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写真1 1987年に大分県で捕獲された 九州最後のクマの剥製 提供:豊後大野市歴史民俗資料館 20 ツキノワグマ Ursus thibetanus 西使調西西調調

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Page 1: 研究組織紹介 - ffpri.affrc.go.jp › thk › research › publication › ffpri › docu… · 屋外隔離ほ場 これがお宝 石井 克明 森林バイオ研究センター長

屋外隔離ほ場こ れ が お 宝

石井 克明 森林バイオ研究センター長

森 はたらきの

図1 大正7年(1918年)からの積雪深データ   毎年積雪がいちばん深いときの値を示したもので、最大は昭和20年(1945年)の

425cm、最小は平成元年(1989年)と平成19年(2007年)の81cm。

写真2 分解が遅い環境下の堆積腐植層と鉱質土壌層の様子    破線が境目。堆積腐植層が厚いことが分かる。    (北緯60度、カナダの亜寒帯林)

写真1 分解が速やかな環境下の落葉層と鉱質土壌層の様子    落葉層の直下に鉱質土壌層が現れる(コナラ二次林)

▲スギとその遺伝子の地図の一部

▲高耐火技術の高度化林地残材の安定供給

木質バイオマスの変換・利用

▲大断面製材に適した いろいろな乾燥技術の開発

図1 遺伝タイプの系統関係   赤い星はDNA分析に基づく九州最後のクマの

遺伝タイプ

図3 画像解析の結果

▲台風による山地崩壊 平成23年奈良県吉野郡野迫村

▲豪雪地域の積雪調査 新潟県十日町市▲水源林で記念植樹

▲整備された農用地

▲かなやま湖と水源林

▲耐塩性遺伝子組換えポプラの作出 根から大量の塩化ナトリウムを吸収させた野生型ポプラは数日内に枯死します。エチレン合成を抑制したオゾン耐性組換えポプラは、この期間内に葉が枯れないだけではなく、光合成活性も維持します。

誰でも利用できる森林生物遺伝子データベース(ForestGEN)

(http://www.ffpri.affrc.go.jp/database.html)

▲スギ苗1本当たりの植付け所要時間の比較

写真1 1987年に大分県で捕獲された九州最後のクマの剥製

 提供:豊後大野市歴史民俗資料館

写真1 炭素繊維調製のために溶融紡糸したリグニン(左は原料粉末)

写真2 原料のスギ葉と抽出した精油

図2 微生物の能力を活用した木質成分から化学工業素材への変換技術

多様な雄性不稔スギの組織培養

マツノザイセンチュウ抵抗性に寄与するクロマツの連鎖地図上での領域の検出のための接種検定 遺伝子組換えに用い

るスギの不定胚

雄性不稔化遺伝子を組換えたスギの細胞由来の不定胚の発芽

写真2 原料のスギ葉と抽出した精油

写真1 炭素繊維調製のために溶融紡糸したリグニン(左は原料粉末)

熱帯林での地上調査 森林減少の現状

多様な雄性不稔スギの組織培養

マツノザイセンチュウ抵抗性に寄与するクロマツの連鎖地図上での領域の検出のための接種検定

遺伝子組換えに用いるスギの不定胚

雄性不稔化遺伝子を組換えたスギの細胞由来の不定胚の発芽

熱帯林での地上調査 森林減少の現状

図1 間伐一年後と三年後に採集された昆虫(ハナバチ・チョウ・ハナアブ・カミキリムシ)の個体数と種数

   図中の色の濃い箇所は統計的に間伐区の

○丸太組工(積上工)により設置した作業道

○丸太組工法の改良(積上工⇒のり留工)(地山傾斜35°での場合)

○丸太組工(積上工)により設置した作業道○丸太組工(のり留工)により設置した作業道

図3 雨による川の水量の時間変化   すぐに流出する水とゆっくり流出する水がある

図1 森林にふった降水のゆくえ   大きくみると蒸発散と流出にわかれる

図2 斜面における水の動き   いろいろな場所をさまざまな速さで動いている

炭素繊維

木質単層トレイ

▲新緑のコナラ二次林中に咲くカスミザクラの花 カスミザクラも含めて多くの木の新葉が展開し始めているので、花はヤマザクラやエドヒガンのようには目立たない

カスミザクラの花

 典型的なカスミザクラは花の柄に

毛がある(左上)が、まったく毛が

ない(右下)個体も数多い

南日本グループ(四国・紀伊半島)

台湾中国雲南省

北朝鮮

西日本グループ(琵琶湖~中国地方)

四国紀伊半島

北近畿西

西中国

東中国西中国北近畿東

東日本グループ(琵琶湖~東北)

図2 遺伝グループごとのツキノワグマの分布域   水色:東日本グループ、緑色:西日本グループ、赤色:南日本グループ。東日本グ

ループで確認されている全38タイプのうち主要な12タイプの捕獲地点をそれぞれのマークで示す。白丸は琵琶湖から東北地方にかけて広範囲で観察される。他のタイプは局所的に分布している。赤三角と楕円は九州最後のクマと同じ遺伝タイプを持つ個体の捕獲地点とその分布域。九州の地図の赤い星は九州最後のクマの捕獲地点。

