北部と南部に人口構成の相違を生みながら、両者の関係が緊張へ。

• 1942年3月、日本軍がラングーン(ヤンゴン)占領。5月、アキ

ャブ(シットウェー)占領。撤退したイギリス軍はラカインへの反攻をめざし、この地域が戦いの最前線化。

• 日英両軍がムスリムと仏教徒の地元民に武器を与え、軍事的に利用。住民間の対立が先鋭化。

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ミャンマーのイスラム教徒とロヒンギャ

• 2014年人口センサスによれば、仏教徒は全人口の87.9%を占める。続いて、キリスト教徒が 6.2%、イスラム教徒が4.3%である。

• イスラム教徒の割合は1983年の3.9%から、2014年には4.3%に上昇。ただし、上昇幅は小さい。

• ミャンマーに在住のイスラム教徒224万人のうち、109万人がラカイン州北部に住んでいる(=ロヒンギャ)と推定される。

• ラカイン州の人口は319万人と推定される。したがって、ラカイン州の人口の約3分の1がロヒンギャと思われる。

• ミャンマーにはロヒンギャの他に、ラカイン州に住むカマン、中国系のパンデー、マレーシア系のパシュー、ビルマ化したバマー・ムスリムなど多様なイスラム教徒が生活している。

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ロヒンギャが差別される理由 (一般的ミャンマー人の認識)

① イスラム教徒だから。過激仏教僧は「イスラムに国が乗っ取られる」という言説を流し、イスラム教徒への警戒を訴えている。ただし、ミャンマーには多様なイスラム教徒がおり、全員が差別されているわけではない。

② 南アジア系のベンガル人だから。ミャンマー国民からは、時にインド系への差別意識が感じられる。英領植民地時代に多くのインド人がミャンマーに流入した。彼らの上流階層は金貸しや商人、下流階層は都市労働者であった。ビルマ人との間に雇用機会や経済利権をめぐって確執あり、1930年にヤンゴンで反インド人暴動を経験。

③ (不法移民にもかかわらず)『ロヒンギャ』という偽りの民族をでっちあげて、市民権を得ようとしているから。多くのミャンマー国民にとって、この点がもっとも受け入れられないポイント。

④ ラカイン州におけるラカイン族とロヒンギャの歴史的確執。日本軍の撤退とともにインド軍(ロヒンギャ)がラカインに侵攻。ラカイン族と交戦。「カラダン川」の名前の由来。 34

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ロヒンギャ帰還計画の失敗

• 2018年12月、両国の合意のもとに2260人の難民をバスで送還しようとしたが、途中で逃げ出して、失敗。

• 2019年8月、約3,500人のロヒンギャ難民を対象に帰還を計画するが、希望者が現れずに失敗。

• ロヒンギャの帰還後の、安全の確保、国籍の賦与、移動の自由などの問題が解決されていない状況下では、帰還を希望する人はいない。

「ミャンマーの状況は何も変わっていない。自分も対象者だが、帰らないし、帰るという人は誰もいない」(難民談)

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ミャンマー国軍の経済利権

• 2019年8月5日、国連人権理事会が設置した独立調査団が「ミャンマー国軍の経済利権」(The economic interests of the Myanmar military)と題する報告書を発表。

• 国軍系企業2社(MEHL、MEC)の企業活動を詳細

に調査。これらの企業への金融制裁を要請。また、2社と合弁事業を行う外国企業として15社(キリン

とJTを含む)をリストアップ。提携解消を要請。マックスやカンボーザといった国内の大手企業グループに対しても、国境フェンスに資金供与したとして批判。 36

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経済制裁の可能性• 報告書に法的拘束力はない。制裁は国連安保理で決議されるが、

中国が反対する可能性大。

• アメリカはスーチー政権発足を受けて、2016年10月に制裁を全面解除。この時、国軍関連2社とクローニー企業(政商)を含めて、制裁対象リスト(SDN)からはずした。すなわち、ミャンマー経済発展を重視。現在もこうしたスタンスは変わらない。

• 1997年、2003年当時に比べて、アメリカ企業のミャンマーへの進出

、貿易が拡大。日本、中国、韓国、タイ、ベトナムなどがこぞって進出。アメリカ企業もビジネス・チャンスを失いたくない。

• ミャンマーの対アメリカ輸出

2013年→2018年 33.8倍(シェア1.3%)

