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花鳥諷詠®令和 2年 3月■第384号―目 次

第三十一回日本伝統俳句協会賞 2

協会賞   「金魚飼ふ」 和田 和子新人賞   「藍色の空」 原田 佳織協会賞佳作 第一席 「言ひだせぬことば」 宮内 千早      第二席 「門一つ」 松本みず代      第三席 「少 女」 抜井 諒一      第四席 「夜 魄」 森永 清子

花鳥諷詠選集 木村 享史   9松井 秋尚   11

虚子研究 『六百五十句』研究(3) 14

虚子研究 虚子宛書簡を読む(九)  明治二十四年四月二十三日河東碧梧桐書簡(封書) 椋  則子   19

一頁の鑑賞 椋  則子   24松井 秋尚   25

この人の作品 瀬在 光本   26

新刊紹介   27

風報 28

地区行事開催日程表 31編集後記 32

「日本伝統俳句協会」と「花鳥諷詠」は公益社団法人日本伝統俳句協会の登録商標です。

― 9 ―

二句短評

一句目

―お身内の方なのか、そうでなくとも作者に

とっては親炙の思い深かった人なのであろう。

 

世に阿ることなく、市井の片隅で高邁な生涯を閉じ

られた賢人、遺された冬帽に作者の畏敬の念が籠る。

二句目

―古くからの知己ではあるまい。句会で顔を

合わせるようになって、一年が経つのかどうか。

 

