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日本小児循環器学会雑誌 13巻1号 60~61頁(1997年)
<Editorial Comment>
手術後早期のバルーン拡大術
東京女子医科大学 中西 敏雄
術後の血管狭窄性病変に対するバルーン拡大術は,待機的に最適な時期に行える場合と,多少時期的に不安
要素があっても救命的に行わざるを得ない場合とがある.前者に関しては,我々は肺動脈狭窄に対し術後3年
半を越さない時期にバルーン拡大術を行うと成功率が高くなることを示した9).一方,術後どれだけ早期にバ
ルーン拡大術を行えるかは不明である.少なくとも術直後には,縫合部は他の自己血管組織よりは脆弱であろ
うから,術直後にバルーン拡大術を行えば,縫合部から断裂するであろう.大動脈縮窄の術後狭窄をはじめと
する手術後の血管狭窄に対するバルーン拡大術は,血管周囲の癒着組織の存在ゆえに,比較的安全であるとさ
れている.術後どれだけ早期に癒着が,特にバルーン拡大術を安全たらしめるだけの癒着ができるか,にっい
ての科学的な根拠はない.少なくともその点についての実験的ないし臨床的研究はなされたことはないと思わ
れる.
東舘らの論文は術後56~78日にバルーン拡大術を施行して,血管破裂などの合併症は起こらなかったとい
う.文献的に,手術からバルーン拡大術までの問隔を調べてみると,45日~2カ月位が最短である(表1).大
動脈破裂や偽性動脈瘤が発生したという報告はあるが,手術からバルーン拡大術までの間隔が記載してある報
告では,その間隔は3年,7年と長い.文献5の多施設の集計では,バルーン拡大術施行時の最少年齢は生後
15日であるが,その症例の疾患やバルーン拡大術の方法の詳細は不明である.文献5で死亡例は4例あり,う
ち2例はそれぞれ生後2.6カ月,4.3カ月の左室低形成症候群で,死因は直後心停止,後腹膜出血であったとい
う.拡大部の大動脈破裂の記載はない.以上文献的には最短1.5から2カ月位の期間を手術からバルーン拡大術
まであけている報告が多い様である.
肺動脈狭窄に関しては,Rothmanら’°)は術後4口,2週間後にバルーン拡大術を施行し,肺動脈が破裂した
旨,記載している.彼らは術後2,3カ月以内はバルーン拡大術をしないか,施行しても小さめのバルーンを用
いるよう推奨している.
一方,外科医の術後再手術の経験では,癒着の過程は術後おおむね1カ月をすぎた頃まで進行し,2カ月を
越せば,以降は3カ月,4カ月ではあまり変化しないという.勿論,癒着の進行の程度には個人差があり,長
期間経ても癒着が軽度である症例もある.我々は栄養状態不良の乳児で術後4カ月後に大動脈縮窄に対しバ
ルーン拡大術を行い,偽性大動脈瘤,消化管出血をきたした症例を経験しており,癒着の程度には心不全の有
表1 大動脈縮窄症,術後狭窄に対するバルーン拡大術の報告
文献 著者 症例数 年齢 手術 BA間隔 合併症
1 He】1enbrand 2〔〕0 ]~312ヵ月 1.5~240ヵ月(64.8カ月) 大動脈破裂1例
2 Rao 11 6~108カ月 6~90カ月(平均21)カ月) 大動脈破裂なし
3 Cooper 44 2~240カ月 1.5~18(}カ月(平均49カ月) 大動脈破裂なし
4 AIljos 27 2.6~216カ月 2.0~216カ月(平均2〔〕,4カ月) 偽性大動脈瘤1例
5 McCrindle 325 0.5~648カ月 記載無し 大動脈破裂なし
6 Witsenburg 24 3.6~194カ月 2.4~184カ月(平均79.2カ月) 大動脈破裂なし
7 Balaji 1 8歳 7年 大動脈破裂
8 Joyce 1 5歳 3年 偽性大動脈瘤
BA:バルーン血管形成術
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日小循誌 13(1),1997 61-(61)
無,栄養状態も関与していると思われる’1).全身状態に特に問題がない場合,おおむね2カ月は最低あける方
が安全であるといえるのではないだろうか.その意味では東舘らはほぼ限界の時期にバルーン拡大術を施行し
たといえる.
もし致命的に早期に行う必要が無く,待機的に最適な時期に行える場合には,どのくらい術後経てばよいで
あろうか.私は少なくとも6カ月,できれば1年待ってバルーン拡大術を施行するようにしている.肺動脈狭
窄に対するバルーン拡大術の後,血管に亀裂を生じ,癒着の存在で大出血に至らなかった症例もあるので,癒
着の存在が安全性の面から重要であることは確実である.
Blalock-Taussig短絡術後早期の狭窄に対するバルーン拡大術は,多くは吻合部狭窄に対しなされる.本来
の血管径より大きなバルーンを用いなければ,かなり早期のバルーン拡大術が可能である.術後早期にバルー
ン拡大術を施行する場合.術後早期ほど小さめのバルーンを用い,縮まった吻合部をのばすにとどめた方がよ
いと考える.またバルーン拡大術の危険と,対側の肺動脈への短絡術追加の利点欠点を考慮した上での,早期
バルーン拡大術の施行でなければならない.
さらに,縫合部の狭窄の場合,縫合糸の材質を考慮に入れる方が良い場合もある.吸収糸が用いられている
場合,通常6カ月で吸収される.狭窄の状態によっては,糸が吸収され自己組織のみになっている場合の方が,
バルーン拡大術の効果が良い可能性もある.糸の材質とバルーン拡大術の効果の関係は今後の検討が必要であ
る.
東舘論文の報告は症例数も比較的少なく,多施設での症例の集計が必要と思われる.ちなみに我々の施設で
これまでに術後4カ月未満にバルーン拡大術を施行した症例は,術後肺動脈狭窄による心不全をきたし,術後
82日にバルーン拡大術を施行した5カ月女児1例のみである.
文 献
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3)Cooper SG, Sullivan ID, Wrell C:Treatment of recoarctation:balloon dilatation angioplasty. J Am Coll
Cardiol 1989;14:413 -419
4)Anjos R, Qureshi SA. Rosenthal E, Murdoch L正layes A, Parsons J, Baker EJ, Tynan M:Determinants of
hemodynamic results of balloon dilatation of aortic recoarctation. Am J Cardiol 1992;69:665-671
5)McCrindle BW, Jones TK, Morrow WR, Ilagler DJ, Lloyd TR, Nouri S、 Latson LA: Acute results of balloon
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6)Witsenburg M, the SHK, Bogers AJJC, Hess J:Balloon angioplasty for recoarctation in children:initial and
follow-up results and midterm effect on bl()od pressure. Br Herat J l993;70:170-174
7)Balaji S, Oommen R、 Rees P: Fatal aortic rupture during balloon dilatation of recoarctation. Br Ileart J
1991;65:100-101
8)Joyce DII, McGrath LB:Pseudo-aneurysm f()rmation following balloon angioplasty for recurrent coarcta-
tion of the aorta. Cathter Cardiovasc Diag 1990;20:133-135
9)中西敏雄,松本康俊,富松宏文,朴 仁三,瀬「1正史,中沢 誠,今井康晴,門間和夫:肺動脈狭窄に対するバルー
ン拡大術の成績1)大血管転換症に対するJatene術後の症例.日小循誌 1993;8:645-654
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11)富松宏文,中西敏雄,安井 寛,辻 徹,中沢 誠,門間和夫:経皮的血管形成術後に偽性動脈瘤を形成した一乳
児イ列. 口小循誌 1992;8:376--377
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