ミャンマーの対アメリカ輸入

2013年→2018年 6.5倍(シェア4.9%)

• アメリカの制裁発動の可能性は低いが、消費者ボイコット運動などのレピュテーション・リスクはある。

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US-ASEANビジネス協議会、訪緬• 2019年10月1日、スコット・マーシャル駐ミャンマー大使率いる米代表団が、投

資・対外経済関係省を訪問。

• 代表団には、グーグル、アマゾン・コム、コカ・コーラ、シェブロン、フォード・モーター、マスターカードとVISA、製薬アボット・ラボラトリーズなど計12社の代表が参加。

38(出所)Global New Light of Myanmar, 2 September, 2019.

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国際司法裁判所(ICJ)への提訴

• 2019年11月、西アフリカのガンビアが、イスラム協力

機構(OIC)を代表し、ミャンマー国軍がロヒンギャのジェノサイド(大量虐殺)を行ったとしてICJに提訴。

• 12月にはスーチー国家顧問が、自らICJ@ハーグで

、国軍によるジェノサイド疑惑を否定。国民は支持集会を開催。

• 2020年1月20日、ミャンマーの独立調査委員会が、

最終報告書を提出。ロヒンギャ武装集団との戦闘に伴い、国軍を含む治安部隊に深刻な人権侵害があったと認定。しかし、ジェノサイドは否定。

• ICJは1月23日に仮処分について決定の予定。 39

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少数民族問題

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少数民族武装勢力との関係• 3回のパンロン会議にもかかわらず、少数民族武装勢力との全

国停戦は成立せず。国軍とカチン独立軍(KIA)と戦闘は続く。

• ワ州連合軍(UWSA)、KIA、民族民主同盟軍(NDAA)、ミャンマー民族民主連盟軍(MNDAA)、アラカン軍(AA)、タアン民族解放軍(TNLA)、シャン州復興評議会/シャン州軍(RCSS/SSA)の7つの武装勢力は、2017年4月に「連邦政治交渉協議委員会」(Federal Political Negotiation Consultative Committee)を結

成。中国政府の仲介もあり、パンロン会議には参加したものの、必ずしも和平プロセスに賛成していない。少数民族武装勢力がもつ既得権にも手つかず。

• テインセイン時代のミャンマー平和センター(MPC)を事実上廃止。政治経験のない自らの主治医のDr. Tin Myo Winを責任者

に任命。国軍の協力も得られない。全国和平への展望はひらけない。

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少数民族の反発

• 政府はモン州の橋の名称を、アウンサン将軍橋に変更。少数民族が反発。

• 各地でアウンサン将軍像の設置を強行し、少数民族の抗議運動が発生。

• 少数民族政党14党が加盟する統一諸民族連盟(UNA)が、2020年の総選挙に向けて結束を強化し、NLDに対抗すると表明(2019年10月1日)。NLDが設置した「少数民族問題委員会」は2020年選挙目的と批判。

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アラカン軍(AA)

• 2009年4月にUnited League of Arakan (ULA)の軍事部門としてKIAの本拠地ライザにて設立。当初は戦闘員数百人であったが、現在は1万人を有するといわれる。

• KIAに軍事訓練を受け、その後ラカイン州に戻る予定であったが、2011年のKIAと国軍との戦闘の勃発により、これに参戦。

• 2015年2月、ミャンマー民族民主同盟軍(MNDAA、コーカン軍)と国軍の戦闘に、タアン民族解放軍(TNLA、パラウン族)と共に参戦。

• その後、ラカイン州においてAAと国軍の衝突が増加。国軍は2018年12月に一方的な停戦を宣言するも、ラカイン州はこれに含まれず。

• AAの資金源は麻薬密売?中国の支援?43

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2015年総選挙の結果(と、2020年総選挙の展望)

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2015年総選挙の結果(1)

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2015年総選挙における政党別議席数(連邦議会:院別)