それでいて、会うたびに心が通じ親しさを増して来

たひとりの友、満ち足りた思いで納め句座にいる作者。

世の隅に生きて遺せし冬帽子

香 

川 

三 

宅 

久美子

会ふたびに親しくなりて納め句座

大 

分 

村 

上 

久 

教皇の祈る長崎時雨虹

金 

沢 

森 

田 

康 

凩に磨かれて星翼なす

松 

戸 

高 

瀬 

竟 

鰭酒の旨さは父の表情に

高 

松 

藤 

川 

滋 

ベンチみな小春の富士を見る人に

浜 

大庭より江

大根煮る匂ひは母の居る匂ひ

太宰府

柴田慧美子

日に酔うて飛ぶもの数多石蕗の苑

大 

田中 

靖子

凍蝶の命見守りゐる地蔵

奈 

水上 

末子

夕日に向ふ電車一両芒原

防 

藤井 

汎水

髪置の子の姉らしき仕草かな

高 

肥塚 

英子

浪の花愛でて棲み憂き事忘れ

輪 

向 

佐ち子

捥ぐ人も柿も夕日に染められて

西 

三瀬 

教世

人に野に優しさ宿りたる小春

七 

松本 

慶子

読み飽いて又読み次いでなほ夜長

富 

片桐 

久惠

命日の茶の花日和暮れゆけり

鹿児島

角屋敷昭子

まだ縋る力のありて冬紅葉

大牟田

鹿子生憲二

何するも一人といふはそぞろ寒

福 

梶原 

敏子

赤い羽根つけて胸より歩きけり

今 

横田青天子

冬ばらを小さき喜びありて買ふ

町 

村井田貞子

●木村享史 選

入選六十句

特選五句

花鳥諷詠選集

― 10 ―

炉を開く飛石濡らすほどの雨

姶 

五反田加代

立冬や厨の水の尖りをり

能 

三上乃婦子

焼きあがるパンの匂ひや小鳥来る

神 

小河原宏子

盆栽の小さき景や冬紅葉

福 

佐藤 

笹女

黄落の光の中に納骨す

大牟田

山下 

順子

誰彼に飴を配つて日向ぼこ

箕 

須知香代子

高原の風を離さぬ芒かな

高 

柏  

敏子

言ひかけて呑み込む言葉とは寒し 尼 

岩鼻 

絹子

残照の赤あざやかに山眠る 上 

山 立花 

厚子

有終の美とはまつ赤や散紅葉

神 

戸 小柴 

智子

暮色濃きビルの谷間の寒さかな

福 

貝原 

玲子

臘梅の金の鈴なる莟かな

西 

岸本 

悦子

神鼓にもじつと出来ぬ子七五三

北九州

元田 

品子

楽しまん数へるほどの柿干して

鹿児島

所﨑 

玲子

一と色となりし明るさ大枯野

下 

中村 

元代

咲きさうな気配のままの冬薔薇

高 

並木 

秋野

冬蝶をよく見る今日の青き空

知 

田辺 

澄子

聞けばまた講釈長し菊まつり

南 

有川  

剥れ落つ空の一角銀杏散る

鳥 

椋 

誠一朗

目を病みし夫の目となる露けさよ

神 

内田 

泰代

やはらかな光集めて冬菜畑

島 

八木 

花栗

晴れ続く十一月にある油断

倉 

吉田やす子

夫にしか読めぬメモ書き古暦

龍ケ崎

油原めぐみ

好物を足して三日目なるおでん

神 

中井 

陽子

山頂の小春の石に休みけり

日 

辻  

梓渕

なにもせぬことにも飽きて四日かな

静 

𠮷田 

杉菜

饒舌に圧倒されて日短

高 

岩佐 

とよ

細ぼそと暮らす山家の冬菜畑

成 

阿部ひろし

立山に日の丸まろと蒲団干す

富 

高城 

玲子

北窓を塞ぎ寄り添ふ峡十戸

神 

池田雅かず

― 11 ―

張り詰めてどこか華やぐ初点前

芦 

山岸 

正子

補習終ふ黒板を消し日短

東 

坂口 

祐子

誰よりも初鴨待つて居られしに

柳 

田中 

貞子

耳鳴の他は音無し冬の庭

金 

大岸 

青夏

忘年会果てて真顔の囲む句座

さぬき

原  

道子

種蒔いて逝かれし人の冬菜畑

鹿児島

坂本 

啓子

エンディングノート花柄冬灯

鹿児島

蓑輪ムツ子

枯木立この親しさのいづくより 青 

長島 

喜美

極月の言葉に追はれをりにけり 前 

相澤 

富子

冬雲を透け来日脚の万華鏡

高 

松 佐々木 

散紅葉掃かざることも禅寺かな

倉 

江原由美子

化野の仏と濡るる夕時雨

石 

駒形 

隼男

丁寧に眼鏡のくもり拭く小春

鹿児島

松尾千代子

海静か忘れられたる開戦日

西 

濱永 

宗一

ランドセル呑み込んでゆく雪しまき

さいたま

太田 

野風

二句短評

一句目

―落葉を踏む音は、葉の大きさや積もった深

さで変わってくる。落葉道を歩くと、落葉を踏む音が

ついて来る感じがする。「一人」を二回使い、落葉を

踏む音に焦点を絞ることで、静けさが見事に描かれて

いる。

二句目

―葉の色も花の色もなくなり、すっかり枯色

になったことで、枯野が明るさを増し広く感じる。荒

涼とした枯野に美を見出すようになったのは中世以降

と言われるが、その枯野の美しさを大きな景で捉えて

いる。

一人踏む落葉一人の音重ね

鎌 

倉 

緒 

方 

初 

一と色となりし明るさ大枯野

下 

関 

中 

村 

元 

綿虫に湿りの重さありにけり

東大阪 

中 

田 

豪 

なほざりにあらざる庭も末枯るる

高 

松 

岡   

悦 

書肆に立つ師走の音を遠くして

熊 

本 

力   

幸 

●松井秋尚 選

特選五句

― 12 ―

大根煮る匂ひは母の居る匂ひ

太宰府

柴田慧美子

茶会より句会へ回り日短

泉大津

多田羅初美

納戶へと仮置くことも年用意

米 

成宮 

伯水

案山子みなポーカーフェース貫けり