-中山間地農林業振興の成果をPR-

物)を見た。」という情報が時折寄せられています。そこで今年の初

夏から秋にかけて主にクマの研究者や専門家からなる「日本クマネッ

トワーク」が大規模な生息調査を行いましたが、残念ながらクマの生息

は確認されませんでした。もちろんこれによって九州のクマが一〇〇%

絶滅したと言い切れるわけではありません。科学が

もっとも苦手とするもののひとつとして、「無い」

ということの証明があります。そのため五〇年とい

う目安が作られているわけですが、我々国民に求め

られているのは絶滅したことの証明ではなく、その

ような事態に至った経緯を反省し、それを繰り返さな

いことなのでしょう。

森林遺伝研究領域では、森林を構成する樹木の遺伝子の構造や多様性について

研究しています。

他の生物と同じように、樹木の体内にも何万種類もの遺伝子があり、様々な形質

の発現に関わっています。遺伝子は、染色体という細い糸の上に、それぞれの樹木に

よって決まった順番に並んでいるので、その並び方を明らかにした地図を作るとと

もに、遺伝子と様々な形質との関係を調べています。スギやヒノキなど林業で重要

な樹木の多数の遺伝子の構造を調べた結果をデータベースとして公開しています。

これらの遺伝子情報は、優れた品種の創出のために活用されています。

また、同じ種類の樹木であっても、人間の血液型の場合と同じように、個体によっ

て遺伝子の型が少しずつ異なります。このことを遺伝的多様性と言いますが、大変

重要な役割を持っています。なぜなら、様々な型の個体が共存することにより、地球

温暖化などの自然環境の変化に適応することが可能であると考えられているから

です。また、例えば病虫害などに強い新しい品種を作るときにも、遺伝的多様性が

必要です。

そこで、主要な針葉樹や広葉樹の天然林について、地域による遺伝的多様性の違

いを明らかにするとともに、絶滅危惧樹種について遺伝的多様性が減少する過程の

研究も行っています。こうした取り組みにより、遺伝的多様性が維持されることも

含め、森林の貴重な遺伝資源を将来にわたって確実に保全していく仕組みを解明し

ています。

大径木の大量入手が困難になっていることに加え、建築現場での作業の合理化の要請か

ら、様々な木質材料が建築や家具あるいは自動車の内装などに利用されています。このこと

は、地球環境保全の上で、木質資源をより多く、かつ無駄なく利用できるという意味で大変

意義深いことです。

木質材料とは、小さな木材や木片、または木材ファイバーなどの木質エレメント(構成単

位)を接着して製造する再構成木材のことで、集成材、単板積層材、合板類のほか、パーティ

クルボードやファイバーボードなどのボード類などがあります。これらの材料は狭義では

一般の木材と区別されており、中小径木や製材廃材、建築解体材などが原料です。

私ども複合材料研究領域ではこれらの木質材料の開発や強度性能、耐久性、揮発性有機

化合物(VOC)の放散特性などの性能評価と性能評価方法の開発などを行っています。

最近の主な研究トピックスの一つは異樹種集成材や、小径木から製造できる台形ラミナ

集成材、幅はぎラミナ集成材などの研究により、これらの集成材が日本農林規格(JAS)に

採用されたことです。国産材の需要拡大と有効利用に結びつくことを期待しています。詳細

については本誌の特集(八〜九頁)をご覧下さい。

もう一つは各種木質材料からのVOC放散特性の解明や放散量の低減化、評価方法の開

発です。これらの研究により、ホルムアルデヒド放散量に関してJASとJISに四つの区

分が作られ、建築基準法上、F☆☆☆〜F☆区分のものには使用制限が課せられますが、放

散量の最も少ないF☆☆☆☆区分のものは内装材として無制限に利用できることになって

います。また、業界自主表示制度の対象であるトルエン、キシレン、エチルベンゼン、スチレン

の四つのVOCに関しては、木材や木質材料からの放出は基準値より低く、安全であること

などを明らかにしました。

21 20

写真1 開発したマツノザイセンチュウ検出    キットの試験結果

写真2 2000年三宅島噴火被災地で実施され    た緑化試験

陽性 陰性

写真2 インドネシア東カリマンタン州の低地フタバガキ林    1ヘクタールに100種以上の樹木が混じり合って生えている。

▲写真1 ダルマガ試験林での幹直径測定。幹の太さは地上130cmで測定したが、板根が発達した樹木については板根の上端から30cmの位置で幹直径を測定した。幹直径と樹高からそれぞれの木の乾燥重量を算出した。

写真2 インドネシア東カリマンタン州の低地フタバガキ林 1haに100種以上の樹木が混じり合って生えている。

▲黒竜江省の林場の一つ

▲黒竜江省の位置

▲「森林資源を保護し伐採中心から生態系を守る林場へ」という意味のスローガン

▲遺伝子組換えポプラの植栽試験

写真2 DNA材料を採取するためのヘアトラップを通過する

森林総研の22ある研究領域、推進拠点を順番に紹介しています

写真1 ダルマガ試験林での幹直径測定。幹の太さは地上130cmで測定したが、板根が発達した樹木については板根の上端から30cmの位置で幹直径を測定した

(特定中山間保全整備事業の意義)

 森林総合研究所森林農地整備センターで

は、中山間地の農林業の振興を図るため、

農地とその水源となっている森林の整備を

一体的に実施する『特定中山間保全整備事

業』を実施しています。この事業は、森林

と農地が入り組み、密接に繋がっている中

山間地域において、水源の森林の整備と下

部に広がる農地、これらを繋ぐ農林業用道

路を一体的・総合的に整備して、地域振興

を目指すものです。

 また、この事業は、森林と農用地を一体

的に整備する初めてのもので森林や農用地

の持つ公益的機能を活かす観点で、通常は

植栽から始まる水源林造成に加えて生育途

上の手入れ不足の森林を整備の対象にする

とともに、鳥獣害防止柵等の整備や小規模

農業用用排水路の整備、耕作放棄地となっ

た農地を森林に戻す林地転換を事業種に加

えていることが特徴です。

(事業の実施状況)

 当センターでは、阿蘇小国区域、邑智西

部区域、南富良野区域の三区域で特定中山

間地域保全整備事業を進めてきました。こ

のうち、阿蘇小国区域は平成二一年度に完

了し、残る南富良野区域は平成二四年度末

学部北海道演習林の主催で、森林と農用地

の整備で関わりがある森林総合研究所も共

催者として参画しています。平成二二年度

の富良野市を皮切りに、富良野地区五市町

村の持ち回りで開催し、有識者による講演

及び地域住民の方々との意見交換等を行っ

ているものです。

 今回のワークショップでは、特定中山間

保全整備事業の実施による地域の景観の保

全や産業の振興への効果が改めて評価され

るなど、意義深いものとなりました。

 当センターとしても、ワークショップに

積極的に取り組み、事業の成果をPRする

とともに、現地検討会を先行開催し、職員

が水源の森林の役割や農用地との関わり、

事業が目指す農林業振興の姿などについて

参加者に説明し、意見交換や記念植樹を行

いました。

に、また邑智西部区域は平成二五年度末に

それぞれ完了する予定です。

 南富良野区域の事業では、区域の重要な

水源となっている「かなやま湖」上流部の

森林等の水源かん養機能を高度に発揮させ

るために、地域の特性を活かして森林と農

用地を一体的に整備し、「緑と水の豊かな

ふるさと」づくりに努めています。これま

でに、水源林二五八㌶、農用地六〇七㌶、

獣害防止柵四八㌖、農業用用排水路二三

㌖、林地転換二㌶を整備しています。

(事業成果の明確化とPR)