国民民主連盟(NLD) 255 78.9% 135 80.4% 390 79.4%

連邦団結発展党(USDP) 30 9.3% 11 6.5% 41 8.4%

アラカン民族党 (ANP) 12 3.7% 10 6.0% 22 4.5%

シャン民族民主連盟 (SNLD) 12 3.7% 3 1.8% 15 3.1%

その他 14 4.3% 9 5.4% 23 4.7%

合計 323 100.0% 168 100.0% 491 100.0%

(出所)選挙管理委員会、伊野(2016)等。

人民院 民族院 連邦議会

• 国民民主連盟(NLD)が連邦議会の約8割の議席を獲得して圧勝。連邦団結発展党(USDP)は1割以下の議席しか獲得できずに、敗北。

• NLDは(軍人議員を含めた)連邦議会において、全議席の約6割を確保→大統領を単独で選出可能。

• 人民院、民族院でも約8割の議席を獲得→各院の民選議員から2人の副大統領を選出可能(内、1人は大統領になる)。

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2015年総選挙の結果(2)

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2015年総選挙における政党別議席数(連邦議会:管区域・州別)

国民民主連盟(NLD) 280 96.2% 110 55.0% 390 79.4%

連邦団結発展党(USDP) 11 3.8% 30 15.0% 41 8.4%

アラカン民族党 (ANP) 0 0.0% 22 11.0% 22 4.5%

シャン民族民主連盟 (SNLD) 0 0.0% 15 7.5% 15 3.1%

その他 0 0.0% 23 11.5% 23 4.7%

合計 291 100.0% 200 100.0% 491 100.0%

連邦議会管区域 州

• 管区域(ビルマ族が多く居住:7つ)と州(少数民族が多く居住:7つ)を分けてみると、NLDは管区域で圧勝、州では55%に留まる。

• 州では少数民族政党、及びUSDPも健闘。

• 少数民族政党ではヤカイン民族党(ANP)がヤカイン州で勝利(連邦議会29議席中22議席、75.9%)、シャン民族民主連盟(SNLD)がシャン州で健闘(同60議席中15議席、25%)。唯一シャン州でのみ、USDP(18議席)がNLD(15議席)を超える議席を獲得。

• 少数民族政党は2010年総選挙で15.0%の議席を獲得。2015年総選挙では11.4%に低下。

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得票率からみる2015年総選挙• 両院の得票率でみると、NLDが57%、USDPが28%、その他(少数民族政党が中心)

が15%を獲得。

• 得票率と(獲得)議席割合の差は大きく、小選挙区・単純多数制がNLDに有利に働いた。

• 得票率でみれば、比例代表制への選挙制度の改変が実現していれば、「USDP+軍人議席」で政権維持の可能性もあったかも。

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2015年総選挙 両院における政党別得票率と議席割合

得票率 議席割合 差(議席-得票) 得票率 議席割合 差(議席-得票)

管区域 63.63% 95.65% 32.02 29.21% 4.35% ▲ 24.86

州 33.49% 49.14% 15.65 25.08% 18.10% ▲ 6.98

全国 57.20% 78.95% 21.75 28.33% 9.29% ▲ 19.04

管区域 64.18% 97.62% 33.44 29.13% 2.38% ▲ 26.75

州 33.76% 63.10% 29.33 24.79% 10.71% ▲ 14.08

全国 57.68% 80.36% 22.68 28.20% 6.55% ▲ 21.65

(出所)選挙結果より計算。

NLD USDP

人民院

民族院

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NLDとUSDPの競合状況

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• 管区域(7つ)では、NLDとUSDPの得票率は逆相関。両者は競合関係。• 州(7つ)では、NLDとUSDPの得票率に相関なし。• NLDの得票率が州によって大きく異なるのに対し、USDPは25%程度で安

定。

0%

10%

20%

30%

40%

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80%

USD

P

NLD

図1 NLDとUSDPの管区域・州別得票率

チン州

カイン州

カチン州

モン州

カヤー州

エーヤーワディー マンダレー

バゴーマグエー

ザガイン

タニンダリー

ヤンゴン

7州

7管区域

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NLDと少数民族政党の競合状況

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• 管区域(7つ)では、NLDとその他政党(=少数民族政党が中心)の得票率に相関なし。両者は競合関係にない。

• 州(7つ)では、NLDとその他政党の得票率は負の相関。NLDと少数民族政党が競合。

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ANP vs. NLD• 2015年総選挙ではラカイン州議会(全47議席)の第一

