横形中ぐりフライス盤MAF-Cの新補正システムによ...

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三菱重工技報 Vol.49 No.3 (2012) 工作機械特集 技 術 論 文 37 *1 工作機械事業本部技術部課長 *2 工作機械事業本部技術部主席チーム統括 *3 工作機械事業本部技術部 *4 MHI 工作機械エンジニアリング(株)設計部 横形中ぐりフライス盤 MAF-C の新補正システムによる精度向上 Accuracy Improvement Technology of the Floor-type Horizontal Boring Mills MAF-C 古立 哲 *1 久良 賢二 *2 Satoshi Furutate Kenji Kura 田内 拓至 *3 長谷川 智治 *3 Hiroyuki Tauchi Tomoharu Hasegawa 上條 学 *3 藤原 真也 *4 Manabu kamijo Shinya Fujihara 横中ぐりフライス盤は,中ぐり主軸とラムの突出しにより,その自重によるたわみや重心変化によ る機械本体の変形が発生し,各軸の真直度や直角度が変化する問題を根本的に抱えている.従 来の機械も精度補正機構を備えているが,アタッチメントを取り付けた際には変形が更に大きくな り,高精度加工を行う際はラム移動に替わりテーブル移動を使用するなど運用面で解決してい た.しかしテーブル送りを備えていない機械もあり,横中ぐりフライス盤で門形機と同程度の加工 精度を達成する機構として新たな運動精度補正技術を開発した. |1. はじめに 中国・インドを中心に世界規模でインフラ産業は伸長しており,それに伴い建機・原動機・産業 機械・プレスなどの需要は増している.中大形の部品を加工する上で横中ぐり盤が必要となって いるが,生産性を上げるため切削能力の向上と精度向上が求められている. 当社では,これまで MAF-RSC シリーズでこれらの要求に対応してきたが,需要の高まりを受け 生産性で世界を更にリードする機械を作る必要がある.そこで切削能力を向上させ,新たな精度 補正機構を設けアタッチメントを取り付けた場合でも変形量を抑えた機械を追求し,世界最高水 準の性能を持つフロアタイプ横中ぐりフライス盤 MAF-C を開発した. 本論文では,上述の精度向上を実現した技術内容を述べる. |2. 横中ぐり盤の機械構成と問題点 2.1 機械の構成 図1に示すように,基本構成はベッド・コラム・サドル・ラム・主軸からなる.ベッド上にある機械の 前後移動がX軸,コラムに沿ってサドルが上下移動する方向をY軸,ラム及び中ぐり主軸の左右 移動がZ・W軸となっている.サドルはワイヤでコラム上部の滑車を介してコラム内に配置したバラ ンスウェイトに結ばれ自重をキャンセルし,各軸はボールネジあるいはラック&ピニオン駆動によ り,精密に駆動する. ワークは機械正面に据え付けたフロアプレート上に設置し各軸の動作により切削を行う.また, ロータリーテーブルを据え付けることでワークを回転させ,ワーク背面などの加工も可能となる.

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三菱重工技報 Vol.49 No.3 (2012) 工作機械特集

技 術 論 文 37

*1 工作機械事業本部技術部課長 *2 工作機械事業本部技術部主席チーム統括

*3 工作機械事業本部技術部 *4 MHI 工作機械エンジニアリング(株)設計部

横形中ぐりフライス盤 MAF-C の新補正システムによる精度向上

Accuracy Improvement Technology of the Floor-type Horizontal Boring Mills MAF-C

古 立 哲 * 1 久 良 賢 二 * 2 Satoshi Furutate Kenji Kura

田 内 拓 至 * 3 長 谷 川 智 治 * 3 Hiroyuki Tauchi Tomoharu Hasegawa

上 條 学 * 3 藤 原 真 也 * 4 Manabu kamijo Shinya Fujihara

横中ぐりフライス盤は,中ぐり主軸とラムの突出しにより,その自重によるたわみや重心変化によ

る機械本体の変形が発生し,各軸の真直度や直角度が変化する問題を根本的に抱えている.従

来の機械も精度補正機構を備えているが,アタッチメントを取り付けた際には変形が更に大きくな

り,高精度加工を行う際はラム移動に替わりテーブル移動を使用するなど運用面で解決してい

た.しかしテーブル送りを備えていない機械もあり,横中ぐりフライス盤で門形機と同程度の加工

精度を達成する機構として新たな運動精度補正技術を開発した.

|1. はじめに

中国・インドを中心に世界規模でインフラ産業は伸長しており,それに伴い建機・原動機・産業

機械・プレスなどの需要は増している.中大形の部品を加工する上で横中ぐり盤が必要となって

いるが,生産性を上げるため切削能力の向上と精度向上が求められている.