 富良野地区事業等を通じた中山間地域振

興の意義の明確化と今後の展開方向を探る

ため、去る六月八日に南富良野町で「富良

野地区合同ワークショップ」が開催されま

した。このワークショップは、東京大学農

 森林バイオ研究センターでは、最先端の遺伝子組換え技術を用いて、いろ

いろな病虫害に強くて成長も良い、夢の「スーパー樹木」を創出するための

研究を行っています。

 遺伝子組換え技術で創出した新しい樹木は、まず実験室や閉鎖系の温室

などで期待した特性が確保されているか等チェックされた上で、さらに屋外

で、形質の発現・確保や他の野生生物への影響の有無等を検討する植栽試験

を受け、評価されます。

 このほ場は、そうした屋外試験のために、二〇〇六年に造成したもので

す。六〇m×五四mの長方形で、林業用では国内最大です。枝の飛散防止の

ための高さ八mのフェンス、根の場外延伸防止のための深さ一mのコンク

リート壁が備わり、監視カメラや赤外線センサーでほ場外への持ち出しを常

時警戒します。一〇tの洗浄水貯水設備に機械等の洗い場、試験終了後に

樹木を焼却する炉などもほ場内にあります。

 二〇〇七年から、このほ場を利用して、セルロース含有量が高く、バイオエ

タノール生産に適した遺伝子組換えポプラの試験を行っています。産業利用

目的として日本で初めて農林水産、環境両大臣から承認を受けた組換え樹

木について試験しているもので、現在、さまざまな知見の収集を積極的に進

めています。

 森林バイオ研究センターでは、最先端の遺伝子組換え技術を用いて、いろいろな

病虫害に強くて成長も良い、夢の「スーパー樹木」を創出するための研究を行ってい

ます。

 遺伝子組換え技術で創出した新しい樹木は、まず実験室や閉鎖系の温室などで

期待した特性が確保されているか等チェックされた上で、さらに屋外で、形質の発

現・確保や他の野生生物への影響の有無等を検討する植栽試験を受け、評価されま

す。

このほ場は、そうした屋外試験のために、二〇〇六年に造成したものです。六〇メー

トル×五四メートルの長方形で、林業用では国内最大です。枝の飛散防止のための

高さ八メートルのフェンス、根の場外延伸防止のための深さ一メートルのコンク

リート壁が備わり、監視カメラや赤外線センサーでほ場外への持ち出しを常時警戒

します。一〇トンの洗浄水貯水設備に機械等の洗い場、試験終了後に樹木を焼却

する炉などもほ場内にあります。

 二〇〇七年から、このほ場を利用して、セルロース含有量が高く、バイオエタノー

ル生産に適した遺伝子組換えポプラの試験を行っています。産業利用目的として日

本で初めて農林水産、環境両大臣から承認を受けた組換え樹木について試験してい

るもので、現在、さまざまな知見の収集を積極的に進めています。

▲屋外隔離ほ場の外観

-中山間地農林業振興の成果をPR-森林(もり)を創り活かす

森林農地整備センター 南富良野建設事業所  所長 河野 健二札幌水源林整備事務所 所長 船城 保明

○丸太組工(積上工)により設置し

 「森林バイオ研究センター」は、研究開発や育種にかかる森林バイオ研究を積極的に推進

するため、二○○七年に新たに設立されました。研究課題としては、花粉症対策につなが

る、先端技術を用いた雄性不稔スギの開発や、抵抗性種苗の開発に欠かせない、遺伝子レベ

ルでのマツノザイセンチュウ抵抗性の特性解明、あるいは有用広葉樹の遺伝的特性の解明

が主なものです。

 雄性不稔スギの開発では、従前からあるスギの優良品種に雄性不稔化遺伝子を導入して

組換え体の作出を目指していますが、既に雄性不稔化遺伝子をスギの培養細胞に導入して

形質転換スギの幼植物体を得ています。さらに、遺伝子組換え樹木の環境影響評価にも取

り組んでおり、産業用としては樹木で我が国始めてとなる野外試験を行っており、各種の

データを取得し将来の遺伝子組換えスーパー樹木の活用の準備となる知見を得ています。

 また、病虫害抵抗性育種では、マツノザイセンチュウ抵抗性と連鎖する遺伝子マーカーの

開発を推進し、クロマツの連鎖地図を作成し、抵抗性形質に関連する遺伝子が座乗してい

る可能性のある連鎖群を明らかにしています。今後、この成果を遺伝子マーカーによる抵

抗性種苗の早期選抜に役立

てていくことにしています。

 広葉樹の遺伝的特性の解

明に関しては、核遺伝子のマ

イクロサテライトによる遺

伝的多様性の評価をブナや

カシで行っています。このほ

か、十系統以上の雄性不稔ス

ギの組織培養条件を検索し、

大量増殖技術や育種素材の

創出に役立てる研究に取り

組んでいます。

森林バイオ研究センター

REDD研究開発センター

研究組織紹介

 近年、熱帯林などの森林の減少や劣化による二酸化炭素の排出をいかに低減していく

か、に国際的な関心が高まっています。と言うのも、温室効果ガスの総排出量の約二割は

森林の減少・劣化に由来するものであり、これを抑制することが地球温暖化を緩和する

上で、緊急の課題になっているからです。

 この問題を解決する国際的枠組みが「REDDプラス」ですが、「REDD研究開発セン

ター」は、世界的な動向や情勢を分析し、技術開発や民間ベースの活動支援を推進してい

くためのわが国の拠点として、平成二二年七月に開設されました。

 当センターでは、REDDプラスに係わる政策

研究や、森林の減少・劣化による炭素量変化をモニ

タリングする技術開発をベースに、東南アジアや

中南米地域に幅広く適用できる方法論の開発や

ガイドラインの提案を行うとともに、技術講習を

通じた人材開発や国際ワークショップの開催等を

総合的に推進することにしています。

 研究開発の分野では、既にカンボジアとマレー

シアにおいて共同研究を開始しています。また、生

物多様性条約COP10(二〇一〇年一〇月)や気

候変動枠組条約COP16(同年一二月)でのサイ

ドイベントとして国際ワークショップを開催した

ほか、森林技術者講習(同年一二月)を開催し、R

EDDプラスへの理解の醸成と支援基盤の充実に

努めました。

 REDDプラスの最新の情報や成果は以下の

ウェブサイトでご覧になることができます。

http://ffpri.affrc.go.jp/redd-rdc/

ルト、砂など)と結びつき、土壌の中に吸着・保持されます。つまり、土壌は

「森林を支える養分の貯蔵庫」になっているのです。

 また、森林の土壌は、地球温暖化の原因である二酸化炭素の貯蔵庫とし

ても重要です。

 樹高が三〇mに達するような森林は、地上部だけでha当たり二〇〇t

以上もの大量の炭素を蓄えています。これに対して、落葉が積もっている

落葉層とそのすぐ下の鉱質土壌層だけでも、深さ一mのところまでで、ha

当たり一〇〇t以上(土壌によっては三〇〇t超)の炭素を蓄えているこ

とが、森林総合研究所の調査で明らかにされています。

(http://www.ffpri.affrc.go.jp/labs/fsinvent/index.htm

l

 健全な森林を守り育てていく上で、土壌の持続的管理が非常に重要です。

落葉層と鉱質土壌層から成っている森林土壌を壊さずに失わずに保全す

るため、森林総合研究所では土壌流亡を防ぐための研究も行っています。

 森林の土壌は表面が落葉層で被われています。分解が速やかな環境で

は落葉層の直下に土の層(これを鉱質土壌層といいます)が現れますが

(写真1)、寒冷地や極端に乾燥する環境条件では、落葉などの分解が遅い

ため腐植が厚く堆積した層(これを堆積腐植層といいます)が見られます

(写真2)。

 森林の土壌は、養分や水分を樹木に与えて生育させる機能はもとより、

樹木を支える機能、微生物の活動の場を与えて養分を作り出す機能があ

ります。また、私たちに対して、水源涵養や洪水の防止、水質の浄化という

重要な恵みをもたらします。

 森林も農地も土壌が支えていますが、農地の土壌が化学肥料や農薬の

投入で効率良く生産するのに対して、森林の土壌は、自然の物質循環を基

本にしています。森林の土壌はその表面が落葉層で被われていますが、そ

れが微生物等によって分解されてできる養分が水や土壌の粒子(粘土、シ

けでなく、樹木の葉から水蒸気を蒸散したり、雨を遮断したりする

ので、森林の存在自体も水の循環や気象条件に大きく影響します。

また、地質や植生、施業によって山地の保水量や流出量、水質が違

いますので、水量の長期観測や水質モニタリングを行っています

Q 昨年は東日本大震災で津波により東北の海岸林が壊滅しました。

  また原子力発電所事故による放射能汚染も深刻です。

 海岸林の被害は深刻ですが、津波の到達を遅延させたり、漂流物

を補足したりする効果が確認できました。今後は海岸林の復旧への

協力やクロマツだけでなく広葉樹もまじえた海岸林への誘導などを

進めます。放射性セシウムの拡散により広い範囲の森林が汚染され

てしまいました。森林のセシウムの分布や移動はほとんどわかって

いません。セシウム一三七の半減期は三〇年と長いので、今後も長

期的な調査をすすめる予定です。

