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14 'Iク レυω bム2 Arθ .I1996 十世紀 予言から 世紀 杏林大学名誉教授 過日 ,一 友人 か ら古 新聞の コピーが送 られ て きた。 ちょうどい まか ら95年前,1901 (明 治34年 )1月 2~3日の報知新聞であった。報知新聞は現在の読売新聞であると う。時代の背景 と う点で は,先 の昭和天皇 が この年 の 4月 29日 に誕生 あ そば されて いる .タ イト /L/が “二十世紀 の予 言 "と う もので,23項 について100年 後 の世 界 を ずば りと予測 した もので あ るが , その内容 と今 日の社会 生活 を対比 してみ る と ,実 にす ば らしい 先見の明があって適中 している項 目が多 い こ とに感嘆 せ ぎ るを えな . ,1945年 ,第 次世界大戦終結の ときよ り数 えると今年 は51年目に当た り , 1世 紀 の過半 を経 過 した こ とに なる .私 自身 医科大学 に入学 したのが1948年 で あ るか ら , 以来 すで に半世 紀 の歳 月 を経 た こ とにな る .医 にお け る進歩 の 目覚 ま しさは,あ の当 比 し信 じられな ものが ある .こ こにその変動,変 様 を考察 してみたい . 明治時代にみ る 十世紀の予言 件の新聞の原文は文語体,旧 仮名 づかい で あ るが ,お もな文章 は原文の まま とす る . 「十 九世紀 は既 に去 り ,人 も世 も二十世紀の新舞台に 現はる こ ととな り .十 九世 於 け る世 界 の進 歩 は頗 驚く きものあ り ,形 而下 於ては ,“ 蒸気力時代 "“ 電気 力時代 "の 様あり , また形而上 に 於ては “ 人道時代 "“ 婦人時代 "の 名 あ るこ とな るが , 歩 を進 めて二 十世紀の社会 は如何 なる現象 をか呈出す .(中 )今 や其大時期 の冒頭 に立 ちて邊 か に 未来 を予望 す る も亦 た快 な らず とせず◆世界列 強形勢 の変動は先 づさし措 きて,暫 く物質上 の進歩 につ き想像 す るに… 以上 は冒頭 の辞で あ るが ,十 九世紀は “ 蒸気力時代 "“ 電気力時代 "で ったが ,二 十世紀 は果 た して何 の時代 と呼 きで あろ う 。 また, その予言を世界列強形勢の変 動 は先 づ さ し措 きて と逃げるな ど , その困難性 を知 っての こ とか ,世 界列強 の配慮 に

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14 ″'Iクレυω レbム 2 Arθ .I1996

二十世紀の予言から二十一世紀ヘ

杏 林 大 学 名 誉 教 授 鍋 谷 欣 市

過日,一友人から古い新聞のコピーが送 られてきた。ちょうどいまから95年前,1901

年 (明治34年)1月 2~ 3日 の報知新聞であった。報知新聞は現在の読売新聞であると

いう。時代の背景 という点では,先の昭和天皇がこの年の 4月 29日 に誕生あそばされて

いる.タ イ ト/L/が “二十世紀の予言"と いうもので,23項 目について100年後の世界を

ずば りと予測 したものであるが, その内容 と今 日の社会生活を対比 してみると,実 にす

ばらしい先見の明があって適中している項 目が多いことに感嘆せぎるをえない.

一方,1945年,第二次世界大戦終結の ときより数えると今年は51年 目に当た り, 1世

紀の過半を経過 したことになる.私 自身が医科大学に入学 したのが1948年 であるから,

以来すでに半世紀の歳月を経たことになる.医学における進歩の目覚ましさは,あ の当

時に比 し信 じられないものがある.こ こにその変動,変様を考察 してみたい.

明治時代にみる二十世紀の予言

件の新聞の原文は文語体,旧仮名づかいであるが,お もな文章は原文のままとする.

「十九世紀は既に去 り,人 も世 も二十世紀の新舞台に現はるゝこととなりぬ.十九世

紀に於ける世界の進歩は頗 る驚 くべきものあ り,形而下に於ては,“蒸気力時代 "“電気

力時代"の様あ り, また形而上に於ては “人道時代"“婦人時代"の名あることなるが,

更に歩を進めて二十世紀の社会は如何なる現象をか呈出すべき.(中略)今や其大時期

の冒頭に立ちて邊かに未来を予望するも亦た快ならず とせず◆世界列強形勢の変動は先

づさし措 きて,暫 く物質上の進歩につき想像するに…」

以上は冒頭の辞であるが,十九世紀は “蒸気力時代"“電気力時代"であったが,二

十世紀は果た して何の時代 と呼ぶべきであろうか。また, その予言を世界列強形勢の変

動は先づさし措 きてと逃げるなど, その困難性 を知ってのことか,世界列強への配慮に

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〃 'レツフυ“

レb12ノ物.I1996 15

よるものかは別 として,賢明 といわざるをえない。なぜなら, この世紀にロシア帝国の

形態が大 きく変動することなど予測 しえなかったぜあろうと思われるからである.

物質上の進歩の予定項目を追ってみよう.

① 無線電信および電話――マルコニー氏発明の電信電話は一層進歩し,東京からロ

ンドン,ニューヨークの友人と自由に対話できる.

② 遠距離の写真――数十年後,東京の新聞記者は編集局にいながら,天然色の早取

り写真を入手ぜきる。以上は完全な適中である.