当社では,これまで MAF-RSC シリーズでこれらの要求に対応してきたが,需要の高まりを受け

生産性で世界を更にリードする機械を作る必要がある.そこで切削能力を向上させ,新たな精度

補正機構を設けアタッチメントを取り付けた場合でも変形量を抑えた機械を追求し,世界 高水

準の性能を持つフロアタイプ横中ぐりフライス盤 MAF-C を開発した.

本論文では,上述の精度向上を実現した技術内容を述べる.

|2. 横中ぐり盤の機械構成と問題点

2.1 機械の構成

図1に示すように,基本構成はベッド・コラム・サドル・ラム・主軸からなる.ベッド上にある機械の

前後移動がX軸,コラムに沿ってサドルが上下移動する方向をY軸,ラム及び中ぐり主軸の左右

移動がZ・W軸となっている.サドルはワイヤでコラム上部の滑車を介してコラム内に配置したバラ

ンスウェイトに結ばれ自重をキャンセルし,各軸はボールネジあるいはラック&ピニオン駆動によ

り,精密に駆動する.

ワークは機械正面に据え付けたフロアプレート上に設置し各軸の動作により切削を行う.また,

ロータリーテーブルを据え付けることでワークを回転させ,ワーク背面などの加工も可能となる.

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図1 横中ぐり盤の構成

図2 横中ぐり盤の問題点

2.2 横中ぐり盤の問題点

横中ぐり盤は,主軸の向きが水平であるためラム出しにより,図2に示す3点の内容により精度

悪化が発生する.

(1) ラムの自重によるたわみ

(2) ラム移動による重心位置変化で発生するサドル摺動面の変形・コラムの曲がり・ベッドの沈

み込み

(3) アタッチメントを取り付けた際の機械重心位置変化による傾き

補正機能がない場合で水平に繰り出しながら加工すると,上記の内容により仕上げ面精度やZ

軸とY軸の直角度の悪化といった問題が発生するため精度補正機構が不可欠である.

|3. 従来の精度補正方法

当社従来機である MAF-RSC では,これらの問題に対して図3に示す3つの補正機構を持つ完

全バランス機構で精度補正を行っている.まず,ラム移動による重心位置変化をキャンセルする

モーメントバランス用ウェイト,次にラムのたわみをラム突き出しによらず一定化するラム重心吊り

機構, 後にアタッチメント取付け時のモーメント変化をキャンセルするラム吊り位置移動装置で

ある.従来の補正方法は基礎・ベッドにかかるモーメント変化も完全にキャンセルすることができ

Y・Zの位置によらず精度が安定する利点がある一方,コンパクトなラム角を実現できない点や,ア

タッチメントごとのきめ細かい補正が難しい面があった.

図4 ラムテンションバーについて

図3 従来の補正機構 図5 サドル吊り力補正について

一方,フロア形横中ぐり盤の補正機構として一般的に採用されているのは,図4に示すラムテン

ションバー補正と図5に示すサドル吊り力補正である.ラムテンションバー補正とは,ラムの自重に

よるたわみをラム上部に配したテンションバーでモーメントを発生させてキャンセルする仕組みで

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あり,サドル吊り力補正はラム移動によるラム・サドルの総合重心変化に合わせてサドル吊り力を

可変しサドルの水平を保つ装置である.

しかしながら,この方法では原理的にZ位置によってコラムの曲がりが変わるためY真直度がZ

位置によって変化する.またラム移動による機械全体の重心変化で基礎・ベッドの沈み込みが発

生し,精度が悪化するがこれを補正することができず,Z軸の位置によってYの真直度・Y-Z直

角度の変化や主軸の振り回し精度が悪化する問題を抱えている.

|4. 新補正システムと効果

MAF-C は完全バランス機構では実現困難だったコンパクトなラムの実現と,同等以上の精度

を達成することを主眼に,従来からあるラムテンションバー補正・サドル吊り力補正では補正するこ

とができなかったコラムの曲がり,基礎・ベッドの沈みにより精度悪化が発生する欠点を,当社の

持つFEM解析技術を駆使し,以下の方法で解消した.