 森林総合研究所は、平成二三年度から五ヶ年間の第三期中期計画

を策定しました。新たな中期計画では、産業と科学技術の発展に貢

献するため九つの課題を重点的に進めることとしています。

 今回は、「気候変動に対応した水資源保全と山地災害防止技術の

開発」について、高橋正通・研究コーディネータ(国土保全・水資

源研究担当)に聞きます。

Q 研究開発の背景はどのようなことなのですか

 日本の国土の六七%は森林です。そのため森林を適切に管理する

ことは、国土を保全し安全・安心な生活につながります。また山地

森林は水源林となっており、私たちの日常生活や産業に利用される

水資源を供給しています。しかし、最近の気象観測によると地球は

温暖化しており、その影響により世界各地で異常気象が増加し、日

常生活や産業に深刻な影響を及ぼしつつあります。日本でも昨年は

大雨が続いて紀伊半島で大規模な土砂崩れが起き

ました。

Q 山地災害を防ぐにはどうしたらよいでしょ

う。

 これまで経験したことのないような極端な気象

による未曾有の災害を防ぐのは容易ではありませ

ん。しかし、複雑な山地崩壊のメカニズムを実験

的に解明して危険な地域を予測したり、間伐など

の森林整備が土壌保全や水循環に及ぼす効果を検

証して、森林管理の改善策を提言するなど、地道

な工夫や対策を進めていくことが山地災害を低減

するためには大切と考えています。

Q 気候変動は水資源にも影響しそうです。

 そうです。温暖化による雨量や積雪量の変化だ

事業成果の明確化とPR

 富良野地区事業等を通じた中山間地域振興の意義の明確化と今

後の展開方向を探るため、去る六月八日に南富良野町で「富良野

地区合同ワークショップ」が開催されました。このワークショッ

プは、東京大学農学部北海道演習林の主催で、森林と農用地の整

備で関わりがある森林総合研究所も共催者として参画していま

す。平成二二年度の富良野市を皮切りに、富良野地区五市町村の

持ち回りで開催し、有識者による講演及び地域住民の方々との意

見交換等を行っているものです。

 今回のワークショップでは、特定中山間保全整備事業の実施に

よる地域の景観の保全や産業の振興への効果が改めて評価される

など、意義深いものとなりました。

 当センターとしても、ワークショップに積極的に取り組み、事業

の成果をPRするとともに、現地検討会を先行開催し、職員が水源

の森林の役割や農用地との関わり、事業が目指す農林業振興の姿な

どについて参加者に説明し、意見交換や記念植樹を行いました。

特定中山間保全整備事業の意義

 森林総合研究所森林農地整備センターでは、中山間地の農林業の

振興を図るため、農地とその水源となっている森林の整備を一体的

に実施する『特定中山間保全整備事業』を実施しています。この事

業は、森林と農地が入り組み、密接に繋がっている中山間地域にお

いて、水源の森林の整備と下部に広がる農地、これらを繋ぐ農林業

用道路を一体的・総合的に整備して、地域振興を目指すものです。

 また、この事業は、森林と農用地を一体的に整備する初めてのも

ので森林や農用地の持つ公益的機能を活かす観点で、通常は植栽か

ら始まる水源林造成に加えて生育途上の手入れ不足の森林を整備の

対象にするとともに、鳥獣害防止柵等の整備や小規模農業用用排水

路の整備、耕作放棄地となった農地を森林に戻す林地転換を事業種

に加えていることが特徴です。

事業の実施状況

 当センターでは、阿蘇小国区域、邑智西部区域、南富良野区域の

三区域で特定中山間地域保全整備事業を進めてきました。このう

ち、阿蘇小国区域は平成二一年度に完了し、残る南

富良野区域は平成二四年度末に、また邑智西部区域

は平成二五年度末にそれぞれ完了する予定です。

 南富良野区域の事業では、区域の重要な水源と

なっている「かなやま湖」上流部の森林等の水源か

ん養機能を高度に発揮させるために、地域の特性を

活かして森林と農用地を一体的に整備し、「緑と水

の豊かなふるさと」づくりに努めています。これま

でに、水源林二五八㌶、農用地六〇七㌶、獣害防止

柵四八㌖、農業用用排水路二三㌖、林地転換二㌶を

整備しています。

森林の土壌― 森林を支える養分の貯蔵庫 ―

松浦 陽次郎(国際連携推進拠点 国際森林情報推進室長)

気候変動に対応した水資源保全と山地災害防止技術の開発

「第3期中期計画」の紹介(6)

う ま

ツキノワグマ㉑

ていたことから、私たちはこれを提供していただき、遺伝解析を行い

ました。九州地方のツキノワグマの遺伝的組成はわかっていません

が、大陸から日本に渡来してきた経緯などから、西日本または南日本

グループに属するタイプ、もしくはそれらに近いものだと推測されま

す。しかし、この九州最後のクマの遺伝タイプは東日本グループに属

しており、福井県嶺北から岐阜県北部に局所的に分布するタイプでし

た。前述の通り、琵琶湖の東西で異なる遺伝グループは数万年以上に

わたって続いており、九州で東日本グループの遺伝タイプが観察され

たことは、人為的な移入があったこと以外に説明がつきません。この

ため、この九州最後のクマは本州から持ち込まれたか、持ち込まれた

個体の子孫だと結論づけられました。

 環境省のレッドリストでは野生絶滅の基準は「過去五〇年間前後の

間に、信頼できる生息の情報が得られていない」としています。一九

八七年の九州地方での最後の捕獲から見るとまだ二五年しか経ってい

ませんが、我々の遺伝解析の結果からこの

クマは九州地方由来の個体ではなかったこ

とになります。そのため九州地方における

最後のクマの捕獲は一九四一年、確実な目

撃記録は一九五七年が最後となり、五五年

が経過したことを踏まえて、絶滅したとい

う判断がされたのです。

 このように九州地方のツキノワグマは絶

滅という判定が下されたのですが、一方で

地元では一般市民から「クマ(のような動

(東北支所

主任研究員)

大西

尚樹

Ursus thibetanus

もうきん

ことは間違い

なく、また九

州産である可

能性は否定で

きない。」と

曖昧な位置づ

けのままでし

た。そのた

め、第三次

レッドリストまでは九州地方のツキノワグマは「絶滅のおそれのある

地域個体群」として扱われていました。

 森林総合研究所では本所・東北支所・関西支所が中心となって、本

州各地で有害駆除によって捕獲されたツキノワグマの試料を収集し、

これに四国地方で研究されている方々に提供していただいた試料を加

えて、全国のツキノワグマの遺伝的な成り立ちをDNAを使って調べ

ました。その結果、ツキノワグマには、青森から琵琶湖までの東日本

グループ、琵琶湖から島根県までの西日本グループ、紀伊半島と四国

の南日本グループの三つの大きな遺伝グループがあることがわかりま

した(図1)。さらに、東日本で確認された三八の遺伝的タイプのう

ち二タイプは広域に分布する祖先型であり、残りの三六タイプは数十

㌔㍍の範囲で局所的に分布するタイプでした(図2)。この琵琶湖を

境に東西に分かれ、さらに東日本で見られる局所的な分布パターンは

数万年以上にわたって維持されてきたと考えられます。

 九州最後のクマの組織が北九州市立自然史・歴史博物館に保存され

 カワウソ絶滅! この見出しがニュースで話題になったのは、今年

の八月末でした。これは環境省が改訂した第四次レッドリスト(絶滅

のおそれのある野生生物の種のリスト)において、ニホンカワウソを

絶滅種に分類したことに基づいており、このほかにもゲンゴロウやハ

マグリが新たに絶滅危惧Ⅱ類に分類されるなど、身近な動物に絶滅の

危機が迫っていることを思い知らされました。レッドリストの改訂は

多くの調査・研究の成果が反映されていますが、今号と次号でレッド

リストの改訂に大きく影響した森林総合研究所の研究成果について紹

介します。

 今回は九州地方のツキノワグマが絶滅と認定された話題です。

 ツキノワグマと聞くと、近年各地で人里への出没が話題となり、個

体数が増えているような印象を持たれる方も多いでしょう。しかし、

九州地方では江戸時代末期にはすでにクマが少なくなっていたと考え

られおり、一九四一年(昭和一六年)にオス成体が捕獲され、一九五

七年(昭和三二年)に幼獣の死体が発見されて以降、全く報告があり

ませんでした。ところが、それから三〇年を経た一九八七年(昭和六

二年)に大分県でオスが捕獲され、この個体が九州地方の最後のツキ

ノワグマとされてきました(写真1)。

 この九州最後のクマは三〇年ぶりの捕獲ということもあり、研究者

や行政などによって調査が行われ、四歳のオス野生個体であるとされ

ました。しかし、その出生については不明な点も多く、「野生である

もうきん

九州地方で絶滅認定

Page 2: 研究組織紹介 - ffpri.affrc.go.jp › thk › research › publication › ffpri › docu… · 屋外隔離ほ場 これがお宝 石井 克明 森林バイオ研究センター長