③ 野獣の滅亡――アフリカの原野で獅子,虎などを見ること能わず,大都会の博物

館で余命を継くべし。これも然りである。

④ サハラ砂漠――沃野化するは,適中しない一つである。

⑤ 7日 間世界一周――もっと速く一周できよう。

⑥ 空中軍艦 0空中砲台――チェッペリン式の空中船が大いに発達し,空中に軍艦が

漂う修羅場の出現を予言している.実は, この直後1903年にライト兄弟が動力飛行に成

功し,1945年 には原爆が投下されたのである。人工衛星,月 着陸までは予測していない

ようだが,適中といえよう.

⑦ 蚊および蚤の滅亡――衛生事業の進歩.

③ 暑寒知らず――空調の発明.

⑨ 植物と電気――電気力による野菜の成長など,今日の温室栽培を予測している.

⑩ 人声十里――伝声器は10里 どころではなくなっている.

⑪ 写真電話――テレビ電話である。

⑫ 買物便法――テレビショッピングなど,あ まりに適中している.

⑬ 電気の世界――薪炭,石炭に代わる.

⑭ 鉄道の速カーー東京・神戸間は2時間半を要するの予測は,あ まりの適中に驚か

ぎるをえない。

⑮ 市街鉄道――街路上を去って空中,地中を走る.然 り.

⑩ 鉄道の連絡――五大州を結ぶ.

⑫ 暴風を防く―一気象観測が進歩し,天災を1カ 月前に予測し,地震はあっても家

屋・道路の建築はその害を免がれるであろうは,い まだしである.

⑬ 人の身幹―-6尺 (180cm)に達すは然りである.

⑩ 医術の進歩―― “(原文)薬剤の飲用は止め,電気針を以て苦痛なく局部に薬液

を注射し, また顕微鏡とエッキス光線の発達によりて病源を摘発して之に応急の治療を

施すこと自由なるべし。また内科術の領分は十中八九まで外科術に移りて後には肺結核

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16 ″′'Iタフυθs I′bム 2ハb.I Iθ9δ

の如 きも肺臓を摘出 して腐敗を防ぎ,バチルスを殺すことを得べ し.而 して切開術は電

気によるを以て最 も苦痛を与ふること無 し."

Torekが胸部食道癌の手術に成功 したのが1913年,あ らゆる分野においてその進歩

は,明治の予測を邊かに凌 くもの と思われる。臓器移植は考 えなかったようである.

⑩ 自動車の世一― まさに然 りである。

④ 人 と獣 との会話自在―一獣語の研究進歩 して小学校に獣語科あ り,下女下男の地

位は大によって占められ,大が人の使いに歩 くは,い まだ否 といえよう.

② 幼稚園の廃止――家庭に無教育の人無 きをもって幼稚園の必要がなく,大学を卒

業 しなければ男女 とも一人前ではない。後半は然 りであるが,前半は当たっていない。

④ 電気の輸送――琵琶湖の水で水力電気を起 こし輸送.

とにか く,二十世紀は奇異の時代なるべ しと予言 しているが,い まやわれわれはその

奇異の時代 より,つ ぎの二十一世紀 というさらに奇異の時代に移 らんとしている。

二十一世紀の医学への予言を望む

動物は天候,気候の変化を予知 して対応する能力があるといわれる。カマキソは雪の

多い年を予知 して高い枝に巣を作 るという。やがて来 るであろう事象,時代を予測する

ことはけっ して容易なことではないが,明治の人の予言は, その適中率の高さに驚 くば

か りである。

二十世紀後半の医学の進歩を顧みると, まずエレクトロニクスの医学応用が挙げられ

よう。かつて1960年 ころまでは,腹部X線検査は暗室で,医師が直接腹部を圧迫 しなが

ら透視診断 したものである.眼を慣 らすために黒い眼鏡をかけ,い ったん暗室に入ると

出ないように心がけた.透視のために放射線障害ぜ手指のみならず一命を失った医師 も

あったのである.CT,MRI,USと いまや画像診断は目覚 ましい進歩を遂げつつある。

内視鏡 も1960年 ころまでは硬性鏡の時代であった.い かに患者の苦痛が少なく内視鏡

を挿入するか, また損傷 を少な くす るか ということが重要な課題で もあった.今 日の

ファイバースコープの多 くの機能から,内視鏡手術への発展は,期待 してはいたものの

加速度が大 きい。

第二次世界大戦直後の日本は,物資欠乏の時代であったが,特に抗生物質の入手が困

難であった.感染症に対するペニシリンの威力はすばらしく, そのために無菌対策がお

ろそかになるのではないか とさえ危惧 された.そ れが,今 日ではMRSAの 出現である。

細菌 と薬剤の戦いは永久に終わることはないであろう.し たがつて,そ の対策は,すべ

てにわたって共存協定になるのではないか と考えられる.絶滅ではなく弱体化,休止化

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И′″'II乞υ

レbス 2ハb.I1996 17

という考えである。

学生時代の重要な試験内容であった寄生虫卵の判定 も,今 日では不要の項 目であるら

しい.法定伝染病 も,予防接種なども変わってしまった.高齢化社会を迎えて,死因も

癌が第一位を占めている。科学技術庁では疾病の予測を定期的に行っているようぞある

が,つ ぎの二十一世紀において重要視されるのは,精神病 といわれている.物質文明の

究極 においては,皮肉にも日に見えない気の病いが対象 となりそうである。画像診断を

はじめとして,形あるもの,数値 として捉えられるもの以外の疾病に対 しては,い かな

る対応が必要であろうか.遺伝子医学の発展は大いに期待される分野であ り, ロボット

医学 も極限まで進歩するか もしれないが,二十一世紀の医学の予言を具体的に立てるこ

と力'望 まれる。

(杏林大学名誉教授,昌平クリニック院長,

赤坂病院顧問, 日米医学医療交流財団理事長など)