神戸大学 大学院理学研究科 木村研究室scfm617/木村研究室.pdf2) K. Kimura, Y....

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1 エレクトロニクス実装学会誌 Vol. 18 No. 7 (2015) 私の研究グループでは,物体内部の構造を映像化する方 法を研究しています。われわれの方法論の基軸は,物体内 部から発せられる場を物体表面で計測し,これを使用して 物体内部の構造を映像化することです。興味ある領域を領 域表面で得られた情報をもとに領域内部の情報を計算に よって探っていくことを意味します。ここで,表面での計 測結果から内部構造を“どのような方程式を基に”,“どの ような解法を用いて”再構成するかが大きな課題となりま す。 物体が媒質と“媒質とは物理的性質が異なる領域”で構 成され,媒質を含めてそれら全ての物理的性質が分かって いれば,物理学の教科書に書かれている基礎方程式によ り,計測信号を計算することができますが,興味のある計 測というのは,当然ですが,事前に計測対象のことが殆ど わかっていない。すなわち,計測や分析というのは,物理 学の因果関係を逆方向に辿ることであると言えます。この とき,前述した順方向の問題のように,数学的基盤が確か なものであるということ,測定条件が変わるたびに計測シ ステムの電気的,機械的構成が変わらない汎用性の高いも のであるということ,市販のコンピュータを用いて現実的 な時間で計算できるアルゴリズムであるということが,“辿 る”ときには最も重要になります。 この背景のなかで,われわれは,この 5 年間で主に 3 の“物体内部の構造を映像化する方法”における重要な再 構成理論を発表しました。一つは,積分幾何学という数学 の計算方法を用いて,“計測によって得られる見かけの電磁 場”の基礎方程式を解くことで,計測に用いるセンサの代 表寸法より高い空間分解能にて,遠方の“真の電磁場”の 分布を映像化することを可能にする理論です 1) 。二つ目は, 波動の散乱の逆問題に関するもので,物体に波動を照射 し,散乱した波動の計測結果から,物体内部の構造を再構 成する理論です 2) 。この方法では,送受信機の座標を独立 変数とする多次元の散乱場の方程式を逆解析するもので, 実際にこれを基に開発したソフトウェアが,関東区域の鉄 道会社にて活用されています 2) 。三つ目は,蓄電池やコン デンサなどの平行平板系に特化した問題ですが,蓄電池の 動作状態に蓄電池周辺に存在する漏洩磁場の計測データか ら,蓄電池内の電流を再構成する理論です。これは,現 在,この計算ソフトウェアを搭載した画像計測装置を販売 し,多くのメーカに利用していただいています 1) 私の研究グループ(構成員 10 人,写真は試作装置の動作 テスト中の風景)では,このような“場の方程式の逆解析 を基にした映像化理論の研究”,“それを検証するための実 験装置の開発”を中心に行い,これらを基に,大学ベン チャー企業である Integral Geometry Instruments 社が中心と なり画像計測装置を製品化しています。このような理論, 方法を考案する際には,ミクロな世界のできごとから,わ れわれの眼の前で起こる世界のできごとまで,今まさにそ こで起こっている現象を,構造解析によって理解したいと いう動機が常にあります。化学反応,太陽電池の発電,細 胞の分化,癌の転移,生命の死,電子部品の故障,インフ ラ構造物の倒壊,地震など,いったいそれは何によって引 き起こされているのか,どうやったら制御することができ るのか,構造解析の新しい方法を探索しながら未踏領域の 開拓に挑戦し続けたいと考えています。 (木村建次郎/神戸大学) 文   献 1) K. Kimura, Y. Mima, and N. Kimura: “電流経路可視化技術─ 蓄電池非破壊検査への応用─,” Journal of the Institute of Electrical Engineers of Japan, Vol. 135, No. 7, p. 4, 2015 2) K. Kimura, Y. Mima, N. Kimura, T. Yumii, Y. Mori, K. Hoshijima, S. Nakata, and K. Doi: “非破壊モニタリングのための 3 次元 データ解析技術および装置技術,”NTS, 2015 研究室訪問 神戸大学 大学院理学研究科 木村研究室 Kimura Laboratory Department of Chemistry Graduate School of Science Kobe University E-mail: [email protected] http://www.chem.sci.kobe-u.ac.jp/staff/kKimura/ Principle Investigator