屋外隔離ほ場こ れ が お 宝

石井 克明 森林バイオ研究センター長

森 はたらきの

図1 大正7年(1918年)からの積雪深データ   毎年積雪がいちばん深いときの値を示したもので、最大は昭和20年(1945年)の

425cm、最小は平成元年(1989年)と平成19年(2007年)の81cm。

写真2 分解が遅い環境下の堆積腐植層と鉱質土壌層の様子    破線が境目。堆積腐植層が厚いことが分かる。    (北緯60度、カナダの亜寒帯林)

写真1 分解が速やかな環境下の落葉層と鉱質土壌層の様子    落葉層の直下に鉱質土壌層が現れる(コナラ二次林)

▲スギとその遺伝子の地図の一部

▲高耐火技術の高度化林地残材の安定供給

木質バイオマスの変換・利用

▲大断面製材に適した いろいろな乾燥技術の開発

図1 遺伝タイプの系統関係   赤い星はDNA分析に基づく九州最後のクマの

遺伝タイプ

図3 画像解析の結果

▲台風による山地崩壊 平成23年奈良県吉野郡野迫村

▲豪雪地域の積雪調査 新潟県十日町市▲水源林で記念植樹

▲整備された農用地

▲かなやま湖と水源林

▲耐塩性遺伝子組換えポプラの作出 根から大量の塩化ナトリウムを吸収させた野生型ポプラは数日内に枯死します。エチレン合成を抑制したオゾン耐性組換えポプラは、この期間内に葉が枯れないだけではなく、光合成活性も維持します。

誰でも利用できる森林生物遺伝子データベース(ForestGEN)

(http://www.ffpri.affrc.go.jp/database.html)

▲スギ苗1本当たりの植付け所要時間の比較

写真1 1987年に大分県で捕獲された九州最後のクマの剥製

 提供:豊後大野市歴史民俗資料館

写真1 炭素繊維調製のために溶融紡糸したリグニン(左は原料粉末)

写真2 原料のスギ葉と抽出した精油

図2 微生物の能力を活用した木質成分から化学工業素材への変換技術

多様な雄性不稔スギの組織培養

マツノザイセンチュウ抵抗性に寄与するクロマツの連鎖地図上での領域の検出のための接種検定 遺伝子組換えに用い

るスギの不定胚

雄性不稔化遺伝子を組換えたスギの細胞由来の不定胚の発芽

写真2 原料のスギ葉と抽出した精油

写真1 炭素繊維調製のために溶融紡糸したリグニン(左は原料粉末)

熱帯林での地上調査 森林減少の現状

多様な雄性不稔スギの組織培養

マツノザイセンチュウ抵抗性に寄与するクロマツの連鎖地図上での領域の検出のための接種検定

遺伝子組換えに用いるスギの不定胚

雄性不稔化遺伝子を組換えたスギの細胞由来の不定胚の発芽

熱帯林での地上調査 森林減少の現状

図1 間伐一年後と三年後に採集された昆虫(ハナバチ・チョウ・ハナアブ・カミキリムシ)の個体数と種数

   図中の色の濃い箇所は統計的に間伐区の

○丸太組工(積上工)により設置した作業道

○丸太組工法の改良(積上工⇒のり留工)(地山傾斜35°での場合)

○丸太組工(積上工)により設置した作業道○丸太組工(のり留工)により設置した作業道

図3 雨による川の水量の時間変化   すぐに流出する水とゆっくり流出する水がある

図1 森林にふった降水のゆくえ   大きくみると蒸発散と流出にわかれる

図2 斜面における水の動き   いろいろな場所をさまざまな速さで動いている

炭素繊維

木質単層トレイ

▲新緑のコナラ二次林中に咲くカスミザクラの花 カスミザクラも含めて多くの木の新葉が展開し始めているので、花はヤマザクラやエドヒガンのようには目立たない

カスミザクラの花

 典型的なカスミザクラは花の柄に

毛がある(左上)が、まったく毛が

ない(右下)個体も数多い

南日本グループ(四国・紀伊半島)

台湾中国雲南省

北朝鮮

西日本グループ(琵琶湖~中国地方)

四国紀伊半島

北近畿西

西中国

東中国西中国北近畿東

東日本グループ(琵琶湖~東北)

図2 遺伝グループごとのツキノワグマの分布域   水色:東日本グループ、緑色:西日本グループ、赤色:南日本グループ。東日本グ

ループで確認されている全38タイプのうち主要な12タイプの捕獲地点をそれぞれのマークで示す。白丸は琵琶湖から東北地方にかけて広範囲で観察される。他のタイプは局所的に分布している。赤三角と楕円は九州最後のクマと同じ遺伝タイプを持つ個体の捕獲地点とその分布域。九州の地図の赤い星は九州最後のクマの捕獲地点。