党となったANP(23議席)が州首相を出そうとしたが、NLD(9議席)に阻まれた。NLD政権と禍根を残した。

※州首相は連邦政府の大統領によって任命されるため。

• エーマウン(前)ANP党首は2018年1月15日、ラカイン

州ラテダウン郡区の集会で「仏教徒ラカイン民族は長年、多数派のビルマ民族に虐げられてきた」などと発言。

• 少数民族武装勢力アラカン軍(AA)への支援を呼び掛けたとして、18日までに州都シットウェで逮捕。国家反逆罪で20年の有罪判決。

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中国との関係

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中国との関係• スーチー氏の国家顧問就任後、ASEAN以外では初の外遊先は中国@2016年

8月。その後、北京で開催された「一帯一路サミット」に参加@2017年5月。同年12月に再度訪問。2018年9月、両政府は中国・ミャンマー経済回廊(MCEC)に関する覚書を締結。2019年4月、スーチー氏「第2回一帯一路サミット」に参加。

• 中国の習近平国家主席が2020年1月17-18日、ミャンマーを公式訪問。中国国家主席がミャンマーを訪れたのは、2001年の江沢民氏以来19年ぶり。習主席はミャンマーの開発を支援するため、向こう3年間で40億人民元(約637億円)を供与することを約束。MCECの実現に向けて協力。

• 中国はミャンマーにとって最大の貿易相手国であり、その比重は高まっている(中国のミャンマー全輸出に占める割合:2012年15%→2016年41%、輸入に占める割合:2012年31%→2016年34%)。

• ロヒンギャ問題では中国は国際社会の批判からミャンマーを擁護する立場。軍事政権時代と同じ構図。

• ただし、軍事政権時代と違い、現在のミャンマーには広い外交チャネルがあり、中国への過度の依存は避ける方針。例えば、チャウピューの深海港・SEZ計画の規模縮小を中国に要請など。

• 中国への依存を高め過ぎないように注意しつつ、中国マネーを取り組む戦略。53

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• ミャンマーの輸出は2010年から13年に1.5倍に増加、その後伸び悩み。• 中国向けシェアは2010年6.2%から、2017年には38.9%に上昇。ミャンマー輸出の

増加の約8割は中国向けが貢献。• ラカイン州沖合の天然ガスの中国への輸出が本格化。

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• ミャンマーの輸入は2010年から15年に年平均3割以上の増加。2016年以降、伸び悩み。

• ミャンマーにとって中国(全体の約3割)は最大の輸入相手国。

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国境貿易ルートの寸断• 国境貿易は中緬貿易の約4割。パイプラインで輸送される天然ガ

ス(11億ドル)を除くと、ミャンマーの対中輸出の約6割を占める。国境貿易ルートは実質的に「新ビルマ・ロード」1本しかない。

• 2019年8月15日、AA、TNLA、MNDAAが、マンダレー近郊の

国軍工科大学、シャン州の警察署、橋などを攻撃し、国軍・少数民族武装勢力を合わせて少なくとも15人の死者が出た。国境貿易が一時中断。

• 8月31日、北部同盟(上記3組織+KIA)がチャイントンで協議。9月9日、北部同盟が一方的停戦宣言。

• ラカイン州北部におけるAAと国軍の衝突は継続。死者70名、負傷者180名、国内避難民7万人が発生。

• ネピドーにおいて9月16日・26日、10月16日・26日にテロが起こ

るとの情報あり。大統領府が政府各機関に宛てた機密文書がSNSに漏えい。 57

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中緬国境には旧ビルマ共産党系の少数民族武装勢力が展開

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中国雲南省普洱市に設置された孟連国境ゲート。写真の手前側は少数民族武装勢力中

最大の兵力を誇る統一ワ州連合軍(UWSA)が実効支配するワ州の州都・邦康。2009年7月29日、筆者撮影

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雲南省国境ゲート別貿易額(2006年)

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• 天然ガス・パイプライン:2013年から稼働• 原油パイプライン:2017年から稼働

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ムセ=マンダレー鉄道• 2018年10月、ムセ=マンダレー鉄道F/Sに関するMoU合

意。中国中鉄二院工程集団が実施。

• 全長414キロメートル(11郡)を36駅で片道3時間で結ぶ計画。トンネル60本、橋124本を建設する予定で、総工費は約70億ドル。

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(出所)Eleven, 20 September, 2019.