4.1 コラム曲がりの補正~コラムテンションバー補正~について

図6に示す通りラム左右移動による重心変化は,サドルの左右の吊り力を可変しバランスさせて

いるが,サドルとバランスウェイトをつなぐバランス用ワイヤはコラム上部で滑車を介してつながっ

ているため,サドルの吊り力を変えるとコラム上部に加わる力が変化し,それによりコラムが曲が

り,精度を悪化させていた.MAF-C ではこのコラム曲がりを補正するため,コラム内部にテンショ

ンバーを配してサドルの吊り力変化によって発生するモーメントをキャンセルし,コラム曲がりを防

止する機構を開発した.

この機構によりZ位置によるコラム曲がりを抑制し,Z・Y位置によらず安定したY軸真直度と主

軸振り回しを実現した.

図6 コラム上部に加わる力について

4.2 ベッド・基礎の沈み込み補正~空間精度補正~について

ラムの左右移動によって発生する機械全体の重心変化でベッド・基礎が沈み込む.これはZ位

置により基準水平よりY軸が傾く現象として現れる.ベッド剛性を高めこの変化を 小限に抑える

設計としてはいるが,完全にキャンセルすることは困難である.ただ,この精度悪化は YZ 平面上

の誤差ベクトルを計測することで容易に補正可能であるため,これを計測して NC で補正する空

間精度補正を用いてより高い精度が確保できるようにした.

各テンションバーに加える力及び空間補正の補正量は,機械座標に応じて制御し,またアタッ

チメントごとに各テンション量及び空間精度補正量を持つため,様々なアタッチメントでも高精度

の加工が可能となる.

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4.3 新補正システムに関する効果

以上の補正装置を用いてY方向変位を計測したものが図7となる.アタッチメント無しでラムを

出した時の変位量は3μm/1000mm,アタッチメントを装着した場合で6μm/1000mmとなり,変化

量は3μm/1000mm と非常に少ないことが確認できる.

図7 Y軸方向変位計測

実際にライトアングルヘッドで仕上げ加工したものを図8に示す.これはZ軸繰り出し 1000mm

の状態(ゲージラインから 1550mm の位置)から 210mm ピッチでZ軸を動かしてX方向に加工した

ものである.各ピッチ間の段差を計測したところ 大値で2μm となり新システムの効果が確認で

きた.

図8 ライトアングルヘッド仕上げ加工

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|5. まとめ

MAF-C の精度補正機構はこれまでとは全く異なるアプローチで精度補正した機械であり,当

社が持つ豊富な解析技術により実現することができた.重切削を実現する剛性を兼ね備えた

MAF-C は精度と切削能力の向上をクリアし世界をリードする機械といえる.今後も本機で得られ

たノウハウを生かし,お客様の生産性向上に応える横中ぐり盤を届けていく.

最後に,本機と競合機の仕様比較を表1に示す.機械の仕様に当たっては,あらゆるお客様の

ニーズに対応できるように,X軸ストローク 5000~21000mm,Y軸ストローク 3000~5000mm の仕

様を準備した.

また,小径内の奥深い加工を可能とするためにZ+W軸ストローク 2250mm としラム角も従来の

□600 から□420 とした.ラム角はコンパクトになっているが材質にダクタイル鋳鉄を使用し4面を

静圧で支持することでこれまで以上の剛性を得た.これにより主軸出力 55/75kW の能力を十分

に活用できる機械となっている.また,熱変形補償技術 ATDS(Advanced Thermal Displacement

Suppression System)も採用しており,主軸の回転によるZ軸方向の熱変位補正が可能である.

他社と仕様を比較すると本機はこのクラスで最高水準となっており,さらに今回示した補正シス

テムにより他社との優位性を確保できたといえる.

表1 仕様比較表

MAF-C MAF-RSC

(従来機) 国内 A社 海外 B社

中ぐり主軸径 mm φ150

※φ180

φ150

※φ180 φ160 φ180

ラム寸法 mm 420×420 600×600 420×420 400×440

主軸出力 kW 55/75

※80/100

30/37

※37/45 45/55 60/84

主軸回転数 min-1 2500 2000 2000 2500

X軸移動量(コラム前後) mm 5000~21000 3000~20000 6000~18000 4000~

Y軸移動量(サドル上下) mm 3000~5000 2500~4500 3000~5000 2500~3500

Z軸移動量(ラム左右) mm 1250 1100 1100 1200

W軸移動量(中ぐり主軸左右) mm 1000 900 900 1000

早送り速度 X mm/min 20000 15000 10000 20000

Y mm/min 20000 15000 10000 20000

Z,W mm/min15000

※20000 10000 6000 20000

※はオプション