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1エレクトロニクス実装学会誌 Vol. 18 No. 7 (2015)

 私の研究グループでは,物体内部の構造を映像化する方法を研究しています。われわれの方法論の基軸は,物体内部から発せられる場を物体表面で計測し,これを使用して物体内部の構造を映像化することです。興味ある領域を領域表面で得られた情報をもとに領域内部の情報を計算によって探っていくことを意味します。ここで,表面での計測結果から内部構造を“どのような方程式を基に”,“どのような解法を用いて”再構成するかが大きな課題となります。 物体が媒質と“媒質とは物理的性質が異なる領域”で構成され,媒質を含めてそれら全ての物理的性質が分かっていれば,物理学の教科書に書かれている基礎方程式により,計測信号を計算することができますが,興味のある計測というのは,当然ですが,事前に計測対象のことが殆どわかっていない。すなわち,計測や分析というのは,物理学の因果関係を逆方向に辿ることであると言えます。このとき,前述した順方向の問題のように,数学的基盤が確かなものであるということ,測定条件が変わるたびに計測システムの電気的,機械的構成が変わらない汎用性の高いものであるということ,市販のコンピュータを用いて現実的な時間で計算できるアルゴリズムであるということが,“辿る”ときには最も重要になります。 この背景のなかで,われわれは,この 5年間で主に 3つの“物体内部の構造を映像化する方法”における重要な再構成理論を発表しました。一つは,積分幾何学という数学の計算方法を用いて,“計測によって得られる見かけの電磁場”の基礎方程式を解くことで,計測に用いるセンサの代表寸法より高い空間分解能にて,遠方の“真の電磁場”の分布を映像化することを可能にする理論です 1)。二つ目は,波動の散乱の逆問題に関するもので,物体に波動を照射し,散乱した波動の計測結果から,物体内部の構造を再構成する理論です 2)。この方法では,送受信機の座標を独立変数とする多次元の散乱場の方程式を逆解析するもので,

実際にこれを基に開発したソフトウェアが,関東区域の鉄道会社にて活用されています 2)。三つ目は,蓄電池やコンデンサなどの平行平板系に特化した問題ですが,蓄電池の動作状態に蓄電池周辺に存在する漏洩磁場の計測データから,蓄電池内の電流を再構成する理論です。これは,現在,この計算ソフトウェアを搭載した画像計測装置を販売し,多くのメーカに利用していただいています 1)。 私の研究グループ(構成員 10人,写真は試作装置の動作テスト中の風景)では,このような“場の方程式の逆解析を基にした映像化理論の研究”,“それを検証するための実験装置の開発”を中心に行い,これらを基に,大学ベンチャー企業である Integral Geometry Instruments社が中心となり画像計測装置を製品化しています。このような理論,方法を考案する際には,ミクロな世界のできごとから,われわれの眼の前で起こる世界のできごとまで,今まさにそこで起こっている現象を,構造解析によって理解したいという動機が常にあります。化学反応,太陽電池の発電,細胞の分化,癌の転移,生命の死,電子部品の故障,インフラ構造物の倒壊,地震など,いったいそれは何によって引き起こされているのか,どうやったら制御することができるのか,構造解析の新しい方法を探索しながら未踏領域の開拓に挑戦し続けたいと考えています。

(木村建次郎/神戸大学)・

文   献1) K. Kimura, Y. Mima, and N. Kimura: “電流経路可視化技術─蓄電池非破壊検査への応用─,” Journal of the Institute of

Electrical Engineers of Japan, Vol. 135, No. 7, p. 4, 2015

2) K. Kimura, Y. Mima, N. Kimura, T. Yumii, Y. Mori, K. Hoshijima,

S. Nakata, and K. Doi: “非破壊モニタリングのための 3次元データ解析技術および装置技術,”NTS, 2015

研究室訪問

神戸大学�大学院理学研究科�木村研究室

Kimura Laboratory Department of Chemistry

Graduate School of Science Kobe University

E-mail: [email protected]://www.chem.sci.kobe-u.ac.jp/staff/kKimura/

Principle Investigator