-中山間地農林業振興の成果をPR-

物)を見た。」という情報が時折寄せられています。そこで今年の初

夏から秋にかけて主にクマの研究者や専門家からなる「日本クマネッ

トワーク」が大規模な生息調査を行いましたが、残念ながらクマの生息

は確認されませんでした。もちろんこれによって九州のクマが一〇〇%

絶滅したと言い切れるわけではありません。科学が

もっとも苦手とするもののひとつとして、「無い」

ということの証明があります。そのため五〇年とい

う目安が作られているわけですが、我々国民に求め

られているのは絶滅したことの証明ではなく、その

ような事態に至った経緯を反省し、それを繰り返さな

いことなのでしょう。

森林遺伝研究領域では、森林を構成する樹木の遺伝子の構造や多様性について

研究しています。

他の生物と同じように、樹木の体内にも何万種類もの遺伝子があり、様々な形質

の発現に関わっています。遺伝子は、染色体という細い糸の上に、それぞれの樹木に

よって決まった順番に並んでいるので、その並び方を明らかにした地図を作るとと

もに、遺伝子と様々な形質との関係を調べています。スギやヒノキなど林業で重要

な樹木の多数の遺伝子の構造を調べた結果をデータベースとして公開しています。

これらの遺伝子情報は、優れた品種の創出のために活用されています。

また、同じ種類の樹木であっても、人間の血液型の場合と同じように、個体によっ

て遺伝子の型が少しずつ異なります。このことを遺伝的多様性と言いますが、大変

重要な役割を持っています。なぜなら、様々な型の個体が共存することにより、地球

温暖化などの自然環境の変化に適応することが可能であると考えられているから

です。また、例えば病虫害などに強い新しい品種を作るときにも、遺伝的多様性が

必要です。

そこで、主要な針葉樹や広葉樹の天然林について、地域による遺伝的多様性の違

いを明らかにするとともに、絶滅危惧樹種について遺伝的多様性が減少する過程の

研究も行っています。こうした取り組みにより、遺伝的多様性が維持されることも

含め、森林の貴重な遺伝資源を将来にわたって確実に保全していく仕組みを解明し

ています。

大径木の大量入手が困難になっていることに加え、建築現場での作業の合理化の要請か

ら、様々な木質材料が建築や家具あるいは自動車の内装などに利用されています。このこと

は、地球環境保全の上で、木質資源をより多く、かつ無駄なく利用できるという意味で大変

意義深いことです。

木質材料とは、小さな木材や木片、または木材ファイバーなどの木質エレメント(構成単

位)を接着して製造する再構成木材のことで、集成材、単板積層材、合板類のほか、パーティ

クルボードやファイバーボードなどのボード類などがあります。これらの材料は狭義では

一般の木材と区別されており、中小径木や製材廃材、建築解体材などが原料です。

私ども複合材料研究領域ではこれらの木質材料の開発や強度性能、耐久性、揮発性有機

化合物(VOC)の放散特性などの性能評価と性能評価方法の開発などを行っています。

最近の主な研究トピックスの一つは異樹種集成材や、小径木から製造できる台形ラミナ

集成材、幅はぎラミナ集成材などの研究により、これらの集成材が日本農林規格(JAS)に

採用されたことです。国産材の需要拡大と有効利用に結びつくことを期待しています。詳細

については本誌の特集(八〜九頁)をご覧下さい。

もう一つは各種木質材料からのVOC放散特性の解明や放散量の低減化、評価方法の開

発です。これらの研究により、ホルムアルデヒド放散量に関してJASとJISに四つの区

分が作られ、建築基準法上、F☆☆☆〜F☆区分のものには使用制限が課せられますが、放

散量の最も少ないF☆☆☆☆区分のものは内装材として無制限に利用できることになって

います。また、業界自主表示制度の対象であるトルエン、キシレン、エチルベンゼン、スチレン

の四つのVOCに関しては、木材や木質材料からの放出は基準値より低く、安全であること

などを明らかにしました。

21 20

写真1 開発したマツノザイセンチュウ検出    キットの試験結果

写真2 2000年三宅島噴火被災地で実施され    た緑化試験

陽性 陰性

写真2 インドネシア東カリマンタン州の低地フタバガキ林    1ヘクタールに100種以上の樹木が混じり合って生えている。

▲写真1 ダルマガ試験林での幹直径測定。幹の太さは地上130cmで測定したが、板根が発達した樹木については板根の上端から30cmの位置で幹直径を測定した。幹直径と樹高からそれぞれの木の乾燥重量を算出した。

写真2 インドネシア東カリマンタン州の低地フタバガキ林 1haに100種以上の樹木が混じり合って生えている。

▲黒竜江省の林場の一つ

▲黒竜江省の位置

▲「森林資源を保護し伐採中心から生態系を守る林場へ」という意味のスローガン

▲遺伝子組換えポプラの植栽試験

写真2 DNA材料を採取するためのヘアトラップを通過する

森林総研の22ある研究領域、推進拠点を順番に紹介しています

写真1 ダルマガ試験林での幹直径測定。幹の太さは地上130cmで測定したが、板根が発達した樹木については板根の上端から30cmの位置で幹直径を測定した

(特定中山間保全整備事業の意義)

 森林総合研究所森林農地整備センターで

は、中山間地の農林業の振興を図るため、

農地とその水源となっている森林の整備を

一体的に実施する『特定中山間保全整備事

業』を実施しています。この事業は、森林

と農地が入り組み、密接に繋がっている中

山間地域において、水源の森林の整備と下

部に広がる農地、これらを繋ぐ農林業用道

路を一体的・総合的に整備して、地域振興

を目指すものです。

 また、この事業は、森林と農用地を一体

的に整備する初めてのもので森林や農用地

の持つ公益的機能を活かす観点で、通常は

植栽から始まる水源林造成に加えて生育途

上の手入れ不足の森林を整備の対象にする

とともに、鳥獣害防止柵等の整備や小規模

農業用用排水路の整備、耕作放棄地となっ

た農地を森林に戻す林地転換を事業種に加

えていることが特徴です。

(事業の実施状況)

 当センターでは、阿蘇小国区域、邑智西

部区域、南富良野区域の三区域で特定中山

間地域保全整備事業を進めてきました。こ

のうち、阿蘇小国区域は平成二一年度に完

了し、残る南富良野区域は平成二四年度末

学部北海道演習林の主催で、森林と農用地

の整備で関わりがある森林総合研究所も共

催者として参画しています。平成二二年度

の富良野市を皮切りに、富良野地区五市町

村の持ち回りで開催し、有識者による講演

及び地域住民の方々との意見交換等を行っ

ているものです。

 今回のワークショップでは、特定中山間

保全整備事業の実施による地域の景観の保

全や産業の振興への効果が改めて評価され

るなど、意義深いものとなりました。

 当センターとしても、ワークショップに

積極的に取り組み、事業の成果をPRする

とともに、現地検討会を先行開催し、職員

が水源の森林の役割や農用地との関わり、

事業が目指す農林業振興の姿などについて

参加者に説明し、意見交換や記念植樹を行

いました。

に、また邑智西部区域は平成二五年度末に

それぞれ完了する予定です。

 南富良野区域の事業では、区域の重要な

水源となっている「かなやま湖」上流部の

森林等の水源かん養機能を高度に発揮させ

るために、地域の特性を活かして森林と農

用地を一体的に整備し、「緑と水の豊かな

ふるさと」づくりに努めています。これま

でに、水源林二五八㌶、農用地六〇七㌶、

獣害防止柵四八㌖、農業用用排水路二三

㌖、林地転換二㌶を整備しています。

(事業成果の明確化とPR)