• 中国「一帯一路」の下の「中国・ミャンマー経済回廊」構想の主要プロジェクト。

• しかし、2019年8月15日以降の治安悪化をうけて、F/Sが中断。

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• 軍政下(1988~2010年度)では、中国(香港経由含む)、タイによる資源開発(天然ガス、水力発電)が大部分。

• 民政移管後(2011年度~)は投資国も分野(製造業、通信、不動産、電力、天然ガスなど)も多様化。中国のプレゼンスは相対的に低下。

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国軍との関係

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言論の自由の後退

• ソーシャルメディア上での発言などで、言論・表現の自由に絡んで訴追された人は、2019年1-6月で250人を超えた(活

動家団体アタンの調査による)。

• 電気通信法や平和的集会・デモ法などが根拠に使われている。

• 国軍、政府ともに厳しい姿勢。

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ロイターの2人の記者の解放を求めるデモ。2人は2017年9月にロヒンギャ10人が殺害された事件を取

材。取材で機密情報を入手したとして、国家機密法違反の罪で500日以上拘束され、有罪判決を受けた。2019年5月7日に恩赦で釈放。

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憲法改正

• 2019年2月:連邦議会に憲法改正に関する合同委員会を設置。

• 同年7月:合同委員会が3,765項目の改正点を含む報

告書を提出。国軍と総司令官の役割の縮小、地方分権の推進、法の支配の確立などを含む。

• 同年8月:連邦議会、賛成票401票、反対票197票で改正案を承認。

• しかし、憲法改正には連邦議会の4分3を超える賛成が必要。軍人議員4分1がいる限り、憲法改正はできない。

• 今回の憲法改正への動きは、2020年総選挙を意識したNLDのポーズか。 66

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国防治安評議会• スーチー国家顧問は、国軍関係者が過半数を占める国防治安評議会(NDSC)を、開催せず。

• 2016年4月にNLD政権は「治安、平穏、法の支配委員会」を設置。しかし、国軍幹部は呼ばれたり、呼ばれなかったり。治安に関する政府と国軍との情報交換の欠如、調整不足。

• 2019年9月、軍人議員とUSDPは共同で、NDSCに議会の解散権を含む大きな権限を与える法案を提出。NLDの反対で否決。NLDと国軍との主導権争い。

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NLDのマニフェスト

1. 少数民族問題と国内和平の実現

2. 全民族が安全に平和に手をつないで生活できる保障を与える憲法の創出

3. 国民に公正・平等に保護を与えられる行政システムを構築

司法制度、国防・安全保障、外交

4. 自由で安全に発展するようNLDは率先して実施

経済、農民(保護、新農政、農村開発)、畜産・水産、労働者問題、教育、保健、エネルギー、環境保全、女性、若者、通信、都市開発

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まとめ• ミャンマーは独立以来、最大の成長機会に直面している。NLD政権当初の経済政策の

停滞は脱却しつつある。中長期的な経済のポテンシャルは大きい。

• ロヒンギャ問題は、解決の道筋がみえない状況が続く。しかし、欧米諸国による深刻な制裁発動はない。

• 周辺地域における、少数民族武装勢力の攻撃による治安の悪化が懸念

→ARSAの攻撃と大量難民の発生、近年激しくなるAAとの戦闘、北部同盟による攻撃と国境貿易の寸断、大統領府のテロに関する警告など。

→NLD政権と国軍との情報交換不足、調整不足が原因か(2008年憲法の問題点の顕在化?)、憲法改正は困難。

• 中国との貿易関係は強化。外国投資における中国のプレゼンスは相対化。以前のような強引な資源開発はできない。「一帯一路」は、国境地域の治安問題もあり、進展は遅い。

• 2020年総選挙を前に、NLDと国軍の主導権争いが活発化か。少数民族政党も反NLDの旗幟を鮮明にしつつある。

• スーチー氏はより経済重視になっている(いく)。

→2019年8月20日、日米両政府が共催する投資フォーラム@ヤンゴンに参加。21日、初めてティラワ経済特区(SEZ)を訪問。

• 2020年総選挙はNLDを軸に展開。スーチー氏の人気は依然として高い。小選挙区・単純多数制はNLDに有利。しかし、少数民族地域ではNLDの苦戦が予想される。総選挙前に選挙区の見直しもあり得るか。単独過半数(選挙議席の2/3超)を、確保できるかが焦点。

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ご清聴ありがとうございました。