福 

廣本 

貢一

我が影に追はれ師走の刻を追ふ

宇 

永田 

芳子

ためらひの音を重ねて落葉踏む

福 

𠮷田由美子

読み飽いて又読み次いでなほ夜長

富 

片桐 

久惠

零れつぐ花柊に一日暮る 高 

前田まこと

落葉踏む還らざる日を音にして 下 

関 貞包 

清子

鳩分けて巫女走りくる初しぐれ

福 

岡 津田 

富子

足跡は女の歩幅霜の朝

宍 

德田 

柴紋

炉を開く飛石濡らすほどの雨

姶 

五反田加代

一駅の電車の旅や児ら小春

福 

杉原 

芳子

うすき日を手離すやうに銀杏散る

松 

加藤 

あや

木枯にこがらしの音ぶつかりぬ

高 

静川あさえ

黄落の光の中に納骨す

大牟田

山下 

順子

吾を知らぬてふ母を訪ふ小六月

兵 

松下 

孝裕

高原の風を離さぬ芒かな

高 

柏  

敏子

猫と吾と玻璃戸挟みて日向ぼこ

高 

藤岡 

孝子

忙しさにいつか忘れてゐる寒さ

市 

飯塚 

咲子

万葉の山を暗ます時雨かな

江 

安田 

心道

無為といふ安らぎのあり冬紅葉

大牟田

西坂美也子

仕舞には風の形となる冬木

西 

山之口倫子

大年のなほ捨てきれぬ夫の物

高 

白根 

純子

咲きさうな気配のままの冬薔薇

高 

並木 

秋野

肩先に雲引つ掛けて山眠る

白 

西 

登美枝

もう掃かぬ掃かぬと言ひつ掃く落葉

長 

安井 

里子

顔ぶれの違へばまたも年忘

芦 

田村惠津子

鉛筆はやはらかきもの冬に入る

鹿児島

椎原きあぬ

蒼天にためらふ音や松手入れ

宍 

平瀬 

成紀

入選六十句

― 13 ―

熱燗や今更夫の誕生日

高 

貫野  

今しがたありし冬日の早や逃げて

野々市

辻  

文江

やはらかな光集めて冬菜畑

島 

八木 

花栗

燻りの色の変りて落葉燃ゆ

西 

西川キヌヱ

予定なき日も埋まりゆく師走かな

高 

和泉 

金子

雪吊の縄均衡と均整に

泉大津

多田羅紀子

年輪の見ゆる伐り口年木積む

倉 

木村英一郎

好物を足して三日目なるおでん 神 

中井 

陽子

鉄瓶の白湯まろやかな冬日和 富士吉田

渡辺伊勢乃

開け放つ窓に初雪招き入れ

芦 

屋 奥田 

好子

手も声も皺も母似よ大根炊く

福 

阿部 

弘子

散り敷きてこそ山茶花でありにけり

西 

宮本 

露子

饒舌に圧倒されて日短

高 

岩佐 

とよ

枯菊の括らるる向き傾ぐ向き

高 

藤岡 

正子

細き枝に余白残して冬桜

伊勢崎

村上 

節子

雪囲済みたる庭の風の道

小 

辺見 

綾子

言ふほどに事の進まぬ師走かな

久留米

吉田いずみ

空の青極まり神の旅日和

稲 

興  

正子

補習終ふ黒板を消し日短

東 

坂口 

祐子

影絡む百態の枝枯木立

松 

山根 

正巳

蓮もはや悔なきごとく枯れにけり

我孫子

柳沢いわを

動くこと止めたものたち冬日向

埼 

真篠みどり

全身に宴の余韻冬銀河

糸 

宮脇 

睦子

数へ日の点滴時を刻みをり

福 

三坂 

一生

人声のなき静けさに鴨浮寝

岡 

長江 

康子

頑なに宛名は自筆賀状書く

徳 

秦  

和男

追伸の二行書きたす寒さかな

大 

平  

英子

咲き終るときは傾ぎてシクラメン

八 

堀内 

順子

席入りを待つ華やぎの障子の間

芦 

山村千惠子

塗り立ての落葉の色の小径かな

さいたま

後藤 

光風

― 32 ―

 

春めきし山河消え去る夕かげり

虚子

 

平成から令和に代わった二〇一九年

度。その最終刊をお届けします。

 

新型コロナウイルスが猛威を振るっ

ています。何事も健康が一番です。く

れぐれもご注意ください。

  

二月十五日(土)、第十六回国際俳

句シンポジウムが芦屋の虚子記念文学

館にて開催され、「俳句とは」という

テーマで活発な意見交換がなされまし

た。ご参加いただきました皆様ありが

とうございます。シンポジウムの内容

はいずれ誌面でご紹介する予定です。

また、次回は二〇二二年二月の開催と

なります。皆様のご参加をお待ちして

います。

〈公告〉

●第三十一回日本伝統俳句協会賞の本

選選考が、去る一月十八日(土)、厳

正に行われたことをご報告します。本

賞は協会の公益事業の中の表彰事業の

中核をなすもので、結果は本誌二頁よ

り掲載したとおりです。選考経過、お

よび選考委員の報告、受賞者の言葉は

四月号にて掲載の予定です。

●二〇一九年度第二回常務理事会およ

び理事会を、一月二十五日(土)に開

催致しました。主なる審議事項である

次年度の事業計画と予算案は全員一致

で可決致しました。年度内に内閣府に

提出し、四月号にて報告致します。

編 集 後 記

花鳥諷詠三月号(通巻第三八四号)

定価二五〇円 

但し、本代は年会費に含む

年会費一〇、〇〇〇円

令和二年三月一日

発行人 

稲 

畑 

汀 

発行所 

公益社団法人

日本伝統俳句協会

〒151-

0073 

東京都渋谷区笹塚二-

一八-

    

シャンブル笹塚二-

B一〇一

電 

話 

〇三-

三四五四-

五一九一

FAX 

〇三-

三四五四-

五一九二

郵便振替 口座番号 〇〇一六〇-

七-

一八六八二〇

印刷所 

日本ハイコム㈱

〒112-

0014 

東京都文京区関口一-

一九-