 富良野地区事業等を通じた中山間地域振

興の意義の明確化と今後の展開方向を探る

ため、去る六月八日に南富良野町で「富良

野地区合同ワークショップ」が開催されま

した。このワークショップは、東京大学農

 森林バイオ研究センターでは、最先端の遺伝子組換え技術を用いて、いろ

いろな病虫害に強くて成長も良い、夢の「スーパー樹木」を創出するための

研究を行っています。

 遺伝子組換え技術で創出した新しい樹木は、まず実験室や閉鎖系の温室

などで期待した特性が確保されているか等チェックされた上で、さらに屋外

で、形質の発現・確保や他の野生生物への影響の有無等を検討する植栽試験

を受け、評価されます。

 このほ場は、そうした屋外試験のために、二〇〇六年に造成したもので

す。六〇m×五四mの長方形で、林業用では国内最大です。枝の飛散防止の

ための高さ八mのフェンス、根の場外延伸防止のための深さ一mのコンク

リート壁が備わり、監視カメラや赤外線センサーでほ場外への持ち出しを常

時警戒します。一〇tの洗浄水貯水設備に機械等の洗い場、試験終了後に

樹木を焼却する炉などもほ場内にあります。

 二〇〇七年から、このほ場を利用して、セルロース含有量が高く、バイオエ

タノール生産に適した遺伝子組換えポプラの試験を行っています。産業利用

目的として日本で初めて農林水産、環境両大臣から承認を受けた組換え樹

木について試験しているもので、現在、さまざまな知見の収集を積極的に進

めています。

 森林バイオ研究センターでは、最先端の遺伝子組換え技術を用いて、いろいろな

病虫害に強くて成長も良い、夢の「スーパー樹木」を創出するための研究を行ってい

ます。

 遺伝子組換え技術で創出した新しい樹木は、まず実験室や閉鎖系の温室などで

期待した特性が確保されているか等チェックされた上で、さらに屋外で、形質の発

現・確保や他の野生生物への影響の有無等を検討する植栽試験を受け、評価されま

す。

このほ場は、そうした屋外試験のために、二〇〇六年に造成したものです。六〇メー

トル×五四メートルの長方形で、林業用では国内最大です。枝の飛散防止のための

高さ八メートルのフェンス、根の場外延伸防止のための深さ一メートルのコンク

リート壁が備わり、監視カメラや赤外線センサーでほ場外への持ち出しを常時警戒

します。一〇トンの洗浄水貯水設備に機械等の洗い場、試験終了後に樹木を焼却

する炉などもほ場内にあります。

 二〇〇七年から、このほ場を利用して、セルロース含有量が高く、バイオエタノー

ル生産に適した遺伝子組換えポプラの試験を行っています。産業利用目的として日

本で初めて農林水産、環境両大臣から承認を受けた組換え樹木について試験してい

るもので、現在、さまざまな知見の収集を積極的に進めています。

▲屋外隔離ほ場の外観

-中山間地農林業振興の成果をPR-森林(もり)を創り活かす

森林農地整備センター 南富良野建設事業所  所長 河野 健二札幌水源林整備事務所 所長 船城 保明

○丸太組工(積上工)により設置し

 「森林バイオ研究センター」は、研究開発や育種にかかる森林バイオ研究を積極的に推進

するため、二○○七年に新たに設立されました。研究課題としては、花粉症対策につなが

る、先端技術を用いた雄性不稔スギの開発や、抵抗性種苗の開発に欠かせない、遺伝子レベ

ルでのマツノザイセンチュウ抵抗性の特性解明、あるいは有用広葉樹の遺伝的特性の解明

が主なものです。

 雄性不稔スギの開発では、従前からあるスギの優良品種に雄性不稔化遺伝子を導入して

組換え体の作出を目指していますが、既に雄性不稔化遺伝子をスギの培養細胞に導入して

形質転換スギの幼植物体を得ています。さらに、遺伝子組換え樹木の環境影響評価にも取

り組んでおり、産業用としては樹木で我が国始めてとなる野外試験を行っており、各種の

データを取得し将来の遺伝子組換えスーパー樹木の活用の準備となる知見を得ています。

 また、病虫害抵抗性育種では、マツノザイセンチュウ抵抗性と連鎖する遺伝子マーカーの

開発を推進し、クロマツの連鎖地図を作成し、抵抗性形質に関連する遺伝子が座乗してい

る可能性のある連鎖群を明らかにしています。今後、この成果を遺伝子マーカーによる抵

抗性種苗の早期選抜に役立

てていくことにしています。

 広葉樹の遺伝的特性の解

明に関しては、核遺伝子のマ

イクロサテライトによる遺

伝的多様性の評価をブナや

カシで行っています。このほ

か、十系統以上の雄性不稔ス

ギの組織培養条件を検索し、

大量増殖技術や育種素材の

創出に役立てる研究に取り

組んでいます。

森林バイオ研究センター

REDD研究開発センター

研究組織紹介

 近年、熱帯林などの森林の減少や劣化による二酸化炭素の排出をいかに低減していく

か、に国際的な関心が高まっています。と言うのも、温室効果ガスの総排出量の約二割は

森林の減少・劣化に由来するものであり、これを抑制することが地球温暖化を緩和する

上で、緊急の課題になっているからです。

 この問題を解決する国際的枠組みが「REDDプラス」ですが、「REDD研究開発セン

ター」は、世界的な動向や情勢を分析し、技術開発や民間ベースの活動支援を推進してい

くためのわが国の拠点として、平成二二年七月に開設されました。

 当センターでは、REDDプラスに係わる政策

研究や、森林の減少・劣化による炭素量変化をモニ

タリングする技術開発をベースに、東南アジアや

中南米地域に幅広く適用できる方法論の開発や

ガイドラインの提案を行うとともに、技術講習を

通じた人材開発や国際ワークショップの開催等を

総合的に推進することにしています。

 研究開発の分野では、既にカンボジアとマレー

シアにおいて共同研究を開始しています。また、生

物多様性条約COP10(二〇一〇年一〇月)や気

候変動枠組条約COP16(同年一二月)でのサイ

ドイベントとして国際ワークショップを開催した

ほか、森林技術者講習(同年一二月)を開催し、R

EDDプラスへの理解の醸成と支援基盤の充実に

努めました。

 REDDプラスの最新の情報や成果は以下の

ウェブサイトでご覧になることができます。

http://ffpri.affrc.go.jp/redd-rdc/

ルト、砂など)と結びつき、土壌の中に吸着・保持されます。つまり、土壌は

「森林を支える養分の貯蔵庫」になっているのです。

 また、森林の土壌は、地球温暖化の原因である二酸化炭素の貯蔵庫とし

ても重要です。

 樹高が三〇mに達するような森林は、地上部だけでha当たり二〇〇t

以上もの大量の炭素を蓄えています。これに対して、落葉が積もっている

落葉層とそのすぐ下の鉱質土壌層だけでも、深さ一mのところまでで、ha

当たり一〇〇t以上(土壌によっては三〇〇t超)の炭素を蓄えているこ

とが、森林総合研究所の調査で明らかにされています。

(http://www.ffpri.affrc.go.jp/labs/fsinvent/index.htm

l

 健全な森林を守り育てていく上で、土壌の持続的管理が非常に重要です。

落葉層と鉱質土壌層から成っている森林土壌を壊さずに失わずに保全す

るため、森林総合研究所では土壌流亡を防ぐための研究も行っています。

 森林の土壌は表面が落葉層で被われています。分解が速やかな環境で

は落葉層の直下に土の層(これを鉱質土壌層といいます)が現れますが

(写真1)、寒冷地や極端に乾燥する環境条件では、落葉などの分解が遅い

ため腐植が厚く堆積した層(これを堆積腐植層といいます)が見られます

(写真2)。

 森林の土壌は、養分や水分を樹木に与えて生育させる機能はもとより、

樹木を支える機能、微生物の活動の場を与えて養分を作り出す機能があ

ります。また、私たちに対して、水源涵養や洪水の防止、水質の浄化という

重要な恵みをもたらします。

 森林も農地も土壌が支えていますが、農地の土壌が化学肥料や農薬の

投入で効率良く生産するのに対して、森林の土壌は、自然の物質循環を基

本にしています。森林の土壌はその表面が落葉層で被われていますが、そ

れが微生物等によって分解されてできる養分が水や土壌の粒子(粘土、シ

けでなく、樹木の葉から水蒸気を蒸散したり、雨を遮断したりする

ので、森林の存在自体も水の循環や気象条件に大きく影響します。

また、地質や植生、施業によって山地の保水量や流出量、水質が違

いますので、水量の長期観測や水質モニタリングを行っています

Q 昨年は東日本大震災で津波により東北の海岸林が壊滅しました。

  また原子力発電所事故による放射能汚染も深刻です。

 海岸林の被害は深刻ですが、津波の到達を遅延させたり、漂流物

を補足したりする効果が確認できました。今後は海岸林の復旧への

協力やクロマツだけでなく広葉樹もまじえた海岸林への誘導などを

進めます。放射性セシウムの拡散により広い範囲の森林が汚染され

てしまいました。森林のセシウムの分布や移動はほとんどわかって

いません。セシウム一三七の半減期は三〇年と長いので、今後も長

期的な調査をすすめる予定です。

 森林総合研究所は、平成二三年度から五ヶ年間の第三期中期計画

を策定しました。新たな中期計画では、産業と科学技術の発展に貢

献するため九つの課題を重点的に進めることとしています。

 今回は、「気候変動に対応した水資源保全と山地災害防止技術の

開発」について、高橋正通・研究コーディネータ(国土保全・水資

源研究担当)に聞きます。

Q 研究開発の背景はどのようなことなのですか

 日本の国土の六七%は森林です。そのため森林を適切に管理する

ことは、国土を保全し安全・安心な生活につながります。また山地

森林は水源林となっており、私たちの日常生活や産業に利用される

水資源を供給しています。しかし、最近の気象観測によると地球は

温暖化しており、その影響により世界各地で異常気象が増加し、日

常生活や産業に深刻な影響を及ぼしつつあります。日本でも昨年は

大雨が続いて紀伊半島で大規模な土砂崩れが起き

ました。

Q 山地災害を防ぐにはどうしたらよいでしょ

う。

 これまで経験したことのないような極端な気象

による未曾有の災害を防ぐのは容易ではありませ

ん。しかし、複雑な山地崩壊のメカニズムを実験

的に解明して危険な地域を予測したり、間伐など

の森林整備が土壌保全や水循環に及ぼす効果を検

証して、森林管理の改善策を提言するなど、地道

な工夫や対策を進めていくことが山地災害を低減

するためには大切と考えています。

Q 気候変動は水資源にも影響しそうです。

 そうです。温暖化による雨量や積雪量の変化だ

事業成果の明確化とPR

 富良野地区事業等を通じた中山間地域振興の意義の明確化と今

後の展開方向を探るため、去る六月八日に南富良野町で「富良野

地区合同ワークショップ」が開催されました。このワークショッ

プは、東京大学農学部北海道演習林の主催で、森林と農用地の整

備で関わりがある森林総合研究所も共催者として参画していま

す。平成二二年度の富良野市を皮切りに、富良野地区五市町村の

持ち回りで開催し、有識者による講演及び地域住民の方々との意

見交換等を行っているものです。

 今回のワークショップでは、特定中山間保全整備事業の実施に

よる地域の景観の保全や産業の振興への効果が改めて評価される

など、意義深いものとなりました。

 当センターとしても、ワークショップに積極的に取り組み、事業

の成果をPRするとともに、現地検討会を先行開催し、職員が水源

の森林の役割や農用地との関わり、事業が目指す農林業振興の姿な

どについて参加者に説明し、意見交換や記念植樹を行いました。

特定中山間保全整備事業の意義

 森林総合研究所森林農地整備センターでは、中山間地の農林業の

振興を図るため、農地とその水源となっている森林の整備を一体的

に実施する『特定中山間保全整備事業』を実施しています。この事

業は、森林と農地が入り組み、密接に繋がっている中山間地域にお

いて、水源の森林の整備と下部に広がる農地、これらを繋ぐ農林業

用道路を一体的・総合的に整備して、地域振興を目指すものです。

 また、この事業は、森林と農用地を一体的に整備する初めてのも

ので森林や農用地の持つ公益的機能を活かす観点で、通常は植栽か

ら始まる水源林造成に加えて生育途上の手入れ不足の森林を整備の

対象にするとともに、鳥獣害防止柵等の整備や小規模農業用用排水

路の整備、耕作放棄地となった農地を森林に戻す林地転換を事業種

に加えていることが特徴です。

事業の実施状況

 当センターでは、阿蘇小国区域、邑智西部区域、南富良野区域の

三区域で特定中山間地域保全整備事業を進めてきました。このう

ち、阿蘇小国区域は平成二一年度に完了し、残る南

富良野区域は平成二四年度末に、また邑智西部区域

は平成二五年度末にそれぞれ完了する予定です。

 南富良野区域の事業では、区域の重要な水源と

なっている「かなやま湖」上流部の森林等の水源か

ん養機能を高度に発揮させるために、地域の特性を

活かして森林と農用地を一体的に整備し、「緑と水

の豊かなふるさと」づくりに努めています。これま

でに、水源林二五八㌶、農用地六〇七㌶、獣害防止

柵四八㌖、農業用用排水路二三㌖、林地転換二㌶を

整備しています。

森林の土壌― 森林を支える養分の貯蔵庫 ―

松浦 陽次郎(国際連携推進拠点 国際森林情報推進室長)

気候変動に対応した水資源保全と山地災害防止技術の開発

「第3期中期計画」の紹介(6)

う ま

ツキノワグマ㉑

ていたことから、私たちはこれを提供していただき、遺伝解析を行い

ました。九州地方のツキノワグマの遺伝的組成はわかっていません

が、大陸から日本に渡来してきた経緯などから、西日本または南日本

グループに属するタイプ、もしくはそれらに近いものだと推測されま

す。しかし、この九州最後のクマの遺伝タイプは東日本グループに属

しており、福井県嶺北から岐阜県北部に局所的に分布するタイプでし

た。前述の通り、琵琶湖の東西で異なる遺伝グループは数万年以上に

わたって続いており、九州で東日本グループの遺伝タイプが観察され

たことは、人為的な移入があったこと以外に説明がつきません。この

ため、この九州最後のクマは本州から持ち込まれたか、持ち込まれた

個体の子孫だと結論づけられました。

 環境省のレッドリストでは野生絶滅の基準は「過去五〇年間前後の

間に、信頼できる生息の情報が得られていない」としています。一九

八七年の九州地方での最後の捕獲から見るとまだ二五年しか経ってい

ませんが、我々の遺伝解析の結果からこの

クマは九州地方由来の個体ではなかったこ

とになります。そのため九州地方における

最後のクマの捕獲は一九四一年、確実な目

撃記録は一九五七年が最後となり、五五年

が経過したことを踏まえて、絶滅したとい

う判断がされたのです。

 このように九州地方のツキノワグマは絶

滅という判定が下されたのですが、一方で

地元では一般市民から「クマ(のような動

(東北支所

主任研究員)

大西

尚樹

Ursus thibetanus

もうきん

ことは間違い

なく、また九

州産である可

能性は否定で

きない。」と

曖昧な位置づ

けのままでし

た。そのた

め、第三次

レッドリストまでは九州地方のツキノワグマは「絶滅のおそれのある

地域個体群」として扱われていました。

 森林総合研究所では本所・東北支所・関西支所が中心となって、本

州各地で有害駆除によって捕獲されたツキノワグマの試料を収集し、

これに四国地方で研究されている方々に提供していただいた試料を加

えて、全国のツキノワグマの遺伝的な成り立ちをDNAを使って調べ

ました。その結果、ツキノワグマには、青森から琵琶湖までの東日本

グループ、琵琶湖から島根県までの西日本グループ、紀伊半島と四国

の南日本グループの三つの大きな遺伝グループがあることがわかりま

した(図1)。さらに、東日本で確認された三八の遺伝的タイプのう

ち二タイプは広域に分布する祖先型であり、残りの三六タイプは数十

㌔㍍の範囲で局所的に分布するタイプでした(図2)。この琵琶湖を

境に東西に分かれ、さらに東日本で見られる局所的な分布パターンは

数万年以上にわたって維持されてきたと考えられます。

 九州最後のクマの組織が北九州市立自然史・歴史博物館に保存され

 カワウソ絶滅! この見出しがニュースで話題になったのは、今年

の八月末でした。これは環境省が改訂した第四次レッドリスト(絶滅

のおそれのある野生生物の種のリスト)において、ニホンカワウソを

絶滅種に分類したことに基づいており、このほかにもゲンゴロウやハ

マグリが新たに絶滅危惧Ⅱ類に分類されるなど、身近な動物に絶滅の

危機が迫っていることを思い知らされました。レッドリストの改訂は

多くの調査・研究の成果が反映されていますが、今号と次号でレッド

リストの改訂に大きく影響した森林総合研究所の研究成果について紹

介します。

 今回は九州地方のツキノワグマが絶滅と認定された話題です。

 ツキノワグマと聞くと、近年各地で人里への出没が話題となり、個

体数が増えているような印象を持たれる方も多いでしょう。しかし、

九州地方では江戸時代末期にはすでにクマが少なくなっていたと考え

られおり、一九四一年(昭和一六年)にオス成体が捕獲され、一九五

七年(昭和三二年)に幼獣の死体が発見されて以降、全く報告があり

ませんでした。ところが、それから三〇年を経た一九八七年(昭和六

二年)に大分県でオスが捕獲され、この個体が九州地方の最後のツキ

ノワグマとされてきました(写真1)。

 この九州最後のクマは三〇年ぶりの捕獲ということもあり、研究者

や行政などによって調査が行われ、四歳のオス野生個体であるとされ

ました。しかし、その出生については不明な点も多く、「野生である

もうきん

九州地方で絶滅認定